とける
長谷部の荒い息遣いが近い。そしてそれよりも気になったのは、その身体の熱さだった。
こんな茹だるような身体で、よく耐えているものだと驚嘆する。
「長谷部」
耳元で名を呼ぶと、びくん、と長谷部の身体が跳ねた。それでも私を抱きしめる手に過剰な力がかかることはなく、しっとりと肌が重なるような圧だけを感じる。
長谷部の腕の中がこんなにも心地よいなんて、きっと知るべきではなかった。
――でも、まあ、もう彼を手籠めにすると決めたのだから。
自分に甘くなってみてもいいだろう。主としての振る舞いではないと、この任務を受けるかどうかで迷っていたときから散々自分を責めたのだ。
思いを告げて、長谷部が応えた。なら、もう誰に指を差されたっていい。
相手の服を脱がすのも楽しみの一つか、と自分のものはそのままに、長谷部の纏う武装を解く。組紐を引けば、擦れる音が耳についた。
「――私が、お前を脱がせても?」
ふっと、長谷部の息が瞬間的に漏れ、ピタリと止まった。それでも媚薬のせいか微かに息は漏れて、私が言うまで何もしないと宣言するだけのことはあると場違いにも思う。
「もちろん、です」
普段から私に対しては甘くなる声が、今やすっかり蕩けている。
禁欲的な長谷部の服装を寛げるのは、彼の理性を崩すのと同義に思えた。ぷつ、とボタンを一つ外せば、後は止まらなかった。
黒い上着が終われば、その下のシャツを。その前に、草摺を支える腰の帯に手を掛ける。コルセットのように正面のボタンに絡まる紐を解き、引き締まった腰元からシャツを引っ張り上げた。
「では、お前もそのように。……あと、口吸いが欲しい。愛撫もだ」
「方法は、お任せいただけるのですか?」
「辛いだろうが、お手柔らかに頼む。これでも初物なのでな……、ん」
長谷部の熱い顔が遠くなったと思ったら、熱い手のひらで頬を包まれ、そうっと唇が重なった。唇も熱い。そして柔らかい。
長谷部の強い眼差しが今は閉じられて、震える睫が近い。
「ん、は……、」
とろんとした声とともに、少しだけ目が開く。藤色の瞳が熱に浮かされて、色味が深くなっているように見えた。
咄嗟に掴んだままのシャツからどうにか手を放すも、私も長谷部の胸に手を添えるのでいっぱいいっぱいだった。
熱い口づけに脳みそが溶けて行く。優しく触れる手が探るように再び背中に回って、やはり心地よく抱きしめられた。
長谷部の温度の気持ちよさに身を預け、酔い痴れる。彼の首に腕を回して、自分から唇を押しつけた。
角度を変えて何度も繰り返すと、加減を確かめるように吸われて、じん、と甘い痺れのようなものが唇の上に走って、熱を持った声が鼻を抜けていった。
ちゅ、と今度はリップノイズが響く。
気持ちいい。熱い。柔らかい。
どれも心地のいい感覚だった。そう、寒い冬の日に、暖かい布団にくるまれまどろんでいるような。
唇が離れていき、名残惜しくてほう、と息をつく。
「あるじ……」
私を見つめる長谷部の潤んだ目と、掠れた声に、一瞬腰が抜けた。
抗いがたい、甘い痛みにも似た感覚だった。
かろうじて起こしていた上半身が畳の上に倒れる。いよいよ長谷部が真上から私を見下ろした。
「初めてが……このような場所、というのは、甚だ、遺憾ですが」
今までとは違う種類の、どこかギラついた眼差しが私を射止める。降参するように畳に投げ打った手のひらを、長谷部の大きなそれで覆われ、指が絡んだ。
すり、と肌を撫でる手袋越しに、熱が伝う。
「いいんだ。布団なんて用意してしまえば、最初からそのつもりなのかと……そう思われたくなかった」
「……おんみ、を、もっと、……重く、見てください」
「うん。これが終わったら、そうしよう」
長谷部を脱がせたい。けれど、両手を縫い止められて見つめられるのもどきどきして、とてもよい。
どうしたものか、と思いつつも見つめ合う。
と、長谷部の顔が降りてきて、近づくまま、目を閉じた。
