この話には性描写が含まれるため、18歳未満の方や高校生の閲覧を固くお断り致します。

Menophilia

メグルさまにお願いがございます」

 神妙な面持ちで切り出したノボリさんに、私はソファの上で三角座りをして雑誌を読んでいたのを正さざるを得なかった。

「改まって、どうしたんですか?」

 今までノボリさんからそう無茶なお願い事を聞いたことがない私はなんの気無しに促したのだけど、ノボリさんは珍しく視線を泳がせて言葉を詰まらせた。

 ……ノボリさんがそんな風になることは滅多にないけれど、今まで全くなかったわけでもない。

「ノボリさん?」

 躊躇する彼にさらに声を投げると、ノボリさんは険しい顔をしてそれから、

「申し訳ございません。あまりにも不躾で、一般的に口にするのは憚られるものと承知しておりますので」
「でも、それを圧しての『お願い』なんでしょう?」

 大体方向性としては察しがついたけれど、それでもピンと来てる訳ではないから、ノボリさんが言ってくれない限り私には彼の言いたいことがわからない。

 自分で言い出したことなのに渋る彼の背を押すべく、私は更に助け船を出すことにした。

「じゃあ、ノボリさんも私がお願いしにくいことが出来たら、ちゃんと聞き入れてくださいね? 交換条件です」

 『お願い』をきくことが前提になったけれど、まあ良いだろう。
 ノボリさんはそこでようやく安堵の息を漏らして、肩から力を抜いた。

「かしこまりました。それでは――」

 どこか落ち着きのない浮わついた声色でノボリさんが口にしたそれは、私の予想していた方向性のものでは一応、あったものの、予想を遥かに飛び越えたものだった。

「あなた様の経血をいただきたいのです」





 お風呂場と言えばひんやりしているものだけれど、ノボリさんの住むマンションは暖房も乾燥機もついていて、今は肌を撫でる空気も暖かい。

メグルさま」

 ノボリさんに抱き寄せられて、つい彼の腰をつかんで、自分の腰を引いてしまう。
 嫌なわけではないのだけど、恥ずかしいのと事情が事情だから私は上半身はぴったりとくっつきながら口を開けた。

「の、ノボリさん、身体、洗わせてください」
「お断りいたします」

 さっきまではまごついていた癖に、ノボリさんはやけにはっきりと断じてくる。
 大きくて暖かな手は労るように私の腰を撫でていたけれど、宜しいですか、という声と同時にお尻をやらしく触られて、咄嗟にノボリさんにしがみついてしまった。

メグルさま」
「で、でも汚い、です、よ」
「……それがよいのです、と申し上げれば、いかがなさいますか」

 落ち着いたようにも聞こえる声は私が緊張して気付かないだけで、本当は余裕のないものなのかも知れない。

「変わってます、ね」
メグルさまがそうさせるのです」

 頬を手の甲で撫でられ、そうっと近づいてきたノボリさんの顔にあわせて、私も顔をあげる。

「ん……」

 優しいキスに、裸で抱き合ってることへのギャップを感じてしまう。けれど、素肌の暖かさが心地好い。
 何度も柔らかい唇同士を重ねている内に力が抜けてきて、私はノボリさんの手に促されるまま、右足を腰掛けに乗せて、近くにあった手すりに手を添えて、壁に寄り掛かるようにして身体を支えた。

「ああ、経血でしっとりと陰毛が濡れてらっしゃいますね……」
「そ、そういうことは言わないでください……っ」
「これは失礼。念願叶ったせいか、少々気が昂っておりますので……ご容赦くださいまし」

 ノボリさんは少しの間私の内腿とVラインにキスをしていたけれど、手櫛で梳いていた陰毛ごとひだを掻き分けると、濡れたそこへと吸い付いた。

「っ、」

 この際、ノボリさんが私の生理周期を把握していることは置いておくとして、まさかこんなことを頼まれるとは思わなかった。
 生理中だけどシたいって言われた方がまだ幾分か逃げようはあったのに、こんなこと自体を目的にされたらイエスかノーかで答えるしかない。

