この話には性描写が含まれるため、18歳未満の方や高校生の閲覧を固くお断り致します。
ご褒美、いただきます。
Dr. ロマンが次の特異点を観測している間は、サーヴァントたちとの交流と強化を兼ねた訓練に精を出すことが多い。今日も今日とて素材集めに勤しみ、レイシフトに必要な体力も、それを回復するための品も底をついたことにより自然回復を余儀なくされた私は、滅多にない休日なるものを頂いた。レイシフト続行が難しいと判断されたその日の夜。シャワールームで一日の疲れを洗い流し、さっぱりした気分のまま寝間着になって部屋へ戻ると、ドアの脇に控えてくれていた以蔵さんと目が合った。
「お風呂あがったよ」
「おん。今日はもう寝るがか?」
「んー、それでもいいかな」
折角ゆっくりと出来るのだ。体力が減っているとは言え、少し夜更かしをしてみたいこともないけれど、疲れを癒すためにも今日は早々に寝てしまいたい気もする。なにを気負うこともなく就寝するというのも、今は最早得難い時間だと思うから。
身体に等しく感じる疲労感からベッドへ腰かけた時、私はふと思い出したことがあって彼を呼んだ。
「あ、ねえ以蔵さん」
「どういた」
以蔵さんは直ぐに返事をくれた。さらに私がベッドをぽんと叩くと、そこへ座ってくれる。目線を合わせるには床は低すぎるし、立っていては高すぎるから。……もっとも、こうして二人並んでベッドへ腰かけるのは、身体を重ねてからのことなのだけれども。
左隣に座った彼を見上げて、比較的静かな表情でこちらを見てくる彼に、思い切って手を伸ばす。肩を両手でつかんで、顔を寄せる。
「あの、受け取って欲しいものがあって」
変な顔をしていないだろうか。もっと変な顔はもう見られてしまっているような気もするけれど、この部屋で以蔵さんを前にすると、いつもそんなことばかりが気になってしまう。以蔵さんはきっと気にしていないだろうに。
案の定、以蔵さんはいつもの顔で私が何を出すのかと待ちの姿勢だ。普通極まりない。人の眼のある所でもない所でも、慣れないような甘さを不用意に出す人でもないし、時代が違うとはいえ日本という環境で生まれ育った身としての親近感と心地良さがあって、年上男性に恋をすることも、その恋が実ることも初めての私にはありがたいことだと思う。ただでさえ心臓がいくらあっても足りないと思うことがあるのに、普段からどこかの騎士のような振る舞いをされては、レイシフトにまで支障をきたしそうだから。
普段通りの彼に改めて感謝しつつ、私はじっとこちらを見つめてくる金色の瞳を見つめ返しながら、彼の唇めがけて自分のそれを押し当てた。
柔らかい感触同士がふにふにとお互いを揉み合って、離れて、またくっつく。何度か繰り返した後に小さくちゅ、と名残惜しそうな音を立てて唇を離すと、途中から静かに目を閉じていた以蔵さんの瞼がゆっくりと開かれるところを見た。とろりと、彼のまなじりが下がって、柔らかい笑みを形作る。私が知る範囲で、私以外に向けることのない甘さの滲む、でも、どこか意地悪そうにも見える微笑み。
「――……マスター。こりゃあ、どういう風の吹き回しかえ」
以蔵さんの表情は私にしか見せないものなのに、マスターと呼んでくる彼にどぎまぎしてしまう。
「いつもありがとうっていう気持ちと……その、こういうことも以蔵さんの言う『褒美』になるかなっていうのと……あと、その、……すき、っていう気持ち……全部ひっくるめて、ます」
言ってみて恥ずかしくなってくるけれど、言葉も行動も惜しまないことが私に出来ることだと思うから、どうにか最後まで言い切る。と、以蔵さんは口元を綻ばせた。
「マスターの労いの気持ちは日頃から貰うちょったと思うたが……まあ、おまんが改まってそう言うならありがたくいただくぜよ」
穏やかな声にほっとする。
「けんど」
続きがあった。
「こがな事を特別褒美じゃ言うんじゃったら……ちっくと、わしに合わせてもろうてもえいかの」
「え?」
言うや否や、今度は以蔵さんの顔がこちらへ迫ってくる。腰を優しく抱かれて、唇が触れ合う。と、ついばむようなそれが、変化した。
彼の柔らかな舌先が私の唇をそっと舐める。びくりと口元を緩めると、ちゅ、と軽く下唇に吸い付かれる。
「……舌、出しい」
ぞくり。腰を這う感覚に肌が粟立つ。以蔵さんの低い声が、ベッドの中でだけ聞くことができる、熱の籠った囁きが耳を這い、身体の中を走り回って腰に響いた。私を優しく導いてくれる、男の人の声。
言われた通りに口を開けて舌先を出すと、彼の温かく柔らかな舌先が優しく触れてくる。ちろちろと舐められて、身体に火がつきそうだ。焦らすように、でも確実に。私の身体の中でしっとりとした情欲が滲みだそうとしているのが分かる。
初めての感触に戸惑いながらもされるがままになっていると、唾液が溜まって、喉が痞えそうになった。呑み込もうにもタイミングがよく分からなくて、以蔵さんのコートを引っ張ってみる。
「ふ……ぁ、」
丁寧に舐められていたと思ったら軽く吸い付かれて、力が抜けた。その拍子に口の端から以蔵さんのコートと袴の上に唾液が落ちてしまい、いけないことをしてしまった感覚に咄嗟に下を向き口元を拭う。ずず、と音を立ててしまって、より一層恥ずかしい。
「んん、」
