この話には性描写が含まれるため、18歳未満の方や高校生の閲覧を固くお断り致します。
すけべをしたふどさにに
「で、なんにもなかったってわけか。大将、据え膳は食わねえと。いや、この場合鴨が葱背負ってきたって奴かな」「あのねえ、寧ろあそこまでいって健やかに寝た私を褒めてやりたいくらいよ」
翌朝、私は不動を見送って身支度を調えると、薬研の元へ突撃していた。突撃も何も近侍なのだからすぐ隣の部屋なのだが。
にやにやと、まるで反省の色が見られない近侍に怒る素振りをすると、口先だけの謝罪が来た。
「でも今日の晩も約束したんだろ」
「それは……まあ」
「躊躇ってんならいっそ先に俺と試してみるか?」
「薬研と?」
「俺じゃなくてもいいが、本当に性欲を持て余してるだけなら別に不動じゃなくてもいいだろ」
「うーん」
薬研をじっと見つめて、あちこちに目線をやる。不躾な品定めにも等しい視線にも、薬研はからりとした表情で私の返事を待つだけだ。
「……そりゃあ、まあ、誰にしたって自分が手ずから顕現させた刀剣男士のことは信用してるよ。信頼があるとも思ってる。みんなのことは人としても魅力的だって感じる。でもなあ……世の中の人全員が「いいよ」って言ったとしても、現状下心があるのは不動だけなんだよ……他の人でその気持ちを確かめるのも気が引けるし……」
「不動とどうにかなるよりもか?」
「……。うん」
「なら答えは出てるじゃねえか」
そう。答えは出ている。というか、昨日の晩、不動と同じ布団で寝てそう結論づけた。私がそれを答えに据えるのを躊躇っているだけだ。
だって私は審神者で、相手は自分の刀剣男士だ。種類や程度の差はあれど、主たる私を皆慕ってくれている。不動は特に修行が終わってから、今までのことを挽回したいとでもいうかのように頑張ってくれているし、応えようとしてくれている。だからこそ私から言うのが躊躇われるのだ。
「パワハラの文字がちらつく……不動から手を出してくれないかな……」
「そんな下剋上めいたことをする気はないと思うがなあ」
「えっ そんな大それたこと?」
「逆に大将に選ばれたら栄誉なことだと思うぜ」
「そうなの……?」
よく分からない。いっそ立場が逆だったら気軽に言えたのかも知れないが、でもやっぱり不動が相手なのだったら軽率に行動するのは駄目な気がする。
「ま! こういうのは当人同士で話つけるもんだ。外野がこれ以上口出すのはやめとくよ」
「うん……」
「ところで大将、そろそろ保管期間が過ぎた書類の処分があったよな? すすんでるか?」
「あっ」
やばい。審神者という職務柄、扱う情報の取り扱いはかなり慎重に行う必要があるため、処分の方法も特殊だ。年に一度、政府所属の刀剣男士立ち会いの下、各本丸にて焼却処分することになっている。戦績や特殊な任務、催事などの細々とした記録は基本的に政府も把握しているが、本丸に保管しているアナログな諸々はかさばるばかりなのだ。他にも不要になった紙類は多い。
「だと思って、得意そうなヤツを見繕っといたぜ。執務室で手伝うように言ってある」
「流石薬研!」
本当に陰に日向に頼りになる近侍である。
満面の笑みを浮かべて感謝を示した私に、薬研は器用に片眼を瞑って応えた。
――ところまではよかったのだが。
「主、体調はどうかな?」
出陣と内番などのスケジュールを組み立てて部隊を見送ってから、執務室にうきうきで入った私の目に飛び込んできたのは、既に書類の選別を始めて暫く経っているだろう不動だった。
脳裏に薬研の器用なウインクが過る。や、薬研~~~~っ……!!!!!