「ん……」
はっきりと、ちゅ、と甘く吸い付かれ、声が漏れる。脳が、身体が、既に期待に疼いていた。
はしたないと諫める声は遠く、長谷部の口吸いに霞んでいく。
「主、舌を」
秘め事と言うに相応しい、小さな囁き。薄目を開け、長谷部の舌が先に差し出されているのに促され、口を開き、舌先を出す。長谷部の舌先とくっついて、ぬるぬると擦り合わされた。
「ふ、……んっ」
慣れない感触に戸惑いながらも、きゅっと長谷部の手を握り込む。先を求めるように自分の指を何度も動かして彼の手を揉み込んでいると、舌ごと深く吸い上げられ、腰の辺りから唇まで快感が駆け抜けた。
「ぁ……っ」
ぞくぞくとした感覚に、縋るように手を握る。私を見下ろす長谷部の瞳には熱がいや増し、にもかかわらず性急に事を進めない様子に、理性が戻ってくる。
「……長谷部? 荒いのは困るが、褒美と思って、好きにしていい」
「そんなことを言って、どこまで俺を試すんですか? まあ、どこまででも耐えて見せますが……。
俺にも、貴方を大切にさせてください。……大事に、抱きたいんです」
まさか本当に言われたこと以外はしないつもりかと唆すと、思ったよりも熱のこもった返事を寄越されて、言葉を失う。
カッと身体が熱くなり、胸が鳴る。
「ああ、俺を脱がしてくださるのでしたね。……どうぞ、ご随意に」
激しく求められるのかとばかり思っていたところに、絡めた手を引かれる。指が解け、指の付け根にキスをされ、かと思えば、手首を優しく掴まれて、手のひらにも吸い付かれた。
その頬を親指の腹で撫でると、うっとりとした目線が返ってくる。――誘われている。
見つめていると飲まれそうで、ふいと視線を外して、手をシャツに掛けた。今度こそボタンを外す。
けれど、それがよかったのかどうか。
外すにつれてシャツが蚊帳のように垂れ下がり、左右に広がる。さながら海を割るかのようだ。長谷部の肌が露わになって、視界に飛び込んでくる。彫刻のように美しい肉体。均整のとれた身体を前に、私は急に恥ずかしさを覚えた。
胸板、ヘソ、その向こうに、スラックスを押し上げるものが私へ向かって突き出しているのが否応なしに目に入る。
先ほどまでは健気に肉欲に耐えるだけに見えた有り様も、今、こうなっては男の欲望を向けられていることを突きつけられて、どうしていいかわからない。
私の手が止まったのを見てか、長谷部が頬を寄せて囁いた。
「もう、よろしいのですか?」
息が乱れたのを、どう受け取ったのか。長谷部は手袋の先を少し噛んでさっと手を引き抜くと、ぽいとそれを放り投げた。両手とも。
カソックを思わせる黒色の上着だけが直ぐ側に広げられて、シャツもまた投げ捨てられる。
「この部屋を出るときに汚れているのは、よくありませんから。俺の上着は、主の身体の下に敷きましょうね」
あまりにも豪快な脱ぎっぷりに、服が飛んでいくのを見送っていた私を見下ろし、長谷部が笑う。
「――では、主のお召し物も、そのように」
着ているのは仕事着だ。伝統的な和装ではなく、もっとカジュアルな、私服の上に被せて着られるワンピースのような仕立てになっている。
篭手切でもあるまいし。と侮ってはいけなかった。長谷部はまるで熟知しているとばかりにするすると腰紐を解くと、すぽっと引き抜いてしまった。もちろん、腰を浮かせる程度は自分でしたけれど。
「本来なら……皺がつかないように、したいのですが」
「いい」
「はい。俺と……皺がつくような真似をしたと、他の刀に示せますので」
そんなことを考えていたのか。
顔に出たのだろう、長谷部の眉尻が下がった。
「俺のために、こんな美しい肌着を纏ってくださったと、自惚れてもいい、ですか」
白いベビードールを指してそう言う長谷部の顔は喜色に染まっていた。スリップよりも装飾を重視したもので、絹のなめらかな質感と、肌が透ける薄絹が混じった扇情的な意匠だ。
