この話には性描写が含まれるため、18歳未満の方の閲覧を固くお断り致します。

かの人のご寵愛

 慕わしい方の寝室を整える栄誉は何者にも代えがたいものだ。それだけで、身元の確かな生まれであったことを感謝せねばならない。
 勇ましく、雄々しく。オクヘイマとともにその背に守られ続けて……いつからかそのご尊顔を、遠目に眺めるようになった。戦えないわたくしは、こうして内々のことを整えることくらいしかできない。
 プライベートピュエロスに花びらを浮かべ、わたくしは今にも湯に浸かってしまいそうな裾を持ち上げ、足先を引いた。
 ザクロジュースやメーレ、羊乳、芳醇な果実も用意した。大きな戦は終わり、外では祝宴が行われ、メインディッシュとなるような食事はそこで済まされる。
 部屋へお戻りになった際には、これでゆっくりとお身体を癒やすことができるはず。
「帰った」
「! メデイモス様……! お早いご帰還でございますね。申し訳ございません、ただ今下がりますのでどうか、」
「いい」
「ご容赦を……」
「いいと言った。ここにいろ」
 静かに開いた扉から、低く響く声と共にかの人、クレムノスの王位継承者たるメデイモス様が現れた。私の言葉を遮って、ここに留まるよう念を押される。
 部屋の前には小間遣いがいて、今は部屋を整えている最中だと申し上げたはずなのに。
「外にいた者はお前が中にいると聞いて下がらせた。後のことは別の者に言いつけるよう言付けたからな」
「まあ……」
 それはつまり、わたくしが彼を癒やして差し上げる栄誉を得たと言うことだ。
 胸のざわめきに、表情を取り繕うこともままならない。けれど、幸いにも彼の目は未だわたくしの足先にあるピュエロスへと向けられていた。
「……先にバニオも悪くないな」
「では、そのように」
「世話は要らん。来い」
「あっ……」
 腰を抱かれ、着の身着のままでたった今準備をしたピュエロスへ連れ込まれる。
 服のまま入るものではあるが、それでもバニオのための服装というものは存在する。
 ピュエロスは温かいが、どうしても先のことが気になり、洗濯の手配を考えてしまう。
「メデイモス様、んっ」
 いいのだろうかという躊躇いを飲み込むように口づけられた。しっかりと抱きしめられ、彼の逞しい腕の中で口内を貪るように、彼の厚い舌に翻弄される。
 目を開けることもままならないまま身体を硬くしていると、彼の大きな手がわたくしのお尻の丸みを撫でた。
「あ……っ」
 唇が離れ、身じろぎと共に目を開ける。
 淡く輝く強い眼差しを近くで浴び、わたくしは言葉もなく彼を見つめた。思いのほか柔らかな彼の髪が、わたくしの鼻先をくすぐる。
「火を追う旅は終わった。暗黒の潮は退き、オンパロスは黎明とともに再び始まろうとしている。
 俺はクレムノスの王位継承者として立たねばならん」
「……はい」
「これは慈悲ではない。俺がお前を望んでいることを、お前は理解する必要がある」
 彼はいずれ王になるお方。その方に望まれると言うことは、妻として召し上げられるということだ。
「けれど、わたくしは戦えません……」
「血の杯を掲げたのはもう過去の話だ。今やクレムノス人は皆、ザクロジュースを楽しんでいるだろう。これからの王が変わらぬ道理はない。争いは終わったのだからな」
 これは、夢なのだろうか。
 わたくしを射貫く視線は強く、抱きしめる力もまた、苦しい程に強い。
「メデイモス様……」
「これからお前を抱く。意味は分かるな」
 決して一時の戯れでないと、何よりも雄弁に彼の瞳が語る。
 一体、いつから……?
 けれど、わたくしの疑問など些末なことに違いない。
 わたくしが伏し目がちに頷くと、再び唇を塞がれた。ピュエロスの熱がわたくしたちの体温を溶かし、一つになっているようだった。