「大丈夫。夢見も……夢なんて見ないくらい朝まであっという間だったよ。毎日気に掛けてくれてありがとうね」
ちょっとビクッとしてしまったけど、手伝いや気遣いが嬉しいのは本当の気持ちだ。心を込めて伝えると、不動ははにかんだ。
「当然のことだよ。同じ人の身体とは言え、主とは御役目も違うからね。それに、深く眠れたみたいでよかった」
目尻が下がり、柔らかく笑う。……本当に、朗らかになって。
真面目さ故に自分をずっと傷つけていたのだと改めて思う。そして、彼が前を向いていくために少しでも力になっていたのだとしたら、これ以上に光栄なことはないとも。
こうして普段話しているだけなら、私の下心が後ろめたいだけで、不動に欲情するなんてことはないのに。
「おかげさまで。じゃあ、ちょっと骨が折れるけど今日は書類整理がんばろっか」
「そうだね。政府からの戦績の定期報告書は最新のもの以外は破棄して大丈夫かな?」
「それでいいよ。助かる。まだ手をつけてないのってどこ?」
「それなら主が普段政府に書いてる報告書の控えが――」
「……はああああ~~~~~疲れた……」
「お疲れ様」
書類の分別をして、その流れでそのまま整理して来年に備えようってなって、ファイリングとラベリングが止まらなくなって、そうこうしているうちに政府から派遣された刀剣男士が来てくれて慌ててお焚き上げをして……。
主に短刀達が気を利かせてくれたおかげで、私はどうにか乗り切ることができた。主に出迎えとか時間稼ぎという名の話し相手とか庭でのお焚き上げの準備とか……。
不動にもそろそろだよって言われていたのに単純作業が楽しくなってしまって適当に返事をしてしまったせいなんだけど、それさえも不動が汲んでくれて手配を済ませてくれていたのは本当になんというか……頭が上がらない所の騒ぎじゃない……。
「不動、今日はありがとう。後で他の皆にもお礼しよ……」
「いいよ。主が作業自体にすごく没頭してて、生き生きしてるなって思ったから、とめられなかったんだ」
「不動……」
なんて良い子なの……! いや決して子ども扱いしているわけではないのだけど!
「あとで私の秘蔵のお菓子食べようね」
「……! う、うん!」
ぱあ、と花開くように笑顔を見せてくれた不動に、私は癒されるばかりだった。
……だから油断したとも言える。
「ふ、ふどう……」
「……」
――不動の目が据わっている。というより、焦点が怪しい。
「う……主……」
はあ、とたまりかねたように吐き出された息は、熱と共に仄かなお酒の匂いがした。
お酒入りのバターサンドとプリン……美味しいって言って食べてくれてたから大丈夫だと思っちゃった~~~!!!
お酒が好きな刀剣男士は一定数いる。そこまで好きではなくとも、嗜む程度には飲める刀ばかりで、苦手に感じている方が珍しいくらいだ。
不動は……修行から戻ってからは、甘酒を断っていたと聞く。私が見ていても、見ていなくても。
でも、宴会のときは楽しげに少しだけ口をつけて、他の刀と付き合っていたのも見たことがある。だから、禁酒をしているわけではないはず。
それに、お酒が入ってるお菓子だけど美味しいよと私が勧めると、不動も興味があるような素振りをして食べてくれて、丁寧な食レポまでしてくれたのだ。
だから、こんな風になるなんて思ってなかった。
「だ、大丈夫? 暑いなら首元緩めていいよ、……」
口数が少なくなって、ふうふうと顔を赤らめている不動に伸ばそうとした手をとられ、ほんの数秒、見つめ合う。
不動は逆の手で器用にネクタイとシャツのボタンを緩めながらも、私から目を離すことはなかった。
少しだけ私の方が不動を見下ろしている。だから、不動の顔をみているということは、その露わになった首筋や鎖骨まで見てしまうわけで。
「あ、……!」
カッ、と、身体が熱を持った。
私の動揺を見て、不動は黙って私を見たまま……シャツだけでなく、ベストのボタンまで外し続けた。
「……不思議だったんだ。主の様子がおかしくなったのは、俺達が中傷で帰ってきた日だった。別にそのこと自体は珍しくはなかったけど、あの日、修行を終えて初めて中傷までやられたのは俺だけだ。だから……俺は修行前の褒められたものじゃない態度のこともあったし……主が、俺のことをやっぱり至らない刀なんだと思ったんじゃないかって、ほんの少し不安になった。
