玉響のうちに言祝ぎて
陸路では大体が野宿だ。朽ちかけた家屋や旅人用のテントなどがあればまだ良い方で、雨風をしのげれば御の字な場所はしばしば存在する。
その日は風の翼を上手く扱えるようになった私のために、船を離れ、璃月のそびえる山々を登っている途中だった。
できるだけ早いうちから休めそうな場所を探し、薪と食糧を確保して、他愛ない話をしながら眠りについたのを覚えている。
そんな夜半、目が覚めた。
寒さをできるだけしのぐためにも二人で身を寄せ合って眠るのに、その時、万葉の姿はなかった。私の身体に二重にかけられた布きれを確認して、夜風に当たっているか、星々を見にでも行ったのだろう。
そうは思うのに、「もし」が頭を過って、私は立ち上がった。
月明かりは眩しく感じるほどで、この明るさなら彼もすぐに見つけられるだろうと思ったし、まだ彼の姿を目にしたいという長らく抱えた癖が抜けきっていなかったのもある。
大声なんか出してしまえば、ヒルチャールや宝盗団を呼び寄せてしまうかも知れない。
気配を消しつつそっと辺りを窺うと、野宿場所からほど近い場所の松の木の陰に人影を見つけた。
微かに見える着物の裾は、見間違えるはずもない。万葉のものだ。
けれど、空を見るでもなく、切り立った岩壁と向かい合うように座り込んで、松の木に身体を預けている様子に違和感を覚えた。なにかあったのだろうかと。
思わず足を止める。着物の袖の先、彼の左手には端布がきつく握りしめられていた。よく見ると、肩が揺れている。けれど、普通の呼吸ではなかった。
「……万葉? どうしたの、大丈夫?」
「っ!!!」
まだ距離があるけれど、そっと声をかけると、大げさなほど万葉の肩が揺れた。私から何かを隠すように膝を立てた彼に、走って彼の元に近寄ると、松の木の後ろを覗き込んだ。
「まさか怪我したんじゃ、ない……よね」
「……いや、それはない……」
万葉の服が乱れていた。
一体なにを……とあらゆる可能性を探したものの、野生動物を保護したわけでもなさそうだ。
「じゃあ、こんなところでなにして」
単純な疑問だった。だから万葉の顔を見たのに、彼の顔は真っ赤になっていて。
まるで自分の身体の一部を隠すような仕草に、私は無意識に彼が隠したがった場所へ視線を向けていた。
「……柊、そんなにまじまじと見られると……非常にいたたまれぬのだが」
つまり、彼は夜に起き出して……一人で欲を吐き出していたのだった。
着物が乱れていたのは、身体の中心部と言って差し支えない場所を外気に晒す必要があったから。端布は、出したものを拭うため。
あられもない姿の万葉がどこか困ったように私を見つめる。色んな言葉が頭を過るのに、どれも口に出せなくて、結局私は眉をひそめた。
「どうして、私に言ってくれないの? 私じゃ気持ち良くなれなそうだった?」
万葉がそういう意図を明白にして私に触れたのは、ベッドの上でだけだった。
彼は旅そのものを愛しているし、外にいるなら彼の目に映るものは皆彼の興味を引き、愛すべきものなのだろうと思っていた。
けれど、こんな風に隠れて欲を発散しているだなんて。
「いや、柊。決してそんなことは」
「そりゃ、身体を清めるのだって限界があるし、臭いだって、万葉は敏感だものね」
「柊!」
――。
私、混乱してる。こんなこと、別に言いたくないのに。
万葉に強く名前を呼ばれ、それを自覚する。弱った笑顔を浮かべていた万葉は、もう笑ってなかった。気遣わしそうに私を見上げている。
「拙者が悪かった。だからそんな風に言ってくれるな。頼む」
「……ごめん」
どうして良いか分からなくて、けれど立ち尽くしているのも気まずくて、彼の隣に座る。
彼の肩を押すくらいに密着すると、こつんと万葉の頭がこちらへ倒れてきた。
「すまぬ。……長らくこうして散らすのに慣れていたのだ。それに、かような場所でお主に負担を強いるのは本意ではない」
「でも、私は万葉に求められると嬉しいよ」
今からでもそういう触り方をされないか、と思いながら、はっきりと口にした。
「私がそういう機微に疎いから色気がなくて、だから万葉はそういう気持ちにならないんだと思ってた」
「……お主が思うより、男……というより、拙者は単純でござる。お主を想えば兆してくることもあれば、触れてしまったが最後、後に引けぬこともある」
私を気遣ってか、万葉が彼にしては明け透けな言葉でぽつりと語った。
少し沈黙が落ちて、考える。
「……あ」
「?」
