この話には性描写が含まれるため、18歳未満の方の閲覧を固くお断り致します。

真面目な彼の愛し方

 殆ど穹と同じタイミングで列車にお世話になることになって以降、私はアーカイブで皆の開拓の旅に触れている。唯一ピノコニーだけはパムの厚意で皆と現地に降り立って楽しませてもらったのだけど、かの星で巻き起こっていた秩序に関する騒動もまた私の知らない場所で起こり、そして終わったので、後から聞いて震え上がった。
 普段から私だけ情報の落差が激しく、また私にはこの宇宙に関する知識が本当にないので、こまめにアーカイブで補完している。胸を張ってナナシビトを名乗れはしないけど、皆私の意見も聞いてくれる優しい人達だ。なにもわからないのでお任せしますは最早失礼だと、そう思ったので。
 アーカイブをまとめているのは基本的に丹恒なので、私の情報源は基本的に丹恒だ。分からないことや聞きたいことがあれば彼に聞くようになったのも自然なことだろう。羅浮に関することも、羅浮への入国が許可されてからというもの、彼は積極的に情報をまとめている。主観のない事実ベースの文章は心地よくて、私は彼のまとめる文章がとても好きなのだけど……

「目の前に本人がいるのだから、俺に直接聞けばいい」

 ――現在、私は持明族の歴史を振り返っていたところ、いつもかっこよくて冷静な恋人からいじらしい嫉妬をぶつけられていた。

「いやでも、その、ね? 勿論、アーカイブに載せるほどでもないこととか、載ってないところで分からないことは聞くつもりだよ? でもその、丹恒は列車の護衛で、ナナシビトで、アーカイブの管理までしていて、忙しいでしょう?」
「それらをこなすことと、恋人との時間を持つことは全く苦じゃない。どれも好きでやっている」
「うっ」

 素直すぎる。
 率直な愛情表現は、私にとっていつも花束を贈られるようなものだ。冷静な声色も、彼が落ち着いていて理性の人であり、その思考が成熟している証左。
 そのバランスが、羅浮で彼にまつわる一連の出来事に彼が決着をつけるまでの硬質さを知っていると、非常に味わい深くて、つまり、魅力的ってこと。
 私の胸は彼の好意にいつもざわめいて仕方がない。

「そっ、それは……その、恋人としてなら私の部屋で時間を取ってくれる時がそうでしょう? それに、丹恒だって用事がないときは資料室から出て行くように言うじゃない」
「それはそうだが、お前の質問内容はアーカイブを更新する際にも役に立っている。それに今お前が持明族について調べているのは、俺に興味を持っての事じゃないのか」
「それは……その、そうなんだけど……あの、でも、今回のは本当に雑談って言うか。とにかく、邪魔したくないから。自分でできる範囲のことは自分でやってみて、ダメだったらちゃんと聞くから。ね?」

 オンパロスは列車での待機日数が少なかったけれど、他の星ではそれなりにかかっている。その間にパムや姫子さんたちから列車に関することを聞いて勉強したり、アーカイブでこの宇宙についての知識を少しずつ覚えて行っている。時間はあるのだ。

 それに、私が列車に乗ったときには既に資料室には丹恒の寝泊まり用の布団が置かれてしまっていた。彼が寝食を忘れて資料室に籠もってしまう癖があることも知っている。
 それは羅浮で罪人として拘束されていた時の名残なのだということも、今は知っている。
 寝床にさほどこだわりがないのも、寝食を忘れて――飲食禁止の資料室を私室にしてしまうほど、彼は食に対しても関心がさほどない――文字や情報に没頭できるのも、ナナシビトとしては悪いことではないのだろう。

 でも、私を恋人として側に置いてくれるのなら……私は、一緒の布団で眠ったり、お風呂に入ってみたり、したい。
 まだ一度もしたことはないけれど。
 丹恒はいつも礼儀正しく私の部屋を出て行くし、そんな風なことがしたいと思っているような素振りもない。
 私が……そういう触れ合い方を想像して、一人熱を冷ましているだなんて、きっと彼は知らない。

 持明族ってセックスするの? という疑問はひとまず保留することにした。アーカイブにそんなことが載っているはずもない。彼に聞くしか知る術はないけれど、あまりにも踏み込んだ内容過ぎて、どんな話をしていても流れをぶった切りそうで聞くに聞けない。
 こしゃくな私は、それでも持明族に関する質問をまとめて、できるだけ興味や関心が一般的な範囲に留まる程度に収めようとしているわけなのだけど。羅浮の狐族もそうだし、ピノコニーではオムニックやピピシ人を見かけたから、引き合いに出せば紛れるはずだ。今はオンパロスの情報もある程度触れたし、大地獣は多様な言語を扱うとも記されていた。今の丹恒にはそういう微に入り細を穿つような知識もあるのだから、きっと色んな話が聞けるはず。
 ヨシ! と息巻いている私は、丹恒がどんな様子で引いてくれたのかなんて、知るよしもなかった。


******


 どうも彼女は遠慮というものをはき違えているように思えてならない。
 過去の自分を棚に上げ、丹恒はそう思った。列車に乗った頃の彼女はアーカイブに関することで遠慮がちによく尋ねに来ていたが、最近は資料を読みながら考え込むことが多くなった。それを邪魔してまで声を掛けるつもりはないものの、何も収穫がなかったのかそっと息をつきながら資料を閉じる彼女を見ていれば、分かる範囲ならば答えられるのだから直接聞くように申し出るのは当然のことだ。
 にもかかわらず、彼女は慌てたように首を横に振るばかり。流石に彼女の人となりが分かっている今は「そんなに頼りないだろうか」などという思考は浮かばなくなったものの、どうしたのだろうと疑問に首を傾げる。他のナナシビト達と同様、優しい気質を持つ彼女のことだから、丹恒にとって辛かったり気まずかったりするような内容に踏み込んでしまわないか躊躇っているのか。

