この話には性描写が含まれるため、18歳未満の方や高校生の閲覧を固くお断り致します。

たまにはそういうこともある

「……あの、ノボリさん、……触っても、いいですか?」
「はっ!?」

 言うが早いか、今まで自分の身体をこすりつけていたその隙間に手を滑り込ませ、彼のパジャマのズボンの上を、力加減も分からないまま曖昧に這わせた。

「っひ! お、おやめくださいまし!」
「だって、……私だって、ノボリさんに気持ち良くなってほしい、です。いつもしてもらってばっかりだから……」

 男性はすごく敏感だというから、できるだけ刺激しないように、でもノボリさんに止められないうちにとズボンを下ろしてしまう。既にノボリさんのそれは勃ちはじめていて、私の喉がこくりと鳴った。ライブキャスターで友達と話していたことを思い出す。

「はあ? フェラがしたいとかアンタ珍しいこと言うわねえ。はっきり言って男のちんこなんてグロ指定よ? エロスとかリビドーとかじゃないわよあれホントグロイマジで。しかもさあ、前にお風呂入ってても適当に洗ったりですっごい汚いのよ! もうね、してほしいんならもっとこっちがしたくなるくらい綺麗にしてなさいってのよ! 全く信じられないわ! アンタはしたことも見たこともないから言えるのよ? わかってる? 実物目にしたらきっとドン引きだわよ? それでもしたいの? うん? そうねえ、いざとなったら一緒に入ってアンタが洗ったげるくらいしないとダメってのは知っておいた方がいいわよ。……うん。うん。ああ、それでやり方だっけ? そうね、とりあえず何はなくても歯を立てるのはNGだから、バナナで練習でもしたら? あ! 今呆れたでしょう? でもだまされたと思っていっぺんやってみなさい。アンタが思ってるよりずっと難しいから。歯を立てることがなくたって、その上で吸い付いてなめたり、ああそうそう、フェラってアンタの頭を動かさなきゃダメなのよ? その辺を意識して練習したら? ……御礼なんていいわよ。というか久しぶりに連絡してきたかと思ったらまさかフェラのやり方聞かれるとは思ってもみなかったわ。ああうん、まあアンタが彼のこと好きっていうのは十分わかったから。せいぜい上手くやりなさいよ」

 ……我ながら妙な方向への行動力というものには驚く。いや、でも、だって、いつもノボリさんにしてもらってばっかりだし、私だってなにかしたい。それに、されるばっかりで私が何もしないなんて、……飽きられる、とか、こう、心配することもあるわけで。
 そうしてもしかするとダイエットよりも頑張ったかもしれない私の成果を試す時が、今、来たのだ。と思うと妙なやる気さえも湧いてくる。私が、ノボリさんを気持ちよくして上げられるかもしれない。確かな昂揚感に、私はあらわになった彼のそれに唇を寄せた。

「っ、う」

 ノボリさんの下肢が強張るけれど、私を気遣ってか、彼が取り乱して暴れることはなかった。――ちゅ、とまずはキスを。声を、息をかみ殺そうとするノボリさんの咽喉がうなり声を飲み込んだ。初めてまともに目にするけれど、友達が脅すように言ってたようなものではないように思えた。……えっと、そりゃ、色とか、あの、だって充血するんだって聞くし、それなりのものではあるんだけど、その、そんなこと言うと私のだっていやいや!! 私のことはともかく、ノボリさんのはなんていうか、くさくもないし、汚くも見えなかった。ほんのりと彼が使ってる石鹸の臭いがして、お風呂上りの女性の石鹸の臭いをほめる男性の気持ちが分かった気がした。――それはともかく。

 まだいくらか柔らかさの残るそれは、けれど確実に熱を持ち始めていて、私は自分の覚悟を決めるためにもう少しいろんな場所に吸い付いた。

「、っく、……は、っ…ぁ」

 てっぺんから、徐々に付け根の方へ。時折舌でぺろりと舐めながら、音を立てて優しく、優しくキスを繰り返す。ひくついて、逃げようとしてるんだろう、ノボリさんの強張った体を追いかける。といっても、すでに壁際に追い詰められて、もう彼の逃げる場所なんてないのだけれど。

 少しずつ硬さと熱を増していくそれを前に、私は今度は付け根の方からその先へ、舌を這わせた。

「は、! あぁっ」

 たまらない、というように零れた声は、普段のノボリさんとは似ても似つかないほど扇情的で、余裕がなくて……大きくなった彼のそれから少し手を離すと、それは少しも下がることなくその場に留まった。少し視線を上げると、右手で必死に口元を覆って、顔を……私が見たことのないくらい真っ赤にさせたノボリさんが、いた。私の手が止まった隙に、彼の左手が私を遠ざけようと延びてくる。それに力がこもってないのを確認すると、私はそれよりも早く彼の勃ったそれを軽く握った。

