面倒を飛び越えても

 ノボリとキスをするのは好きだ。でも、その度に乾燥対策の薬用リップを唇に塗るのは酷くわずらわしい。と、メグルは思う。
 とはいえノボリがそんなに激しいキスをするのかと言われればそれは違っていて、単にせっかく塗ったリップが彼の唇へ移ってしまうのである。加えて、グロスほどではないにせよ、べたつくのがメグルにとっては不快であった。

(……でも、まあ)

「どうかしましたか?」

 メグルの視線に気づいた彼が、身体ごとメグルに向き直る。けれど、メグルの視線がどこをとらえているかまでは察していないようだった。
 いつも通りの大きな口に、下がった口角。

「……なんでもない、です」

 言うと、メグルは衝動の赴くまま彼の唇を己のそれでかすめ取っていった。


(したいときにしちゃうんだけど)

2011/10/28 UP