でも、そんなはずはないんだ。
貴女はそんな人じゃない。でも、多分主が動揺しているのは俺が原因じゃないかって言うのはなんとなく感じていて……。ねえ、貴女が昨日言っていたことを、俺の都合の良いように考えてもいいのかな」
つつ、とボタンを外したために露わになる不動の肌は、ほどよく筋肉がついていて、浮き上がった鎖骨も、首筋も、少年と言うには完成されていた。
「主」
不動は私から目を逸らしていない。でも、私の目は彼の身体を彷徨ってしまって、だから、
「貴女は昨日、俺に触れてどう思った?」
――きっともう、不動には全て暴かれたのだと、観念するより他なかった。
「ふ、ふどう、」
不動が私の手を引いて、自分の肌へ触れさせた。指先から不動の熱が伝わって、私は年甲斐もなく取り乱していた。
「あ、私は、」
決して敵意のあるものではないけれど、不動は私をじっと見つめている。アルコールのせいで少し据わった目つきは、まるで私の心を射抜くようだと思った。
じっと私の言葉を待つ態度とは裏腹に、不動は自分の肌に触れさせていた私の手を取り直して、手の甲に頬を寄せる。その仕草は蠱惑的で、くらくらと目眩を覚えるほど。
「……また俺に触れてもいいよ。でも、今度は……貴女を離してあげられそうにないんだ」
二の句が継げないでいる私に助け船を出すかのように不動が言う。けれど、先ほどボタンをするすると外していった手はついに不動の羽織紐を摘まんで、ゆっくりと、けれど呆気なく解いてしまった。
はくはくと、唇が動く。何を言えば良いのかも分からない。ただ、不動の姿に色香を感じていることだけは確かだった。
「修行に行く前はそんなことなかったのにね。……単に着崩してるんじゃなくて、たまに『そう』なのが好きなの?」
不動が囁く。そこで漸く意識が不動の顔へ戻った。
不動は私を見たまま、とろりとした顔で笑っていた。
「でも、俺が知る限り……貴女がこんなに狼狽えるのは俺にだけだね」
まるで、それが堪らなく嬉しいんだと言いたげに、不動は言った。
それで正解なんだと思う気持ちと、そう思うからこそ誰かにこれが間違いじゃないって、あるいは間違いだって断じて欲しい気持ちがわき上がる。
不動はそれ以上口を開くことはなかった。
ただ私を、さっきより穏やかな表情で見つめ続ける。
不動の手と頬に挟まれていた自分の手をゆっくりと引き抜いて、自分の膝に置く。
「……不動と……えっちがしてみたいです……。でも、昨日一緒に寝て、触れてみて……恋愛感情なのかはよく分かりません……でした」
自分でも酷くのぼせ上がっているように思われて、結局私ができたのは堅く目を瞑りながら、俯きぼそぼそと正直に腹の内をさらけ出すことだけだった。
昔、切腹は自分が腹黒でないこと――二心がないことの証明だったという。
だったら、私が今やったこれもまたある種の切腹ではなかろうか。証明する相手は、人間ではなかったけれど。
「……ふふ」
毅然とした態度を取ることもできず、かと言って欲望を耳障りのよい言葉で包むには下心が勝った。そんな私の姿はきっと情けないものだっただろうに、不動はしばらくの間をおいてから唐突に笑った。
思わず目を開けて顔を上げると、目尻を下げて柔らかく微笑む不動がいた。
「ごめんね、笑っちゃって……。主らしいなって思ったら、急に……これが愛おしいってことなのかな」
お酒が入っているのもあるのだろうけど、不動は多分、ご機嫌だった。
そして私は多分、きっと、しくじってない。
それだけをなんとか理解する私に、不動はさっと服の乱れを直すと、私の直ぐ側で居住まいを正した。
「今晩、改めて貴女を訪ねるよ。……もし俺を中に入れてくれるなら……式神を一体、部屋の前に控えさせておいて欲しいな」
今日は添い寝じゃないからね、と言い放って、そして「俺も酔いを覚ましてくるよ」と迷いなく部屋を辞していった不動の背中は、やけに大きく見えた。
その後のことは、あんまり覚えてない。