諸々を謝ろうと、滴ってしまって濡れた彼の袴の色が黒ずんでいくのを見ながら口を開く。と、以蔵さんの左手が頬に触れ、彼の右手は口元を抑えていた私の手を絡め取り、次いでその舌が私を追いかけてきた。口の端を舐められ、キスというにはあからさまに目的は涎ですと言わんばかりに吸い付かれる。獣がそうするように丁寧に舐め取られて。それはそれで恥ずかしいけれど。
口元を終えると、今度は丁寧に私の手についた唾液を舐められた。わざとなのだろう、指先に与えられる吐息と舌遣いと、お前に見せつけてるんだぞ、と言わんばかりにこちらへ寄越される彼の眼がとても……扇情的で。
「勿体無いのう。溢すくらいならわしに全部寄越しとうせ」
「……溢すつもりなんてなかったもん。もう」
人が折角汚してすみませんって謝ろうと思ったのに。ちゃんとどうしていいかわからないから教えて貰おうと思って合図もしたのに。
粗相を変な形で揶揄されて、視線を外す。どきどきしていたせいでこもっていた肩の力が抜ける。
レイシフトの適性以外はまるで魔術師として使えない自分の事はよく知っている。勿体無いだなんていうけれど、多少唾液を零したところで、そこに含まれる魔力なんて大して無いことも。それでも、いや、だからこそ以蔵さんにそれを求められると、魔力じゃないものを求められている感じが強くて、身体が気持ちよりも先に昂ぶってしまうのだ。
きっと以蔵さんはそういうところも分かった上でそうしているのだろうけれど。
「怒ったがか? 許しとうせ」
言葉の割に、以蔵さんの声は穏やかな笑みが滲んでいた。反省の色が見えない。否、私が怒ってないことなんて知っているのだ。暖かい掌と腕が再び腰へ回される。私の口からはっきり言わせたいのだろうか、と思い至り、初めて身体を重ねた時を思い出した。
「……怒ってないから許すも許さないもないよ」
「ほうか、そりゃあ良かったぜよ」
以蔵さんの頭が私の肩口に乗ってくる。と思えば、そんな可愛らしいものではなく、そのまま押し倒された。にんまりと妖しく笑う彼の顔は前髪とマフラーでほとんど見えないにもかかわらず、歪んだその口角と楽しげに下がる眉尻と、彼の感情をはっきりと伝えてくる雄弁な目が何よりも私に伝えてくる。「じゃあ、続きを」と。
案の定以蔵さんからの口づけが再開され、リップノイズが部屋に小さく響き始める。空調の他に殆ど音のない部屋で、聞こえるのは私と以蔵さんとで出す音だけだ。そのことが私に、以蔵さんを感じること以外をさせなくする。
何度も甘く吸い付かれ、彼の舌が私の唇をなぞる。恐る恐る私からも舌を出して彼の舌を迎えようとすると、以蔵さんの口の中に吸いこまれて、ぴちゃ、と微かな音が漏れた。
唇は触れ合っていて確かにキスと言えないこともないのに、以蔵さんは私の舌を吸って、舐めて、絡ませて、私はただ舌に与えられるその刺激と、以蔵さんにそうされているという状況にくらくらするだけ。
以蔵さんに求められるのは嬉しい。どきどきするし、抱きしめられたり、目で見たりして感じる逞しい身体は私一人が多少暴れたところでびくともせず、そのことがどうしようもないほど私の心を穏やかにしてくれる。
でも、それ以上に喜びでいっぱいになるのだ。もっと求めてほしいと思ってしまう。だから、どんなに恥ずかしくても彼から逃げられない。逃げたいなんて思うことが無い。……ベッドの中じゃ、それどころではなくなるのだけれど。
また口内に唾液が溜まり始める。舌を出している所為で嚥下することもできない。さっきのようにもう一度コートを引っ張ると、舌先に柔らかく口付られて、やっとキスが終わった。今度は溢すこともなく飲み下す。以蔵さんのと私のが混ざっていて、変な気持ちになる。
飲み込んだものがどこを通っているかなんてわからないはずなのに、喉、胸、胃……と、順番にぞくぞくとした感覚が這う。最終的にお腹の辺りにそれを感じて内腿をすり合わせると、以蔵さんがのしかかってきた。強い眼差しが彼の気持ちを如実に表している。これで、何が起こるのか分からないはずはない。
「立香」
囁きに心臓が跳ねた。普段、名前を呼ばれることはまずない。二人きりの時でも、そう言う空気になる事は滅多にない。大事にされていることは感じるけれど、こんな風に名前を呼ばれるときは、私が以蔵さんだけの私になる時だ。お互いの事しか感じなくなるような……つまり、ソウイウコトをする時。
合図めいたそれに反射が出来上がってしまって、以蔵さんに名前を呼ばれると、私の身体も心も、もう彼しか考えられなくなってしまう。いつか、以蔵さんに言われたように。
熱い掌が身体を這う。肌触りだけで選んだサイズの大きいTシャツにゆるいショートパンツという部屋着では、彼の手を止めることはできない。
「相変わらず、おまんはどこもかしこも柔こいにゃあ……」
しみじみと言われて、どう返したものか困ってしまう。以蔵さんの身体に比べればそりゃあ柔らかいだろう。彼の顔も声も、手つきも全て好意的なものだからいいけれども。
されるがままになっていたところ、Tシャツをたくし上げられて以蔵さんの手が私の夜用のブラに伸びた。途端、彼の表情が曇る。
「けんど、おまんの時代のこの下着はどうにかならんかえ。こがな時はまっこと邪魔臭うてかなわんぜよ」