「万葉は私の身体に負担がって言うけど、じゃあ、私が上になったら良いんじゃない?」
結果、私の口から出たのは、小さな思いつきだった。
「柊、それは……っ、こら、脱ぐでないっ」
万葉としては、もう服の乱れを直して、仲直りをして眠るつもりだったのかも知れない。
けれど私は自分の帯を解いて適当に前を寛げると、彼が局部を隠すようにして被せていただけの袴もぺろりと剥ぎ取った。
「ねえ、男の人って一度出しても、触ってたらもう一回大きくなる?」
「ンンッ」
変に裏返った彼の声を聞きながら、そうっと手を伸ばす。が、それは彼によって阻止されてしまった。少し収まったはずの顔が、また真っ赤になっている。
「お主はっ、拙者とて好いた女子の前ではただの男に過ぎぬと、どうしたら分かってくれるのでござるか!」
語気を荒らげる彼があまりにも珍しくて、目を丸くする。怒られているのに、内容がいじらしいと思うのは惚れた欲目だろうか。
「じゃあ、もっと教えて」
「――、」
「万葉が、教えてよ。好きな子の前で、万葉がどうなるのか」
なんだか自分が恥ずかしいことを言ってる気がして、私まで顔が熱くなってくる。はくはくと物言いたげな彼の唇に、ちゅっと吸い付いた。
躊躇いか、それともまだ何か我慢をしているのか、彼の瞳が小さく揺れている。
「さっき、私のこと想ってくれた? もしそうなら……どんな風に気持ち良くなったのか、万葉がどんなのが好きなのか、私にしてみせて」
そういうと、万葉は息をのんだ。そして次の瞬間、噛みつくようなキスが繰り出されて、私はその腕にきつく抱きしめられた。
「んっ、ふ……ぁ、かず、は……んぅ」
体温なんてそう変わらないはずなのに、自分のものではない舌は明らかに違う温度で、私の口内を暴れ回る。
もっと、もっと求められたい。苦しくなるまで、苦しくなっても、もっと。
ついこの間までこんな気持ち、万葉には相応しくないと思っていたのに。どんどん欲深くなってきりがない。
万葉の身体の輪郭を確かめるように、服の上から指先を滑らせる。と、急に万葉の手が強く私の衿をあわせた。
「んっ」
「はぁ、義父上がお主をじゃじゃ馬などと言っていたが……これはたしかにそうやも知れぬ」
「ちょっと、万葉?」
聞き捨てならない言葉にむっとする。何を指しているのかを的確に理解したわけではないけれど、明らかに褒め言葉ではないし、私を窘めていることだけは確かだった。
けれど、万葉はそんな私に構うことなくきびきびと……いや、少し荒く感じるほどの手さばきでさっと私を着付けてしまった。
「お主は素直な分、物覚えが良いところがあったが……拙者が知らぬ間に、随分と成長したものだ」
「さっきから、褒めてないでしょう」
「そうだな、いつ拙者の元を飛び出してゆくか、気が気でない」
しれっと私がめくった袴も戻して、自分の着付けも始めてしまう。流石にさっきみたいに『私じゃだめなんだ』なんて思わないし、口をついて出ることもないけれど、なにかはぐらかされているようで気分は良くなかった。
「そんなわけ、」
「そうか? 拙者はそうは思わぬよ。人の心は移ろいゆく。今お主といることは得難いことだと、日々感じている」
……万葉は、私がどれだけ彼を好きなのか、耳にタコができるほど聞いたのではなかったか。
私が言葉を変えそうとする前に、万葉は言葉を続ける。
私をすっと見上げて、まるで、射貫くような鋭い目で。
「万が一お主の心が他の男のものになったとして、拙者は最早お主の幸せを願う境地には至れぬ」
「……それは、……」
私だってそうだ、と言う言葉は出てこなかった。もし万葉が私よりもずっと心惹かれる人に出会って、その人と一緒になっても……私は、それでもきっと万葉を好きだろうし、彼の心が曇らないなら、それ以上のことはないと思うだろう。
同じ気持ちを交わし合ったのに、同じ言葉が出てこない。
「拙者はもう、お主の心をそうやすやすと他へ譲るつもりはない……。それはお主とて同じ事だと、承知しているでござるよ。
故にこれから、長い時間を共にすることになろう。そう急がず、共にゆるりと歩いて欲しいのだ」
「……焦ってるわけじゃ、ないんだけど……」
「しかし、先ほどの誘い文句は堂に入っていた」
「あ! あれは! ただ必死で!」
「お陰で、拙者はただのケダモノになるところであった」
「なんっ、」
「そうであろう? 柊。お主の肌も、愛らしく乱れる姿も、拙者を呼ぶ声も……何一つ、誰の目にも触れさせたくはない」
それは、私だって誰かに見られたいわけじゃないけれど!
