ささやかな奉仕
「……! ど、うしたの」
ぱちくりと目を瞬かせた。そこには、戦闘にはまるで使えないけれどどうにも愛着がわいてしまって、懐いてくれているのもあって野生に帰すこともできない、私の大切なポケモン、メタモンが、何をどう間違ったのか、こともあろうに私の密やかな想い人であるノボリさん――以前バトルサブウェイでジャッジさんとお話していると落し物を届けてくださっただけの間柄だけれど、えらく紳士な態度にほれぼれとして以来マジ惚れしてしまったというなんとも一方通行な話なのだけれど――に化けて立っていた。
「……メタモン? 何をしているの?」
この子は私の気持ちを知っている。知っていてやっているのだから性質が悪いというかなんというか、だからつまり、この子は戦闘はからっきしなのに、こと誰かに化けるというただ一点においてのみ驚異的な能力があって、私の目の前にいるメタモンはまさにノボリさんなのだった。
ただ、どうしてか本物ではありえない、ゆるく口角の上がった表情をしているのがものすごく気になった。
「……メタモン、んって、口、下げて御覧?」
口の端を人差し指で押さえて下げる仕草をしてみると、メタモンはもにゃもにゃと鳴きながらも、首をかしげただけだった。
「ほら、ノボリさんは、そんな風に笑ったりしないでしょ?」
そうだ、そう威圧的ではないけれど、どこか物腰の柔らかいというには言葉を濁してしまう彼の不思議な空気は、引き結んでから下げられた口元にその原因がある。と、思っている。
それを分かっていないはずはないのに、メタモンは相変わらず、ずうっと口角を上げたままだ。この子なりに何か意図があることは見て取れるのだけれど、具体的にそれがなんであるのかが、把握できない。唸って私も首をかしげると、メタモンはメタモンそのままの表情を彷彿させるように、やっぱりゆるゆると口元をゆるめた。――もしかして?
「……笑ったところ、見せてくれてる、の?」
ご本人には大変失礼ながら、間の抜けたように笑う表情にくすりとくるのを止められない。メタモンは、まるでノボリさんそのままの声色で、
「ブラボー!」
嬉しそうにつぶやいた。……いつの間にそんな言葉覚えたのかしら?
2011/10/22 : UP