 オクヘイマの市民として生を受けた。黄金裔に憧れる少女だったわたくしも、長じてからは彼らの苦しみと重責を思い、憧れなどという感情は遠いものになった。
 オクヘイマとは浅からぬ縁であるクレムノスの民たちがやってきたときのことは忘れられない。受け入れる側のオクヘイマはともかく、クレムノスの頂点に立つ人が、どんな気持ちで決断したのか、いつも考えていた。
 クレムノス人にさえ理解されないだろう、という予想は当たっていた。彼のいないところでは、見慣れぬクレムノス人達が囁き合っていた。オクヘイマ人は言うまでもない。
 けれどそれももう、終わりだ。
 彼は多くの喝采と共に、戴冠することになるだろう。そこにオクヘイマの人間がまざるなど、許されることなのだろうか。
 ――それでも。
 この先どんなに血が流れても、この一夜の喜びを捨てることはできなかった。

「メデイモスさま、」
 ピュエロスに腰を下ろし、散々わたくしの身体を撫で回していた彼は、取るものも取りあえずと言った風情でわたくしの服を脱がした。自らのお召し物も煩わしそうに脱ぎ捨て、ピュエロスの中に沈ませて。
 一糸まとわぬ姿で抱きかかえられ、寝台に連れて行かれたわたくしは、遮るものが何もないことの頼りなさから身体を隠そうと身をよじった。
 けれどメデイモスさまはそれを咎めるようにわたくしの肩を押さえると、
「……イディア、モーディスでいい。そう呼んでくれ」
 彼もまた寝台に乗り上げ、わたくしの首筋を唇で辿りながら、そう囁いた。
 モーディス。それはオクヘイマの、英雄としての名前だ。
「お前が敬意を持って俺をメデイモスと呼んでいることは承知している。だが……今はモーディスと」
「モーディス、様」
「そうだ。お前を求めるただの男、オクヘイマの一戦士……モーディスだ」
 彼の眼差しが和らぐ。日差しのような方だと、思った。

 どんなに荒々しく抱かれるのだろう、と想像していたわたくしは、驚くほど長い時間をかけて丹念に身体を開かれたことに戸惑いを隠せなかった。
 声を抑えれば耐えきれないほどの快感を教え込まれ、自分が持っていた理性の手綱を振り切り、身体の方から頭へと逆流するような強い刺激に拒絶を口に乗せようものならば、何度も名前を呼ばれ、強く抱きしめられた。……それでも、彼の愛撫と快楽の責め苦は止まらなかったけれど。
 何もかもが初めての中、彼の労りやあたたかな優しさだけがわたくしの中に入ってくる。そして、初めて知る彼の情念も。
「う、ふぅ、ぅ……!」
「……っ」
 バニオ後の彼から滴る汗は水のようだった。その汗が直接わたくしの肌に落ちるということは、それだけ密接なやりとりをしているということで……改めて羞恥と喜びに身体が噎ぶ。
 きゅうきゅうと彼を締め付けてしまい、呻きとも、笑いとも取れない吐息が降り注ぐ。
「まだ入れただけだが……何をそんなに、よがることがあったか?」
 わたくしを強く求める視線の強さは相変わらずなのに、彼の表情はどこか柔らかく、わたくしは狼狽えた。
「いいえ、……あっ……モーディス、さま、だめ、そこは」
「俺の前で心を偽るからだ」
「あっ、そんな……っ、あぁ……っ」
 ゆっくりとした律動は、彼の猛りがどんな形をしているのかを教え込むようだった。わたくしの身体の中で、見えていないのに頭の中に浮かび上がるほど彼のものは凹凸がはっきりとして。
 どちらのものとも知れないぬるぬるとした体液が混ざり合っている。わたくしの壷を彼の棒がかき混ぜて、快感が煮詰まっていく。
「こんな近く、に……あなたが、いる、なんて……っ、ゆめの、ようで……わたくし、恥ずかしくて」
「ふん……」
「ああっ……!」
 ぐ、と奥のいい場所を突かれて、身体が勝手に震える。
「わたくし、こんな……っ、あなたを、癒やさなければ、」
「そんなことを考える必要はない。……そのまま俺を感じていろ。これ以上ないほど、気分は、いい、……っ、五感の全てで、お前を感じている」
「んっ、あ、はぁ、ああっ」
「俺の手で乱れるお前は……美しいな」
「――ぁ、ああっ!」
 淫欲の中にも軽口めいた言葉でわたくしを翻弄する。いけない人。
 そんな彼の言葉に、身体の反応は素直だった。大きな快感が噴水のように溢れ、わたくしの身体の隅々にまで広がっていく。
「良い声だ。もっと聞かせてくれ……イディア
「んんっ、モーディスさまぁ……っ、まだ、いけませ、か、感覚が、びんかん、で」
「お前の口は全く、素直では、ないな……っ」
「ん、んんっ、ふ、は……はぅ、あ、んんぅ」
 深い口づけで言葉を封じられる。徐々に速くなっていく律動とあわせて、わたくしを抱きしめる腕の力が増していく。息が浅くなり、その分だけ彼を締め付けてしまい、猛々しいもので激しく突かれて、快感の潮に飲み込まれる。
 彼が一際強くわたくしを抱きしめると同時に、わたくしの意識はふっと遠のいた。