「……そう言われても」
「無い方が話も早うに済むし、気分も盛り上がるき、今度からそうしとうせ」
思わぬお願いに苦笑してしまう。そうは言いますけど。毎晩していることでもないのだし。
「これ外して寝たら胸垂れてきちゃうし」
「そうなってもそれを知っちょるんはわしだけじゃ。問題ないろう」
「水着だって着ることあるし、体型が分かる服装だってあるし。私が嫌なの」
「どうせわしと睦み合うたら朝まで外しっぱなしになるやか」
「それはそれなの」
ああ言えばこう言うを地でいきつつも、以蔵さんの手は止まらない。触れているだけの穏やかなものだけれど、会話も含めてリラックスするには十分だ。肌蹴られているにも関わらず、恥ずかしさもそんなにないし、触って貰えるのが気持ちいいから、目を閉じてうっとりとしたくなる。
「わしにはよう分からんぜよ……」
「……あ、じゃあ、脱がせる楽しみだと思ってよ」
名案だ、と思いついたまま口にすると、以蔵さんが目を瞬かせた後、面白そうな顔で笑った。
あ、これ失敗した奴かもしれない。
「ほお……面白い提案じゃ。じゃったら、勿論おまんはわしが脱がせとうなるような格好で誘うてくれるがか?」
「えっ」
「今の格好もそう悪うはないが……おまんの身体にすぐさましゃぶりつきとうなるような一張羅がえいの」
話が予想外の方向へ逸れている。流されつつ、私が思い浮かべたのは勝負下着と言われる類のものだった。……カルデアにはないんじゃないだろうか。
「も、もってないよ」
「あの奇天烈な女先生に頼めば、礼装いう体で融通も利きそうなもんじゃが」
よしんばそうだったとして、対価としてきっとものすごい数のQPと必要な素材を求められる気がする……。そして、ダ・ヴィンチちゃんのことだ、絶対に以蔵さんにやらせるだろう。以蔵さんもこの様子だと請け負うに違いない。その間に私と以蔵さんの寝室事情が他のサーヴァントに筒抜けになりそうだ。
私と以蔵さんの関係を察しているサーヴァントはそれなりの数いるだろうけれど、わざわざ自分からその辺の事情をおおっぴらにするのは恥ずかしい。
勝負下着の用意そのものは出来るかもしれないけれど、必要な対価の事をあれこれと天秤にかけていると、私が渋っているのだと思われたらしい。以蔵さんは切り込む角度を変えてきた。
「回りくどいっちゅうがじゃったら、おまんが分かりやすい格好で、分かりやすう誘うてくれたらえい」
「ええ……」
「なんじゃ。最初ん時はなかなか良かったぜよ。顔をこじゃんと真っ赤にしちょった。全身でわしを好いちゅうんが分かったき、しょうたまらんかっ」
「ああああああああっ! もう、やめて! 言わなくていいから!」
「なんじゃ、いつまでも初々しいのう」
私の反応に気を良くしたらしい以蔵さんの声は小さいながらも弾んでいる。……これはマズいんじゃないだろうか。また訳が分からなくなるまで気持ちいいことになるのではないだろうか。
上機嫌の以蔵さんが、指を丸めた状態で夜用ブラの上から乳首を優しく爪で引っ掻いてくる。今つけているブラは凹凸のない、つるりとした生地で、結構厚手の素材でできている。にもかかわらず、その上からくすぐる様な手つきで正確に乳首を狙われて、じんじんする刺激に腰が揺れた。
「やんっ」
ブラの中で乳首が勃ちあがり、こりこりとしたその部分が分かるのか、彼は優しく両手で横から包み込むと、指先で大まかな位置を摘んでこね始めた。
「あっ、んは、ぁ……っ」
布越しに、微かに彼の掌の熱が伝わるようで心地いい。掌では乳房を揉まれ、指先で乳首を弄られる。時折、脇の方へ手が滑るのがぞわぞわとして、快感にため息が漏れた。ブラの所為で、以蔵さんの手の刺激が生地を伝って広がるのだ。
内腿をすり合わせ、性感をじりじりと炙られるような刺激に目を閉じ、身をよじりながら感じ入る。キスの時からゆっくりと呼び起されている気持ちが、心の表面へと滲み出てくる。
以蔵さんに触れてほしい。声が聞きたい。乱れたい。彼に――身体の奥まで愛されたい。
それは間違いなく欲情だった。
薄目に、以蔵さんが自分の唇を舐めるのが見える。そのあと喉仏が上下して、マフラーが無くなっていることに気づいた。太ももに当たる袴の後ろ紐を引っ張れば、微かな衣擦れの音と共にはらりと落ちた。頭を撫でるかのように優しく、けれどいやらしく彼の手が私の内腿を撫で上げる。ショートパンツをずりあげて、下着に触れるまで。
ぴくん、と疼いてしまう下腹部に腰を揺らしつつ、袴の前紐を解くべく彼の腰の後ろへ手を伸ばす。帯の下にきつく結ばれたそれに力を籠めて解くと、袴が足へ被さった。と、邪魔だとばかりに消え失せる。
「……便利」
かと言って、最初から消せばいいのにとは思わないけれど。
「萎えるがか?」
「ううん。脱がせる楽しみって、こういうことでしょう」
以蔵さんの服を脱がしていく。彼がそうするように、私の意志で、彼の情欲に火を灯す。私が彼を求めていることを示す。……ベッドの中でだけ見せてくれる、猛々しくも深い情を持った以蔵さんの秘められたエネルギーを、私が暴いて、表に出すために。
「私にも味わわせてくれて嬉しい」
