この話には性描写が含まれるため、18歳未満の方や高校生の閲覧を固くお断り致します。

甘味よかくあれかし

 こんばんはあ、とご機嫌な大声が聞こえたのは、深夜に差し掛かろうかという時間だった。声と、その大きさもさることながら、その抑揚が特徴的で、誰なのか確認しなくても相手の顔がよく分かる。今、どんな顔をしているのかも。――私のアサシンが一騎、岡田以蔵。
 今まさに寝ようかと思っていたところだったけれど、彼ならば私に用があると言っても、一緒に寝るくらいにしかならないはずだから、応対しても問題はない。
「こんばんは、どうしたの、以蔵さん。今日は飲み比べするって言ってたけど」
「おうマスター、酒はこじゃんと飲んじょったぜよ。けんど、飲める酒ものうなったき、解散になってのお、ほいで、ここへもんてきたっちゅうわけじゃ」
 かくして、扉を開けた先にいたのは頭に思い描いていた通り、顔を真っ赤にして、マフラーと口元をだらしなく緩めた以蔵さんであった。相当ご機嫌な様子から、たくさん飲んだのであろうことが窺える。笑い上戸なのか、以蔵さんはお酒を飲んでいる時は比較的機嫌がいいことが多いし、よく笑っているのを見かける。今回も御多分に洩れず、随分と酒気と陽気をまき散らしながら口元をむにゃむにゃ動かしていた。喧嘩もなさそうでなによりである。
「嬉しいよ。入って」
 以蔵さんにとあてがわれた部屋、もとい、彼が当初ねぐらとした場所は他にあるのだけれど、このところずっと以蔵さんと一緒にいたせいか、すっかり私の部屋を自分の帰るべき場所だと認識してくれているようだ。素直にうれしい。
「んん、ますたー」
「わ、」
 以蔵さんを中へ引き入れれば扉が閉まる。そのまま私の後について部屋の中を歩いてきたけれど、以蔵さんは急に後ろから私を抱きかしめたかと思うと、そのままベッドへダイブした。私たちを受け止めたベッドの軋む音はかなりキツそうだ。悲鳴に近かった。
「危ないよ」
「わしはマスターを傷つけやせんき、そがな心配は要らんぜよ」
 呂律が怪しいけれど、酷く自信満々に言われて胸の中がくすぐったい。
「えい気分じゃ」
 私の頭に鼻先をくっつけて、くんくんと匂いを嗅ぎながら、以蔵さんが身体を撫でまわしてくる。
「げにまっこと柔こい……」
 以蔵さんの両手が今までになく欲望のまま私の胸を揉みしだく。性急な動きだけれど、私の身体を良く知る彼の手は、酔っていても加減を間違えることはないようだった。同時に、彼の手に慣れた私の身体は、上手に快感を拾ってしまうわけで。
「んっ、」
「助平な声出しよって」
 以蔵さんの足が後ろから私の足を割って開かせて来る。ふうふうと、劣情というよりはしこたま飲んできた酒のためであろう熱い息が耳にかかり、男性であるよりも先にただの酔っ払いでしかなくなっている彼を介抱した方がいいのだろうかと、心は悩ましい。
「寝間着もやらしいにゃあ……こりゃあ誘うちょるぜよ……間違いない……わしを欲しがっちゅう」
 Tシャツに緩いショートパンツという出で立ちの私は、今に限らず、以蔵さんには垂涎ものだろう。普段そうされることはないからだろうか、両胸を下から支えるようにしてわっしわっしと力強く……ある種、乱暴に揉まれると、なんだか妙な気分になってくる。
 なんていうか……痴漢に襲われているような? 流石に想い人であり両想いでもある相手だから、嫌悪感などは微塵もないのだけれども。でも、普段ここまで露骨なのはある程度雰囲気が煮詰まってからだから、新鮮だ。以蔵さんはいつも、なんだかんだと丁寧に私に触れてくれるから。
 当の本人は暫く私の胸を揉んで、ナイトブラをたくし上げてTシャツ越しに乳首を摘んで不埒な真似を続けていたけれど、私がそれに気分よく浸っている内にふと、手が止まった。
「……以蔵さん?」
「……えい、きぶんじゃ……」
 あ、まずい。これは寝る。
 今にも夢の中に――サーヴァントは夢を見ないけれど、なんというか言葉の綾だ――入ってしまいそうな以蔵さんの様子に、俄かに焦る。徒にえっちな気分にされて、当の本人が寝落ちなんて冗談じゃない。私の身体と心をここまで育てたのは以蔵さんなのだから、ちゃんと最後まで面倒を見てほしい。
 ……否。ここは一つ私がリードしてもいいのでは?