******
これってもしかしなくてもそういうことだよね?! と薬研に言うこともできず、私は延々と不動に言われた言葉と音を頭の中で繰り返しながら、ふわふわした気持ちでベッドへ入った。出陣した部隊の出迎えも、夕飯も、入浴も、明日の準備もしていたような気がするが気づけば一日が終わろうとしている。
にもかかわらず、不動を迎えるべく式神には不動がきたら中へ入れるように指示をしてあるのだから、私はなんと欲に正直な人間なのだろう。
緊急時以外で刀剣男士達が私の部屋に入ってくるようなことはないし、入って来られないようになっているから、私の意思表示としてこれは了承の合図に他ならない。不動もそれを分かって乞うたのだ。
布団をきちんと被って、ドッドッドッドッ、とうるさい心臓の音に更に緊張と羞恥が加速していく。なのに、扇情的な不動の姿が浮かんではじわりと身体に溜まっていく熱は冷めず、どんな風に触れられるのだろうと思うと、胸の中がはち切れそうな感覚で、震えながら息を深く吐いた。
まんじりともできずにいると、そのうちに足音が聞こえた。控えめながらもゆっくりとしたそれが不意に止まり、少ししてから襖が開く。
来た。
明かりを落としていてはっきりとは見えない。でも、気配を殺すことなく近づいてくる足音にそっと目を開けた。
仄かに差し込んでくる月明かりが、どうにかそこに誰かがいると知らせてくれる。
入ってきた影は少し上半身をかがめて……そうして直ぐに、部屋の隅に置いていた行燈が仄かに明るくなった。そして、光が彼の輪郭を照らす。間違いなく不動だった。
「こんばんは。俺を部屋に入れてくれてありがとう。……俺は大丈夫だけど、主だけが見えてないのは不安かなと思って」
布団にくるまる私を見て、不動は小さく笑みを浮かべた。まるでこれから出陣するかのような出で立ちをして。
私が布団を捲ると、心得たように不動がベッド端に腰を下ろす。そして、依り代の短刀を丁寧に枕元のサイドテーブルへ置き、羽織を脱いだ。
一連の動きを見つめる私の視線を受け止めながら、不動が少しだけ悪戯っぽく笑う。
「……貴女が脱がしたいかと思ってね。どうかな?」
だから敢えて着込んできたのだと言われて、私はいたたまれないやらなんやらで顔から火が噴きそうだった。
「べ、別に脱がしたいとかそんなことは」
しどろもどろにそう返すのがやっとだ。
不動は私の返事を聞いても、特に驚いたりはしなかった。ただ、少し笑みを深めて。
しゅる、とネクタイを緩めて、昼と同じように片手でベストとシャツのボタンを緩めていった。
もう片方の手をベッドへ置いて、身体を捻りながら私を見下ろす。少しだけ感じる彼の重みと共に、仄かにいい匂いがした。
「俺は脱がせてもいい?」
「へ、」
「それとも……着たままがお好みかな?」
ボタンを外しきった不動の手が、今度は私のTシャツの上からそっと肩に触れ、胸の膨らみへ向かって指先が動いた。
昨日はしていたナイトブラを、今日はしていない。
無防備に不動を迎えるために布団を捲ったことと併せて、下着を身につけていないことをどういうふうに受け止められたのかを理解して、私は急に羞恥に見舞われた。
何を言っても駄目なような気がして、不動から目をそらす。けれど、不動は寝そべる私に添い寝でもするかのように、ぴったりとくっついて、同じように横たわった。
とてもじゃないけど向かい合うことはできなくて、気恥ずかしくて身をよじる。そんな私の動きに合わせるようにして、後ろから脇の下を通って不動の手が、Tシャツの上から私の胸を包んだ。親指と人差し指が優しく私の乳首を挟んで、様子を窺うように布越しに擦ってくる。
「っ、あ……」
ため息のような嬌声が漏れた。背中に不動の胸板と体温を感じる。抵抗こそしないものの、昨日と違って躊躇いのない不動の動きに、耐えるようにじっとしていた。
「気持ちよくなろうね」
私の耳に囁く不動の声は少しだけ掠れていて、いつもよりも少し低くて、期待と興奮がぞくりと腰を這う。やり場のない手を不動の手の上に重ねても、すりすりと乳首を指で撫でられて、ぴくんと手を丸めてしまう。
両手で両胸を揉まれて、たまに爪先で柔らかくなった乳首を引っ掻くような動きで刺激されると、声と共に身体が跳ねた。
それが痛みによるものではないと不動にも分かるのか、動きは止まる気配がない。それどころか、不動の唇が私の耳たぶを舐めて、大げさなほどに声を上げてしまった。
