ホワイト・ルシアン
――シーザーが覇者になった。
その吉報は郊外に速やかに広まった。
カリュドーンの子を率いていたビッグ・ダディが身を引いて、今はシーザーが率いているクラン兼会社である『猪突猛進』は、優秀なブレインを迎えてめきめきと頭角を現していると聞く。
清算の日は少々荒れたとも聞いたけれど、私の耳に入ってくるのは専らカリュドーンの子のチャンピオンの話に偏っていた。
原因ははっきりしている。
六分街に居を構えるにあたって身元を保証してくれることになったビデオ屋の店長兄妹の兄の方が、カリュドーンの子と縁を持ったからだった。
一体誰から何をどう聞いたのか、ことあるごとに赤いマフラーのチャンピオンの情報をふらりと漏らしては私の反応を見て様子を窺ってくる。それが決定的な個人情報というわけでもない辺りがニクいところで。
昔、かのチャンピオンと肉体関係を持ってそのままフェードアウトした女が、未だ恋心を燻らせているのを見かねているのだろう。どうにかして完全燃焼を、とでも思っているのかも知れない。
人のことに首を突っ込むのは彼らの美点でもあるけれど、痛いところを突かれているので苦笑いしかできない。
ひとまず、なんの縁なんだかビデオ屋の販促に店を訪れることもあるという話に、私が生活リズムを見直そうと思ったのは自然な流れだった。
ビッグ・ダディがビリーの後釜に……いや、カリュドーンの子を継ぐ次世代のためにと用意したのがライトという男だった。借金にまみれた傭兵崩れで、地下闘技場でひたすら闘っていた彼を引っこ抜いてきて、金を肩代わりしてその拳の使い道を決めた。
最初はうつろな目をしていた男も、カリュドーンの子で世話をしているうちに人らしくなって、そうすると人としての魅力というものが滲むのか、ライトはほどなくしてモテ始めた。
私もそのうちの一人だった。ライトはビッグ・ダディやビリーの元ですくすくと元気になり、軽口の叩き方も、啖呵の切り方も、甘い声と顔立ちも、全てに華があった。彼の年齢のプラスマイナス5歳くらいの女は、ライトのことを大なり小なり「いいな」と思っていたものだ。今もそうだろう。
身体を重ねたのは私の下心からだった。
何て言ったっけ。性欲はあるけどいい男がいなくて困っている、だったか。それを言うまでにピルの副作用が落ち着くまで待った。随分耐えた。今思えば私も若かったな。『そんなことのために』薬まで服用するなんて。でも、当時の私には縋るに足る一筋の光明だった。
それで……頼み込んで抱いてもらったことしか覚えてない。彼の逞しい身体と、力強さと、――大きさと。絡めた舌は欲を煽るためのものでしかなかった。キスをしながらもライトの目は冷めていて、ただ肉欲だけがそこにあった。
ああ、最初は避妊をしないのかと聞かれたっけ。ピルを飲んでいるから大丈夫だと、私は中出しが好きなのだと、AVの台本くらいでしか言わないような事を嘯いた。
そう、うそぶいたのだ。
あの時、一人でこそ経験はあったものの、誰かとセックスする経験なんかなかった。
そんな不慣れさなど、それなりに経験もあっただろう色男にはすぐに見抜かれていただろう。
それでも抱いてくれた彼は、優しかったと思う。酷くされたこともなかった。私がねだるままに応えてくれた。
感謝している。
幸か不幸か、この腹に命が宿ることはなかったけれど。
ライトがカリュドーンの子で笑顔を浮かべられるようになった時、この関係は清算しなければと思った。しばらくずるずると引き延ばしたものの、今はこうして離れることができて良かったと思う。
だって、身体も心も傷ついていたライトに無体を強いていたって、今ならちゃんと考えられるから。
いくら合意の上でのこととは言え、最初ライトは「そんなことにかまけている暇はない」という態度だった。それをビッグ・ダディに話は通していると追いつめたのだから。