 ――そういう丹恒自身も、心当たりがある。

 地球人……彼女の種族の、恋人としてのコミュニケーション方法である。
 抱きしめたり、口づけたりといった方法は広い宇宙の中でもかなり多くの種族が自然と行う行為ではあるものの、大体の場合は性行為もその中に入ってくる。しかし、一口に性行為といっても、この広い世の中、性器の形も行為の手段も多種多様そのもの。彼女の文化ではどんな事をするのが一般的なのか、丹恒には想像もできなかった。持明族の挨拶が、彼女にとってまるで馴染みがないように。
 星神さえ知らなかった彼女を思うと、慎重にならざるを得ない。そして勿論、愛情表現としての性行為について、アーカイブに載っているはずもなく。

 一度思い立ってヴェルトに聞こうと彼の元へ行った際、内容が内容であることと、質問を持ち出すことでヴェルトが間接的に彼女の身体を想像するかもしれないと思うと直前に躊躇いが出てしまい、不自然に口を噤んでしまったことがあった。
 様子がおかしい丹恒に、ヴェルトはにっこりと笑うだけだった。
 だが、あの笑顔は丹恒にとって特別な彼女とのことなのだろうと察しているような雰囲気があった。その通りではあるものの、それ以上口を開けば墓穴を掘ってしまいそうで、やっぱり丹恒はなんでもない、とはぐらかすしかなかったのだが。

 性的なことに「まだ」興味のなさそうな穹に尋ねるのは論外として、サンデーに相談することも同じ理由で憚られた。なにより、既に彼は一度丹恒と彼女との間に挟まれ、気を揉ませてしまっている。くわえて以前の内容よりも遙かにプライベートかつ身体に関することだ。全く接点のない医者ならばまだしも、おいそれと他者に漏らすことも難しい。

 列車にやってくる客人の中に誰か適切な距離感の相手はいないかと丹恒はしばらく逡巡したが――結局、みだりに口にすること自体が厭われた。
 だからこそその果てに、丹恒は自分で口にしたことを自分で実行に移すことにしたのだった。

 つまり、彼女に直接尋ねるしか、道はなかったのである。


******


 後で部屋に行っても良いか、と丹恒に言われたのは食事の後のことだった。部屋でゆっくりしているところ、スマホに通知が来たのである。少しうつらうつらとしていたところだったので、まあ飛び起きた。
 勿論、と返した後、一瞬躊躇ったもののすぐにお風呂に入ることにした。汗臭いことはないと思うけれど、なんとなく……そう、本当になんとなく、時間帯的にも、期待があった。

 けれどまあ、真面目な彼は私から石鹸の匂いを感じたのだろう。ドアは開いているというのに、部屋の外で躊躇いを見せた。

「……遅い時間になってすまない。時間を改めた方がいいだろうか」
「大丈夫! どんな用事か分かんなかったから、後は寝るだけにしておけば丹恒の用件がどんなに長くなってもとことん付き合えると思っただけだから。気にしないで欲しいな」

 全く以て紳士の振る舞いである。鉄の理性と言うべきか。
 勿論私も丹恒に注意されない程度には服を着ている。具体的には、このまま廊下に出ても恥ずかしくない程度の軽装だ。……Tシャツに少し厚手のカーディガン、柔らかい生地のワイドパンツは別にうろうろしても恥ずかしくないよね?

「入って」

 私が腕を引くと、ようやく彼はゆっくりと敷居をまたいだ。
 ぷしゅ、とドアが閉まる。

「まだ髪が濡れている。身体を冷やさないようにしてくれ」
「うん。ありがとう」

 やっぱり、丹恒の目には気遣いしか感じられない。まあ、彼の気質を思うとそれならそれでもいいかなっていう気持ちも少しだけある。真面目で素直で、優しくて頼りになる。そう言う所が好ましいのだから。

「それで、改まってどうしたの?」

 椅子を出して、座ってもらう。私はベッドの端に腰掛けた。
 いつもなら控えめなノックと共に訪れる彼が、わざわざ予め連絡を寄越したのだ。私はそこに何かを感じたわけなのだけど、丹恒は少し考えてから切り出した。

「少し前に、お前に『聞きたいことがあるなら直接言えばいい』と言ったことを覚えているか」
「うん、勿論。今聞きたいこと、まとめてるよ」
「そうか。……俺も、自分で言い出したことだと思ってな。お前に少し、聞いておきたいことができた。だが……」

 だが?

「少し、口にするには躊躇いがあって、だな」
「珍しいね。丹恒が気になるくらいだから、軽率な話じゃないことは分かるよ。もちろん、分かる範囲でしか答えられないと思うけど、それでもよかったら言ってみて。よっぽどじゃなければ怒ったり傷ついたりはない……はずだから」

 丹恒が聞きにくいような、でも聞いておきたい事ってなんだろう? ふざけていないことくらいは分かるつもりだ。いくら私たちが違う種族と文化を持つからと言って、今更即喧嘩なんてならないはず。

 私の言葉に、丹恒は口元を緩めた。

「ああ。だが、それでも……いや、今回は止めておく」
「えっ」
「遅い時間になってしまった。お前も休む準備をしているところに、相応しくない」

 ゆるゆると首を横振る丹恒に、まさかでしょ、と私は思った。
 普段働かない頭がこんな時ばかりめまぐるしく動き出す。
 遅い時間だったら相応しくない? いや、建前というか、それは本質ではない気がする。ただでさえ躊躇っている丹恒が、内容を察せられるような理由を言うわけがないからだ。なぜなら、相手に伝わってしまったら言ったも同然で、はぐらかす意味がないからである。

「うーん、そんなに考えなくちゃいけないようなことなの?」
「いや……」
「じゃあ言ってみて。怒ったり不機嫌になったりしないからさ」
「それは心配してないが……」

 丹恒はそれでもまだ躊躇って、そして私と目を合わせると、ふいと逸らした。
 いつもより、少しだけ血色が良い気がする。

「……身体的なことについて、というより、親愛を示す行為について、知っておきたいんだ」

 珍しく肩で息をしたと思ったら、丹恒はそう言って、伏し目がちに言葉を零した。それから一度目を閉じて、覚悟を決めたようにゆっくりと私を見る。

「……えーと、ボディタッチってこと?」
「広くそうとも言える。手を握ったり、抱きしめたり、キスをしたりというのはごく一般的な恋人同士の触れ合いだが、その……先のこととなると」
「さきのこと」

 オウム返しになりつつ、ガンガンに頭をぶん回す。
 えーと? つまり、キス以上の行為について知りたいと。私の文化とか習慣に基づいたやり方を。
 ……それって、私が聞きたいことでもあるのでは? そしてそれを伝えるのってめちゃくちゃ恥ずかしいのでは?