「ぁあんっ!」
ぎゅ、と不動の手ごと身体を縮こめてしまって、自分でも驚くほど感じてしまったのが恥ずかしくなる。
「かわいい」
「っ……ぁ、」
不動に囁かれて、乳首を弄られながら耳から首筋を舐められる。逃げるように身をよじっても、不動は全く気にせず、気づけば私は不動と向かい合って、その胸に縋るような姿勢になっていた。
「ん、んっ……はぁ……みみ、だめ……」
「ん、」
「んぁ……っ、あ、ああんっ……」
首筋を舐められ、吸い付かれて、不動の腕の中で身悶える。咄嗟に不動の肩に手をのせたけれど、押しのける意図がないのは直ぐに分かったようで、不動は私のTシャツをたくし上げると、そのまま露わになった乳首に吸い付いた。
「あ、はぁ、ああっ」
引き出されていく快楽にびくびくと肩が揺れる。ちゅ、ちゅ、と微かに音を立てていたかと思ったら、激しく舌先で嬲られる。もう一方の乳房は直に揉まれて、休む暇がないほどの気持ちよさが身体の中に溜まっていく。
声を堪えても同じ事だ。私の声しかしないのが恥ずかしくて抑えようとしても、快感に集中してしまって、寧ろより乱れてしまう。
私の息づかいや身のよじり方で察しているのか、不動はあっという間に私がどうされれば気持ちいいのかを学んでしまったようだった。
くりくりと執拗に乳首を指で挟まれ、口で吸い付かれて。いいように両胸をこねられて、それ以外にはまるで手をつけないでいた不動は、私がもどかしさに腰をくねらせる頃になって漸く片手を私の下半身へ伸ばした。
円を描くように太ももを撫でられ、時折上がってくる指先にショートパンツのゴムが引っかかる度に腰が浮く。その間にも口と舌による胸への奉仕は止まることはなく、私はびくびくと身体を跳ねさせ、ときによじりながら、不動が早く秘部へ触れてくれるのを望んでいた。
はやく、はやく。
内股を丁寧に撫でられ、足を開かされていくその時間さえもどかしい。でも、不動が私の挙動に集中しているのは感じていた。私を喜ばせようとするばかりの手管がその証拠だ。
だからもう私が先を望んでいるのは分かっているだろうに、不動は私の身体の反応を見ながら漸くショートパンツの裾から手を入れて、下着越しに私の秘部へ指先を潜り込ませた。
「ぁん……っ」
じわ、と湿った熱気の籠もったその場所で、指先が焦れったい動きでかりかりと下着を引っ掻く。布伝いにクリトリスにまで響いてくる感覚に喘ぐと、不動の指は大きく上下に行き来し、入り口とクリトリスを刺激した。
「ふど……も、っとぉ……っ」
「うん……すごいね、ここ……とろとろになってるよ」
「ふぁあん……っ」
下着をずらされ、不動の指が直接私の秘部をかき混ぜた。くちゅ、と水音がたって、不動の指が小さく探るように動きながら、中に入ってくる。
「ああ、ぁ……っ、く……ぁあっ」
濡れそぼったそこは痛みもなく不動の指を受け入れて、漸くもたらされた摩擦がまき散らした快感で私は腰を揺らした。
「あぁ……それ、あ、」
くちゅくちゅと音を立てながら動く不動の指に感じ入っていると、不意に私の両胸が開放された。
その代わり。
「やあんっ!」
不動がさっと私の足の間に顔を埋めて、クリトリスに舌を這わせていた。手と同じように下着を大きくずらした状態で、なんの躊躇いもなく。
「やあっ、ふどう、っそれ、やだやだやだ……あっ」
あまりにも倒錯的な光景にくらくらした。柔らかな舌先でぬるぬるとクリトリスが弄ばれると、あっという間に私の意識は快楽に飲まれた。ぬかるんだ膣を彼の指がかき回して、さらに容赦なく私を高めてくる。
一本だった指が二本になり、それが卑猥な音を立てて三本になる頃には、私はただただ不動から与えられる快感に酔いしれていた。
中に深く指を入れられたまま、バラバラに指が動く。かと思ったら、私が感じた場所をとんとんと指の腹で叩かれて、三本も咥え込んだ入り口での焦れったい快感も重なった私は腰を激しくゆらして達してしまった。
「~~~っ……! はぁ……はぁ、は、……んっ……」
快感も引かぬまま指を抜かれて、余韻に震える。甘く虐められていたクリトリスから漸く不動の口が離れたかと思うと、下着ごとショートパンツをずりおろされた。