これを予め私が身につけていることへの、確かな喜びがその目に宿っていた。
「……言わせるのが趣味なのか?」
ずるい言い方をした。けれど、直ぐに思い直す。
「胸を張れ、長谷部。お前は素晴らしい刀で、良い男だ。私が心底惚れ込むほどに。……だから、もう、」
そこまで言って、どんな風に言っても品がない気がして言葉に詰まる。
だが長谷部には充分だったようだ。その手が直接私の肌を這い、まるで何かを確かめるかのように胸元を彩るレースの淵をなぞる。肩紐をたどり、丸出しの背中を、背筋に沿って。
パッドを入れていない胸先が薄絹を押し上げる。明らかに体型補整目的ではない、夜の営みを盛り上げる意図をもった意匠を凝らしてあり、効果は抜群だった。胸の頂も、最も隠したい下生えの奥も、尻の丸みも、寧ろ見せるために繊細に作られている。
男を悦ばせるものだと聞いて身につけたはいいものの、いざ視線に晒されると酷く自分が淫乱に思われて、私は膝をすり合わせた。
このまま長谷部が被さってくるだけで、肌と肌が触れてしまう。
そう思うと、長谷部の熱が既に肌を舐めている気がしてくる。
「あ、」
長谷部が、畳に肘をついた。距離が近くなり、長谷部の前髪が肌をくすぐる。
その唇が胸の膨らみに重なって、はむ、と唇だけで柔らかさを確かめられた。
背中まで触れて構造を把握したのか、長谷部の手には迷いがなかった。肩紐を腕の方へ追いやり、そのままするりと胸元の布が下へと落ちていく。露わになった旨を外側から手のひらで支えて、寄せて。やり場のない私の手は、下敷きにした長谷部の上着を掴んだ。
「柔い」
「んっ」
乳房を揉む長谷部の指は、踊るようにたぷたぷと動いた。それだけなのに、長谷部の息が頂きにかかって、ぴんとたちあがる。
「あ、はせべ」
自分ではないような、泣き濡れたような声だった。でも、拒絶ではないことは自分が一番よく知っている。
「はい。ここに」
私の曖昧な呼びかけにも、長谷部は丁寧に返事をした。早く楽になって欲しい気持ちはあるのに、あまりにも心地よくて、長谷部の返事がいつも通りで嬉しくて。
だから心置きなく口づけた。長谷部の胸板に手を添えて、美しい凹凸に指を這わせ、スラックスの淵を捉える。
静かにファスナーを下ろして寛げてやると、一層熱気が手にまとわりついた。
「っ、ある、じ」
長谷部の声が上擦る。構わず、その下穿きもスラックスごとずり下ろした。
「うっ、く」
びん、と硬くそそり立った肉の棒が顔を出し、長谷部が呻く。腰が妖しく揺れて、先端からぱたぱたと白濁がこぼれ落ちた。――私の腰に溜まった、薄い布の上に。
「あ、もうし、わけ」
私のせいなのに謝ってくる長谷部に、児戯にも似た口づけを続ける。気にするなと、心を込めて。
露わになった長谷部の昂ぶりに手を添えると、熱くて太くて、そして思ったよりもずっと硬かった。そっと擦ると、たわんだ皮だけが動く。
「っ、ふ……ぁ」
余程気持ちいいのだろう。畳に手をつき、四つん這いで私の手を受け入れる長谷部に、どんどんと止まらなくなるのを感じた。
赤く腫れ上がった先端に小さな口がぽっかりと開いて、ぱくぱくと物言いたげに歪む。そこからは涎も溢れて、私の指を濡らしていく。
「あるじ……あるじ……っ」
擦る度に長谷部の声が上擦っていく。掠れて、切なく私を呼ぶ。
「長谷部」
「っ、ぁ」
とぷ、とまた長谷部の怒張から白濁が飛んだ。勢いはまだまだ止まらなさそうだった。白濁を受け止めた布はどろどろになっている。
それでも手を止める気にはならなかった。
一等愛しいこの刀を手籠めにしている。その興奮が次から次へと湧き立ち、まるで湧き水のように溢れてくる。
空いた片手で長谷部の整えられた髪に指を通し、頭を撫でながら、熱い耳たぶに唇を擦り付ける。
「良い子だな、長谷部」
「う、ぁ、もったいない、お言葉、です、っぁ、く」
長谷部が頬ずりをしながら、びくびくと断続的に身体を震わせる。結局私のやることを止めない長谷部に、ならばと昂ぶりを握りしめ、扱いた。