 カッ、とも、ボッ、ともつかない勢いで顔が熱くなる。目の前でそれを見ていた丹恒は、私の様子に軽く目を見開いた。

透子、」
「あっあの、えっと、嫌ではないんだけど!!!!」

 丹恒が謝罪を口にするより先に、ごり押しで気持ちを伝える。そうでもしないと丹恒が気遣ってしまう。折角理解を深めようとしてくれているのに、それは嫌だった。
 恥ずかしさを押しつぶしてでも、言っておかねばならない。

「決して嫌ではないんだけど……その、ごめん。確かに口にするのは恥ずかしいね……」

 丹恒の顔が見ていられなくなってしまって、目線が下がる。けれど、言葉に詰まって沈黙が落ちるのも嫌で、だから少し腰を浮かして、丹恒の手を取った。
 物凄く恥ずかしいけど。丹恒の様子を窺う余裕なんてないくらい恥ずかしいんだけど!
 私の方に引き寄せて、従ってくれる彼の腰に抱きつくようにしてくっついた。何か言われる前に、また腰を落として、身体を後ろへ倒す。

「っ、透子……!」

 そうなると、どうなるか。
 丹恒が結果的に私を押し倒したみたいになります。

「ごめん。ちょっとその、顔を見ながら話すのは私にはハードルが高くて……」

 窘めるような声色に、口先で謝る。丹恒は私の顔の横に手をついていて、ベッドに片膝を乗り上げたものの、私が腰に腕を回しているせいで身体を起こすこともできずにいる。
 でも! 対面で座っているよりはずっといい!
 丹恒もどう言うべきか迷っていたみたいだけど、しばらくするとやれやれとでも言いたげなため息が落ちてきた。本当にごめんね。

「えっと……丹恒はそういうの、淡泊って言うか、もしかすると興味ないかなって思ってたから、まずは嬉しい。聞いてくれてありがとう」
「……ああ」

 少しだけ丹恒の身体から力が抜ける。すり、と彼の胸に頬を寄せると、頭を優しく撫でられた。これ、凄く好き。

「確認なんだけど……キス以上の事って言うのは、その、持明族にもあるものなの?」
「……肌と肌で直接触れ合うことと、いわゆる身体的な交わりのことを指すなら、そうだ」
「っ……えっと、多分私も一緒、かな。ただその、そういうことをするのと妊娠・出産はセットみたいなところが、あって。同じ人間同士だと避妊具とか、薬を服用して妊娠しないようにすることとかもあるんだけど、持明族のは、その、」
「行為に必要な分泌液は出るが、それで子を孕むことはない、な」

 少し丹恒の言葉がぎこちない。……えっと、これってそう言う流れでいいのかな。いいんだよね? だって避妊するひつようも、ない、し……。

「えと……す、するの?」

 思ったよりも声が小さくなってしまった。でも、丹恒の身体がギシッと強張ったのを感じて私は腕の力を緩めた。

「ごっ、ごめん、その、はっ、話だけだったに決まってるよね、あの、へっ、変な空気にしてごめ」
透子
「ひゃい!」
「お前が……嫌じゃなければ、もう少し、触れたい」

 今度は私がぎくりとする番だった。それでも、丹恒の服きゅっと握る。

「……いい、よ」

 緊張なのか、震えた喉から出たのは自分でもビックリするくらい小さくて、甘えたような声だった。


 丹恒の靴が脱げて、部屋の床に転がる音がした。私の靴も。
 ベッドの上に身を置いた丹恒は、ゆるいあぐらのような格好で私を横抱きにした。横抱きと言っても腕で支えているわけではなくて、私のお尻は彼のあぐらの中心に乗せられている。そこで正座をするのは難しくて、両足は丹恒の片方の太ももに乗せるしかない。
 そうなるとまるで半端な腹筋をするような姿勢になって、彼に寄りかかるか、背中を支えられないとバランスを保っていられない。
 贅沢にもその両方で落ち着きはしたものの、その状態で何もしないはずはなく、どちらともなく唇をあわせた。
 柔らかい温度と感触に、うっとりと感じ入る。ずっとこうしていたいと思うほどふわふわした気持ちになって、彼の唇が離れる度に追いかけた。

「はぁ……」

 気持ち良くて、ため息が漏れる。間近で見る彼の唇に、もう一度自分の唇をあわせにいく。ふに、とぶつかって、気持ちよくて。彼の上唇を自分の唇で挟むと、私の下唇が彼の唇に挟まれて、それも気持ちいい。
 丹恒の腕は力強くて、私がもたれかかってもびくともしなかった。それに甘えて、どんどん彼の胸の方に重心を傾ける。密着するために、彼の首に腕を回して体勢を整える。
 何度もそうして唇をくっつけては離しながら彼に身体を預けていくと、不意にぺろりと、唇を割るように舌先が差し込まれた。
 ぴく、と身体が反射的に跳ねて、呼吸が乱れる。すぐに引っ込んでしまった舌先にうっすらと目を開けると、同じようにどこか陶酔とした眼差しで私を見つめる彼が見えた。
 恥ずかしさからすぐに目を伏せてしまう。代わりに彼の真似をするように少しだけ舌先を押し出すと、ぺろぺろと舐められて、彼の舌がまたこちらにやってきた。