不動が、スラックスのファスナーを寛げるのが見えた。当然、ずらされたそこから出されるものなど分かっている。
「主……もっと気持ちよくなってね」
服をずらされただけの私の足は開くこともできず、膝を折って秘部を晒す姿勢しかできない。その向こう、くしゃくしゃになったシャツに隠れていたけれど、薄明かりの中で僅かに垣間見た不動のそれは、立派に勃ち上がっていた。
「んっ……」
不動の吐息と前後して、勃起したペニスの先が私の熟れた場所へあてがわれる。それだけで、指とは桁違いの質量を感じた。
くちゅ、ちゅぱ、と何度も先端が私の恥部を擦る。彼の先走りと私の愛液に塗れたペニスは、同時間をおくこともなく、直ぐに私の中へ潜り込んだ。
「ああ、あぁああっ……!」
「く、っぅ」
めり込んでくる。不動の硬くいきりたった肉棒が、私の蕩けた肉壷の中を分け入って、中を拓いていく。
ゆっくりと奥深くまで入ると、じんじんと最奥が疼くような快感が滲み出て、私はそこから愛液がとくとくと溢れ出ていっているような感覚を覚えた。
不動が私の足を揃えて持ち、それを支えにするように腰を動かす。私の中はそれだけで堪らない快感に満たされた。
「ぁあ、あんっ……ふど、ぉ」
甘えたような声が止まらない。大きいストロークはなく、私の最奥を優しく突き崩すような動きに、私は揺さぶられるがまま嬌声を上げるしかなかった。
「んっ、はぁ……っ、あるじ、気持ちいいっ……?」
「あんっ、っん、うん、いい、いいよ……っ」
一度イかされた身体は、中の快感を余すことなく拾おうとしているかのように敏感だった。
今まで感じたことがないような、甘く、じんと痺れるような快感と、突かれる度に僅かに高まるような感覚に翻弄される。
「あ、っ、だめ、いきそ、いく、いくっ」
激しくされているわけではないのに、きゅ、と快感が膨れ上がって始めた。
「ん、――~~っ!!!」
びくんびくんと大きく身体が跳ねた。ベッドが軋み、不動の動きが止まる。奥深くに納まったままのせいで、僅かに中で擦れるだけでも、快楽を大きく感じた。
「あ、ねえふど、う、おく、だめぇ」
ひくひくと自分の身体が不動のペニスからもっと快感を得ようとしているのが分かる。でも、今それをしたらまた高まってしまうことはあきらかで、私はそれをどうにか止めたかった。
「……」
けれど仰ぎ見た不動はどこかうっとりとした顔で私を見下ろして、
「あんっ……」
私の足を揃えたまま、そして繋がったままでベッドへおろした。私だけが横向きに寝ている形になる。
ぐり、と入り口が擦れて、達した後の余韻が残る私は啼いた。そして、
「ねえ、主」
不動の声が艶っぽくて、甘かったから。呼ばれるがまま彼を見て、少し後悔した。
「……今度は俺を見ながらイってみて?」
肉欲を御すためなのか、目が据わった不動がじぃと私を見つめていた。
目が合うと同時に、私の身体が反応する。きゅ、と受け入れたままの不動のペニスを締め付けたのが合図かのように、不動はまた律動を始めた。不動の片膝が私の膝裏に噛み合い、さらにベッドへ軽く手で押さえられる。もう片方の手で、私が身をよじって逃げられないように、上側の腕を捕まえられた。
「っ! まって、んっ、あ、まだ、まだうごいちゃ、」
「ダメだよ。ほら、俺を見て、主」
「ああんっ」
自分の身体の下にある手は自由だ。けれど、シーツを握ってもがいても何の意味もなかった。さっきよりも足がきつく閉じているからなのか、ペニスが擦れる感覚が強くて、奥もより一層感じているのが分かる。
不動がゆっくりと腰を押しつけて、肉壷の奥から蜜を溢れさせようとする。ぬるりとペニスが擦れて、中と入り口の襞(ひだ)が得も言われぬちりちりとした快感を呼び起こす。
「主、ねえ、主」
何度も呼ばれて、私を見つめる不動の目に視線を絡め取られた。不動の目と、繋がった場所からどんどん積み上がっていく気持ちよさが交差する。彼の視線さえも愛撫のように感じられて、私はまた達してしまった。
「んっ……!」
ぴく、ぴくんと身体が跳ねる。繋がっている場所が溶けているような気がするほど気持ちよくて、じわ、と中が暖かくなる。とろみのあるお湯が広がっていくような感覚に感じ入っていると、私に包まれた不動のペニスがぴくんと脈打っているのを感じた。
