愛惜

 今日も日が暮れて、その日も結局郵便受けに何も入ってないことにがっかりしながら、暇を見つけてはメールが来ないかを確認する。ベッドに潜り込んでからも眠気が限界になるまで止められないから、最近は睡眠導入の音楽を聴きながら、アイマスクをするのが習慣になった。

 私の誕生日にメールが届かなくなってから五年経っていた。
 毎回簡単な近況と、お祝いのメッセージが綴られた特別な日の文面は何度読み返しても嬉しいもので、飽きもせず繰り返してはその年のことを振り返っていた。そしてまた、どれだけ遅れても彼は自宅を訪ねに来てくれていたものだ。一緒に持ってくるのは花束だったり、ケーキだったりしたけれど、その顔を見せに来てくれるのが何より嬉しくて、彼が何を持ってくるのかなんて正直どうでもいいと思う程で。自分の誕生日が近くなるとそわそわしたのも懐かしい。
 最後に連絡をくれたのは、なんでも無い日。
 入国審査の厳しいことで有名な国で仕事をすることになったからと、電話をくれたのがそうだ。だから多分、そこで何かがあったか、はたまた未だにそこで仕事を続けているかのどちらかだろう。
 ポックルのことだから、ハンターライセンスを手に入れて夢中になっているに違いない。
 そう思うには、彼はあまりにもマメだった。

 メールが送信エラーで戻ってくるようになって、プロバイダとの契約を更新していないのかといよいよ心配になった三年目。バケーションを利用してどうにか連絡ができないかと入国を試みたものの、そこは既にハンター協会の管理する自然保護区になっていて、ポックルを知る人もいなかった。別に籍を入れていたわけでもない女に知らされるようなことはなにもないまま、今に至る。

 こんな時、彼は死んだものとして生きていくのがいいのだろう。でも、真心のこもった思い出たちが、心に灯ったままの恋心が、まだそれを許してはくれないでいる。嫌な想像が過る度に、遺体も見てなければ葬式も、法事だって、死んだ事実を肯定するものさえなにもないのだからと可能性を捨てきれない。
 だからまだしばらくは、きっとこの空の下、どこかで元気にやっているのだろうことを祈りながら日々を過ごしていくしかないのだろう。
 ハンターになったからにはこういうことだって珍しくないことのはずだ。もし彼が元気でやっていて、またあるときふらっと顔を見せたとき、結局私は彼を引き留める術を持たない。この先これ以上待つことだってあるだろう。だったら、私にできるのはいつも彼を忘れないでいることだけだ。

 どうか空腹や痛みに苦しんだりしていませんように。
 彼が私を忘れても良い。私たちの関係が、いわゆる『自然消滅』してたって。

 だから、まだ生きてると思わせていて。私が死ぬまでにもう一度くらい顔を見せてくれたら嬉しいな。



 依然として、彼からの連絡は無い。

2024/07/05 UP

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