 不意に浮かんだ名案に、今この時も重くなっていく彼の腕の中から抜け出した。
「ん……む」
「以蔵さん、もっといい気分になろ?」
 言いながら、ブラだけを外して、胸を彼の顔に押し付ける。痴漢から一転、痴女の爆誕である。
 でもいいのだ。だって彼と私は好き合っている者同士で、ここは私の部屋で、ベッドの上で、二人しかいないのだから。
「ねえ……もう揉んでくれないの?」
 優しく揺り起こして、彼の意識に覚醒を促す。暫くむずがっていた以蔵さんは、けれど、私が両胸を支えてたぷたぷ、と彼の顔に押し付け続けていると、ぎゅっと私の腰を抱いてきた。自分から私の胸に顔を押し付けて、積極的に味わおうとするその動きにじわりと下腹部から熱が生まれる。
「……もむ」
 Tシャツ越しの髭の感触にさえ気持ちが強くなってしまうのだから、そうこなくては。
 ベッドに手をついて、以蔵さんが私の胸を揉むのを見下ろす。赤くなった顔に、とろんとした目。緩んだ口元は普段の意志の強い表情とはまるで違って、どこか子どものようでさえある。私にそう思われるのも嫌だろうから決して口にしないけれど、とてもかわいい。
 なのに、その触り方は子どもではあり得ない。私の、欲情を誘ってくる。
 服越しに乳首を口に含まれて唇で扱かれれば、あっという間に硬く勃ちあがった。
「……すけべな形になりゆう」
 熱心に乳首と指で弄りながら、もう片方の手は胸全部を味わうように。徐々に彼の目が据わってくる。
 はあ、と酒気を帯びた吐息で、Tシャツに熱が染み渡る。お湯を掛けられたのではないかとさえ感じるほどの温かさだ。
 以蔵さんの手が胸から離れて、腰へ回される。そのままぐっと力を籠められて、腰を落とせば、着物越しに彼の猛るものを感じた。
 下から、彼も擦り付けるように腰を揺らして、私の太ももを挟みこむ。徐々に目が覚めてきたようだ。
「ん……立香……」
 お酒の所為でもあるとはいえ、耳まで真っ赤にして懸命に快感を追いかける以蔵さんなど、滅多に見れるものではない。本当に珍しい姿を見つめながら、かわいい、と思う心が溢れ出して、止まらなくなる。
「触っとうせ……」
 トドメとばかりに熱に浮かされた物欲しそうな上目遣いで見つめられて、私はいとも容易く陥落した。欲情して真顔になった以蔵さんはいけない。格好よくて、身体が疼く。しかも今日は、お酒の所為で薄らと目元が潤んでいる。完敗だった。
 袴の紐を解き、彼の着物を丁寧にくつろげる。すっかりベッドに沈み込んだ以蔵さんはされるがままだ。かと思うと、私の髪を一房掬って指を絡めてみたり、私の胸を下からつついたりしてきて、一言でいうならば完全に自由だった。
 いつもなら、私は彼の一挙手一投足に振り回されて、最後にはただただ気持ちよくさせられるのだけれど。今日は不思議とそうならないのは、やはり日頃以蔵さんがそれを意図してやっているから、なのだろう。どうあがいても私の方が経験は浅いし、彼の方が一枚上手だ。
「以蔵さん、脱ぐの手伝って」
「おん。えいよ」
 邪魔をされている、とは感じないけれど、乳首を弄られて気がそぞろになりそうで声をかけると、以蔵さんはまるで聞き分けの良い子どものような返事をして豪快に着物を脱ぎだした。暑くてたまらない、とでも言いたげなほどの潔い脱ぎ方で、握った着物をベッドの外へ放り投げるようにして遠ざける。
 褌を緩めれば、勢いよく飛び出した彼のペニスが現れた。茂みから太く天を衝く彼の雄は、もう何度も見たものだ。けれど、何度見ても……猛々しい、というのか、とにかく立派の一言に尽きる。他の男性を知っているわけではないけれど、これを膣で受け止める度に思うことがある。絶対に、大きい。
 既に先走りで亀頭が濡れているのを見ながら、竿に触れる。暖かい。握って何度かゆっくりと上下に擦れば、以蔵さんの鼻から、これまた珍しく鼻にかかった甘い声が出た。