私のことを覚えていて欲しいだなんて思わないけど、恨まれていなければいいな、と思う。
だからビデオ屋の店長にちくちくと刺すような口ぶりでライトの話を聞いている今も、彼が元気そうで良かったと、それだけは確かに喜ばしくて、だからつい毎回しっかりと耳を傾けてしまう。
「志乃さんから、ライトさんに何か言いたいことはないのかい?」
深夜。滝湯谷・錦鯉でたまたま一緒になって、ラーメンを食べながら、そんなことを聞かれた。
「さあ。……元気だって分かったから……アキラくんには感謝しているけれど、伝えたいことなんて……」
胸に燻っている思い出を、焼き切りたくて離れたわけじゃない。未練しかない。でもそれはどこまで行っても私の都合でしかない。だから、言いたいこともない。
麺をちゅるると吸い上げて咀嚼していると、店長くんとは反対の席に誰かが座る気配があった。
「つれないな。俺は言いたいことしかないんだが」
「――」
肩をポンと叩かれる。座った側じゃない。わざわざ背中を通って、まるで「逃がさない」とでも言うかのように。
手が離れない。肩を抱かれて、私は麺を飲み込むと、恐る恐る相手の顔を見た。
「久しぶりだな? 志乃」
「……ライト……」
サングラス越しに目が合う。私が知っているものよりも、随分柔らかい。でも、その奥に知らない炎が燃えているような気がして、私は瞳を直視しながら固まってしまった。
ただ、ただただ顔が赤くなっていくのが分かる。まるでお酒を入れた時みたいに、熱くて、
「……うーん、本当に言いたいことはないみたいだね」
「おいおいプ、……店長、そりゃねえぜ。身体はこんなに素直だってのに」
ライトの目が、顔が、ただでさえ甘い顔立ちが更にとろりと蕩けて、私に注がれる。
限界が来た私は思わず反対側の席に座るアキラくんの方へ身体を傾けた。
「身体は素直、ね」
「おっと。流石に傷つくんだが」
殆ど反射だったその動きを咎められ、う、と身体がまた固まる。私抜きでやりとりが進んでいく。
「おいおい色男。惚れた腫れたはよそでやっちゃくれねえか」
「すまない大将、彼もちゃんとラーメンを頼むから」
「ああ、そうだな。黒鉢豚骨ラーメンを一つ」
するすると進んでいく。私の時間だけが止まっている。
「あ、わ、わたし、もう」
「近いとは聞いてるが、勿論送らせてくれるだろ?」
ディニーを出して帰ろうと、何かに喘ぐように言葉を絞り出すも、さっとライトに塞がれる。送るから自分が食べ終わるまでは待てと、時間を稼がれた。
助けを求めるようにアキラくんを振り返っても、すいと目を逸らされて、彼もグルだったのかと悟る。
「僕が送ってもいいけれど……折角知り合いに会えて、他にお客さんもいないんだ。待ってあげてもいいんじゃないかな」
「アキラくん……!」
そうだった。元々彼は私の味方ではない。
咎めるように名前を呼ぶと、ふっとライトが笑う気配がした。
「ビビんなくていい。別に何かしようとは思ってない。ただ……あんたに会いたくてな。店長にはちょいと協力してもらってたのさ」
「協力って、」
だって、でも、今日は偶然会っただけで、と思って、アキラくんを見る。
「……ずっとライトのことばかり話してたのは、つまり、ずっと前からタイミングを……?」
「誓って、志乃さんの個人情報を渡したことはないよ」
「そこはまあ、信頼してはいるけど……」
「あんたが聞いてた俺の話程度の事は俺も聞いてたが、それだけだ。たまに深夜のラーメンを楽しんでるってのは、俺が深夜こっちにバイクを転がしてる程度の話だろ」
そう言われると妥当な気がしてくる。けど、……いや、狙って動いたライトも、彼を避けたくてビデオ屋周辺でかち合わないように気を張ってた私も、やってることは同じか。会いたいか、会いたくないかだけの違いでしかない。