帯を解く。しゅるしゅると衣擦れの音が大きくなる。全て取り払う前に半襦袢の腰紐にも手を掛ける。どちらもまとめて引っ張ると、着物が肌蹴て、カーテンのように私の身体を囲んだ。同時に、私とは似ても似つかない屈強な肉体が露わになる。着物を着ている所為か分かりにくいけれど、以蔵さんの身体は他の国や神話の男性サーヴァントたちにも劣らない逞しさがある。はっきりと分かる筋肉の形に指を這わせると、その身体がぴくんと跳ねた。手首を掴まれ、まだ寛げていない唯一の褌へ導かれる。熱いと感じる彼の身体の中でも、恐らく一番に熱を持った箇所。そこに私の掌が押し当てられる。自分の意志で少し擦ると、以蔵さんの口から熱い息が漏れた。キツく締められたその中に、彼の煮詰められたものが収まっているのだ。
どこまで強くしていいか分からないけれど、少なくともそっと触るよりは、強めに触れた方が気持ちがいいのであろうことは分かった。愛撫するなら、そこを直接した方がいいことも。
彼の手によって強く掌を押し付けられるがままに、屹立に沿って手を添える。気持ち良さそうな吐息が降ってきた。
「気持ちいい?」
「おん……」
どこかとろんとした目が私を見つめてくる。顔が近づいて、自然と唇が重なった。いつもするように、唇の柔らかさをたっぷりと感じるような甘いキス。以蔵さんの芯を手で擦りつつも何度か繰り返していると、以蔵さんの方から腰を擦り付けてきた。少し乱れる息遣いと、ちらと窺った切なげな表情にぞくぞくしてしまう。ああ、これは。ぐっときてしまう。
「立香……」
普段の以蔵さんから聞くことはない、少し上擦った細い声。私も以蔵さんにはこんな風に見えているのだろうか。嬉しさと気恥ずかしさと、興奮と。こんなの、夢中になってしまう。
褌の後ろに手を回して、前に教えてもらったとおりに解いていく。しっかりと締められているけれど、緩めると、ぴんと私の方へ頭をもたげる彼の欲が顔を出した。皮をずらすと、桃のような頭が視界に飛び込んでくる。
「ん、っ」
牛の搾乳を思い出しながら握って少し擦ると、以蔵さんの声が漏れた。
「おまん、……躊躇いちゅうもんはないがか」
「だって以蔵さんのだし……興味ある」
正直、女性器に比べれば綺麗なものだと思ってしまうのはおかしいだろうか。
「はん、張り型に皮なんぞついちょらんきの……。わしの方がえいろう?」
「……うん」
物凄く不本意だが、以蔵さんのペニスが好きなんじゃなくて、以蔵さんが好きだからだよとはとても言えずに、頷くだけに留めた。でもやっぱりこの返事だと以蔵さんのペニスが優秀みたいなことにならないだろうか。……別にそれでもいいか。彼の身体の一部であることは確かだし、以蔵さんにこうして触れられるのは好きなのだから。
指先で擦っていると、手の中で少し大きくなったような気がした。桃のようだと思った先端はぷりぷり、つやつやとして、私の手の中に納まっている。
「以蔵さん」
「……なんじゃ」
好奇心がまるでなかったとは言わない。けれど、されてばかりじゃ申し訳ないし、私が出来ることがあるなら、したい。
「口で、してもいい?」
以蔵さんの目が丸く見開かれる。ぽかんとした表情で、喉元から低く、は、とかすれた声が漏れた。
「だめ? いや?」
「……それもおまんの言う褒美かえ」
「ん……そこまでは……でも、以蔵さんが許してくれるなら」
続けようとした言葉が恥ずかしくて、少し言葉に詰まる。けれど、間が空くと余計に言えなくなりそうで、勢いのまま声をのせた。
「どうしたらいいか、教えてほしい。……私も、以蔵さんを気持ちよくしたいから」
「……まっこと、おまんにはかなわんぜよ」
以蔵さんが頭を掻きむしった。声は不服そうだけれど、折れてくれる時の癖みたいなものだ。そのまま、結わえた髪が解かれる。髪を降ろした以蔵さんはどこか獣……そう、狼のようで。その金色の瞳に心を射貫かれる。
「言うとくが、わしは男がどうのと講釈垂れるつもりはさらさらないきに。おまんはわしだけ知っちょったらえい思うちょる」
望むところだ。以蔵さんのイイ所だけが知りたいのだから。
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仰向けになった以蔵さんのペニスに手を添える。勃ち上がったペニスからは透明の先走りが次から次へと溢れていて、試しにちろちろと舐め取ってみたが、尽きることはなさそうだった。ちょっとしょっぱいけれど、以蔵さんの匂いがする以外に、気になるところはない。それよりもペニスの先がぷるんとした見た目通りの舌触りで、ちょっと感動してしまった。
調子に乗って、溢れてくる小さな穴を舌先でつつくと、優しい力ながら頭を掴まれてそっと離されてしまう。
「やめんか」
「いや?」
「嫌やのうて……おまんこそいきなり股座探られて気持ちようはならんろう」
なるほど。少々手順をすっ飛ばしてしまったらしい。
「でもいっぱい濡れてる」
「今からおまんに手ずから奉仕されるっちゅうのに、興奮せんわけがあるか」
それにしてはまだまだ余裕がありそうだけれど、つつくと私の余裕が瞬く間に奪われそうなことになるだろうことは明白なので黙っておく。
男性経験が以蔵さんだけの私には、昔聞いた友だちの実体験とか、えっちな本とか雑誌とかで得た知識しかない。ペニスの先……亀頭が、女性の身体で言うクリトリスだということは分かるので、もう一度舌を這わせてみた。優しく舐めてみる。
