未査定カンケイ~黒枝筆頭社員の専属竿は今日も花マル~

 最近、上司――もとい、ザオがやたら可愛くなった気がする。
 ベッドでイチャイチャプレイするのがお気に召したらしく、最近だと昼間のオフィスより俺の家かホテルで夜ゆっくりヤるルーティンが確立していた。勿論彼女は一ヶ月の半分も自宅に戻れないようなクッソ忙しいシゴデキウーマンなので、普段の音沙汰は無に等しくなった。
 つまり、ザオの近くにいる必要がなくなった。
 そうなると頭も良くない俺は彼女の仕事の手伝いなどもできないわけで、自宅待機になるわけだが、彼女の計らいで学校に行かせてもらえることになった。別に劣等感があったわけじゃないものの、彼女の
「別にキミはそのままでも十分ザオちゃんの役に立ってるけど……本分を忘れないなら、オベンキョウしてきてもいいよ?」
 という一言で決まった。学生の本分は勉強では? と思ったが、口に出さなかった俺は利口かも知れない。まあ前に難しい話を振られてうっかり好きとか言っちゃったけど、なんかするっと流された感じだし結果オーライだ。

 まあとにかく、生活スタイルが変わった俺達だが基本的に仲良くやれているはずだ。暇つぶしも兼ねて料理なんてものもやり始めると、これがなかなか、彼女が喜ぶのが嬉しくてついのめり込んでしまったり。彼女がぱりぱりと葉物野菜を咀嚼しているところは本当に可愛い。サラダって十分料理だよな?
 ただまあ、彼女は一流のサービスを知っている人なので、俺がやることなんてママゴト以下なんだろうが……ちんこ以外でも百点をもらっているということは、彼女も満足しているのだろう。

 彼女が可愛いという話だが、多分俺が発情期中しか知らなかっただけな気がしている。兎のシリオンということで小柄で愛らしい印象が先行するが、彼女の顔立ちは眼がぱっちりしていてちょっとつり目っぽい、気位の高い綺麗系だ。実際バリキャリなので、小柄ゆえの可愛さと中身お姉さん系かつ顔立ち綺麗系のハイブリッドというのが正確なのかもしれない。
 その彼女が最近ふとした拍子に目線を逸らしつつ俺におねだりしてくることが増えた。
 例えば、
「ザオちゃんのこと抱き枕みたいにしていいから、一緒に寝よ」
 とか、
「ザオちゃんが寝るまで抱っこしてて」
 とか、
「……もう一回シよ?」
 とか。
 はっきりいってキュンである。
 社会的にも身体的にも死にかけていたところを拾われて、そんな相手と気持ちいいセックスできて、金もらって、学校まで行かせてもらってんのにその上でいじらしい甘え方をされるとか俺勝ち組すぎんか? こんな生活知られたら嫉妬で彼女の信奉者に殺されるだろ。謙虚に生きねば。

 だからね? いわゆる同級生みたいな若い子にヘラヘラしてる場合じゃないわけ。学校が終わったら家帰って連絡を待ったり、宿題をしたり、ザオに思いを馳せたいわけよ。

 しかしどうしてか捕まっちゃうんだな~~~~~柚葉とかいうえっぐいラッキーガールに毎回毎回よぉ……!
「ねー、イワン付き合い悪くない?」
「そういうあんたはやたらぐいぐい来るじゃん」
「そりゃあ年上の後輩なんて面白そうに決まってるじゃん! ねえ真斗」
「俺に振んな」
 柚葉に引きずられてきたんだろうが、狛野は「言いたくねえなら言わなくて良いぜ」と何度目かになるフォローをくれた。狛野はイヌのシリオンでタッパもでけえしおっかねえ傷もあるけど、俺が知る限りいつも柚葉の尻拭いをしているイメージがある。まあ友達ってのはそういうモンかも知れない。えらく仲の良さそうな二人だが、どうやら怪談が大好きで、そっちのフォーラムでもつるんでるそうだ。
 最初っからこんな風に来られていたわけではなく、この間たまたまザオが仕事帰りに黒塗りの高級車で俺を拾ったもんだから、俺の素性について興味があるらしい。
 俺が金持ちだという誤解ではない。ザオとのやりとりで、既にアカデミーを卒業してる年齢の俺が今更入学したことについて面白そうな匂いがすると思ったらしい。
 実際は何も面白いことはないのだが。
 お偉いさんの慈善事業の一環で、と言葉を濁した――いや、間違ってはない表現で切り抜けたと思ったが、柚葉の嗅覚は恐ろしいほど鋭いらしかった。
 探られたって、ピュアな学生からしたら爛れた関係しかでてこないんだが……と思って、そういや俺は割と恋人面してるけど世間一般で言うとヒモなんだよな、とはたと気づく。
 ザオの財力からすると、あと数人くらい、俺みたいな手頃なヤツを別の場所で囲ってたって不思議じゃない。となると、一番のオキニはやっぱ彼女の自宅にいるんだろうか。てか発情器用の生ディルド何本も持ってるって、もしそうだとしたら金も凄いけど性欲もやばいよな。
 だから最近ベッドでしっかりセックスするようになったんだろうか。前みたいにこそこそ会社でするインスタントセックスより、ちゃんと時間を割いた方が満足度が高いのも性欲が強いからなのかも。でも最近は発情期の度に……みたいな周期的な会い方じゃないな。
 うん? 兎のシリオンって、つーかシリオンに発情期ってそもそもあるのか?
「まーたなんか考えてる。もしもーし」
「え? ああ、悪い。ちょっと」
イワンって暇さえあればなんか考えてない? 悩み事?」
「いや、惚れた女に何ができるかなってだけ」
「! それってこの間の車の人~?」
 玩具を見つけたような顔をする柚葉に、狛野が顔を顰める。言ったが最後全部吐かされるぞ、とその目は言っていた。
 まあ、全部吐くわけはないんだが。
「まあそうだな。俺の片想いなんだけど、その前に恩もあるし、もらってばっかだから」
「お金はあっちのが持ってるよね。じゃあ手作りとか、時間掛けてなにかするとか?」
「それはもうやってるな。多分喜んでもらってると思う」
「ふぅ~ん? 上手くいってるじゃん」
「そうだな。悩みではない。計画を立ててるだけで」
「手伝おっか? みんなでサプライズ!」
 だからもっと色々と教えてよ、と言いたげな柚葉を制止する。
「いや。紹介する気はないし、俺と彼女の間に誰かを入れたくないから」
 ヒュウ、と狛野が口笛を吹く。俺の返事にビックリした鳩みたいな顔をした柚葉は、咄嗟の言葉も出てこないらしかった。
「じゃ、そういうことで」
 後は狛野に任せて、すたこらさっさだぜ! とばかりに狛野に手で挨拶して学校を出る。
 そういや、ザオの誕生日っていつなんだろう。ああでも、当日に会えるとは限らないか。期待すると落ち込むし、やっぱできることをやってく方向でいよう。
 ぶらぶらと家までの道のりを歩くなか、ポケットの中で端末が震えた。ザオからだった。
『明日お休みにしたから、今日そっちに行くね~。何か欲しいものあったら今のうちに教えて?』
『了解。じゃあプリンとかでいいんでなんか甘いモン食いたいです。一緒に。』
 ノックノックに返信をして、知らず上がる口角に鼻歌を追加する。
 取り敢えず今日は会える。足取りは軽かった。

2026/01/16 UP

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