「ん、ん……んく、……ふ、は……」

 唇をあわせながら舌先だけを舐め合って、口の中に唾液が溜まる。舌を引っ込めて口の中をリセットすると、ちゅ、と丹恒の唇が私のそれに甘く吸い付いて、離れていった。

 ほう、とどちらともなく吐息が落ちて、混ざり合う。改めて見つめた先の彼はほろ酔いにでもなったかのような顔で、血色のいい頬と目元が綺麗だった。海の底からそっとすくい上げたような色の瞳は潤んでいて――……もっと、私を欲しがっているように、見えた。

 そこではたと気づく。
 そっか、丹恒はこれ以上が分からないのだっけ。

 私の背中を支えてくれている腕はとは違う方の手。そっと私の腰に添えられるだけだったそれを掴んで胸の上に置くと、その手のひらが乳房を包むように整える。

「っ、透子、」
「……えっと、丹恒みたいに上手く言えないけど……キスの先は、相手の身体に触れて、性感帯を刺激して、気持ちを……その、高めていくの」

 普段、俗っぽい言い方しかしないから、丹恒にあわせて懸命に言葉を探す。その方が彼にとってはいいかなと思ったけれど、伝わったかどうかは分からない。

「だ、だいたいは男の人が、女の人をリードすることが、多い、と思う。個人差があるし、こう言う話はおおっぴらにするものでもないから、本当のところがどうなのかは、実は、私も分からなくて。えっと、創作物とかで空気感とか、流れを知る人が殆どだと、思う」

 私が胸に手を当てさせた姿勢のまま、丹恒が固まっている。あまりにも薄い反応に、丹恒にとっては変なことだったかな、と思い至り、口にする恥ずかしさがあったとは言えいきなり行動に移すのは無理解だったな、と足先とお腹の底が冷えてきた。

「ご、ごめん。丹恒にとっては普通じゃなかったかもなのに、あの、」

 ぎこちなく、触れたままの丹恒の手を膝に置き直す。
 やってしまった、とお腹の内側と足の裏が氷水で冷えるような感覚になっていく。はしたないならまだしも、凄く変なことだったらどうしよう。
 うう……丹恒からは反応がない。に、逃げたい。私の部屋だけど、今日はこれで終わりってことでなんとか、

「っ、すまない、そう言う意味じゃない」

 言葉を続けると涙が出てきそうで、ずっと頭の中でどうしよう、と繰り返して身じろぎをすると、それを抑えるかのように丹恒がぎゅっと私の腰を支えた。

「……お前が言葉で教えてくれた内容は、俺の知っている行為とそう大差がない。まさか自分の身体で教えてくれるとは思ってなかったんだ。
 それに……教えようとしてくれているお前を無下にして、勝手に俺だけ納得して事を進めるわけにはいかない」

 落ち着いた声色はいつもと変わらない。けれど、丹恒の顔色はいつもよりも少し赤らんでいた。
 すう、と冷えが消えていく。

「へ、変じゃない?」
「ああ。ただ……」

 丹恒は一度言葉を切って、それから私の方へ頭を預けた。

「ここから先、待ったをかけられて止まれるか、保証はできない。それでもいいなら……ここからは、俺のやり方で触れても構わないだろうか」
「……それって、」
「いわゆる『続き』を最後まで……したい。嫌だったり、痛かったりしたら直ぐに教えてくれ」

 言って、丹恒が私の顔を見つめる。じっと私の許可を待つ姿はいつも通りで、何かを堪えているようには見えない。けれど嘘をつく人ではないから、ここで応えたらきっと彼の言葉通りのことが起こるのだろう。……彼が乱れるくらいなのだから、私はその比じゃないくらい、大変なことになるに違いない。
 そう思いながらも、改めて近づいてきた彼の唇を嫌がるなんて微塵も考えてないのだから、答えはもう決まっていた。


******


 最後の警告めいた言葉にさえ、彼女は拒絶を見せなかった。損なわれた空気を取り戻すかのように口づける。それが神聖なものへの境界を踏み荒らすように思えて、丹恒は焦燥感にも似た感覚を腹の奥底で感じながら、ゆっくりと彼女を押し倒した。
 普段通りの格好をしている彼と比べて彼女はいつも以上にラフな格好で、三手もあればあられもない姿にできそうな程他愛がない。
 本人にはその自覚がないのだろう。――あれば、恋人とは言え男の手を自分の胸に導くなど、するはずがない。
 現に恥じらいながらも一切の抵抗を見せない彼女の姿は、丹恒にとってはそれだけで誘われているかのように思える程に色香に満ちていた。
 仄かな石鹸の香り。まだ芯に水気を帯びた髪。
 ただでさえ彼女のプライベートな空間にいるのに、今彼女はベッドに横になり、丹恒に腹部をまさぐられているにも関わらず、無抵抗でいる。
 こんなにも信頼に満ちた無防備さを――ある種穹が持っているそれと同じだが、決定的に違うのは性欲が絡んでいることだろう――見せられて、丹恒は気を引き締めた。

 多くの生き物は腹部を見せて寝そべることに意味を持つ。ましてや、急所たるそこに触れられることを許容することが何を指すかなど。
 ざわざわと、心の海が荒れている。飲月君の姿で顕現した際の、身体の内側で力が騒ぐ感覚に似ていた。本能的な部分が、自らの一挙手一投足を受け入れる彼女の姿に歓喜と興奮をかき立て、急かしてくるのだ。

 つつ、と柔い肌に滑らせた手は、何の抵抗もなく彼女の服へ潜り込んで、まるで丹恒とは違う生き物かのように振舞う。触手のような指先が柔らかな膨らみを包む下着へとたどり着くと、様子を窺うように淵に沿って動きつつ、爪の先はその下へ。
 邪魔者を退かすように下から彼女の下着を押し上げると、一際柔らかな乳房が掌の内側で震えた。
 まるでいつか食べた餅菓子のようだった。
 その魅惑的な感触は、丹恒に『食らいたい』と思わせるには十分な姿をしていた。