今度は勢いよく同意出来たのに、万葉に手を取られ、手の甲に頬ずりをされて言葉に詰まる。熱い彼の頬から指の付け根が唇に触れ、押し当てるだけの口づけにきゅっと手を握りこんだ。
「で、でも、私は寂しいよ。手だけとか、口だけでも良いから……万葉に誘って欲しい」
万葉の指先に力がこもる。
「……善処しよう」
「善処じゃなくて」
「柊」
食い下がる私に、万葉が待ったをかける。
「もう此度のような思いはさせぬゆえ、ここは引いてくれ」
「……う、分かった……」
彼の口ぶりは真剣で、きっと考えがあってのことなのだろう。女にも色々あるように、きっと男の方も色々とあるのだ。
けれど、誰にも教えてもらえないそれらを、皆はどうやって知るのだろう。
止められた手前聞くこともできず、私は言葉を飲み込んだ。
******
「……、柊、柊!」
「ん……、ぅ?」
身体を揺さぶられて瞼を開けると、私を心配そうに覗き込む万葉の顔が見えた。……私、どうしたんだっけ。また船酔い? でも、だったらこんな焦ったように名前を呼ばれるのはおかしい。
「万葉?」
「目覚めて良かった。今の状況は分かるか?」
「えっと……」
言われて、うーん、と唸る。
確か、今お世話になっている北斗船長率いる南十字の旗艦の停泊場所が璃月の孤雲閣で、そこは大昔に岩神が別の魔神を討伐したという有名な逸話があって、地脈の流れが独特だから神の目を持っているなら地脈や元素力を感じるにはいい場所なのだと、教えてもらって……。
「あ、そっか。孤雲閣で地脈を感じようとして……」
「そうだ。恐らくここも地脈が作り出した秘境の一部なのだろう。以前、旅人と共に似たような場所に赴いたことがある。拙者達はその中にいるようだ」
「ご、ごめん。私のせいで」
「いや、冒険というのはこうして始まるものであろう? それに拙者にとって、柊に大事がない事の方が重要でござるよ」
安心させるような柔らかい笑みに、今度は感謝を伝える。まず上半身を起こして、立ち上がった。軽く身体を動かすけれど、特になにも不調はない。
「大丈夫みたい」
「それは重畳」
「でも……地脈が作り出した秘境だとしたら出口があるはずだよね」
「そうでござるな。しかし……上手くその気配を感じられないのだ」
「えっ、万葉でも?」
私よりも遙かに熟達している彼が難しいことは、私にも難しいだろう。
そう思って辺りを見渡したものの、辺り一面真っ白で、壁があるのかも分からない。
かろうじて足元に漂う雲のような煙のようなものの陰影で、どうにか平衡感覚が狂わずに済んでいる。そんな感じだった。
「この有様だが、よく見ると足元に地脈を感じる。分かるか」
「……なんとか」
「この流れから逸れなければ、滅多なことはないはずだ。ゆこう。案外、歩けばすぐに端にたどり着くかもしれぬ」
励ますような声に頷いて、離れないようにお互いすぐ近くの位置取りのまま足元の地脈を感じる。
「でもこれ……地脈なのかな。なんか違う気も……」
「孤雲閣には未だ岩王帝君に斃されたという魔神の残滓があるという。モンドのドラゴンスパインも、魔龍ドゥリンの心臓が今もなお脈動しているらしいと聞く……。そういう場所は、かつての強大な存在達に由来する記憶や力が地脈に食い込んでいるのだろう」
「なんか怖いなあ」
「記憶は記憶。既に過去のものであれば……今を塗り替えるほどの力はないはずだ」
そうは言っても、万葉が警戒を解く様子はない。私も不慣れながら地脈を感じようと試みてはいるものの……
「歩いても、歩いた分だけ遠ざかっている感覚があるんだけど……」
「……拙者もだ」
このまま歩き続けるのは愚策。
私たちは言葉少なに立ち止まった。
「秘境で疲れるのはまずいよね。寝たら夢で地脈の記憶が見えちゃうとか言うし……」
「そうだな……かと言って、今のところ打開策もない……」
焦ってこそいないものの、進展はないに等しい。
「やっぱり、地脈を感じるだけじゃなくて、積極的に探った方が良さそうじゃない?」
難しい顔をしている万葉に提案する。彼は私の言葉に考え込む素振りを見せた後、頷いた。
「地脈の記憶からいつかの敵対者が現れることもある……ここに来たきっかけも地脈を感じ、探ろうとしたことでござる。あまり無防備にならぬよう、気をつけることとしよう」
言って、万葉は目を閉じた。熟達するとそれだけでも分かるものなのだろうか。
私は地脈の中へ入る直前と同じように、地面に手を当てた。最近少しずつ元素力も感じられるようになってきたし、それと同じような要領で、手のひらから世界のエネルギーを受け取るイメージをする。
じわじわと手のひらに何かが流れ込む。
「……?」
「っ、柊!」
直後、地面に身体がめり込んでいく感覚に抗えないまま、私は目を閉じて身を丸め、衝撃に備えた。殆ど反射だった。
そんな私に万葉が覆い被さるように重なる。
「……ふう、敵襲というわけではないか」
ほっとした声と共に、身体を優しく叩かれて、差し伸べられた手を取った。
「ここは……誰かの、工房?」
立ち上がって周囲を見渡すと、白くて何もない景色から一転、石造りの部屋の中にいた。
部屋の壁に沿うように設置されたL字型のテーブルの上や側には沢山の機材が置かれ、一角を圧迫している。
床には古めかしい絨毯。一方で、革張りのソファはそれなりに柔らかいものの、丁寧に使われているのかつやつやとして質がよさそうだ。
「以前、旅人との縁で見たことがあるが、モンドの錬金術師達が用いる器具に似ているでござる」
「へえ……」
入って来たのは璃月なのに、と思った直後、テーブルの上に撒かれるように置かれた紙の上に文字が現れた。
「! 万葉、これ」
万葉を呼んで、二人でそれを確認する。
『ここへ来た旅人さんへ。
ここへ来られたと言うことは、神の目を持っていたり、地脈を感じる力があるということ。ここは暇つぶしのために作った空間なのだけど、あまりにもランダム性が高くて、放棄することにしたの。
出る方法は、別紙に出てくる指示に従えば良いだけ! 簡単でしょう? 歴戦のあなたたちにはちょっとつまらないかしら?
ちなみに、入って来たときの人数によって部屋の内容が変わるの。革新的だと思ったのだけど……まあいいわ。
すぐに指示に従って出てもいいし、地脈から樹脂を取り出すことに成功すれば、その樹脂で食糧を得ることもできるわよ。すごいでしょう? でも数ヶ月単位で長居をすることは想定していないから、できれば二、三週間くらいで出ることをおすすめするわ。
楽しんでね!』
あまりにも軽い言葉と、見逃せない内容に何度も最初から文字を追いかける。
「ふむ……どうやら、愉快な御仁のようだな」
「愉快で済ませられる? これ」
「旅人と行った海島でも、似たようなことはあったが……どれ」
万葉がもう一枚の紙を手に取る。そこには同じ筆跡で、同じように文字が浮かび上がった。
『密室で二人きりなんて、何も起こらないはずないわよね?