「ふ……」
小さく漏れた不動の声に、イってるのかな……? と思っていると、ゆるゆるとまた不動が動き出した。
「ぁあっ……ゃ、なん、で……っ」
ぱちゅ、ぱちゅ、と肌が密着する度に水音が響く。私のものなのか不動のものなのか最早分からなかった。
半端に下げられていたショートパンツと下着が片足分だけ外され、上側の足を持ち上げられる。大きく足を開く格好になって思わず閉じようとしたけれど、不動のゆっくりとした律動と、優しく押しつぶされたクリトリスへの刺激によってそれは敵わなかった。
「ああっ! やぁっ……だめ、っ、ん、そんな、いっしょにしちゃ、」
ぬかるんだ結合部から蜜をすくい取って、不動の手はあっという間にしっとりと濡れてしまった。その指先で私のクリトリスを押して、円を描くようにぐりぐりと虐めてくる。強く鋭い快感が、中でじんわりと感じていた快感と反応し合って、急に奥がきゅうっと熱くなる。
「あ、あっ、んっ、ん、ああっ、だめ、だめっ……――~~~~~っ!」
ちゅぽちゅぽと律動の音で耳を犯されながら、一気に高まった快感が爆ぜた。何かが漏れてしまうような背徳感さえ覚えながら、中が大きく痙攣しているのを感じる。その度に快感があふれ出して、不動のペニスの形が浮かび上がるようで、それさえも官能的で、いっそ苦しい。
多分、私はあまりの快感に前後不覚になっていた。
「んっ……、ん、ん、」
平衡感覚が戻ったのは少ししてからで、名残惜しそうにゆるゆると動く不動を感じた。
「んぅ、ふど、う」
「おかえり。気持ちよかったかな?」
「ん……」
後戯のような気持ちよさにうっとりとしながら頷く。よかった、とほっとした声に、私は自分から不動の手を引いた。
「主?」
「……私だけ気持ちよくなって終わり?」
まだ中にいる彼のペニスは硬く、大きくなったままだ。
刀剣男士の身体は人間と同じものだけれど、精子に子を孕ませる役割はない。その代わり、達した際の昂ぶりから、彼らの霊力を強く感じることがあるという。
不動は私の言葉に初めて狼狽えた。
「え、……」
「あなたも……良くなってくれなきゃ、いや」
ごくり、と不動の喉が動いた。足を開いて、不動の腰を挟む。仰向けになって両手を不動へ伸ばし、シャツを引っ張る。
「ねえ、きて」
私がそう言うや否や、不動は私に覆い被さるようにして腰を押し進めた。
「ん、く――っ!」
「あああっ~~~……!」
大きな一突きに、快感の余韻が散る前の身体が反応する。
私が煽ったのだからと私は不動に縋り付いて、彼の腰に内股を擦り付けた。不動が私をぎゅっと抱きしめて、そのまま上半身で私を押さえつけるみたいにしてのしかかって、堪えきれない吐息を漏らしながら何度も腰を打ち付けてくる。
「んっ、……っあ、ねえ、ふどう……っ、きもちいいっ?」
揺さぶられながら、シャツの内側から手を差し込んで、不動の肌を撫でる。不動の熱い息が肌に当たって、ぞくりとした感覚のまま中を締め付けてしまう。
「くぅう……! っ、はあ……っ、はあっ、」
律動が緩くなり、のそ、と不動が上半身を持ち上げる。
重たげな瞼の下、気だるげに私を見る目は潤んでいて、快感を堪えるような眉間の皺が、彼がまだ達していないことを示していた。
「よくないわけ……っ、気持ちよすぎて、っ……ふぅ……あまり、煽らないで……貴女を……大事にしたいんだ……」
息が上がったままでそう言ってくる不動は、今すぐにでも動きたいという衝動を抑えているように見えた。
そんな不動に、胸がきゅうと締め付けられる。甘い痛みは快感にも似て、私をその気にさせるには充分だった。
「うん……大事にして?」
「うぅっ?!」
足先をベッドに下ろして、力を込める。腰を浮かせて私の方から動いてみると、不動は慌てたように私の腰を掴んだ。
「だ、だめだって……!」
「いいの。……ねえ、不動の『大事にする』って……『愛してる』とおなじことでしょう? それとも、『愛でる』の方かな……? どちらにしても……あなたのおっきくなったソレで、私のナカを、いっぱい愛して欲しいの……」
だめ? と彼の目を見つめてねだると、不動は顔を真っ赤にして首を振った。