「ん……」

 殊更に力加減に気をつけて触れている最中、彼女が身じろぎをする。恥ずかしそうに顔を背けて目を閉じる姿に、こんな男を野放しにしていいのかと詰りたい気持ちが湧いてくる。
 監視して、少しでもダメだと思ったら拒絶してもらわなければ、自分の手はどこまでも彼女の肌の上で好き勝手にしてしまう。際限のない衝動がどうすれば収まるのか、丹恒にはわからなかった。

 彼女がゆっくりと膝をすり合わせる。時折、ぴくんと背がしなる。
 シーツを掴んで丹恒の手を感じる彼女を驚かせないように、丹恒はそっとTシャツをたくし上げた。
 それでも彼女が止めてくることはない。
 露わになった肌は白く、眩しかった。
 彼が半端にずり上げたせいで、彼女の乳房は下着の圧に窮屈そうにしている。それを寛げようと、丹恒は再度同じようにして彼女の両胸が楽になるように下着を胸の上へとずらした。
 ふるん、と視界に現れる乳房は見るからに柔らかそうで、彼の手を誘っている。抗わずに両手でそれぞれに触れると、彼女の唇から甘い吐息が漏れた。
 胸の形の延長に乳輪があり、その先では乳頭がぷっくりと柔らかく膨らんでいた。
 吸い寄せられるように顔を近づけ、頂を唇で挟み込む。軽く舌先で転がし吸い付くと、彼女の腰が跳ねた。

「ふっ……ん、」

 甘い声が彼女の鼻から抜ける。声に後押しされるように丹恒の指先はもう片方の乳房へと伸び、柔らかな感触を楽しむかのように好き勝手に動きはじめた。当然、乳頭も例外ではない。
 敏感な部位であるという知識のままに、指先の感覚だけを頼りにその小さな頭を撫で回すと、堪えきれない嬌声が彼女の唇から漏れ出した。

「ああっ……ん、はぁっ!」

 びくびくと跳ねる身体はまるで彼女の制御下を離れたかのようだった。無意識なのか、しきりに膝をすり合わせて身をよじる。丹恒の愛撫に感じ入る彼女に、彼もまた息が浅くなる。

透子……」

 息を深く吸うために、彼女の名前を呼ぶ。自分の片膝を彼女の膝の間に優しく当ててじわじわと食い込ませると、ぎこちなく足が開かれた。それを良いことに、内股を擦りながら彼女が無意識に刺激を求める場所へ押し当てる。
 丹恒は四つん這いになりながらぐいぐいと彼女の足の間に押し込んだ膝で秘部を圧迫した。手は再び彼女の胸にやり、その唇から拒絶が出る前に自らのもので塞いでしまう。
 快感からか、彼女が再び腰を跳ねさせ、その後自分の方から丹恒の膝へ擦りつけるように淫らに腰を動かしたのを感じて、ぷつ、と何か細いものが切れる感覚を覚えた。
 たんこう、とキスの合間に彼女の喉元からくぐもった声を聞く。丹恒が彼女の胸に触れるような繊細な力で内股を撫でられ、彼はそこから下腹部に広がっていくぞくぞくした官能にようやく手を止めた。

「っ」
「あ、」

 ベッドに手をついて息を止めた丹恒に、彼女が目を開ける。

「や、止めるの?」

 しっかりと彼の足を挟み込んで微かに腰を擦り付けながら――彼の見立てでは、彼女は無意識にそうしているはずだ――見つめてくる彼女に、丹恒は息をついた。

「そう思っているのなら、お前は、俺について少し見誤っている」

 こんなに無防備に彼を受け入れ、可愛らしい痴態を見せておきながら、彼が止めると思っているなど笑止千万。

「止めるかどうか気になるなら、先に答えておく。俺が自らそれを提案することはない」

 昂ぶりは既に彼女の反応と身体でしか収まらないところまできていた。彼女をより深いところで感じるための手順は守るつもりだが、もはや言葉で彼を押しとどめることはできない。
 身体の内側で沸き起こる感覚が顔に出ていたのか、彼女は恥ずかしそうに目を伏せた。
 ラフなワイドパンツのゴムに沿って彼女の腹に指を滑らせ、胸の時と同じように指を内側へ差し込む。それにあわせて彼女が僅かに腰を浮かせた。
 続きを始めるには、それで充分だった。

「たっ、丹恒も脱いで欲しいんですけど……。服、どうなってるのか分かんないから脱がせられないし」

 一糸まとわぬ姿になった彼女が頬を染めながら不服そうにそう言って、そこで初めて丹恒は自分が靴以外なにも脱いでいないことに気づいたのだった。


******


 目の前で丹恒が服を脱いでいく。一足先に彼に脱がされた私は、眼前のストリップショーに目を白黒させていた。
 だって、好きな人が私のために服を脱いでいるんだよ?
 惜しげもなく晒されていく素肌に、目のやり場に困りながらも凝視してしまう。おへそのくぼみとか、筋肉の凹凸とか。私とは全然違う、男の人の身体だ。

「……そう見られていると、少しやりにくいな」

 困惑と、照れと、苦笑だろうか。複雑な色の乗った声だった。でも、丹恒だって私の身体じっと見てたし。……その、ち、乳首だって舐めて吸ったし、すりすりと指先で愛撫してきて、自分の指使いとは全く違う動きにそれだけで翻弄されて、声が我慢できなかったんだし。これくらい許されたい。

 結局丹恒は全部脱いでくれた。そう、全部である。既に兆し始めているものも含めて、隠す事なく。
 当の本人は脱ぐ瞬間だけ恥ずかしかったのか、脱いでしまった後は「これで条件は揃ったな」とでも言わんばかりの余裕ぶり。

透子

 名前を呼ばれておずおずと彼を見ると、丹恒はそっと顔を寄せた。唇が触れて、吸い付かれて。何度も繰り返されて、私はそろっと彼の肩を撫でるように手を滑らせた。
 ……改めて、無駄のない引き締まった身体だと思う。筋肉がついていて、なんというか、質量があるというか。特別に鍛えているというわけではないのに、武器を持って戦って、星穹列車の護衛だと自己紹介をする説得力があった。
 対する私は極めて一般的な身体つきなのに、丹恒は何が面白いのかずっと私に触れ続けている。優しく肌を撫でる手のひらは温かくて、彼の気質と同じように穏やかだった。