必要なものは揃えてあるから、あとは二人の心の赴くまま、心に抱えている相手への欲求を伝えて、解消してね』
「……? これ、どういう……万葉?」
文字の言わんとするところが広すぎて、要領を得ない。
そこも二人ですり合わせるのだろうかと思って万葉を見遣ると、きゅっと唇を引き結んで固まっている姿が目に飛び込んだ。
首筋の方まで赤くなって、見るからに動揺している。
「か、万葉? え?」
「……柊、お主は、」
彼の唇が震えている。一度言葉を切って息を整えた万葉は、戸惑ったように続きを口にした。
「お主には、この文章がどのように読めたのだ?」
「え? えっと、『心に抱えている相手への欲求を伝えて、解消してね』って……」
「……なるほど」
「ってことは、万葉は違うの」
ぐ、と彼が喉を詰まらせる。最近よく見る、私に関する仕草だ。……その、色事に関することで。
「まあ、そうとも……言える」
一体どんな内容だったのか、と聞く前に、四面全てが壁だった部屋の中にぽっかりと穴が開き、次の部屋が現れた。
どちらともなくお互いの顔を見て、近くに寄る。けれど、どうしてだか部屋の中の様子がよく見えない。薄暗いだけじゃなくて、そもそもものの輪郭のようなものがはっきりしないというか……。
ちら、と万葉を見ても、同じ様子だった。警戒する気配を色濃く感じる。
「拙者が先に参る」
刀の柄に手を掛けながら、音もなく万葉が一歩踏み出す。
「!」
と、急に部屋の中がクリアになった。
間接照明に衝立。床には絨毯。観葉植物もある。一番奥には、天蓋付きの豪奢なベッド。
「……寝室?」
「そのようだ」
私がぽつりと呟くと、万葉が警戒を解いた。
格式高い調度品の数々。まるで伝統ある宿の一室のようだ。
私も中へ入り、確認すると、そこからそれぞれ別の部屋に繋がる扉があった。一つは『キッチン』、もう一つは『温泉』と書かれている。部屋の主はよほど気に入っていたのか、ハートマークが散らしてあった。
「お勝手と浴場かぁ。モンドだと、こういう宿の部屋を『スイートルーム』って言うんだっけ」
「先の部屋のことを考えると、部屋の主だった者の住居であったように思うが」
「でも、住居をそんなヘンテコな仕掛けに使うかな」
「放棄したと言っておったし、可能性はあるだろう。翻って、台所も風呂も、機能するのだろうな。恐らく樹脂を使わねばならぬと思うが……」
「樹脂?」
「地脈から採れるものだ。通常、秘境奥の化石古樹を活性化させて、報酬を得ることができる。ここが地脈の及ぶ場所ならば……ほれ、この通り」
万葉が手元で何かをしたと思ったら、その手には綺麗な宝石みたいな欠片が乗っていた。それを使って、両方の扉を『活性化』させ、簡単に扉を開いてしまう。
……神の目の所有者か、地脈を感じられる人間しかここにはたどり着けないのだろうけど、それにしても奇妙な仕掛けだ。こんな風にいろんなことができるようになるなら、神の目を欲しがる人の気持ちも少し理解出来る気がする。
台所も、お風呂場も、変わったところはなさそうだった。強いて言うならお風呂は本当に温泉と言った風情で、正直タダで楽しめるなら一回は入りたいと思うほど広く、独特の香りが湯気と共に充満していた。
今のところ、出口がないこと以外で脅威はなさそうだ。
「柊」
たっぷりのお湯に浸かるのは結構な贅沢だ。万葉さえ許してくれるなら、どんなに怒られても入りたい……。
そう思っていると、硬い声で名前を呼ばれて慌てて彼を振り返った。
「なに?」
「これを」
「……また紙?」
「読み上げてくれまいか」
どこか疲れたような声に、見えるまま、読めるまま声に出す。
「『素直になるポーション』……?」
「……そうか」
「万葉、さっきからなんか様子がおかしいけど……万葉にはどんな風に読めたの?」
「おおむね、お主と同じだ」
「……同じだったら、そんな困り果ててないよね?」
万葉が刹那、息を詰める。それから、深く息をついた。
「少なくとも、お主が読んだような曖昧で柔らかい表現ではなかった」
言葉を随分と選んでいるようだった。と言うことは、口にするのも憚られるような言い回しだったのだろうか。
「――おかしくない?」
聞いていた話と違う。万葉が目で私の言葉の先を促した。
「秘境ってその人の心が反映されることもあるって、旅人から聞いたことがある。それで言うと、この文章は私たちで異なる表現になっているのに、内容は殆ど同じだっていうなら、逆だと思うのだけど。どうして万葉が躊躇うような言葉がそっちで、分かりにくい言い回しが私の方に出てくるの?」
「恐らくだが……お主の文章内に出てきた『欲求』なるものが、拙者はより具体的かつ明白で、お主の方はもっと広い範囲で、漠然とした内容を指しているから……と考えられる」
「具体的かつ明白……でも、万葉は言いたくないんでしょう? 欲求はあるけど、解消したくない……ううん、私に押しつけるみたいで嫌なんだ」
む、と万葉がやはり言葉に詰まる。