「あ、……っく、ぅ!」

 ぎゅ、と私の目の前で彼の左手が握り拳を作る。そのままさまようそれを放置して、私は彼の先端に舌を乗せた。

「ぁ」

 小さく彼が声を漏らす。震えるそれを、かわいい、と思った。

「きもち、い、りぇすか?」

 摩擦で痛くならないように、唾液を注ぐように、塗りたくる様にしてノボリさんのそれにかけていく。伝い落ちていく唾液をやわやわと指先で全体に塗り広げるように動かすと、ノボリさんの鼻にかかった声が漏れた。はぁ、はぁと呼吸が荒い。荒いけれど、それが一定のものではなくて、私の刺激に連動して乱れるのが心地いい。息を詰まらせたり、我慢しきれずに声がもれたり、吐きだす息がか細く震え、その音が耳に届くと、もっともっとそれを乱したくなった。

 ちゅう、と口先で先端を吸い上げると、ノボリさんの身体が大きく跳ねる。普段はほとんど一切の表情も見せないのに、今はうっすらと力なく開かれた口元だとか、眉間に皺が寄るくらい眉を寄せて、けれどそれが切なそうに歪んでいるだとか、そういうことがはっきりと見えた。そしてそうさせているのは私なのだという、小さな満足感も。自分の口元が緩くなって、つい笑みの形を作ってしまう。ノボリさんにそれを指摘する余裕はなさそうだった。それをいいことに、随分と濡れた彼のそれを、今度は手を上下に動かして刺激をあげる。途端に、ノボリさんの口からかすれた、高い声が漏れた。出来ればくわえ込んだりもしてみたかったけれど、バナナよりも大きくなったそれに歯を立てない自信はなかった。

「……ふ、…くっ、や、ぁっ、やめっ」

 徐々に上ずっていくノボリさんの声が降ってくる。何とか私を引きはがそうとするけれど、こんな時ですら男女の力差というものを気にしているのか、どうしていいかわからない様子の彼の右手は私の髪をかすめ、乱しただけだった。

「我慢しないでください……ね? もっと、気持ちよくなって」

 たまらなくなって手を早める。彼にかける言葉さえ忘れそうになるけれど、それで構わない気もした。手の中の熱に引かれるようにして、追い詰められていく彼の声に導かれるようにして、手が早くなっていく。もっと、もっと彼が見たい。私の知らない彼が、誰も知らない彼が。傷つけないように、力を入れすぎないように集中していると、突然、彼の両手が私の肩をつかんだ。

「ッ」

 短い吐息の後、反射的に目を瞑る。ぎゅ、と掴まれた肩はものすごく強くて、少し痛かった。

「……はぁ、……っ、は、……は、ぁ」

 ノボリさんの荒い息がすぐ近くで聞こえる。同時に、その熱い吐息を感じて身体が震えた。顔には、なにか、熱いものが。

「……あ」

 恐る恐る目を開けて確認する。唇に、彼の出した熱がかかっていた。ぺろ、と好奇心で唇についているそれを舐めとると、……うん、なんていうか、苦い、とか、そういう言葉では言い表せない味がした。あんまり好んで口にはしたくない味だったことは確かだ。でも、……私が触ったことで、彼が感じてくれて、達してしまったのは嬉しかった。すごく。

「……ッ、まったく、あなたさま、と、いう、人は……!」

 頭のすぐ上でノボリさんの声が響く。怒気を含んでいながらも震えているのは、余韻のせいだ。それも嬉しかった。私の肩に食い込むかと思ったほど強かった手は、今はゆるく置かれている。

「私、気持ちよくできました?」

 結果はこの通りだけれど、聞かずにはいられなかった。ノボリさんはやっぱり顔を赤くしたまま返事に窮して、それからちらりと私を見て、固まった。

「……ノボリさん?」

 首をかしげると、ノボリさんは急に目が覚めたように慌てて

「も、申し訳ありません!」

 と叫ぶと、よほど焦っていたのだろう、パジャマの袖口で、私の顔についたままだった彼の名残をふき取った。……うんと、確か男性のって、こびりついてかぴかぴになっちゃうって聞いたような……?

「んむ、のぼ、り、さ」
「なんでございますかっ」

 力強くも決して痛くはない程度に私の顔を拭き続けるノボリさんに、私はもう一度さっきと同じ質問をした。ノボリさんは手を止めて、しばらくあー、とか、えー、とか彼らしからぬ声を出しながら視線をあちこちへとさまよわせた後、きっと私を睨め付けた。

「……どういうおつもりかは存じ上げませんが、きちんと責任は取ってくださいまし」
「え」

 どういう意味ですか、と聞く間もなく、ノボリさんは素早く私を横抱きにすると、私が下したパジャマのズボンと下着を乱暴かつ器用に捨て置くと、そのまま勢いよく彼の寝室へと飛び込んだ。半ばほうり落とされるようにしてベッドへ寝かされた私は、そこで見上げた彼にその意味を悟らざるを得なかった。

2011/11/06 UP