「あっ……ん、」
「気持ちいい?」
「えい……」
 うっとりと返事をする彼に、気分が良くなる。そう言えば、と思い立って、私は自分の髪の毛を耳にかけた。
 ちろり、と亀頭を舐める。何度か舌先でその感触を味わった後、そっと彼のペニスを口の中へ迎えた。唇で挟んで、手と同じようにゆっくりと動く。
「ん、」
 ぴくんと口の中でペニスが跳ねて、歯を立ててしまいそうで怖い。唾液をわざとつけるように口を離して、手と舌で触れることにした。皮を動かして筋を扱きながら、裏筋に吸い付く。ちゅ、ちゅ、と音を立てて吸い付くと、以蔵さんの腰が悩ましく跳ねた。
「あっ」
 上擦った声が彼の口から漏れる。今まで聞いたことが無いような、弱々しい声だった。けれど、気持ちよさそうで、もっと聞かせてほしくなる。
「んっ、……あ、はあ……っ」
 吸い上げながら彼を口の奥まで迎えて唇で扱き、放して何度もキスをする。繰り返していると、吸い付いて音を立てた時に嬌声が漏れることに気づいた。ぬるぬると先走りで濡れる亀頭を舌で舐め、ハーモニカを吹くときのようにして彼の竿を手で支えて、唇で扱く。同じ場所を舌で辿り、何度も、繰り返し繰り返しキスをする。
 私の一挙一動で声を上げる以蔵さんが可愛くて、好きで、気持ちのまま口に含んで沢山亀頭を舌で虐めると、以蔵さんはいよいよ首を反らして腰を跳ねさせた。
「あああっ、えい……、んっ、もっと、しとうせ……っ!」
 ゆっくり、以蔵さんが腰を動かし始める。それに合わせて頭を動かすと、軽く頭を押さえられた。動かないでいると、以蔵さんが上半身を少しだけ起こして、腰を動かしながら私を見下ろしているのが分かった。
「んっあ、あっ、……立香が、わしのをっ、くわえ、ちゅうっ……! ああっ、たまらん、はあっ、あ、んんっ、はああっ」
 息が荒いのは最早酒の所為ではなくなっていた。少し苦しくて、以蔵さんの腰を抑えるけるようにして両手を下腹部に添える。彼の顔を見ながら、私の唾液に塗れたペニスを口から出して、彼によく見えるように、べたべたになったものに口付けながら舌で丁寧に舐め取る。
「ん、以蔵さん、すき。もっと気持ちよくなって?」
 我ながら甘えた声が出たと思う。先走りと自分の唾液を飲み込みながら、恍惚として私を見遣る彼を見つめ返す。皮に包まれた暖かな怒張。これが内壁を擦って快感を与えてくれるその瞬間が待ち遠しくて、身体が切なく疼く。
 以蔵さんの出方を窺うようにしながら手淫と口淫を続けていると、彼はふうふうと息をしながら感じてくれていたものの、徐々に眉間に皺を寄せ、むっつりとした顔をし始めた。
「どうしたの? 気持ちよくない?」
「えい! えいけんど! ……立香ぁ……どこでこがなこと覚えてきよったんじゃ……」
 どこか悔しそうな表情で顔をくしゃりと歪める様は、低く掠れた声さえなければ少年のようにも見えた。でも、紛うかたなき年上の、岡田以蔵という人のするカオだった。
 拗ねている。私にではなく、私に口淫を教えたありもしない『男』の影に怒りさえ覚えているようで、なんというか、酔っぱらうのもここまでくると面白い。
「全部以蔵さんが教えてくれたんだよ。だから、気持ちいいでしょう?」
「……」
 手で、口で、舌で、唇で。時には吐息と音も使って。別に技術というほど大層なものでもない。以蔵さんがここが良いのだと教えてくれた場所を辿っているだけだ。けれど、だからこそ気持ちよくなってくれていなければ困る。
 手を止めて、少し考え込む風なじっと彼を見る。けれど、その眉が徐々にハの字になり、口元がきつく引き結ばれている状態から緩み始めると、途端に彼の表情は艶やかに感じるほど、その心情を私に見せた。
「ほうか……わしかあ……」
「そうだよ。全部、以蔵さんに教えてもらったの」