口にしがたい内容なのだから、よっぽどだ。でも、だからこそ大体どういう内容について意図されているのか分かった。
……私にとって、万葉が躊躇う内容でも、私に向けられる感情も欲望も、どれも受け止めたいと思っているのだけど……きっと私がそうだったみたいに、万葉にもそれを出せない理由があるのだろう。
ああ、自分が酔っ払ったら記憶がなくなるのを分かっていたら、あの時あんなに飲んだりしなかったのに。あの時、私、万葉が躊躇うような……何か変なことを言ってしまっていたのだろうか。
お勝手はあるけど、私は万葉みたいに樹脂なるものについてはまだよく知らないし、活性化とやらでお酒を望むのは難しいだろう。
だったら、
「万葉、取り敢えず『素直になるポーション』って言うのがあるんでしょう? それを飲んでよ」
そういうものに頼るしかないだろう。
「拙者が飲むことに異論はないが、お主が言いたいのはよく知らぬものを飲みたくない、ということではないのだろうな」
「薬のせいにして、素直になった方がいいよ。そもそも、脱出条件なんだし」
「はぁ……気は重いが、とても素面では……お主を危険な目に遭わせたくないというのは本心故、多少の粗相は目を瞑ってもらえるか……」
「万葉の言うこととやることを粗相だなんて思ったことないよ」
心からそう思っているのに、万葉は曖昧な表情で私を見ると、懐から小さな小瓶を取り出すと、さっと封を開けて全てを飲みきった。
……間違っても私が飲まないように隠してたのか。詰めたいけれど、そのすり合わせもここでできるだろう。
「どう? 苦しかったりしない?」
「ああ……それは問題なさそうだ。ただ……身体が、少し熱を持つような感覚があるな」
既に効果は出ているのか、万葉の口ぶりに違和感はない。確かにちょっと、普段なら敢えて言わないようなことまで口に出している気がするけれど……
「熱? 確かに、ちょっと頬が赤くなってきたかも……大丈夫?」
「柊、すまぬがあまり矢継ぎ早に聞いてくれるな。なにか口走りそうで、少々……っ、う」
「万葉っ」
胸元を押さえて上半身をかがめた彼に、無理をしないようにと支えながらベッドへと誘導する。端に座らせると、上気した頬に加えて、息が乱れているのを感じた。
「万葉、服脱ごう。締め付けが良くないのかも」
「ちが、っやめ……! 柊、」
「ダメ。無理して耐えないで、お願いだから……」
言いながら、袴紐を解く。その下の腰紐も結び目を探してさっと解くと、万葉の口から甲高い声が出た。
「んぁ、あっ」
びく、と身体が跳ねたのは私も同じだった。
なにせ、その類いの声はいつも、私が彼に触れられてまろび出るものだったから。
真っ赤になった万葉の目は潤んで、口元を手の甲で押さえる仕草さえ色っぽく見える。
「……気持ちいいの?」
「んっ、あ、……はぁ……っ、あ、ぁ……柊、み、るで、ない」
……素直になるポーション……って、媚薬ってこと? 自白剤じゃなくて?
「ちゃんと万葉の状態を教えて」
「はぁっ……あ、感覚が、鋭敏になって、狂おしい……」
しどけなく、万葉が私をぼうと見ながら呟く。抵抗しようにもできないようだった。それでもその目はどこか縋るようで、さっきまでの彼の様子を見るに「聞いてくれるな」か、「言わせるな」だろう。
でも、ここで引く方がおかしい。
「万葉が私にしたいことって、なぁに?」
殊更に優しく囁くと、上擦った息を喉で絞め殺すような音と共に、万葉が目を見開いた。
ごめんね。でも解毒剤みたいなものがあるなら、とっくに万葉が見つけているはずだ。そうじゃないと言うことは、やっぱり指定された条件を達成するしかないはず。
「お主のくちびる、を、」
く、と万葉が抵抗するように言葉を詰まらせる。けれど、こらえきれるものではないと思ったのか、すぐに口ではなく目元を隠してしまった。
「拙者のもので、ふさぎ、た」
まるで息が上手くできなくて喘いでいるようだった。
ここまで頑なだと言うことは、口づけではないのだろう。
「万葉。私、万葉に求められるのが嬉しいの。だから……もっと教えて」
そうだ。いつか万葉が一人で欲を散らしていた夜にも同じ事を言った。あの時、万葉はどんな風に私を想いながらしていたのだろう。それはきっと、万葉にとっては実際にやるのを躊躇う内容だったのだ。
袴を脱がして、その下の薄い股引きもずらしていく。下着に覆われた彼の局部は既に苦しそうに張り詰めていて、傷つけないようにそれも脱がす。私の肩を掴んで抵抗の意思を示してきた万葉の手には全く力が入っていなくて、嫌がるように身をよじったせいで、余計に脱がしやすかった。
びん、と勃ちあがって熱を持つそれを、そうっと指先で撫でる。
「んんっ……柊、」
鼻にかかった高い声が漏れる。止める言葉は出てこない。ちら、と万葉の顔を見ると、やっぱり止めて欲しそうに眉尻を下げた表情で……でも、こくりと動いた喉元と、直後うっすらと開いた唇から漏れた吐息が震えているのが分かると、私は直感的に感じた。
このまま押し切れる。