「ん、ん、……はぁ……ん、」

 お互いの肌を感じながら繰り返すキスの合間に、じわじわと溜まっていく快感を逃がすように息が漏れる。そうでもしないと、あっという間に身体が疼いて、どうしようもなくなりそうだった。

「あっ」

 胸の先に触れた丹恒の指が、くるくると円を描くように動いて乳首を弄ぶ。その力加減が絶妙で、決して強くない触れ方がたまらなく気持ち良くて、腰が動く。

「ん、っ……や、丹恒、なんで……」
「?」
「な、なんでそんな、慣れてるの」

 きょとんとした顔の後、丹恒がふと目を細めた。

「褒め言葉として受け取っておく。……オンパロスで、いくつかルトロセラピーに関する書籍を当たって、穹に施術したことがある。だから俺や透子のような身体なら、ある程度触り方は心得ているんだ」
「せらぴー?」
「穹の時は温めた石を用いるマッサージをした」

 なるほど。……って、それだけで納得できないほど気持ちいいのだけど……まるで宝物に触れるみたいな手つきにあれこれと想像するのは失礼というものだろう。だって、丹恒だ。経験がなくたって大切に触れてくれるに違いない。

「ああ……先に、セラピーを試さないかと誘えば良かったな」

 丹恒は今気がついたとばかりに笑みを零した。少し逸れた視線と声色が、彼が照れているのだと教えてくれる。

「今度時間があったら……でも、こんな風に触れられたら、リラックスなんてできないかも」
透子……」

 愛撫とマッサージで全く異なることは、頭では分かる。でも丹恒に直接肌に触れられると、勝手に色々と期待してしまいそうだから。
 私の返事に、丹恒は軽く目を見開くと、すっと細めた。

「あまり俺を煽らないでくれ」
「え? あ、んっ」

 今のどこに煽る要素が?! と思った時には、丹恒は私の首筋に沿ってキスを繰り返して、優しくも激しく胸を弄っていて。私の思考は千々に乱れて、彼の手に甘い声で喘ぐしかできなかった。


 ――持明族がそうなのか、それとも丹恒の気質か、両方か。
 飽きることなく胸への愛撫を続けられて、もう指先が掠めるだけで激しく身体が跳ねてしまうようになってようやく、我慢の限界が来た。

「も……っ、ね、丹恒、こっちも触って……」

 じりじりと官能に身体を炙られて、私は根負けした。ずっと熱に浮かされたような目で見つめられながら待っていても、丹恒はずっとそうしている気がしてきたのだ。
 目は口ほどにものを言うだなんて信じてなかったけど、私を見る目の柔らかさに疑いようはなく、丹恒の手で刺激されている私を見つめる表情は「ずっとこうしていられる」とでも言いたげだった。
 高まるままに何度も絶頂を迎えるでもなく、ずっともどかしい気持ちよさに焦らされていた。
 とはいえ、私から丹恒を気持ちよくしたくても勝手が全く分からない。こういうのって男女ともに繊細でデリケートだと言うし、下手なことをして彼の男心を傷つけたくなかった。
 ので。

「膝を抱えるか、足をもっと開くことはできるか」

 丹恒にそう言われたとき、ただでさえ自分から先をねだってしまっていた私は羞恥で火を噴くかと思った。
 彼の言い分は聞かなくたって分かる。性器だなんてどんな生き物にとっても急所なのだ。手探りで触って傷つけたくないとかそういうことだろう。
 でも、だからといって、……でも!

透子。……頼む」

 逡巡する私に、丹恒の囁きが落ちる。おでこに、こめかみにキスをされて、そろそろと足を開く。丹恒の足が、その間に入る。膝を立てて、そこからぱかりと左右へ開く。
 彼の顔が遠のいて、予想通り、その目が私でさえ見たことのない場所へ向けられた。

「はずかしい、……よ」

 隠したいけど、隠し方が分からない。もう足の間にいる彼には、今更太ももをあわせたって大事な部分が見えるだろう。
 ええいままよ、と、私は両手の指先を揃えて、彼がそれを見ていると知った上で、焦れて疼く媚肉を左右に引っ張った。
 こくり、と丹恒の喉が鳴った気がする。彼を見る余裕はなくて、けれど開いたそこに躊躇いもなく彼の頭が近づくのを感じて、反射的に膝が閉じようと揺れた。

「あんっ」

 舌先が優しくクリトリスに触れて、直ぐに唇が甘く吸い上げる。求めていた刺激に、指先に力がこもった。
 ちろちろと何度も舌先がクリトリスを撫で回す。散々触れられた胸の先が、もう何の刺激もないはずなのにじんじんと疼いてきて、もっともっとと言わんばかりに腰がぴくぴくと小さく跳ねる。

「はぁんっ……そこ、きもちいい……っ」

 まるで彼に押しつけるような動きになって、なのに、丹恒は歯が当たらないようにしながらもずっとそこから離れない。
 呼吸の度に嬌声が漏れる。それを乱したのは彼の指だった。

「ひぁあっ」

 乾いた指先が肉襞をなぞる。潤んだ媚肉に爪の先が触れ、ほんの僅かに食い込む。
 たったそれだけなのに、クリトリスと同時に触れられると、一気に快感が強くなった。じゅわ、と熱い感覚と共に快感が身体の内側から染み出してくる。
 胸にそうしていたのと同じ、小さくて微かな動きなのにどんどん潤んで、徐々に彼の指が中に入ってくるのが分かる。ゆっくりと中をかき混ぜられて、あっという間に彼の指が濡れて、ぬるぬるになった指が増える。