 じわじわと彼の心を蝕むように広がるのは喜びだろう。あるいは、しあわせ、というものかもしれないけれど。
「おまんを……わしが、もろうた……わしが、おしえて、わしだけの、女になった」
「そうだよ。以蔵さんが、そうした」
「わしが、おまんを、そうした」
 私の言葉を繰り返す以蔵さんは、どこか小さな子どものようにさえ感じる。元々、いい意味でも悪い意味でも子どもっぽい部分を見せる人ではあったけれど、今は特にそう思う。
「……おまんは、それでえいが?」
 ふと、以蔵さんが溢した言葉に驚く。だって、そんなことを聞いてくる人じゃないと思っていた。
 けれど、聞かれたのならば答えるだけだ。
「いい。……だからもっと、以蔵さんを教えて。以蔵さんも、私だけの男の人になって」
 慣れている様子の以蔵さんは、勿論性交渉など初めてではないだろう。けれど、今目の前にいる以蔵さんは私のものなのだと、私と心を通わせて、想いを通じ合わせた唯一なのだと、もっと教えてほしい。……いつも感じているけれど。それが当然で、そうでないなら怒りさえ抱くほどになるまで。身体だけじゃなくて、思考さえも塗り替えるほどに。
 じっと彼を見つめて、想いを込めて伝える。と、以蔵さんは赤ら顔のまま急に視線をふわふわと移ろわせて、その後ぎゅっと目を閉じた。
「……もう、とうになっちゅう……わしはおまんだけのもんじゃ……やき、今もおまんの所にもんてきたろう」
 それは、もしかしたら本当に照れくさくて、顔を赤くしていたのかもしれない。
 でも、彼のきゅっと眉間に皺を寄せて目を瞑る姿が、ぼそぼそと呟く声が、ふてくされているようにも見えて、いまさら何を言っているのかと呆れているようにも聞こえて、胸の中で何かがせり上がってきて、溺れそうだ。
 だってそれって、以蔵さんにとってはもう当たり前すぎて、わざわざねだることではなかったってことでしょう? 私がそれを分かっていないことが、不満だと、そう言いたいってことでしょう?
「わしを好きゆう女なんぞ、古今東西探したところでおまんくらいのもんじゃ……おまんが特別じゃち言わざったら、どこにもそがなもんはないぜよ」
 ――全く、この人は。どうしてこんなにも私を喜ばせてくれるのだろう。お酒に酔って、いろんなものが緩くなっているのだろうけれど、こんなに熱烈に想ってくれているなんて、それを以蔵さんの言葉で聞くことが出来るなんて!
 息が浅くなるほど、胸がなにか、得体の知れないものでいっぱいになる。胸が熱くて、甘く痛んで、この人を自分のものにしたくなる。身体全てを使って抱きしめたい。今すぐに。
「ありがとう、うれしい」
 たまらなくなって、ショートパンツと下着から片足を抜く。全て脱ぎ去る時間さえ惜しかった。
立香、」
「入れても、いい?」
 以蔵さんのペニスの真上で馬乗りになって、Tシャツも脱いでしまう。返事の前にペニスに手を添えて私の入口へあてがうと、彼の顔を見ながら腰を落とした。
「まっ、ああっ!」
「んっ」
 内壁が擦られて、今まで大して触れていなかったこともあって、快感にじん、と中が疼く。それはあるいは痛みでさえあったかもしれないけれど、今の私には些事だった。だって、痛いのかもしれない、と思う程度なのだ。快感の方が強くて、さっきからもう、彼が欲しくて、その欲求が叶ったことの喜びが強くて。
 気持ちが萎むどころか、身体も心も、彼を受け入れたくて仕方がなくなっていた。
立香、おま、っ、なんちゃあ慣らしもせざらんと……っ!」
「だって、っ以蔵さんが、欲しくなるようなこと、言うからっ」
 彼の熱を収めて、腹の中が快感で蠢いているようだ。彼に絡みつき、私の中に快感をもたらしてくれるそれを歓迎している。
 今すぐにでも動きたいのを堪えて、少し待つ。彼の形に、中が馴染むように。
 股間の上に陣取って以蔵さんを見下ろす。何かを噛み殺すような息遣いは、余裕がないことの証左だった。