ベッドの脇に膝を突いて、迷うことなくそこに唇を押し当てた。
「ひぅ、っ」
万葉の内股がびく、と跳ねる。初めて触れる万葉のそこは、熱くて、赤くて、滾っていた。
これがいつも私の中をよくしてくれているのだ。なら、擬似的に律動を再現した方が良いのだろう。
ゆるゆると指先を動かすと、一緒に皮がぬるぬると動いて、皮一枚隔てた芯を擦る。ぷくっと腫れた先端は小さな口をぱくぱくとさせていて、なんだか一生懸命な様子に思えて、可愛い。
そこに舌先を当て、はむ、と唇で挟み込んだ。
「ああっ!」
いつもは耐えている万葉の声が、今日は惜しげもなく外へ出てくる。――なんだか、気分が良い。
擦れると痛いかも知れないから都度唇を離して、唾液を垂らして滑りをよくしていく。ちゅぷ、ちゅぷ、と音が出るまで繰り返していると、そのうちに彼からも透明のぬるっとしたものが出始めて、舌で掬いながら手も使って、彼のものを扱いた。
「あ、柊、柊っ」
「んっ、ぐ、ぅ、ふ、」
万葉がたまりかねたように腰を突き上げる。一気に喉奥に届きそうな質量を口の中に迎えて、歯を立てないようにしつつもぢゅ、と吸い上げた。
「あぁ、あ、イっ、く……ぅ!」
頭に万葉の手が添えられる。力なく私の髪をくしゃくしゃにするだけだったそれが、急にぐっと彼の腰に押しつけるように力がこもった。
喉奥に触れそうな怖さもありつつ、喉を絞める。唇越しに、彼のものが脈打っているのがよく分かった。膨らんで、どくんと芯の中を……彼の子種が通って、吐き出されている。想像の中で、あるいは実際に過ごした夜に、私の中に打ち付けられたもの。
これがそうなんだ、と男性の果てる様子が強制的に分かっていく。
こうしていると頭がくらくらしそうなほど淫らなことをしている気がして、私はどうにか鼻で息をしながら、彼の手の力がおさまるのを待った。
いつも彼を受け入れる場所が、じくじくと疼いている。今、口の中に含んでいるものが欲しくて堪らない。
万葉の手が、指先が私の髪を優しく整え始めたのを感じると、そろそろと彼の芯を口から放した。
つつ、と糸を引くそれはまだまだ硬くて、熱い。
「はぁ、はぁ、は、っぁ……柊、」
「ん、万葉、これでいいの?」
口に含んだものを飲み干して尋ねると、まだぼうっとした感覚があるのか、どこか気怠げだった万葉が目を見開いた。
「まさか、飲んだのか?」
「うん。え、だって吐き出す場所もないし、」
吐き出した方が良かったのだろうか。その、万葉の好みとして。
彼を見上げると、少し唇を引き結んでいた万葉は私を立たせると、そのままベッドへ引き倒した。
「……堪え難い」
「わっ、かず、」
「柊。お主が欲しい」
乱れた服もそのままに、万葉が私に覆い被さる。囁きのあとすぐに唇を貪られて、私はされるがままになった。服の上から胸を揉みしだかれて、性急な動きでも快感を拾ってしまう。
「ん、んっ」
「はぁ……たまらぬ」
もどかしそうに万葉が私の帯を解いて、腰紐から着物を少し引き抜くようにしてずらしながら襟ぐりから手を差し込む。
「あっ」
「柔らかいな」
熱い手のひらが胸を覆って、指先がその先を挟み、的確に、つねるように弄ぶ。
「はぁんっ、あん、ん、万葉、っ」
「気持ちいいか? 柊」
「うんっ……あぁんっ」
いつもみたいな、ゆっくりと優しい触り方じゃない。強くて、大胆な動き。
最初から余裕を失っているみたいな手つきに、私は喜びを感じた。
一も二もなく私を求めて欲しい。そう思っていたのだと実感する。それは贅沢で、我儘でしかないと思っていたから言わなかったのだけど――……もし、万葉もそうなのだとしたら。
「お主を、貪りたい。節操など投げ打って、もっと淫らに啼かせて、」
熱に浮かされたような万葉の目を至近距離で見つめながら、キスの合間、吐息と共に紡がれる言葉に胸が跳ねる。
「何度も、貫いて、」
「あ、んっ」
「名を呼ばせて、」
「ん、かずは、ぁ」
「あぁ……柊、好きだ」
舌を絡め取られて、言葉を奪われる。硬いままの芯が内股へ差し込まれて、ぬるぬると動かされる。胸をまさぐられて、体重を乗せて、動けないようにベッドへ縫い付けられる。
けれど、何もかも嬉しかった。
「私も、すき、かずは」
彼が言葉にしてくれたように、私も返していく。
「もっとぶつけて……んむ、はぁ、ちゅ、んちゅ、……万葉の子種、ちょうだい。中に注いで、ぜんぶ、んんっ」
もし傾げに揺れていた腰が、明確に繋がったときのような律動に変わる。
かと思えば、すぐに下着まで剥ぎ取られて、万葉の手で足を広げられた。
下着越しに擦られていた媚肉に、万葉の芯が擦りつけられる。
「ああっ……ん、きもち、いい……っ、」
けれど、万葉はそれ以上来てくれない。ただ荒い息を繰り返して、飽くことを知らないかのように、潤んだ肉ばかり構う。
既に彼を知った身体は、奥に欲しいと理性をぐずぐずに崩し始めているのに。
「かずはぁ……」
私の言いたいことなんてきっと分かっているだろうに、万葉は何事か逡巡して、呟いた。