「熱いな……」

 足の間で囁かれて、きゅう、と指を締め付けてしまう。それさえも気持ち良くて、息が震えた。中の気持ちいいところを圧迫されると、我慢できないほど身体が跳ねてしまう。胸の比じゃない。
 身体の奥が溶けそうなのに、どこか鋭敏になった部分にきゅっと力が入って、それが快感を増幅させる。
 しかも丹恒は指を増やすだけじゃなくて、中と外からクリトリスを狙うようにやり方を変えてきた。指は中を探るようにゆっくりと、けれど強く。舌先と唇はクリトリスを甘やかすように、優しく、小さく、けれど素早く。

「あっあっ、だめ、それだめえっ」
「ん、」

 足先にぎゅっと力がこもって、シーツを乱す。手が、もう媚肉を開いていられなくなって、内股を掴む。
 私の手が退いたことで、丹恒は自分で軽く割れ目を開くと、鼻先を下生えに埋めながらべろりと媚肉を舐め上げ、クリトリスに吸い付くのを繰り返した。

「んんん~~っ!! はぁっ、あ、あっ、いいっ、きもちい、」

 殆ど涙声みたいな高い声が喉から引き攣れたように漏れていく。腰が揺れて、丹恒の舌にクリトリスが当たって、圧迫されて、じん、と快感が生まれて、もっと気持ち良くなっていく。

「ぁ、あ、あ、――~~っ!」

 まるでカウントダウンのように声が高くなり、私はそのまま絶頂に身体を震わせた。彼の指をきゅうきゅう締め付けて、擦られて、吸い付かれて、外と中が連動したみたいに気持ちよさが絡み合って、高まって。

「は……っ、ぁ、はぁ……」

 ぴくぴくと中が痙攣している。私の声で判断したのだろう、丹恒の愛撫の手は止まっていた。けれど、私の中にじっと収まったままのその指のせいで、自分の中がどうなっているのかがよく分かって、更にじんわりとした快楽を呼ぶ。
 噴水みたいに鋭く高みへ押し上げられて、なのに後から後から、染み出すように溢れてくる。指の届かない奥まった場所がじんじんと疼いて、より淫らで大胆な欲求が顔を覗かせる。
 彼のもので、そこまで来て欲しいと。

「……透子、痛くはなかったか?」
「ん、だいじょうぶ」

 ゆっくりと指を引き抜かれて、丹恒が私の横に身を横たえる。私の首の下に彼の腕が回り込んで、優しく抱かれながら、丹恒の唇は私の頬から耳をなぞり、耳たぶを挟んで、舐め上げた。
 さっきまで中に入っていた指先が、濡れたまま割れ目をなぞる。

「んぅ……っぁ、まだ、待って……」

 思わず足を閉じて彼の手を内股に閉じ込めると、今の私には強すぎる快感が収まるまで彼は待ってくれた。
 ……止まれない、だなんて。いざとなれば彼は待ってくれるのだと思うと、知らず安堵の息が漏れた。

「ん……ありがとう、もう……」

 ゆるゆると足の力を抜くと、丹恒の指先がそっと媚肉を割る。……じわ、とまた快感に身体が苛まれるけれど、私の腰に当たる熱い感触に、そっと手を伸ばした。

「っ、」

 丹恒が息を詰める。熱くて硬くて、勃ちあがった彼のものは先端からとろりとした愛液のようなものが溢れていた。

「ん……っ、待ってくれ」
「……きもちよくない? 丹恒も気持ち良くなって……」

 力加減が分からない。強くしたら痛いかと思ってゆるゆると彼のものを……皮がずれるままに上下に扱いていると、そっと手を置かれた。

「……後ろから、お前の足の間に入れてもいいか」
「うん」

 腰を捻ってお尻を向けると、丹恒の下腹部がぴたりと密着する。軽く片足を上げると、熱いものが潤んだ肉を擦った。

「あん……っ」

 思わず反応すると、丹恒の手に足を揃えるように促される。お腹に丹恒の手のひらが回ってきて、腰を揺らされるとぬるぬるとした熱いものが割れ目を擦って、届いていないはずのクリトリスにまで響く。

「あ、これ、っ……んんっ」

 入ってない。繋がってないのに、丹恒の昂ぶりが動く度に快感が迸って堪らない。
 丹恒の方へ引き寄せるように私のお腹を押える手のひらの大きさに、力強さにぞくぞくする。お腹の感触を確かめるかのように沈み込む手と、時折下腹を撫でさするような動きがまざって、まるで早くそこに収まりたがっているような、彼の欲望を感じて身体が応える様に疼く。
 彼の熱くて太いものが入り口を掠めて割れ目を行き来する度に、それを咥え込んでより強い快感を追いかけようと身体の奥がきゅんきゅんと収縮して、ありもしないものを締め付けようとする。

「あ、はぁっ……ん、……んぁ、あっ」
「はあっ……、透子……っ」
「あ、あっ」

 欲しくてたまらないのに、実際にはそこには何もなくて、切ない。得られるはずの快感を掴み損ねて、身体が駄々をこねるみたいに彼を求めて淫らに揺れる。
 私のものと彼のものがまざって、滑りがよくなればなるほど欲求は強くなっていく。
 こんな風に中を突かれたら、きっと、もっと気持ちいいのに。

「たんこ、丹恒っ……入れて……、中に、ほしい……」

 腰を揺らしてお尻を押しつける。上半身を捻ってねだると、片膝を後ろから抱えるように上げさせられた。
 私の足の間から丹恒の膝が前に出て来て、彼の足がベッドに沈んだままの私の足を押さえつける。
 さっきの比じゃないほど大胆に足を開かされてカッと羞恥に身体が熱くなる。それさえ、太い熱が入り口に宛がわれた瞬間、意識の全てを奪われた。

「ここ、だな……っ」
「んぁ、あ……っ、はいって、あ、あぁっ……」

 ぬぷ、と潤んだ肉を昂ぶりが貫いていく。先端の一番膨らんだ部分が入りこんで、中の良いところを強く押し広げながら擦った。弾けるような快感に背がしなり、ピンと足先が伸びる。

「たんこぉ……」

 はくはくと喘ぎながら、かろうじて彼の名前を呼ぶ。丹恒はゆっくりと腰を押しつけながら、私の肩を前から押えるように掴んだ。
 仰向けで足を広げている私を、横向きになって挿入しながら、上半身を少し起こした状態の丹恒が軽く抱きしめるような、そんな体勢。