「ん、ああっ」
飛沫が胸にまで散り、今までで一番の量に息を止めた。数回吐精しているにもかかわらず、長谷部の上気した頬や熱い身体は変わることがない。私の身体で慰めたくても、解す必要がある。――ならば。
「長谷部、座れるか? 尻をついて。私がここに跨がる」
「は、い」
上半身を起こした長谷部のしどけない表情に、こくりと喉が鳴る。耐え忍ぶ顔は快感に蕩けているのに、がちがちになった昂ぶりは一向に落ち着く様子はない。
対面座位というのだったか。私は足を開いて、あぐらを緩めたような姿勢の長谷部に跨がった。下品なほど足を開かざるを得ないのは恥ずかしさもあったが、長谷部の目がベビードール越しに私の下着に注がれてるのを見て、少しだけたくし上げ、腰を動かした。私たちの重なった場所に、隔てるものは何もない。頼りない紐が割れ目を避けるように二手に分かれて、尻の方でまた一つになっている。そういう、破廉恥な意匠だった。
私の媚肉と長谷部の肉棒が擦れる。既に長谷部の出したもので濡れていたからか、痛くはなさそうだった。
「う、ぅ」
「はせべ、」
腰元の布きれで濡れた手を拭いて、長谷部の頬を両手で包む。上を向いた顔めがけて唇を押しつけると、長谷部の熱い手が私の尻を揉みしだいた。
「んっ、ぁあ……っ」
大きな男の手で、力強い男の力で。その欲望の強さを垣間見て、力が抜けそうになる。どうにかこらえて、長谷部が良くなるように腰を揺らした。下生えと媚肉に踏み潰された長谷部の猛りが力強く跳ねて、吠える。欲望を吐きだし、また快感に震える。
「はぁ、っあ」
長谷部の手が私の腰を掴んだ。ぎゅっと自分に押しつけるように引っ張られ、長谷部からも突き上げられた。ぬるぬるとした感触と、好きな男の熱芯の硬さで私の媚肉に包まれた核もまた快感を拾う。唇から甘い痺れが広がり、全てが腰に集まっていく。
そうして何度か長谷部の吐精を手伝うと、徐々に凹凸を合わせたいという私の欲も膨れ上がった。
長谷部の先端を蜜壺に擦り付けて、様子をうかがう。と、私の腰を掴んで快感に震えていた長谷部が動いた。
ぎゅっと抱きつかれ、あっという間に畳の上――長谷部の上着の上に転がされる。
「長谷部?」
「……いけませんよ。俺は、大切にしたいと申し上げました」
そう言って、長谷部の指が私の熱い肉に触れる。
「あっ」
「おかげさまで、少し楽になってきました。……主の望み通り、愛撫ができそうです」
ふふ、と笑みさえ零しながら、長谷部が私の秘所を暴く。長谷部のもので潤んだ谷間を、形のいい指が何度も行き来する。彼の親指が肉芽を引っ掻くように動き回る。
それだけで私には充分刺激が強いのに、長谷部はぷっくりと形を主張する私の胸の頂きを口に含んだ。
「あぁ……っ」
自分で触れたこともある敏感な場所を同時に愛されて、甲高い声が出る。自分では制御できそうになかった。恋しい刀に触れられて、まだ自分でさえ知らない場所が熱を持ち、疼く。
長谷部の口の中で、胸先がどうなっているのかはよく分からなかった。けれど、じくじくと快感がそこで生まれて、それは指で触るよりももどかしく、しかし確かに気持ちいいことははっきりとしていた。
「あ、ぁ、はせべ、はせべ……!」
「ん、はい、あるじ、ここに」
胸を舐めながら喋るな、と言葉が脳裏を掠めたが、直ぐに散り散りになる。長谷部の舌が激しく胸先を甚振っているのが見えて、私はきゅっと目を閉じた。
視界が閉ざされると、より他の感覚が鋭敏になる。
身体の奥で官能の実が膨らんでいる。長谷部に触れて欲しいと願って、焦れている。
確かに感じる淫欲と、既に与えられる快感に、私は程なくして高まった。自分のものではない指と舌で絶頂へと押し上げられて、畳につま先を押しつけ、長谷部の腰を太ももで挟む。
「――……っ」
息を詰めてその瞬間を受け止める。強張った下肢が何度も震えた。