 自分の下腹部をそっと撫で、ゆっくりと、彼のペニスを扱くように前後に動く。
「んっ、ああああっ……いかん、ちや、立香、はあっ、あ、いかん、まっこと、あ、~~っ! あ、はっ、やめ、とうせっ」
「どうして? きもちよく、ない?」
「あああっ……!!!」
 彼の声は、誰がどう聞いても気持ちよさそうだった。上擦っていて、猫なで声を出す時でもここまではと思う程に高い声だ。掠れていて、色っぽくて。びくん、と彼の身体が跳ねるのを、繋がった場所で感じる。
「痛いろうっ」
「心配してくれるの? ありがとう、でも」
「そうやのうて……っ、おまんが、痛がっても……っ、抑えが利かんき、お、まんが欲しゅうて、ほしゅうて……っ! わしは、わしは……っふ、ぅ、止まれん、がじゃ……っ」
 荒い息の合間に吐きだされる言葉に、いいよ、と反射に近い速度で返事をする。以蔵さんが私を大切にしてくれていることなんて、もうとっくに分かっている。痛くないように、いつも散々身体を解されて、最後は訳も分からず快楽の海に沈まされて、抱き込まれて、甘い幸せを残す。それが彼のやり方だ。
 でも、そうじゃない彼も知りたい。それは、私の我儘でしかないけれど、彼にこそ受け止めてほしい。
「私が痛がっても……私が欲しくてたまらなくて、止められないところ、見せて?」
 言って、もう一度ゆっくりと腰を動かして彼の芯を愛撫すれば、以蔵さんの顔が変わった。何かを我慢するような切なげなものから、ふつりと、その視界から私が居なくなる。
「っ、きゃんっ!」
 下から突き上げられ、奥へずん、と響く刺激に中がざわめいた。彼の両手が私の腰を掴んで、自分の腰へ押し付ける。同時に彼の腰が、私へ打ち付けられる。
「あっあっ、んっ、激しっ、ああっ」
 鮮烈なまでの快感に、なにかをする余裕もなく、ただ嬌声が喉から溢れ出る。力任せに快感を貪るような彼の振る舞いに、ぞくぞくと背中を快感が走っていく。
立香立香……っ、欲しい、もっとじゃ、もっと、ほしい、おまんがっ、ほしい……!」
 うわ言のような言葉の羅列を紡ぐ声に余裕はなくて、私の最奥を穿とうとする以蔵さんの律動に、例えそれが私ではなくて彼の快感を追いかける動きであったとしても、彼に求められていることが、彼が乱れていることが胸に喜びの炎を灯し、私の身体を熱くする。
「いいよ、あげるっ、好きなだけ、っあ、あ、もっと、もっとして、もっと、いっぱい、気持ちよく、なってっ」
 彼の身体に覆いかぶさるようにして身体を折り曲げると、以蔵さんの嬌声を間近で聞くことになった。
「ああっ! 締まるっ……はあ、あ、っ、なか、こりこりしゆうっ……! うあ、気持ちえい……っ!!」
 私の腰に両腕を回してぎゅっと自分へ縛りつける。そうして何度か、私の中を味わうようにして腰を突き上げた後、以蔵さんは徐に動きを止めた。息は荒いままだけれど、まだ彼が達していないのは明らかだった。
 ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる彼の腕の力が、心地いい。急に快感がなくなって、身体は少し寂しいけれど……息を整えるのもやっとの様子に、流石に少し心配になる。
「だいじょうぶ? つらい?」
「ん……まだイきとうない……最後は、おまんが連れていきとうせ」
「つれていく……?」
 ねだる声に、勿論吝かではないけれど、どうしろというんだろう。私が以蔵さんをイかせたことなどないのに。
 疑問に思っていると、以蔵さんはころりと私とつながったまま、器用に上下を反転させた。まだベッドに彼の熱が残っているのを背中に感じながら、上から、酒気を帯びる彼の熱を浴びる。
 じっと、彼が私を見た。さっきまで、自分の快感を貪るようにして私を求めていた様子とは違う。私ときちんと目を合わせて、その金色の眼が、違わず私に狙いを定めたのが見えた。
