良いおっぱいの日

「……あの、ノボリさん?」
「……。……なんでございますか」

 ぎゅうぎゅうと顔を押し付けられ、居間の柔らかなカーペットの上で尻餅をつきながら、私は途方にくれていた。ノボリさんからは思い切りアルコールのにおいがしていて、私の胸に埋まろうとする彼の顔の熱さが、彼が随分と酔っぱらっていることを教えてくれた。

 たしか、明日は年に数回ある大規模なメンテナンスが行われるとかで、一般車両こそ変わらず運行するものの、バトルトレインは全線おやすみだという話だ。飲み会が予定されていたことも聞いていた。けれど、まさかここまでべろんべろんになってくるとは。それも、あのノボリさんが。

「大丈夫ですか? 気持ち悪くないですか?」

 尋ねる間にも、ノボリさんは私の胸に顔を押し付けたまま荒っぽく呼吸を繰り返していて、私は彼の髪を梳くように撫でた。

「今、あなたさまの香りで帳尻を合わせている最中でございます」
「うえっ!?」

 変な声が出た。ノボリさんは私の動揺も気にせず、くんくんと鼻を鳴らしている。……息が荒いのは、気分が悪いからではなかったらしい。
 ノボリさんが何をしているのか理解した私は、急に恥ずかしくなってどうにか彼を穏便に引きはなそうとその肩に手をかけた。けれど、ノボリさんはそれだけで私が何をしようとしているのか察してしまったらしい。ぶつぶつと私の名前を呟いていたのが止まり、ピタリと彼の呼吸も収まりを見せた。

「……」
「っ、きゃ」

 のも束の間、彼は私の下着ごと服をたくしあげると、ちゅう、と胸の真ん中に吸い付いてきた。

「ちょっ、やあ、ん!」

 ノボリさんの左手は私の背中に回っているけれど、右手がやわやわと胸を這う。唇は場所を変えながらも確実に私の反応する場所に落とされ、私はたまらず身をよじった。

「の、ノボリさんっ」
「……邪魔ですね」

 え、と漏れた声はもう期待に浮わついていて、けれどノボリさんの目が据わっているのを見た私は、もう一度邪魔ですねと不満そうに呟かれたその言葉の意図に沿うように、自分で上着と下着を脱ぎ去るしかなかった。それに気をよくしたのか、ノボリさんは再度私の胸に顔を寄せ、ぴったりと耳をつける。

「……あの、ノボリさん?」

 彼は黙ったまま一言も声を発しない。ただ、さっきそうしていたのとは違って、くうくうと可愛らしい呼吸を繰り返すだけ。

「……ノボリさん??? ちょ、こんなとこで寝ちゃダメですよ?」

 二重の意味で。とは言わないけれど、彼はもちろん、私だって上半身裸なのだ。今の季節、これは厳しいものがある。私の呼び掛けに、ノボリさんはうにゃうにゃだかむにゃむにゃだか言っていたけれど、私には何を喋ろうとしているのかさっぱりで、そうこうしている内にノボリさんの体が重くなり、私はため息をついて自分の手持ちの中から彼を運べる子を呼ぶと、せめてもの『仕返し』に彼のベッドに一緒に潜り込んだ。

 翌朝目覚めたらすべて覚えてたらしいノボリさんがベッドの下で土下座をしていてぎょっとするのだけど、肩透かしを食らったんだから、このくらい可愛いものだよね?

2011/11/08 UP