「……『素直になるポーション』……お主も、飲むか」
「……あるの……?」
「ベッド脇の小机の、引き出しの中だ」
言われて、ずりずりと這うようにしてそこへ手を伸ばす。引き出しを開けると、万葉がさっき飲んだものと同じ小瓶がころりと転がった。
これも破棄するか、自分の手が届く場所に隠す事だってできただろうに。
「柊が僅かな痛みも堪えるようなことがあればと思うと……このまま進めるのはとても容認できぬ。ならば、そのポーションを飲んで心のままの反応を見られる方がまだよい」
どこか据わった視線のまま、万葉の心が吐露される。私は頷くと、すぐに中身を飲み干した。空になった小瓶を引き出しの中に戻して、自分の中の欲と未だ葛藤しているのか、力なくベッドの上で座っている彼を押し倒した。
「うっ、柊、なにを」
「万葉がいきなり入れるのが怖いなら……私がやる」
万葉の上に跨がって、さっきまで万葉がしていたことを、今度は私からやってみる。
媚肉を芯に擦りつけるために腰を揺らして、ぬめる感触が甘く肉芽を刺激して、声が漏れる。
「んっ、これ……きもち、い」
万葉を押し倒すなんて、少し前の私には想像もできなかった。
「あ、柊っ、柊……、っ」
快楽に蕩けた顔をして、私の名前を呼ぶ万葉は色っぽくて、ドキドキする。
「万葉、かわいい……もっと気持ち良くなって」
「くっ、なにを、い、っ」
「万葉も……イくときは、イくって教えてね?」
「あっ! あぁっ……!」
万葉の喉から、ひ、と高い声が漏れる。
「イ、くっ、柊、イくから、とま、」
「ん、」
「あ、あっ!」
万葉が私の腰を両手で掴むも、私は一層ぐり、と擦れているそこを押しつけた。口でしたときみたいに、びくん、びくんと芯が跳ねている。下生えに隠れているけれど、そこで万葉が精を吐き出しているのは明らかだった。
「嬉しい……もっと、私で気持ち良くなって?」
「んっあぁ、あ! まっ、~~っ!!」
一向に柔らかくなる気配のないそれ。吐精でより滑りが良くなったのを感じて、私は前から手を入れて淫らに濡れた万葉の芯をそっと支えると、ゆっくりと腰を下ろした。
みち、みち、とゆっくりと押し広げられる感覚は痛みを予感させる。だから、少しずつ出し入れをして、身体を慣らしていく。
何度か繰り返して、片手で数えられるうちにとろとろになった私の媚肉は、彼の芯をゆっくりと飲み込んだ。
「あ、はいる、の……きもち、い……いぃっ……」
「んぁ、はぁああ……っ!」
目を閉じて、眉を寄せながらも気持ち良さそうな声を上げる万葉を見下ろす。いつも挿入の瞬間はドキドキして緊張していたのに、自分で動くとこうも気分が高揚するのかと笑みがこみ上げた。
いつも万葉がしてくれるみたいに、ゆっくり、ゆっくりと腰を前後に動かして、万葉の芯を扱く。最初は少しキツいかも、と思っていたけれど、すぐにぬるぬるとなめらかになった。
「ん、ん、万葉、きもちいい……?」
「あ、はぁっ、は、っ」
声もなく、万葉が何度もこくこくと頭を縦に振る。伸ばされた手をしっかりと合せて指を絡めると、その摩擦でさえ気持ちいいのか、万葉がうっとりとした顔で目を開けた。
ちゃんと目が合って、快感に溺れてる彼に笑いかける。
「ふっ……うれし、ぃ、よ……っ」
繋いだ手に支えられながら、たん、たん、と徐々に動きを大きくしていく。万葉の上で足を開いて、腰を上げて、抜けない位置まで引っ張って、お尻を落とすようにまた深くまで受け入れて。
ベッドの反発を借りてそうしていると、万葉の手に力がこもった。
「……イっ、く!!!」
「あ、あっ」
万葉が膝を立てて、下から強く腰を突き上げる。自分で動くのとは違う刺激にリズムが乱れたものの、手を離して上半身まで起こした万葉に抱きしめられて、私はベッドに膝をついた。私の胸の谷間に万葉の頭がある。顔を埋めるようにして、断続的に万葉の身体が緊張と弛緩を繰り返す。
「んっ」
不安定な場所でその姿勢は辛いだろうと、そっと彼の頭を抱えて、自分の身体ごとベッドへ寝かせる。胸の合間から熱い息が絶え間なく出入りして、珍しく無防備なつむじに唇を落とした。
私に縋り付く万葉なんて滅多に見られるものじゃない。
彼の頭を撫でて落ち着くのを待っていると、蕩けるような声が胸元から響いた。
「柊……」
「なぁに? 万葉」
「好きだ」
整える息の合間。素朴ながらも真っ直ぐな言葉に、もう一度つむじにキスを贈る。
「私も。万葉のこと、大好き」
「……もっと……お主が欲しい」
「うん、いっぱい触って……注いで、っあ」
ちゅう、と胸先に吸い付かれて、腰の方まで甘い快感が走る。
やっぱりいつもよりもちょっと強い力で、余裕なんかないみたいな触れ方で。
「ん、んぁんっ……あ、きもち、いい、」
「いつもより、もか?」
「あんっ……いつも、きもちいい、よ……っ、きょ、うは……んっ、万葉に余裕が、なさそうで、っ、その分……もっと万葉の、ぁ、心、の近い、ところまで……っ許されてる、気がして……っ、うれしい、の」