「ん……」
甘い声が、彼の鼻から抜けて私の耳へ響く。添えた手でゆっくりと扱いてみると、硬いのがよく分かった。持っているのは皮だけれど、それが思うよりも動いて、その下に血が通って勃起した、硬くて、太いその存在をはっきりと伝えてくる。とてもじゃないけれど、これを深く咥えるなんて無理だと思う。
試しに途中まで口に含んで、そっと頭を動かしてみる。頭を引くときに吸い付くようにしてみたりと、自分なりに思考錯誤してみたものの、以蔵さん的にどうだったのか、急に腰を一つ大きく動かされた。
「んんっ」
「よう頑張りゆうが……どうせ咥えるならもっとキツうに吸いとうせ。むず痒うてかなわん」
呆れが混じっている声に以蔵さんの方を見ると、「えい眺めじゃ」とからかわれた。……からかう、というには、以蔵さんの目つきはどこか鋭くて、まるで凶暴な獣が枷を付けられて、動きを封じられているかのようだった。強く、私を求めているその目に射貫かれる。目に宿る力はそのままに、上半身を起こして、私と共に彼の股間へと視線を落とした。
「咥え込むんは直ぐだれゆうき……手で握り込んで扱くか、裏筋と雁首を……ここじゃ。ここもえい。あとは……そうじゃなあ、勿論、竿もえいがよ」
私の手を以蔵さんが覆う様に掴んで、私が思うよりもずっと強い力で彼のペニスを刺激する。
「痛くないの?」
「こればあ、なんちゃあない。おまんの触り方は女の身体を触る時のもんじゃき、わしには合わん」
そうなのか。いやまあ、そりゃあ一人で致していたから、自分基準になってしまうのは当然と言えば当然だけれど。以蔵さんも私に触れる時は酷く優しいし、敏感な場所を痛いほどの力で扱われたことはない。対して今は、……凄い力なんだけど?
「でも、男の人のここだって敏感でしょう」
「皮越しに触る分にはかまんぜよ。おまんのこんまい御豆も、剥かざったら気持ちえいろう? 今は手が届かんき、触れてやれんで残念じゃ」
にやりと以蔵さんが笑う。
「続けとうせ……おまんの顔がわしの股座にあるっちゅうがは、思うちょったより気が急いていかんちや」
手の甲で頬を撫でられ、意味を図りかねつつ、教わったように裏筋を親指の腹で押し上げた。ふ、と息を吐きながら彼の上半身が再びベッドへ沈む。以蔵さんの目は伏せられ、私の手に集中しているように見えた。
その顔を見ながら、またそっと舌を這わせる。付け根の方から強めに舐めて、唾液を切らして乾かないようにしながら上へと移動する。その後裏筋をちゅ、と音を立てながら吸い付いてみると、彼の息が乱れた。
気持ちいいのかもしれない。そう思って、今度はもう少し強めに吸い付いて、顔を傾けて唇で優しく挟みながら裏筋の下から根本へ続く、少し筋張った部分へ音を立ててキスをしてみる。支えている手も動かして、ペニスの形を捕らえるようなつもりで皮を擦った。
「っ、あ、……っ!」
上擦った、呻く様な声が聞こえる。見遣ると、切なそうな顔をした以蔵さんが、目を細めてこちらを見ながら、恐らく私が彼へもたらしたであろう快感に震えていた。眉間にしわを作りながらも、薄く開かれた唇から息を整えようと吐息が漏れる。
――かわいい。
もっとしたい。もっと気持ちよくさせたい。乱れてほしい。そんな気持ちが湧き上がってくる。気づけば彼のペニスへ愛撫をしながら、ちらちらとその顔を見つめていた。
夢中になって、様子を伺いつつも雁首を唇に引っ掛けたり、皮をずらして出てきた亀頭をひたすら柔らかい舌で舐める。きつくしないように気を付けながら、先端にちゅ、ちゅ、と口づける。
「っ……、く、ぁ、はっ」
時折響く以蔵さんの声が腰に甘く刺さるようでたまらない。わざと唾液まみれのままペニスから口を離して息を整える。先走りと私の唾液でぬるぬるとするそれへもう一度舌を這わせようとすると、勢いよくとび起きた以蔵さんに強く肩を掴まれた。
「はあっ……、一旦やめえ……。教えた先から急に上手うなりよってからに……末恐ろしいおなごじゃ……。筋がえいどころやないがよ」
ふうふうと息をしながら言う以蔵さんは、頬は上気していて、掴まれた肩は熱くて、獣みたいなのにどこか蕩けたような表情で、有り体に言って色気が駄々漏れていた。
「気持ちいいの?」
「悪いわけないろう……手管もそうやけんど、自分がどがな顔してわしのもの咥え込んじゅうか分かっちゅうがか……! くそ、めったにゃあ……褒美か仕置きか分からんちや」
悪態をつきながらも、ふうふうと何かを押し殺すような息遣いに背筋にぞくぞくとしたものが這いあがる。彼が懸命に押し殺しているものを解き放って、快感に組み敷かれる自分を想像する。
「立香、わしにもさせえ……疼いてたまらんき」
いつもよりだらしなく開く唇から低い声が発せられる。以蔵さんの腕の中で快感に翻弄されている時が思い起こされて、下腹部が疼いた。……一緒だ。一緒なんだ。私と同じように、きっと、以蔵さんも感じてくれている。
それはなんて……幸せな事だろう。
一つに溶けそうなほど、気持ちいい。以蔵さんを求めれば、彼は同じものを返してくれる。そうはっきりと感じ取ってしまう。恐れるものなど、もうなにもなかった。
「……だめ」
「なんじゃと?」