 黙って、以蔵さんが緩く腰を動かし始める。それがどこか探るようであると思い至ったのは、彼が私のイイ所を見つけて、そこを責め始めた時だった。
「あっ、ん、やあっ、なんでっ、ああっ、だめ、そこぉ、いいっ、やああんっ!」
 力で強い快感を引き出す動きではなく、じっくりと、私のイイ所を何度も擦って、その度に甘く大きな快感で腰が砕けるような感覚を味わう。身体から力が抜けてしまう。
「はぁ、んっ……えいんじゃったら、だめやないやか」
 激しさはもうない。なのに、快感が身体の中で響いて、私が主導権を握ることを許さない。
「あ、はっ、さっき、みたいにっ、以蔵さんの、っ、すきに、動いていい、のにっ」
 勝手に上擦って嬌声になるのを押さえつけて、優しく揺さぶられながらそう吐きだすと、以蔵さんは私の言葉を鼻で笑い飛ばした。
「やき、好きに動いちゅうろう? んっ、こじゃんと好き勝手しゆう……けんど、おまんは、ほれが不満かえ……っ?」
「あっ、ああああっ」
 ぐりぐりと腰を押し付けられて、暖かな、そう、くっつけたシャワーヘッドからお湯が溢れるような快感の熱が繋がった奥から漏れ出す。腰が抜けて、最早自分から快感を追いかけようとすることも難しい。
 彼が私を見て、私と二人で肌を重ねようとしているだけで、こんなにも違うものなのか。
 快感が瞬きのように中で反応する。彼が動く度に、力という力を奪われるようにして甘く砕かれて行く。私に許されているのは彼の動きに合わせて啼くことと、彼がもたらすものを受け入れることだけだった。
「はあ……っ、おまんは、なんぞ思い違いでもしちゅうの……っ、ん、はあ、あ、出鱈目に腰振るがは、確かに気持ちえい……けんど、っく、ふ、ぅ……そがな、風にするがは、誰でも、えい、からじゃ、……っ!!! あ、っく、ぅ……けんど、はあっ、おまんは、特別じゃき……っ! 誰でも変わらんような、っ、抱き方、で、えいわけ、ないろうっ」
「ふああっ! やあっあっ! あんっ、あ、あっ!」
 アルコールの匂いと共に、熱い吐息が降り注ぐ。以蔵さんの低くて掠れた、でも時折上擦って、明らかに快感に負けた声の抑揚に、心が掻き乱される。好きな人にこんなに求められて、平静で居られるわけがない。快感を感じている場所が溶けそうだ。涙が滲んで、視界がゆがむ。
「ただ腰を振っちょったらえい言うんじゃったら、おまんはほんにわかっちょらんの……っ、あ、はあっ……っふ、えい、えい、おまんはそれでえいがじゃ……っ、けんど、っあ、知っちゅうかえ……? 確かに、腰振りゃ、わしは気持ちえい……けんど、っ、こうして……優しゅう奥を押しちゃれば……おまんの中がな、わしに吸い付いてくるんが……っ、よう、分かるがよ……竿ん絡みついて……先っぽを、口で……っ!!! あ、っ、くち、で、吸い付きよるみたいにっ……ん、ぁ、はあっ……して、ほいたら、おまんがえい声で啼くきの、っ、ああ……っ、ん、く、わしが、好きで、すきで……っ放しとうない言うちょるみたいで……っ、あ、っはあ……っもっと……こじゃんと言わせとうなるがじゃ……っ」
 以蔵さんの腰使いが徐々に激しくなる。声が押し殺せずに嬌声まじりになって、それがどうしようもなく彼が気持ちよくてたまらなくなっているのだと教えてくれる。
 私の気持ちが、この身体を通して彼に伝わって、それを快感として彼が受け止めてくれている。
 そう思うと、言葉にしがたいものが胸の中でざわめいた。
「おまんが気ぃ遣る時はな……っ、あ、わしを、道連れにしよるみたいやき、っわしは、いっとう好きじゃ……っ、ああ、っは……んっ、わしをきゅうきゅう締め上げて、おまんの中に引き込んで、全部持っていきよる……っ」
 へその下を以蔵さんの大きな手が撫でる。人の肌の熱がこんなに気持ちいいなんて、肌を重ねるまで知らなかった。こんな時に優しく触れてくる人だなんて、知らなかった。