 口周りを汚しながら、ノボリさんは丁寧にクリトリスを舌で弄ぶ。
 裸になって、お風呂場ってこともあって汚れてもすぐに洗えるけれど、先にそこを洗わせて貰えなかったから特有の臭いがするだろうにノボリさんは全く気にした様子がない。

 彼が行儀よく両膝をついて私のそこに顔を埋めているのがなんだかとても恥ずかしくて、そんなところからでてる血が舐めたいなんて言い出したノボリさんはともかく、それに頷いてしまった私自身の行動にもまだ現実味がなくて、ただただなんだかいけないことをしているような、されているような気がして、しかもその事にエッチな気持ちになってしまってることが更に私の気分をおかしくさせる。

 ちゅ、ちゅく、ちゅば、と彼の舌先と唇に優しく蹂躙されて、腰がやらしく動く。なんとか吐き出した息は震えていて、声は出さないまでもぞくりと肌が震えた。

「、っ……」

 ぴちゃ、と音が響く。
 恥ずかしくて、少し怖くもあるのにノボリさんから目が離せない。彼は時折目を伏せながらも私の下腹部をじいっと見つめて、その口角が何時もより上がっていると気づいた直後、彼と視線がかち合った。

 びくり、と身体が揺れる。ノボリさんの手が離れて、彼の舌が唇をなぞった。血の赤さが白い肌によく映えて、それを目で追ってしまう。

 そのせいで替わりとばかりに差し込まれた指に気づけなくて、必要以上に身体が跳ねた。

「っひ、!」

 強張った身体を気遣って、ノボリさんは私の声にすぐ動きを止めてくれた。

「痛いですか?」
「……痛くは、ない、です」

 見とれていたとも言えなくて、私は視線をさ迷わせてそれだけを言うのがやっとだった。
 それをどうとったのか、ノボリさんは再びクリトリスに吸い付きながら、指をゆっくりと動かし始めた。

「はぁんっ……」

 明らかに初めの目的からずれているけれど、わざわざそれを私が指摘するのもなんだか舐めて欲しいって言っているみたいで気が引ける。

「あ……っ、ん、は……ぁ、あっ」

 ノボリさんの柔らかい舌がちろちろとクリトリスを弄って、暖かくて凄く気持ち良い。
 同時に探るように動く指は内壁を擦るように捻りながら曲げられて、時々ピストン運動が入る。
 どちらもゆっくりで、嫌でもその動きに集中してしまって、何時もよりもずっとノボリさんが触れているそこがどうなっているのか、どうされているのか分かってしまう。

「あっ……やぁん……」
「嫌ですか?」
「……そういう、意味じゃ……ぁあんっ」

 怖さよりも、もう気持ちよさの方が勝っている。
 それが見てとれたのだろうノボリさんは、満足そうに口角をあげた。

メグルさま……そのように淫靡なお顔をされては、わたくしも抑えが利きません」

 ノボリさんが抑えが利いたことなんてなかったくせに。そう言ってやりたいけれど、もう半ばソノ気になってしまった私はただ彼の熱を孕んだ吐息にうっとりとして、

「っん、! あ、ああっ、ああああ――っ!!」

 一気に早くなった彼の指に与えられる刺激のまま、だらしなく声を出すしかなかった。
 ひくひくと指を締め付けているのが分かるせいで、引き抜かれる時まで感じてしまう。

「……ぁん……」

 ぞくりと肌を這った余韻に、腰が動く。
 ノボリさんの手は勿論私の血で赤くなっていて、それを丁寧に舐め取る彼の舌をつい目で追いかけた。

メグルさま」

 名前を呼ばれ、彼の濡れた手が私の唇をなぞって――え?

