彼は非売品です
衛非地区の骨董品屋・不隠れには、キジトラのシリオンの男の子が今日も立っている。
明るい茶色の髪とつるつるのスネを惜しげもなく晒す姿は年若い少年なのに、これでいてジンジャーくんはなかなかの古物知識と鑑定眼を持っている。何度か私の趣味に合うものが入ったと連絡をくれたこともあり、ルミナスクエアよりもこっちに足繁く通ってしまう。
「おーい、ジンジャーくん! 今日も掘り出し物はないかね?」
「あんたか……。再三言ってる通り、ウチに来る品とアンタのリペア趣味の対象とじゃ毛色が違うんだって。前に連絡したのはたまたまで、」
「でもたまにおじいちゃんとかおばあちゃん世代の古いものが来るじゃん?」
「そのことと旧文明時代の品はイコールじゃねえって」
「流石に旧文明時代の遺物なんてS級の獲物がホイホイ手に入るとは思ってないよ! ちょっとレトロでサビサビなブリキのおもちゃみたいなのがないかなって……」
「S級って言う割りに旧時代のタイプライターをブリキのおもちゃとは恐れ入った」
「あ~っ あのリペア動画見てくれたの? うれし~っ!」
「……あ。くそ……」
前はルミナスクエアとかインターノットの掲示板とか、動画を見てくれてる視聴者からの善意で譲ってもらったり(視聴回数である程度小遣い稼ぎができるので、修理した後は返したり、フォーラムでデニー積んででも欲しいって人とマッチングしたりする)するだけだったんだけど、ジンジャーくんがルミナスクエア店伝いに声をかけてくれたお陰で、かなり歯ごたえのある物品を扱えるようになって、視聴回数も順調に増えて、最近の私の懐は温かい。
「はあ。あんたのお眼鏡にかなうかわかんねーけど、取り敢えず店入ったら? 茶くらいは出すから」
「優しいねえ」
「今日は車で?」
「いや、二輪。だから良い物見つけたらツバつけとこうかと」
「言い方……」
ちょっと引かれたけど挫けないもんね。
実際、骨董遺品って色んな経緯で人の手に渡っていくものだから、売約済みと言うことにしておかないと良い出会いがあっても手に出来ないのだ。
「最近どう?」
「あー、ラマニアンホロウで情報拾って来てくれる伝手ができたから、だいぶ楽しめてるな」
「へえ! 有能プロキシが在野にいるのは良いことだわね」
「在野にいるから『プロキシ』なんだろ」
「まあまあ」
ジンジャーくんの小気味良い合いの手を受けつつ、店内にお邪魔する。確かな品々を扱うだけあって、店の中にはかなり値が張る物や歴史的価値が高いものがならんでいる。
けれど不隠れの素晴らしい所は『客の目に触れるものは皆値がつく程度の品』であるところだろうか。値がつけられない一品などは、ただの客ではお目にかかれない。その辺は飲茶仙と通じるところがある。
まあ、『値がつく品』の価値も大概高いのだけど。
――なんで知ってるかって? そりゃあ……ちょっと。表では言えないコネというものが私にもありまして。
「いや~不隠れでいただくお茶はいつも美味しいね」
「すぐそこに飲茶仙があるってのに、わざわざここで茶を飲むあんたは相当の変わりモンだよ」
「だって飲茶仙には君がいないじゃない?」
「は?」
「それに同じ急須で同じ味を楽しむなんて、家族みたいでいいよね」
「は?!」
どうしてかあんぐりと口を開けるジンジャーくん。首を傾げてどうしたのかと問えば、彼は眼鏡をくいとかけ直して、それから大きなため息を漏らした。
「あんたほんとそういうとこだぞ」
「え?」
「このたらし。いつか刺されろ」
タン! とお盆の上に湯飲みを置くと、「ごゆっくり!!!」と圧を感じる声でジンジャーくんは離れていってしまった。
「え、ちょちょちょっと」
困った。嘘を言ったわけでも、リップサービスでもないのに機嫌を損なってしまった。
分厚い目録をパソコンのデータに打ち込む背中は完全に私を拒絶している。
「あ、あの……」
「なに」
「えっと……ジンジャーくんとお茶がしたいんですけど……」
かたかたと淀みなく響いていた打鍵音が途切れる。後ろからでも分かるほど肩を落としてもう一度ため息をついたジンジャーくんはこっちを振り返った。
「ナンパなら他所でやれよな」
「えっ、別にそういうわけでは」
「じゃあ俺だからってことでいいんだな?」
「えっあっ、はい。それはもちろん」
「……他の男に似たようなことしてたらタダじゃ済まさねえぞ」
その顔はいつもより赤い。珍しく、忙しなく揺れる尻尾が彼の心境を表していた。
……えっ もしかして脈ありですか?!
2026/01/11 UP
メッセージは文字まで、同一IPアドレスからの送信は一日回まで