「だ、だめじゃない……そんな、……う、」
「あなたの気が済むまで、たくさん触って」
あと少し。感覚的にそう思ってもう一押しすると、不動はたまりかねたようにもう一度私の上に覆い被さってきた。
「んっ……主、あるじ……っ」
「あっ、あ、んっ」
激しく腰が動き、とちゅ、とちゅ、と肌がぶつかり合う音と水音が重なる。啄むような優しいキスが何度も顔に落ち、そのうちに唇同士が触れ合い、舌が絡み合った。
「ん、んっ」
不動の手が私の胸を揉みしだき、乳首をしごく。舌を吸い出され、かと思えば息さえも逃さないとばかりに深く口内を犯されて、私は何度も甘イキを繰り返した。
恥じらいも躊躇いもなく、不動を受け入れる。その全てが気持ちよくて、私たちは夢中になって絡み合った。
「あるじ、あるじ……っ、きもちいいよ、ずっときもちよくて……腰、とまらない……っ」
「んああっ、あ、あんっ、きもちい、わたしも、っ、あ、またっ おく、とんとんされて、イっちゃ……んっ!」
「ナカ、ぬるぬるして……っ、はあ、っん、すご、あ、そんなに締め付けたら、っ、お、俺も、イく、イくよっ」
お互いの体液で、繋がった場所はびしゃびしゃに濡れていた。いっそ物足りないほど滑らかなストロークは、不動の手と口を使った愛撫によって高められ、私は再度大きな快楽のうねりを身体の奥で感じた。
「きて、不動っ、ぁ、んんっ――!」
「あぁっ……!」
最奥が弾け、熱い飛沫がそこから外へ散っていく。同時に、不動のペニスが強く脈打つ感覚まで伝わってきて、頭の中まで悦楽に埋まる。
「主……好き、大好きだよ……」
震える声で不動がそう言ってくれるのを聞いたけれど、私は余韻がゆっくりと引く感覚の心地よさに、抗うことなく意識を手放した。
******
「ん……」
瞼が重い。寝過ぎたときのような、泣いた後のような。
そこまで考えて、意識がはっきりしはじめた。身体と頭の軽さにおののく。これじゃあ私が欲求不満みたいじゃないか! いやそうだったけども!
痛みらしい痛みもなく、身体を起こす。どろりと秘部から溢れるものを感じたけど、それ以外は綺麗なものだった。Tシャツとショートパンツもきちんと身につけている。下着も。
「……」
夢?
ともすればそう考えてしまいそうだったのを引き戻したのは、他でもない、シャツ一枚というしどけない姿で私の様子を見つめる不動と目が合ったからだ。
「おはよう、主」
「おっ……は、よう!」
どぎまぎして返事をした私に気を害する様子もなく、不動は私と同じように上体を起こすと、そのまま私の頬に唇を寄せた。
「ひゃぅ」
「よく眠れた?」
「う、うん」
「よかった」
ふにゃ、と不動の顔が緩む。私はと言えば、差し込む日差しの中で改めて身体の中に夜の記憶が残っているのを感じて、顔を隠すようにして不動にもたれかかった。
不動は、無理に私の顔を覗き込んだりはせず、優しく髪をすいてくれる。
「主、昨日はありがとう」
「……な、なにが?」
「俺を召し上げてくれたこと」
飯? メシア? と一瞬駄目な方に思考が飛ぶ。
不動はいっぱいいっぱいになっている私を慮ってか、
「部屋に入れてくれたこともそうだし、俺を迎えて、受け入れてくれたこともね」
と、わかりやすい言葉で付け加えた。
どこかしっとりとした空気にドキドキしていると、不動が私の耳元で囁く。
「主がまた俺としたくなったら、遠慮しないで教えてね」
「え、っ」
「主の気持ちが分かる範囲でいいんだ。俺にして欲しいこと、俺としたいことができたら……」
ぎゅ、と抱きしめられる。不動の顔を見ようとしたけれど、不動はさっきまで私がそうしていたように、私の肩に額を当てていて、その表情をうかがい知ることはできなかった。
「俺は、貴女のことが好きだから。いつでも待ってるよ」
……でも、その声が酷く甘いことに身体の力が抜けていく。そうすると不動の身体がどこかさっきよりも熱い気がして、私は必死に頭を動かした。
ああ、どうやって彼に「もうだいぶ好きかもしれない」って伝えようか。
2023.03.01. pixiv掲載
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