万葉の腰が揺れ始める。私の腰に回されていた両手がお尻へ下がって、柔らかな丸みを撫でたかと思うと、胸にするように揉まれた。
「はぁ、ぅう……っん、だから……万葉のしたいことが、私の欲しいもの、だよ。ぜんぶ、ぶつけて欲しいの」
打ち付ける熱い芯に中を溶かされながら、ぽろぽろと気持ちが零れていく。
お互いの乱れた息が混じって、肌を舐める。私を見上げる万葉は、もうちっとも苦しそうには見えなかった。潤んだ目は快楽に溶けて、滲んで、それでも私をじっと捉えている。
その目がふと細まって、薄く開いた唇から笑みが漏れた。
「はっ……まったくお主には、かなわん、なっ」
「ああっ」
腰を掴まれて、万葉の下腹部が下から押しつけられる。それが引いたかと思うと、万葉が上半身をまた起こして、器用にも繋がったままころんと転がされた。
ベッドが柔らかく私たちの重さを受け止めて、ぎし、と鳴る。
「んっ、」
「柊……、」
万葉が体重を乗せて、圧迫と共に快感がじわじわと中から溢れていく。その状態で何度も唇を吸い合って、舌が絡まった。
「んふ、ぁ、あ、あっ」
緩やかな律動が堪らなく気持ちいい。私を見る万葉の視線が、どこかギラついている気がしてくる。胸を揉まれ、その先端を指で弾かれ、つままれながら腰を動かされて、私は喘いだ。
「んぁあっ、きもちい、きもちいいっ、あ、イく、イっ、ちゃ、ぅう、あんんっ!」
たん、たん、と一定の間隔で動かれて、ベッドの反発が快感を逃がしたり、強めたりして翻弄される。
きゅうう! と中が収縮する感覚に抗わずに上り詰めると、万葉がそれにあわせてちゅう、と胸先を吸い上げる。その刺激で、イったはずなのに、そこを更に快感で貫かれる。
「あ、ああ――っ!!」
「ふ、……っく、拙者も、で、るっ」
私の中で強い快感が溢れて、止まらない。万葉の子種を吸い出そうと、何度もひくひくと中が動く。
言葉もなくお互いの息遣いを感じていると、万葉の手が頬を撫でた。
「柊……まだ、いけるか?」
どんな旅路でもかけられたことのない言葉に、思わず笑ってしまう。彼の手に頬ずりをして応えた。
「一緒に連れて行ってくれるなら、どこまでも」
******
何度も何度も快感の波を被り、山を越え、イくのを繰り返した。手を繋いで。キスをしながら。後ろから。上から。ゆっくり。激しく。――ベッドをぐちゃぐちゃに乱しながら、ずっと一緒に気持ち良くなって。
疲れなんて知らないほどの回数は、明らかにこの不思議な部屋の影響だった。その根元にあるのが私の願いのためなのか、万葉のしたかったことのためなのかは分からないけれど。
どちらにしても、私たちは気の済むまで抱き合った。文字の指示には十分応えたはずだ。その証拠に、ある時どっと疲労が押し寄せた。折り重なってベッドの上で倒れ込んで、汗が噴き出して。精も根も尽き果てるとはまさにこのことか、と思う程だった。
だからある程度体力が回復した後、
『思いが通じ合うって、素敵なことよね! これからも仲良くね』
と、張り紙がされた扉が工房の部屋に増えていたのには、流石にほっとした。
出口を確認した後、折角だからと温泉で身体を温め、身支度をして最後の扉を開けた。
「……う……」
まばゆい光に包まれて、目を瞑っても視界が真っ白に染まる。それがおさまると、慣れた潮風が鼻を擽った。波の音が聞こえる。目を開けると、海の上に浮かぶ南十字の死兆星号が変わらずに停泊しているのが見えた。
孤雲閣へ入ったのは午前中だったけれど、日の高さからすると、既に正午は回っている。
「どうやら無事に戻って来られたようだ」
「……はあ~! よかった……」
ほっと息をする。
うむ、と頷く万葉の表情も、心なしか晴れやかに見えた。
「拙者は一度船に戻る。柊、お主は船酔いも幾分か軽くなってきたとはいえ、まだ辛かろう? 先に璃月港で休んでいるといい」
「じゃあ、お言葉に甘えるね。万民堂でご飯食べようよ。濃い味付け以外なら万葉も好きだったよね」
「うむ。頼んだ」
言って、万葉が風の翼を広げる。問題ないことを確認して崖から離れる直前、手を引かれた。
「ん、」
ちゅ、と唇同士が重なって、笑みを残しながら万葉が岩肌から離れていく。
「……ず、ずるい!」
口元を手で覆いながら叫んだ言葉はきっと聞こえていたはずなのに、万葉は振り返ることもなく船へと飛んでいった。こんな日が高いうちから外でキスだなんて、今までなかったのに。
万民堂で合流した際、帆柱上の見張り台から六石さんにキスの瞬間を見られていたらしく、散々からかわれて参ったと苦笑いする万葉の顔は明るくて、私の方が照れてしまった。
――その後、万葉からのスキンシップが所構わずぐっと増え、そのせいで南十字の人達にはしばらくからかわれ続けて私ばかり照れることになるのだけど……今の私にはまだ、あずかり知らない話だ。
2026/01/09 UP
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