「ん!?」

 思わず引き結んだ唇に、ノボリさんの大きな口が被さってくる。
 ふん、と血の匂いがして、思わず眉をひそめた。

メグルさま……」

 うっとりとした声に流される余裕もなく、必死で開けまいとした口をノボリさんが優しく攻めてくるのに耐える。
 いつもみたいに強引にこじ開けられることもなく、私の唇を散々味わったノボリさんのそれは名残惜しそうにちゅう、とリップ音を立てて離れていった。
 と、思って気を緩めた直後、まるでさっきまでの動きは練習だと言わんばかりにノボリさんの舌が唇を割って入り込んだ。

「んんっ!? ん、ぅ、っ、ふ、ちゅ」

 強く抱き寄せられ、頭も固定されて、唯一私たちの身体の隙間に挟まった手で懸命に彼を押し退けようとしたけれど無理だった。
 いつもと違う味を嫌でも分かってしまう。
 血を舐めたことがないとは言わないけれど、これはモノがモノだ。

 うっとりなんてできるはずもない私はされるがままになって、思う存分口内を舐め回して吸い付いて好き放題しきったノボリさんから解放された頃には、血もなにも分からなくなっていたとはいえ涙目になっていた。

「ひどい……」

 口をすすぎたいと言っても聞き入れてはくれないだろう。
 ぶすくれている私にノボリさんは申し訳ありません、と口先だけの謝罪をしながら、頬に、こめかみにとキスを落としてくる。
 同時に下腹部に押し当てられた彼の……その、熱いものに、いつもそれを受け入れている私の奥がきゅう、と疼いた。

 それを我慢して、私は腰を引く。そこにできた空間に手を滑り込ませて、彼の半ば勃起しかけていたそれを撫で上げた。

「っ、メグルさま、」
「仕返しです」

 ノボリさんの腕から抜け出して、まだ乾いている出口を舌で丁寧に舐めて濡らすと、彼の上ずった声が聞こえた。
 上目に確認すると、顔を真っ赤にしているのが見えた。
 初めてのことじゃないのに、と思うけど、何回やっても恥ずかしがるのは私も同じ。

 まだ柔らかさを残す彼の竿を根本から丁寧に舌で舐めて、口に含んで優しく吸い上げて、たくさん唾液をつける。
 むく、と少し大きくなったそれにキスを繰り返して、手でしごき始めるとノボリさんの切な気なため息が落ちてきた。

 大きな手で、頭を撫でられる。
 その動きとは全く違う早さで脈打ち、完全に勃起して反り返った彼の陰茎を見て、私は知らず口元を緩めていた。

 力加減に気を付けながら亀頭を親指の腹でいじめてあげる。

「はぁっ……っく、メグルさま、」
「ノボリさん、先から溢れてきましたよ……。気持ち良いですか?」
「っ、ええ、……っ、とても」

 彼の返事に気をよくした私は彼の先走って溢れだしたのをちゅ、ちゅっと吸い付きながら、少しずつ口のなかに溜める。それからおもむろに立ち上がって、ノボリさんの唇めがけて飛び付いた。

「っん、ぐ」

 前屈みになっていた彼の頭を逃すまいと、しっかりと腕を回して引き寄せる。
 舌を出す余裕はなかったから、そのまま唇を押し付けて無理矢理口を割らせる。そうしたらあとは口から溢しながら彼にも味わってもらうだけ。

「っふ、ん……ぐ、ぅ」

 聞くからに嫌そうなノボリさんの声が、キスとも言えないような絡み合いの合間から漏れて出てくる。
 私の舌を彼の舌に擦り付けるように突きだして、混ざりに混ざったその味にそろそろ頃合いかなと離れると、ノボリさんの苦しそうな咳がこぼれ落ちた。