 知ってしまったから、もう、欲しくてたまらない。
「ほに、柔こい肌やにゃあ……っ、こん中に、極楽があるがじゃ」
 とろり、と、表情は穏やかに笑んでいるように見えるのに、その目が妖しく煌めいたように見えた。
「おまんの極楽に、わしを連れてっとうせ……」
 こつん、と奥を突かれて、それが合図だった。
「あんっ、あ、あっあっあっ! あっあ、いぞうさん、以蔵さんっ」
「あ、あっ、えい、えいちやっ、立香立香っ」
 私の最奥を求めるように、以蔵さんの腰が容赦なく押し付けられる。かと思えば、腰を大きく引いて、雁首が入り口を引っ掻いたかと思うと、浅い所を彼の一番大きな場所でちくちくといじめられ、私は首を振って感じるしかなかった。
「やあああっ! やあっだめっ、そこ、ああっ、いいっ!」
 乱暴にされているわけではないのに、以蔵さんの動きに反して、私の快感の強さが大きすぎて。変にゆっくりと出し入れされると、もう、以蔵さんが分かる。その太い先端がどこにあるのか、中の気持ちよさだけで分かってしまう。そして再び彼が奥へ収まると、もう二度と放したくないとでも言うかのように、身体が大げさなほどに快感を拾ってしまう。
「――~~っ!!!!!!!!」
 声さえも出せないほど、それが甘く私の身体に広がって。
「ああんっ、いい、いいの、もっとっ、もっとして……っ」
 絶頂を求める私の声は、もう、理性のかけらもなかった。甘えるような粘度のある声は、最早彼を求めて、それしか考えられない生き物の本能がむき出しになっていた。そしてそれは、私だけではない。
 気持ちよくて、どうしようもなくて、以蔵さんが凄く気持ちよくなってることを感じて私ももっと気持ちよくて、終わりがない。高まるだけだ。
「はあっ、あ、あっ立香……っ、あ、にゃあ、いくか? いくじゃろ? あ、あっ、えい、もう、ああ、くる、招かれゆうっ、あ、立香立香立香っ」
「あんっ、あ、っ、以蔵さんっ、あっ、あ、あ!!!」
 ――以蔵さんに手を引かれるように、背を押されるように快感の頂きを貫いて。荒ぶるような快楽にあらゆる感覚をかき混ぜられた私は、ぎゅっと彼に抱きしめられて、意識だけが収縮するように引いていくのを感じた。
 白くフェードアウトするような感覚から戻ってくるのには、少しかかったと思う。
 未だ余韻が身体を支配する中、以蔵さんが身体を……腰をぴくんと動かして、断続的に達しているのを感じる。ぎゅっと中で彼が大きくなって、息が少し詰まるのだ。その刺激に私が身を震わせると、やっぱり酔いの醒めない彼から素直な嬌声が聞こえた。
「あっ……立香、締めなや……今、味わいゆうき……いかん、刺激が、つよすぎるちや……」
 まるで疲れたような声色だ。息もまだ荒くて、いつもよりもずっと血色がいい。耳なんて、未だに真っ赤だ。
「だって以蔵さんが先に気持ちいいことするんだもん」
「ぬかせ……行き成りわしを襲いよった奴が」
「元々以蔵さんが焚きつけたんだよ?」
 以蔵さんがいつになく荒々しく私の胸を揉んだりするから。と、彼の言葉になんとなく返してはみたものの、何の話をしていたのだったかと論点がずれていることに気づいたのは同時だった。ふふ、と笑みがこぼれる。以蔵さんの頭が私の胸の上に乗る。髪の毛がちょっとちくちくするけれど、そこから広がる彼の熱が好きだ。
「はあ……えい気分じゃ」
「気分よくお酒が飲めて良かったね」
「それもあるけんど……えい女がおるき」
 言って、以蔵さんは鼻先を私の同じ場所に擦り付けた。猫か犬がするような仕草にきょとんとしたのも束の間、上機嫌な彼の顔が間近にあって、息をのむ。
「わしはおまんのもんぜよ、立香。わしはおまんから離れられん。……側に置いとうせ」
 ちゅ、と口づけられて、思わず以蔵さんを抱きしめた私は、きっと悪くない。

2018/09/28 UP