ふう、と息をついて身体の強張りを解いた。それを見透かしたようにライトの手が肩から離れていく。まだ麺の影がスープに残っているのも分かっていたのだろう。
一度置いたお箸をもう一度取って、また麺をちゅるちゅると啜った。
……隣からの視線が身体に刺さる。
「食べにくい」
「そりゃすまん」
ちっとも悪びれずに、間髪入れずに差し込まれた謝罪にどれほどの価値があるって言うんだろう。それでも視線が外れたのを感じて、私は充分だと思うまでラーメンをお腹に入れた。
うん。白鉢揚げは相変わらず美味しい。
「お待ち!」
威勢のいい大将の声は深夜、閉店間際でも変わらない。ニカッと気持ちのいい笑顔と共にライトの前に黒鉢が置かれて、ライトはサングラスを曇らせながらもかぶりつくように麺を啜った。
むぐむぐと膨らんだ頬。知らない顔だ。こんな風に、いっそ無邪気なまでに食べ物を頬張っているなんて。辛気くさい顔でぼそぼそと怠そうに咀嚼していたライトはもう居なかった。
「なるほど、確かにこりゃ食べにくい」
全然そう思ってない顔で、横目に私を見たライトがくすっと笑う。
「あんたの視線を独占できるのは嬉しいが、そいつはもうちょっと後がいいな」
おどけて見せて、美味い、といいながらはふはふとチャーシューを口の中に入れていく。
時折長い前髪を指先や頭を振って払いながら、美味しそうに食べるライトは、私とアキラくんの前であっという間に一杯を平らげた。
「ふう、美味かった。ごっそさん」
「おう! いい食いっぷりだったな!」
これには大将もにっこりと笑って応じるほどで、なんというか、人の懐に入るのが随分と上手くなったんだなと思った。あるいは、元々の彼は上手かったのかも知れない。私が、丁度それを知るタイミングで近くに居なかっただけで。
私がぼうっとしている間も静かに待っていたアキラくんが、閉店後のお店に入れてくれた。
「ライトさんが志乃さんを送っていくというのもいいけれど、志乃さんが本当にそれでいいのか聞いていないからね」
「う、うん。ありがとう、アキラくん」
「勿論ライトさんに限って何かあるとは思っていないよ。僕は二人の話が終わるまでバックルームにいるから、終わったらライトさんが僕に声を掛けて欲しい。扉は少し開けておくよ」
「分かった」
「ちなみに、ここまでするのは今日二人が会って話ができる機会を作ったのだから、僕が協力するのも今日限りだと思っているからだ。明日からはどちらの肩も持たない。そのつもりで話をして欲しい」
アキラくんの言葉に、私とライトは神妙に頷いた。……アキラくんが私の肩を持ってくれたことあったっけ。ああ、でもライトが絡む前までは確かに純然たる恩人だった。
しん、と静まりかえった店内に二人、立ち尽くす。けれど、いつまでもそうしてはいられない。
どちらともなく入り口近くのソファに並んで座った。
「……私に、言いたいことがあるんだっけ」
「ああ」
「なに?」
恨み言だろうか。聞きたくないのだけど、あの時の私のやり方は強引で、卑怯だった。それを詰られるのは自業自得だし、ライトにはそうする権利がある。
「――……もし、あんたにもういい男がいて、俺がいなくてもやっていけてるなら諦めもついたが……どうやら、そうじゃないって事は会ってすぐに分かったからな」
けれど、ライトの言葉の切り出し方は、明らかに想定とは異なっていた。
「今も飲んでるのか、ピル」
「え? ああ、……今は飲んでないけど」
「体調は?」
「普通……」
「そうか」
ライトの長い足がソファから突き出している。それに比べて普通に座る私の、なんと平凡なことだろう。
一時でもこの男と肉体関係があっただなんて、誰も信じないに違いない。
「あんたに求められたとき、困惑はあったが話は通してあるって言われて、そういうもんかと思ってた」