「っぐ、……メグルさま、なにを」
「言ったでしょう、仕返しだって」

 どうだ、とばかりに笑みを浮かべて見せると、ノボリさんはもうたくさんだとでも言いたげに、申し訳ありません、と今度は反省したように声を絞り出した。

「……わたくしが申し上げることではありませんが、よくこんなものを舐めてくださいますね」
「今日に限っては、それはこっちの台詞です」

 堪えきれずに噴き出すと、ノボリさんはキョトンとしたあと、そうでしたね、と口元を歪めた。

「……ときにメグルさま」
「はい?」
「最後まで始末はつけていただけるのでしょう?」

 ぐい、と腰を引かれて、私が育てたノボリさんの熱が下腹部に当てられる。

「あ、ゴム」
「いえ、本日は挿入は結構ですので……その」

 言い淀んだノボリさんは、ねだるように小さな声で、す、素股をお願い致します、と囁いて顔を赤らめた。

「でも、ここじゃ床が」
「マットでしたら用意してございます」
「……準備良すぎませんか」
「こんなこともあろうかと」

 ノボリさんの場合、用意周到というよりは何だかんだで目的は必ず達成するつもりでいたんじゃないだろうか。でもまあ、私なら聞き入れてくれるだろうと思ってくれていたとしたら、普段甘えるなんてこととは無縁そうなノボリさんがと、その内容はともかく嬉しくなるのも事実なわけで。

「……じゃあ、横になってください」

 そっとノボリさんの胸を押すと、お風呂用のマットに仰向けになったノボリさんは眩しそうに目を細めた。
 お風呂場の照明は電球色だから暖かみのある色だけれど、お風呂場のタイルが黒いせいだろうか。
 その上にまたがってバードキスを数回。私の腰を撫でるノボリさんの手に促されるようにして、位置をずらした。
 ノボリさんに指でいじられたからもう太ももの方まで汚れている。けれど、開き直った私はマットに膝をつけたまま、ノボリさんの竿に私の血を塗りたくった。

 ぬるりと、私には嫌な感触も、ノボリさんには気持ち良いみたい。
 熱くて固くなったものがぴくぴくしてるのがよくわかる。

「ん……ノボリさん、痛くないですか?」
「は……とんでも、ございません…っも、っとっ……汚して、ください、まし……っ」

 私のひだでノボリさんの竿を包むようにして何度もゆっくり腰を動かしていたけれど、あんまりうまく動けなくて、私は膝立ちをやめて彼の上に座り込んで、半ば押し付けるようにして腰だけくねらせた。

「はぁ、っ」

 びくりとノボリさんが震える。力の入ったお腹に手を添えて、手でするときみたいに大きく動いたり小刻みに揺らすようにしたりを繰り返していると、ノボリさんが急に上半身を少しだけ起こして私の腰をつかんで、自分の腰を強く押し当てた。

「ふっ、う……!!」

 びくびくと彼の陰茎が震えているのが分かる。じっと目を落とすと、吐き出した精が彼の下腹部にへばりついていた。
 そうっとノボリさんに手を放すよう私の手を添えて、まだ少し余韻に浸っている彼の脇に退く。
 精液を指で掬って、私の血で汚れた彼の亀頭に撫で付けた。

「っあ、」

 無防備なところに敏感なものを触られたせいか、ノボリさんの口から普段聞けないような鼻にかかった高めの声が漏れた。可愛くて、キスしながら残りを絞り出すように手を根本から先へと動かすと、彼は切な気に鳴いた。

「気持ちよかったですか?」
「………はい…」

 とろんとした顔が可愛くて、そう言えばいつもはノボリさんに攻められてそれどころではなくなってるから、ここまで彼のシテるときの顔は見たことなかったな、なんて思う。

 流石に血塗れのを口で綺麗にする気にはなれなくて、洗面所からティッシュをとって、精液を拭き取った。
 シャワーを暖かくして、汚れを落としていく。
 ノボリさんはまだ少し締まりのない顔で石鹸をスポンジで泡立てると、それを私に塗りたくった。そのまま、目に見えて甘えるように私を抱き締めて、手を滑らせた。

「……本日はありがとうございました」

 緩んだのは口元も同じで、心底安心したような空気のノボリさんに、私の心もまったりとしてくる。

「どういたしまして。……今度は、私の番ですからね?」
「かしこまりました」

 何処か心待ちにしている様子のノボリさんに、さて何をお願いしようかと画策しつつ、私はシャワーで口をすすいだ。

2012/02/22 UP