「私がする。以蔵さんはもっと気持ちよくなって。お願い」
きっと私の声には、甘ったるさが乗っていたかもしれない。でも、以蔵さんだっていつもの低い声に、私への欲情が混じって蕩けるような声色になるのだ。致し方ない。私だって、以蔵さんにえっちな気持ちになっているのだから。
「おまん……、わしにこれ以上堪えろっちゅうがか」
「結果的には」
「……我慢がはち切れんうちにさっさとやらせんか」
「いや。もうちょっと触らせて。ね?」
「おまんを傷つけとうない……聞き分けとうせ」
押し殺した声が不意に弱まる。どういう意味か聞こうとすると、以蔵さんの手に捕まった。抱きしめられ、二人でベッドへ沈む。一番最初にされたように足を絡め取られ、左手は脇の下からブラをかき上げて胸へ押し入り、右手が下着を押しのけて下腹部へ潜り込む。
「あっ」
「タガが外れて困るがはおまんの方じゃき……わしに前戯もなくいきなりぶち込まれとうないろう?」
お尻にさっきまで触れていた以蔵さんの熱が当たっている。当てられているのだ。実際、以蔵さんは腰を強く押し付けてきていて、絡まる足を動かしながら腰も揺らして、私のお尻へペニスを擦り付けていた。動きと共に出てしまう声の強弱がまるで最中のようで、心が一気に燃え上がるようだった。
乳房を掴まれ、指先で乳首をこねられ、ちりちりする快感に意識を奪われながら、もう片方の手の指を秘部へ差し込まれる。以蔵さんの中指が少しそこを擦っただけで、はっきりと分かるほどのぬめりを感じた。
「こりゃあ……なんじゃ、意外とそれが狙いか? こじゃんと濡れちょるがよ」
「そんな、こと……っ」
くちゅくちゅと小さく音が響く。はしたないほどに濡れてしまっているそこに、自分でも驚いた。直に以蔵さんの指が中まで入って来て、身体が跳ねる。
「ああっ!」
気持ちいい! 遠慮なく入ってきた彼の長い中指が、その節くれだった関節が肉壁を擦って、ぱちぱちと小さな気泡が爆ぜるような快感に、それ以外感じられなくなる。
中がひくついて、入ってきただけの彼の指に反応してしまう。気持ちいいのに、彼の芯と比べて圧倒的に細いそれに激しい飢えを感じた。こんなのじゃ、足りない。
つい先ほどまで感じていたはずの以蔵さんへの奉仕の気持ちなど吹き飛んで、彼から与えられる快感に酔い痴れる。既にある程度焦れていたのか、以蔵さんが早急に指を増やしても、快感が強くなるばかりで。
「ああんっ!」
「立香……早う入れたい」
以蔵さんの手が振動するように震える。二本の指が私の中で震えて、良い所へ伝わって。水音が大きくなる。思い出したように乳首を弄られて、違うところで生まれた快感が一つに集まって身体の中に蓄積される。
「あ、あ、あ、あっ」
彼の指先のもっと奥が、彼を欲してうねっている気がする。以蔵さんに強く押し付けられている熱を求めて、密着しているそこに手を潜り込ませて掌で竿を擦ると、耳の直ぐ近くで彼の嬌声が漏れた。
「っ、こんの、わりことしが……!」
微かに笑みがこぼれたようなその囁きは、声だけで十分すぎるほどの色香を纏っていた。
以蔵さんの指が出て行って、仰向けに転がされる。下着ごとショートパンツを降ろされ、足を開かされた。いつもよりも高く足を持ち上げられる。私の両足を、彼の両肩で担ぐように。急に無防備になった下半身に反射で膝を寄せるけれど、それでも触れる熱量は変わらない。私が以蔵さんの顔を足で挟んで、誘っているような気さえする。
ほぼ真上から見下ろしてくる当の以蔵さんの顔はというと、笑っているはずなのにどこか、そう、彼の敵……獲物を見つめる時のようで。まだ仲を深める前の、妖しく笑って線を引かれていた頃のそれに酷似していた。
違うのは、まさしく今私が、彼の狙う対象となっていることで。
過去、脅すように紡がれた不穏な言葉と妖しい空気は恐怖を呼び起こすような威圧に満ちていたけれど、今は違う。
逃がさないと、はっきりと目で伝え、私を縛る彼のその目に、興奮と喜びしか湧いてこない。
「そんなにわしが欲しいかえ……?」
逞しい太ももにお尻が乗って、空気に触れひやりとする秘所に彼の猛るものが当たっている。私を見下ろして笑う眼に、私と同じ喜びを見た。相手に強く求められていることへの歓喜。あるいはそれを、安堵と呼ぶのかもしれないけれど。
「……うん」
見つめ合った後にそう短く頷く。私の気持ちは彼に伝わっているだろうか。私が分かるのだから、きっとそうだと思いたい。でも。
「入れて……」
閉じていた膝を僅かに開き、その間に自分の手を滑らせる。指で淫らに塗れた場所を割り開いて先端を迎え、彼の竿を掴んで、導く。以蔵さんがそうしたように、私が彼を求めている一番の場所へ。
伝えたい。以蔵さんが欲しいこと。愛されたいこと。愛したいこと。抱きしめられたい。抱きしめたい。一緒に、気持ちよくなりたい。
手で支えて、以蔵さんの先端を私の窪みにあてがっていると、以蔵さんはそのまま腰をじわじわと押し進めてきた。ぬめる私の愛液が以蔵さんのペニスに絡みつき、取り込むようにして中へ誘う。
欲しかったものが入ってくる感覚に、膣で快感が迸る。ああ、もう、気持ちよくて、以蔵さんの身体が、どこもかしこも熱くて。
「ああああっ……!」
「……っあ、あ!」
