良いおっぱいの日
ふにふにと私の胸を触るクダリさんは大変楽しそうだ。愛撫というには他愛のない、けれど全く熱の生まれない訳でもない手つきに、私はどうすることもできずされるがままになっていた。
「あの、楽しいですか?」
「楽しいっていうか、好き」
それは光栄だ。彼の声は弾んでいて、それが嘘ではないことがわかる。いつでもどこでも、ベッドのなかでも手を繋ぐだけでも、クダリさんはすごく嬉しそうに笑う。こっちまで頬が緩んでしまうほどに。
「ユカリに触るのが好き。ユカリが好き」
率直なクダリさんの言葉はいつも私を袋小路へ追い詰めていくのだけど、この人は分かってるんだろうか。
「そうですか。胸目当てなんじゃなくてなによりです」
部屋着はあまり体を締め付けないものにしているせいで、彼の手が入り込むのは容易い。私だってそういう触れ合いを望んでいるのだから文句はないけれど、じいっと私の胸を触りながら、見つめながら、キミの胸って綺麗だねとかえらく満足そうに言われると、そんな彼曰く綺麗な胸の内に渦巻く複雑な感情は少々穏やかとは言いがたい。
「ぼく、外見で人を好きになったことない」
本音を織り混ぜた私の言葉は、彼の心にもなにか響くところがあったらしい。いつか私に想いを告げてくれた時のように、真っ直ぐ真摯な瞳を向けてきた。
「ぼく、ユカリの胸が今よりちっちゃくなってもおっきくなっても、痩せても太ってもユカリのこと好きじゃなくなったりしない。ユカリが頑張ってるところ、好きになった。ぼくの自慢」
「――……」
言葉が、詰まる。なにか返さなくちゃ、と思うのに。けれどクダリさんはふと目を細めて笑みをこぼすと、
「照れてる」
私の頬を撫でて、満足気に私を抱き締めた。彼のいう通り、私は恥ずかしくて仕方がなくて、でもクダリさんは嬉しくて黙ったままの私に催促するわけでもなく、ただ嬉しそうな声が耳元で踊った。
「そういうところ、可愛くて好き」
どうしてこんな恥ずかしいことを口にできるんだろう、と思いながらも、それが私を幸せにしてくれるのだから文句なんてあるはずもない。彼の背中に腕を回して、ぎゅ、とワイシャツをつかむと、クダリさんはいっそう強く私に抱きついた。
「好き」
「……ありがと、ございます」
彼の手が私の背を滑り腰を伝っておしりを撫でる。ゆっくり押し倒されて、そのまま手は私の太ももを意地悪く這った。
「っ」
「声、我慢しないで。もっと聞きたい」
「や、あっ、待ってくださ」
「待たない」
くすっと耳元で笑ったクダリさんの声は純粋に楽しそうで、私は彼のワイシャツをつかむ手に一層力を込めるしかなかった。
「さっきみたいに力抜いてて」
「でも、……っひゃ、ん」
ちゅう、と音をたてて鎖骨に吸い付かれる。クダリさんの顔が離れて、はだけた胸がヒヤリとした空気にさらされるのを感じながら、彼の瞳に捕らえられた。嬉しそうだ。
「うん、やっぱりユカリ、胸綺麗。ぼく好き」
「……」
もはやその言葉が私だからこそ言ってくれているような気さえして、嬉々としてそこに頬擦りする彼の頭を優しく抱いて、顔を隠すしかなかった。
2011/11/08 UP