「……」
「あんたに悪意がないのは分かってたしな。ただまあ、経験が無さそうなのに中で出されるのが好きだとか言うから、大きく出たなとは思ったが」
う。そんなこと覚えてなくたっていいのに。
そう思いつつ、黙って先を聞く。ここまでライトが話すなんてこと、今までなかったことだ。折角の機会だから、彼の声を楽しむつもりで聞こう。そう思って、少し近い足から彼の体温を感じる。
「あんたが……どうやら俺のことが好きらしいってのはすぐに気づいた。が、なんでそれを言わないのかは分からなかったし、言いたくないなら無理に言わせるようなことでもないと思ってこっちから聞くこともなかった。それを後悔したのは、あんたが郊外を出てからだった」
やっぱり気づかれていた。けれど、ライトは追いかけてくることもなかった。
どうして今なんだろう、と思ったところで、ライトが続ける。
「理由もなにもかもとっちめたかったが、俺とあんたは恋人なんて言う甘い関係じゃなかったし、俺は自分のこともままならない時分で、あんたを追いかけて捕まえる資格はないと思った」
「……そんなの、」
「実際、あの時の俺はそうだっただろ」
「それで、今は資格があるって?」
「一通り落ち着いたからな。それに……店長と知り合って、人捜しがしたいって伝えたらすぐ側にいるって言うじゃねえか。だったら事は早いほうがいい」
ライトの手がすっと私の手の上に乗る。優しく掴まれて、こんな触れ方ができたのか、なんて場違いなことを考えた。
だって、そんな事でも考えなければ、心は期待に跳ねて、頭は自分の都合の良い展開ばかり思い描いてしまいそうだった。
「志乃、あんたがああまでして俺を欲しがったのに、離れていった理由を教えてくれ」
「……教えて、どうするの」
「その理由を全部潰す」
強気な言葉に、ふっと笑みともつかない息が漏れた。
「随分な自信ね」
「あんたが今も俺を好きなのはもう知ってるからな」
「……」
「どれだけ俺が好きだって目を近くで見てきたと思ってる?」
「……あなたは、私のことを好きなわけじゃなかったはずだけど」
「俺の事が好きなくせに一切口を割らずに、一貫して身体だけ欲しがってた女を『可愛い』と思ったのはだいぶ後になってからだったからな。途中からはいい加減素直に吐きゃあんたの欲しいもんくらいいくらでもくれてやるのにって意地張ってたよ」
「趣味悪いわよ」
「その趣味が悪い男にぞっこんなのは誰だ?」
全然引き下がってくれない。
ライトに優しく掴まれた手の下で、きゅっと自分の手を握りこんだ。
「あなたが元気になってきて、いつまでもあんなことに付き合わせていたら、かわいそうだと思っただけよ」
「あんたに捨てられた俺はかわいそうだとは思わなかったのか?」
「あなたは選ぶ側でしょう」
「自分の命も他人に拾ってもらった、しょうもない男だぞ」
「そのこと自体はきっかけ、出来事でしかない。女の子に沢山声を掛けられてたじゃない。今もそうでしょう? 随分気安くなったようだし」
「嫉妬してくれるのは嬉しいが、あんたが逃げてくのは面白くないな」
「なにを……」
自分の膝を見ながら言葉だけの応酬を繰り返していると、ライトの頭がこつんと私の方へぶつかってきた。大きな身体をねじ曲げるようにして。わざわざ。
「なあ、あんた。俺があんたに惚れてるって、ちっとも思わなかったのか?」
……思わなかった。
すぐに答えなかったのが、逆に分かりやすかったのだろう。長く大きな息が斜め上から落ちてきた。
「だって、……ピルのタイミングによっては絶対にしてくれなかったし、」
「そりゃ、無責任な真似はできんだろ」
「セックスの時以外、別に接点もなかったし」
「あん時ゃ、基本いっぱいいっぱいだったからな。自分の命なんてものは拾ってくれたやつのもんだとも思ってた。そんなやつが何かを欲しがるなんて有り得なかったし、誰かを求めるのは論外だったのさ」