上擦った以蔵さんの声にまで身体が反応する。炭酸の泡のように、快感が弾けて、泡立って、膨らんで。
達するには足りないけれど、だからこそ、果てを求める心を煽るには十分だった。ぞわぞわとした感覚が、皮膚の内側と外側とを撫でていく。ゆっくりと、けれど止まることなく深くまで挿入されて、この瞬間が、待ち望んだものが果たされる歓びで心が満ちる。快感と、歓喜とに打ち震える。声にならないその声が、全て彼に伝わればいいのに。
「はあっ……どうじゃ、立香」
ぴったりと重なる肌の熱が心地良い。以蔵さんが腰を揺らすと、奥で甘い快感が滲みだすのが分かった。
「ん、あ、きもち、いい」
「ほうか」
「おく、……とけ、そう……」
以蔵さんがゆっくり、とんとんと腰を揺らす度、奥まった場所でとろりと熱が溢れるような感覚がある。思わずその感覚の通りにうっとりとしていると、彼の指先が唇へ触れてきた。瞬間、走る快感に驚いて、逃げるように唇を動かす。けれど頭を動かすのは難しくて、逃げるも何も、直ぐに指先が追いかけてきて、親指の腹が、人差し指が、中指が、順番にそれぞれに私の唇を優しくなぞった。その後、以蔵さんはその指先を舐めて、吸い付いて。ああ、これはキスなんだと思ったら、胸がきゅっと甘く縮こまった。
「ん……」
甘い声が彼の鼻から抜けていく。担いでいる私の内膝にも直接唇を寄せられて、足が戦慄いた。
「おまんは……げにまっこと、素直でえいの……」
彼にしては珍しく穏やかな笑い方だった。その言い方が……抱かれながら、可愛い、と言われる時と同じで。好きだ、と言われているようで。
恥ずかしくて、隠れるように膝を寄せて、以蔵さんの顔を阻む。顔を見られたくなくて手で覆うと、幼い子を嗜めるような声が降ってきた。
「いかんちや……立香、顔見せんか」
「や……」
恥ずかしいから、だなんて程度の抵抗なんて、自分でもあってないようなものだと思う。簡単に手を取られ、頭の上で両手ともまとめて、以蔵さんの片手で縫い止められた。
「散々人を煽ってきちょったわりことしめ……おまんがわしに抱かれてえい顔しゆうのを眺めるくらいはさせてもらわんと、割に合わんぜよ」
「ふぁっ、あ、ああ!」
ぐ、と以蔵さんが腰を押し付けてきて、身体を折り曲げられて近くなる顔の距離と言われた内容の恥ずかしさと、彼が触れている奥の快感とで、柔らかいけれど大きな快感が生まれる。腋を締めることができないせいで力が込められず、むしろ逆に力が抜ける。その隙にと言わんばかりに顎を使われて、膝の間に割って入られてしまった。
「ああ……えい、しょう、まっこと……」
金色の目がうっそりと私を見下ろす。逃げ場もなく彼を見つめ返すと、機嫌のよさそうな、なのにどこか獰猛さを孕んだ気配を感じた。
ぐいぐいとリズムよく腰を、彼のペニスを押し付けられ、ちっとも激しくないのに、ストロークもなにもないのに、その振動だけで高まってしまう。
「んっ、あ、なんで、こんな、はあんっ、あっ、っん、ふぁああっ!」
「はあ、っ立香、ん、」
以蔵さんが上半身をこちら側に倒して、更に身体を折り曲げられる。唇が触れ合い、指先とは違う柔らかな刺激に、快楽の泉の源がきゅっと反応した気がした。
「はあっ、ん、んっ、ぁ、んん、」
歯をぶつけないようにと気を使ってか、揺れに合わせて離れる唇がもどかしくて、求めるように口を開ける。と、以蔵さんは応えるように勢いよく私の唇へ食らいついた。そう表現するのが一番適切だと思う。私の唇を覆う程口を開けて、食べるように吸い付かれた。彼の舌が唇の上を這い、吐息が口の中へ入ってくる。キスに重きを置きつつも、彼の腰はまるで達した後のように動いて私を追い込んでくる。とめどない奥への刺激に、力という力を奪うような甘い快感の海が広がって、下腹部の中はぐずぐずに溶けているようだ。
舌先を僅かに出すと、直ぐに吸い付かれ、柔らかな舌でくすぐる様に愛撫される。唇同士が擦れて、舌先が絡み合って、奥はとろとろとして。もう、もがく力もその気さえ削がれて、ただ飲み込まれるしかない。
「ふぁ、あ、あっ、あん、」
小さな振動なのに、それがもたらすものが大きすぎる。
「苦しゅうないかえ……」
間近で聞こえる、低く掠れた声に頷く。吐息と共に漏れる囁きほどの声量。普段の大声はまるでなく、息をひそめるようなそれが酷く日常から遠い気がして、興奮を掻き立てられた。激しさなんてないのに、熱っぽい声に、私を求める時だけに聞けるその声色に、性感が昂って――……止まらない。
「ほに……えいカオじゃ」
既に抵抗もなにもないけれど、手を拘束されたまま優しく振動を与えられる。ずり落ちそうな片足はしっかりと掴まれて、身動き一つできなかった。
ただ以蔵さんから与えられるものを受け止めるだけ。肉壁の摩擦なんてほぼないのに、奥に優しく当てられるだけで、もう、中が、暖かい快感の泉が湧き上がる。
「あ、いっちゃ、いっちゃう、いぞ、さ、あん、いいの、きもちい、いっちゃう」
「かまんき……顔、もっとよく見せとうせ……っ」
静かに増え続けるそれに、迸るほどの勢いはないのに。浅い息では上手くやり過ごすこともできない。でも息を整える暇も余裕もない。直ぐ近くから以蔵さんの視線を感じる。恥ずかしいけど気持ちよくて、視線でさえ愛撫されてるみたいで、見ないでほしいけど、もっと見てほしい気持ちがせめぎ合って高まっていく。