自分でするよりも遙かに深い、強烈な極致感だった。
じわじわと身体から余韻が流れ出す。長谷部を楽にしてやりたいけれど、抗いがたい気持ちよさに身を委ねてしまう。
「主、貴方がこんなに可愛らしいなんて」
未だ身体に立ちこめる快感の霧が、長谷部の言葉でまた集まり出す。
つぷ、とまだ自分の指さえ入れたことの無い場所に、長谷部の長い指が入った。
「あぁっ、はせべ、まだ」
「今がいいと思いますよ。感度も良く、敏感ですし……、過度な緊張は怪我の元ですから」
待ったをかければ、それ以上進めることもなく長谷部の指が止まる。私をうかがう長谷部は先ほどまでに比べれば随分と理性的に見えた。
「で、も」
「怖いですか? いえ、違いますね。……怖いのは痛みでしょうか。それとも、快感でおかしくなる方が?」
敢えて言い直した長谷部に身体が跳ねる。
撤回はしない。けれど、これ以上は詳しいとは言い難い行為になる。少々不安だというのが正しかった。
ただ、それと同じくらい先を望んでもいる。
「意地の悪い、ことを……言うな。人の身に余るものでないなら、お前がくれる痛みも快楽も、受け止めたいと思っている」
「……本当に貴方は、……いえ、かしこまりました」
私が口先で嫌がっても止めるなと、そう言いたかったのは正確に伝わったらしい。
長谷部はしずしずとした顔で頷くと、私の耳元で囁いた。
「では、この先『待った』はなしで」
声は低く、欲情しきった男の理性を外したのだと分かった。
その後のことは曖昧だ。
いや、おぼろげなのは最後のほうだけ。長谷部の愛撫に私の身体はすっかりと熟れて、最後には無事長谷部を受け入れられた。
そこからは果てがないかと思うほど長く揺さぶられていた。
長谷部を咥え込んで達することを覚えさせられ、何度も中に注がれた。
互いを抱きしめ、深く口づけて。結局、長谷部が後始末と着替えを買って出ることになるほど畳の上で淫らに身を寄せて、名前を呼び続けた。
目眩がするほど恍惚とした、むせかえるほど濃密な時間だった。
私は最後ぼうっとして、ずっと長谷部の腕の中にいることだけが確かなことだった。思い返すも夢のようだったと思う。
事が済んでひらひらと桜の花びらを撒きながら満ち足りた顔で微笑む長谷部は、甲斐甲斐しく私の世話をした。私は自室まで運ばれ、身体を休ませながら、彼と共に任務完了の通達を受け取った。
その時にはもう情事の熱は引いていたはずだったが、長谷部の腕は変わらずに心地のいいまま私の身体に回されていた。
柔らかなクッションに身体を預ける私。まるで情夫のようにすぐ側に侍る長谷部。余計な口をきくことなく身を丸め、くつろぐこんのすけ。
私室に近侍が居座ることはない。これまでに特定の刀剣男士が居着くことも全くの異例。今までの長谷部なら、私の世話をした後、ここへ運んできたならば静かに退室しているはずだった。
「長谷部、もう……その、事は済んだはずだが」
「はい、承知していますよ。ですがもう、『待った』はない……でしょう?」
私に対して言葉尻を捉えるやり口は、長谷部にしては珍しいものだった。けれど、心を込めて言ったことを翻すのも嫌で、言葉に詰まる。
何もかもが終わって、変わったのは私の心持ちと、長谷部の距離感だけだ。
後にも先にも、待てを止めろ、待てと言っても聞くなと言ったのは私の方で。
――長谷部を労いご苦労だったと下がらせることもなく、身を委ねている私の意向など、付き合いの長い彼には手に取るように分かるはずだ。
「……分かっているだろうが、戦場でその論法は絶対に許さないからな」
「主の仰せのままに」
かろうじて口にした色気のない言葉も、長谷部の蕩けるような眼差しと口づけの前には焼け石に水でしかなかった。
2025/12/06 UP
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