 目覚めると、そこは畏れ多くも彼のベッドの上だった。
 わたくしと彼が乱したはずのシーツは整えられ、わたくしは彼の腕枕で、彼に縋るように眠っていた。
「……!」
 一体どれほどの時間、こうしていたのだろう。
 はっとして咄嗟に起き上がり、身を引こうと手をつく。けれど、わたくしよりも彼の方が素早く、しっかりと腕の中に収められてしまった。
「め、も、モーディス様」
「意識が落ちる前のことは覚えているようだな。逃げようとしたことは不問にしてやろう」
「そんな、逃げるだなんて」
「では、どういうつもりだった? 俺は一度限りのつもりはないが」
 彼がわたくしの上に身体をのせ、体重をじわじわとかけてくる。もしや、彼はずっと起きていたのだろうか。それとも戦士として、身体を休めている間も気配には反応してしまうものなのか。
 わたくしは咎めるような視線を受け、目を伏せた。
「……好いた殿方を前に、恥じらわぬ女はいませんわ」
 彼に愛でられた肌には、まだその感覚が残っている。シーツをたぐり寄せ、胸元を隠した。直接こんな場所の肌が触れ合うなんて、どうして良いか分からない。
「それに、わたくしの衣服はモーディス様がピュエロスの中に放ってしまったではありませんか。このような格好で、どこへ逃げようというのでしょう」
 わたくしの言葉に嘘や誤魔化しがないか、彼は注意深く判断している様子だった。
「……俺は、お前にだけ荷を負わせるつもりはない」
 彼が囁く。
「お前が俺の隣に立ち、笑みを絶やさぬためならば――労は惜しまない」
「……はい。心得てございます。あなたはとても……慈しみ深きお方だと」
 応えると、彼は満足そうにも、不満そうにも見える不思議な顔でふんと鼻を鳴らした。
「お前を前にすると、例え整えるためとはいえ他の黄金裔の部屋にお前が入ることが堪え難く思っているような、狭量な男に過ぎん」
「……まあ」
 珍しい口ぶりに、思わず目を見開く。例えどんな言い回しであっても、彼が自分を下げるようなことはなかった……はず、なのに。
 わたくしの前では一人の男でいたいと、何度も伝えてくださる。これはその一つなのだ。
 そう思うと、心に持った蕾が花開くのを感じた。
「モーディス様」
「ん」
「お慕い申し上げております」
 心のまま彼の唇に自らのものをあわせる。わたくしを見下ろす眼差しは温かく、
「……ああ」
 その声は、柔らかな木漏れ日のようにわたくしへ降り注いだ。






 オクヘイマで宛がわれた部屋の前に小姓が静かに目を伏せて立っているのを認め、俺は迷わず足を向けた。
 ようやく、ようやくだ。
 クレムノスを率いる俺に、オクヘイマ人でありながらどの回帰においても敬意を払い、思慕を寄越し続けた女。
 武力こそ持たないが、知識に溺れる事も、政争に興味もなく、異なる文化を持つものを受け入れようと努め、あまつさえ心を砕き続けた。
 あちらに幾万の記憶がなかろうとも、俺は覚えている。
 やっとこの腕に抱ける。心を乞える。
「も、モーディス様、申し訳ございません。ただ今お部屋を整えており――」
「中にいるのはイディアだな? かまわん。あいつはしばらくの間何も勤められないと上司に伝えろ。それと……俺が出てくるまで、ここには誰も近づくな、ともな」

2026/01/05 UP

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