「……ライトが私の気持ちに気づいたみたいに、私も……あなたが私を好きじゃないって、知ってたし」
「今にも言ってくれそうな顔でずーっとお預け食らってんだ、悲しくもなる」
「そんなこと、言われても」
「大事にされてるって、自惚れてくれりゃ良かったんだがな。そう都合の良いことは起こらんか」
足をぐいと組んで、ライトの身体が私の方へ傾き、すり、とその指が私の手を撫でる。……私が知っているライトは、こういうことをする男ではなかった。期待を持たせるような、そんな真似は、
「だが、今は期待できそうだ。そのまま自惚れて、俺をあんたの懐に入れてくれ」
甘い声で囁かれて、決定的に胸が跳ねる。
あの時身体の快感しかくれなかった男が、心の中に手を突っ込んで、容赦なく愛撫してくる。
ライトの手が離れる。そのまま上へ上がってきて、私の頬を指先が遊ぶように移動していく。
くすぐるように、撫でるように。
顎のラインをなぞられて、逃げるように上を向けば、じっと私を見下ろす目が待ち構えていた。サングラス越しなのに、真っ直ぐに見つめられているのが分かる。目が合っている。
――逃げられない。
「それとも、もう俺は要らんのか」
薄い膜の向こう。揺れる瞳に目がそらせなくなる。
いっそあの頃の私みたいに体当たりでぶつかって、唇も身体も、全部強引に奪ってくれたらよかった。
そう思った時点で、答えは決まっている。
それでも、喉からはなんの言葉も吐き出すことはできなくて、私は微かに首を振った。
はくはくと、言葉で伝えるべきだと分かっているのに、喉はきゅっと閉まったまま固まったように息だけを繰り返してしまう。
「……ああ、そんな顔されちまったら、」
ライトの顔が歪む。眉を寄せて、切なげに目が細められた。
手が、私の頬に添えられて、顔が近づいて、
「っ」
ひゅ、と僅かに顎を引いた。
瞬間、頬に添えられた手に力がこもる。……その手のひらも、唇も、触れることなく離れていった。
「……ふう……。危うく何かしちまうところだった」
茶化した声に目を開け、ライトを窺う。口元には笑みが浮かんでいるのに、目は全然笑ってなかった。それどころか、さっきよりもずっと燃え上がるような熱を孕んだ目で私を見下ろしている。
身体が、全身が湧き立つ。あの頃の、ライトに抱かれていたときの感覚が、身体から頭に逆流してフラッシュバックする。
「ここまで来たんだ。あんたからの言葉をいい子で待つとするさ。だから……これ以上逃げないでくれ」
ライトはそう言うと、すっと立ち上がってバックルームのドアに声を掛けた。
「店長、」
「終わったのかい?」
「あー……。終わったというか、これ以上やると何もしないってのは無理そうなんでな」
「……なるほど。分かったよ。志乃さんは僕が送っていったほうが良さそうだ」
「すまんが、今日の所は頼んだ」
二人の会話が右から左へと流れていく。
頭の中は深く繋がって抱きしめられた時の感覚をまざまざと再生してしまって、私は腰が抜けたようにソファから立ち上がることもままならなかった。
あの時欲しかった視線を惜しみなく注がれて、時間差であの時の私が歓喜に噎ぶ。
「じゃあな」
ライトが私の肩をポンポンと叩いて、先にビデオ屋のドアから出て行く。それを見送ることさえままならず、私はアキラくんの前で両手で顔を覆った。
「……伝えたい言葉は、練習してからの方がよさそうだね」
苦笑しながらも優しい声色に、私はそのまま滲んだ涙を手のひらで拭った。
あんな迫り方するくらいなら連絡先くらい教えていけばいいのに。ライトのばか。
2026/02/01 UP
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