そうして、めいっぱいお湯を張った浴槽に身体を沈めた時のように、それはやってきた。
「……ふ、っぁああああ――っ!」
溶けるような感覚の後、急に彼の形が分かるような気がするほどはっきりと中が変化するのを感じた。彼のペニスに絡みつき、快感を最後まで搾り取ろうとするような。それでいて絶頂を迎えて解放された快感が弾け、身体の外にまで広がる感覚を。
「はっ、ああっ!」
呻く様な声の後、以蔵さんの身体が強張った。余韻の中、以蔵さんのペニスがぴくんぴとんと膨らんで、私の中に溶ける。きっと、私の溶け切った中で、混ざり合って。
二人分の吐息だけが響く。彼の脈動が収まった頃、以蔵さんはおもむろに私にキスを一つ。それから、ゆっくりと私の手の拘束を外して、担いでいた足を降ろしてくれた。姿勢が変わって、以蔵さんのものが中で動く。猛っている時とは違う、柔らかなものがずるりと動く感覚に身を震わせるも、それ以上そこから離れようとしない以蔵さんに違和感を覚えた。
「……あー……」
濁った発声で以蔵さんが息をつく。男の人には射精後に賢者タイムなるものが存在しているらしいけれど、多分、今がそうなのだろう。私が余韻に浸っているように、以蔵さんもまたそうなのだと納得する。
にもかかわらず、彼は急に私の露わになっていたままの片胸を揉みしだいた。
「っきゃん! やっ、なに」
「なに……なに、か……なんちゃあない。今日はこっちを可愛がっちょらんかったきの」
「意味が分からないんだけどっ」
ふにふにと揉まれて、それどころか夜用ブラを全部たくし上げられ、片方の乳首を口に含まれる。
「あんっ、だめ、まだ……っ」
「今せんといつするっちゅうがじゃ……。立香、わしはまだ物足りん。明日は休みや言うちょったな? もうちっくとおまんの時間をわしにくれ」
以蔵さんの声から熱が引かない。
「わ、私、疲れてるから、ついていけないよ……」
「安心せい。今のはおまんに負担をかけちょったが、もっと楽な格好も知っちょる。……やき、わしにもっと褒美を寄越しとうせ」
「そんな……」
見下ろしてくる以蔵さんの顔はいつの間にか獲物を狩るそれに戻りはじめていて、既に瞼も身体もはっきりと休息を求め始めた私には酷な話だった。付き合ってあげたいのはやまやまなのだけど、嫌じゃないけれど。沢山満たされて、心はお腹いっぱいだ。
「もう、ご褒美いっぱいあげたよお……もうないってば……」
「そがなこと言わんと……まだあるろう」
思わずぐずると、以蔵さんが優しく胸を弄りだす。宥めすかすように、励ますかのように。
「あっ……」
身体と頭にまとわりつく眠気の中、甘い刺激に目を閉じる。労わりにも似た触り方に、感じながらも微睡んでしまう。心地良くて、抗えない。
「だめ、だったら……」
「眠いがか?」
「……ん……」
「……すまんのう。けんど、もうしばらくは寝かせんき」
以蔵さんの声がほろほろと降ってくる。肌に落ちて、私の中に染み込んでいく。気持ちいい。
「……立香、好きじゃ」
存外柔らかな声と、それが紡ぐ素朴な言葉にぴくんと反応してしまった。極め付けに頭を撫でられて頬擦りをされてしまえば、もう、眠気に負けてる場合じゃないなんて思ってしまうじゃないか。
「……ずるいよ、以蔵さん」
「おまんにゃあ負けるぜよ」
にんまりと口角を上げて笑う彼に、敵わないと思う。そのまま唇が触れ合って、それが合図だった。
******
さて。なんだかんだ盛り上がって、流石に手加減してもらいつつも気を失う様に眠ったのがほぼ深夜……否、一部サーヴァントの時間感覚からすると早朝。そこから疲労に次ぐ疲労を回復するために身体が求めた休息時間はなんと十時間だった。
心配したマシュの訪問を以蔵さんが取り成し、私が起きる頃には、私の状態はマシュだけでなく、ダ・ヴィンチちゃんやDr. ロマンの知るところとなっていた。……え? なにそれ恥ずかしい。幾ら私の健康状態が管理される必要があるとはいっても、流石に「察されてるな」と感じるよりもド直球で恥ずかしい。
他のサーヴァントたちも気を使っているのか珍しくほぼ訪問もない中、日中の、互いを求めるわけでもない場面でなにくれとなく世話をしてくれる以蔵さんがまた気恥ずかしさを寄越してきて困った。甘ったるい空気はないけれど、いつもよりも細やかな気遣いがあって、それがまた昨晩の熱烈さを物語っているようで。
「……ちょっとどころじゃなく、大半が以蔵さんの時間になりそうだね」
夕方。流石に部屋の外へ出るくらいは出来るようになったものの、食事に出る前に自室でそう溢せば、彼はいつも通りの様子でカラリと笑った。
「マシュの役得までもろうてしもうたけんど、贅沢な日じゃったにゃあ」
ちなみに、翌日のバイタルチェックで引っかかってしまい、更に半日レイシフトできなかったために、以蔵さんは節度を決めてそれを守れとDr. ロマンから切に訴えられることになる。勿論、従わなければえっちはなし。
条件を飲んだ以蔵さんが、一晩の密度を減らす代わりにえっちの頻度を上げてきたことについては……まあ、拒否しない私から言えることはなにもないよね。
2018/08/01 UP