「おく、あたって……っ、きもち、い」

 ぴったりと繋がって、彼のものが中を圧迫する。切なかった奥が望みのものの来訪に何度も何度も締め付けて、快感が生まれる。
 丹恒はそのまま動かずに私の唇に口づけた。顔を動かして彼の方を向いて、私からも唇をあわせる。唇の擦れる感覚と、彼の舌先が唇を舐め、歯列を優しくなぞる動きにきゅうきゅうと中が反応してしまう。

「ん、んっ……」
「はぁ……好きだ、透子……」
「ああっ……わ、わたし、も、すきっ、あ、あっ!」

 ちゅ、と舌先ごと吸い付かれ、甘く囁かれて、軽い絶頂のような快感の痺れが中で全身に広がっていく。ぞくぞくと肌が粟立って、止まらない。
 気持ちいい。
 気持ちいいのに、私の身体の下から回されていた彼の手が胸先をくすぐるように動いて、優しいのに的確に乳首を刺激された私は、もう二度、三度と連続してイったような感覚に見舞われた。

「あぁあっ……! はぁっ、はぁっ、あ、またっ……きちゃう、イっちゃ、うぅうっ!」

 ぴくん、ぴくんと身体が跳ねる。丹恒は殆ど動いていないのに、キスと愛撫だけで何度も小さく高まってしまう。
 良いところを強く押えられているのは、そこを擦られてるのと変わらないんだ、と気づいたのは、少ししてからだった。

「たんこうっ、だめ、っあたって、あたってるから、っ、きもちいいとこ、あんっ、だめ、またぁっ……!」
「……何度でも良くなってくれ」
「あぁっ、あっ!」

 胸の先っぽを優しく摘まんで引っ張られて、またきゅううっと中が締まる。それが圧迫をより強くして、クリトリスにまで響きながら快感が爆ぜる。

「わ、わた、わたし、っ、ばっかり、ぃっ」
「俺も……ちゃんとお前を感じている。お前の中は熱くて、何度もうねって……俺を欲しがっているのが分かる……っ」
「――ぁ、……!」

 丹恒の掠れた低い声に煽られて、ふるりと快感が肌の上を駆け巡った。前から私の肩を掴んでいた手が下に伸びて、揃えられた指先がクリトリスを優しく押さえつけた。

「あぁ……っ!」

 また背が、喉がしなる。
 そこを捉えるかのようにキスをされて、彼の舌先に誘われるように自分の下を差し出せば、ちゅうっと強く吸い上げられた。

「んん――っ!」

 ひときわ強く丹恒の四肢に力がこもり、最奥へねじ込むように彼の腰が押しつけられる。外からも圧迫されて、さっきよりも強い絶頂に全身が強張った。

「っ……ぁ、くっ……!! はぁ、……っ……透子……んっ!」

 同時に、間近で彼の吐息が震えて、力強さの奥にぴくぴくと筋肉が震えているのを感じる。もどかしそうに丹恒の腰が揺れて、きゅっと彼を締め付ける私と、その圧を押しのけるように力強く脈打つものとが重なって、彼も果てたのだと分かった。

 乱れた呼吸が私たちの間で混ざる。どちらともなく絡めた目線の先、潤んだ目は、暗く沈んだ海の底みたいに揺れていた。

透子……」
「……ん」

 名前を呼ばれて、返事をする。何を言うでもなく、丹恒は黙って私の身体を撫でた。そこから、心地よさと快感が混ざった感覚が生まれる。

「もう少し……このままでいてもいいか」
「……うん」

 下腹部を撫でられて、中が反応する。じんわりとした余韻の中、また唇が近づいた。


******


 どれくらい経っていたのだろう。あれから、繋がったまま何度も小さく果てて、また一緒に二度目の大きな絶頂を迎えた。その後はずっとキスをしながら密着していた。
 眠気がやって来た頃、丹恒に「朝まで一緒に寝てくれる?」と甘えてみると、嬉しそうに口角を少しだけ上げて頷いてくれて――勿論、朝というのは『寝て、起きるまで』の意味だ――そうして裸で抱き合ったまま眠った。
 起きたのは、普段ならとっくに朝食を終えている時間だった。
 彼の腕の中は心地よすぎて、寒い冬の日に布団から出るのが億劫になる感覚を久しぶりに思い出した。
 お互いに目が覚めてからも肌の感触を確かめるように撫で合って……くう、と私のお腹が鳴ったのを機に、身体を起こすことにした。
 改めて、お互いの種族的な愛情表現に差がないことが分かって良かった、と少しほっとしたタイミングで、服を着ながら言った彼の何気ない言葉に、私は固まってしまった。

「今回はあまり時間を取れなかったな。次からは予めお互いのスケジュールを調整しておくことにしよう」
「え?」

 ――あれで短かったの?

 瞬きを繰り返して、動揺が完全に表に出てしまった私に、丹恒の目が厳しくなる。

「……透子、お前の知る方法とは違ったのか」
「えっと……いや、別に違うってほどのことは……あ、ほら、一旦ご飯食べよ? 私、お腹が空いちゃって」
「待て。大事な話だ」
「~~っ」
透子

 ベッドの上でのろのろと着替えていたせいで逃げることもできず、ズボンを穿き終えた丹恒に押し倒される。色気のあるものじゃなく、逃げないようにということなのだろう。
 言葉に窮する私に、けれど丹恒は容赦がなかった。
 その場では譲歩したように引いてくれたのに、後日それっぽい雰囲気になった瞬間、「お前のやり方を実地で教えてもらう」と粘られて、実際に私が想像するセックスの手順を口で説明させられる羽目になった。
 そのせいで一から十までおねだりしてるみたいで、恥ずかしいのに激しく乱れてしまった上、そういうのが好きだと思われたことまで含めて酷い羞恥プレイだったことは、本当に誰にも知られたくない私だけの秘密だ。

2026/02/22 UP

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