この話には性描写が含まれるため、18歳未満の方の閲覧を固くお断り致します。

特別なディナー

 年末。12月28日は午後から職場の掃除をして、新年を迎える準備もして定時で上がる。
 忘年会は既に終え、年末年始は家族やそれに近しい人達と過ごすことが一般的なため、余程仲が良い相手でなければ職場で飲み会などには誘われない。
 というか。

三枝さんはカレシいるんだもんね~いいな~!」
「あの時の人でしょ? おっきかったよね~」
「今日もお迎え?」
「い、いえ。私も足がないと困るので、」
「カレによろしくね~!」

 などと立場の上下もあったものではない会話にもみくちゃにされ、外堀は既に埋まっていた。
 勢いに怯む気持ちと感謝がない交ぜになりつつ、車に乗り込む。
 今日は初めてライトさんのねぐらってやつにお邪魔することになる。お泊まりグッズは一通り車に積んでいて、改めて漏れがないかチェックした。……うん。大丈夫そう。

 エンジンをかけて、サイドブレーキを下げて、シフトチェンジ。

 いつもの動作に心が弾む。完全に浮かれていた。



 ライトさんの誕生日は昨日だった。
 現地でお祝いができないことは予め伝えてあったし、その分目一杯カリュドーンの子たちやブレイズウッドの人達から楽しそうに絡まれながら祝われているライトさんの動画がバーニスから送られてきて、私もビデオ通話でお祝いの言葉を贈らせてもらった。

 お風呂から上がって寝る支度をして。ベッドに潜り込む前に、心がそわそわとしてどうしようもなくなって。
 だからマンションの部屋からベランダに出て、今遠くでライトさんが幸せだといいな、と彼の誕生日が終わる瞬間を噛み締めていると、ドルドルドルドルと近づくバイクの音。

「……嘘」

 そしたら、見覚えのあるフォルムが部屋の真下に停まるじゃありませんか。
 よく知ったドライバーはハンドサインでなにやら伝えようとしたみたいだけれど、私が全く察せないのを見るとさっとバイクから降り、ビックリするほど素早くマンションのエントランスへ向かう。

「えっ、え?」

 戸惑っている間にも、インターホンが鳴る。
 念のためドアスコープを覗いて、向こうにいるのが確かにライトさんだと確認してから鍵を開ける。
 瞬間、私がでるよりも先に彼が玄関へ身体を滑り込ませた。……大きい体躯のはずなのに、しなやかな動きだった。
 そして夜の冷たい風を纏ったまま、ぎゅっと抱きしめられる。体温は伝わってこない。革のジャケットはこういう時空気を読んでくれなくて嫌になっちゃう。

「ライトさん、どうして」
「野暮なことを聞くじゃないか。……風呂上がりか」

 くん、とライトさんがわざとらしく音を立てる。

「あんたが寝てたら通り過ぎるつもりだったが、ツイてたな」
「……私も、ライトさんのこと考えてました」
「なら、欲しいものがもらえそうだ」

 誕生日プレゼントはいくつかある。
 一緒に過ごす時間。前に彼が欲しいと言った私の手書き文字。そして明日、肌を重ねること。
 あまり欲深いイメージのない彼から、どんどん「欲しい」と求められることに舞い上がらないでいられる人がいたら、どんな人だろう。
 そう思うほど嬉しい。ねだられるまま、私にできることなら何でもしたくなってくる。
 ――……ああ、もしかして、彼が熱心に口説いてくれるのはこれと似た衝動があるからか。

「何が欲しいですか?」

 言うと、抱擁の力がふと抜けて、そのまま黙って優しい唇の感触だけが降ってきた。
 ちゅ、ちゅ、と時折音を立てながら、彼の唇が私の唇と重なる。咄嗟のことに目をつぶったけれど、優しい感触に少しずつ力が抜けていく。
 ライトさんの方に体重を掛けていくと、しっかりと受け止められる。そうして彼の気が済むまでキスは続いた。

「……」

 彼の顔が離れたのを感じて、ほう、と息をつく。ゆっくりを目を開けると、じっと私を見下ろす目。
 今この人の唇が私の唇に触れてたんだ、と彼の口元を見つめる。と、おもむろにそこが開いた。

「来て良かった」
「明日……いっぱい時間を取りますよ」
「今晩が良くなったのさ。気づいたらハイウェイを転がしてた」
「……私も。ライトさんに直接会いたかったから、win-winですね」

 誕生日、おめでとうございます。
 大切に大切に。心を込めて囁くと、嬉しそうに目を細めた彼から、もう一度キスをされた。



 ――と、そんないじらしい彼の様子を知ってしまっては、今晩が楽しみにもなろうというもので。
 緊張はあるものの、彼が喜んでくれるなら小さなことだ。
 お行儀のいいことに、昨日彼はキスだけを繰り返すと、深夜に来たことを詫びて颯爽と去って行った。お互い名残惜しくてたまらなかったのに、じっと視線を絡めるだけで今日を待ったのは……その方が盛り上がることを本能的に知っていたから。そんな気がしてならない。

 有線放送を流しながら、深夜ラジオのMCの軽快な語り口と共に視聴者リクエストの音楽が流れていく。
 人恋しいと語るギターの音が荒野の風情を思わせて、先を急がせた。

 大地溝帯を跨ぐハイウェイは静かなものだ。出口にさしかかり速度をやや落とすと、一台のバイクが併走してきた。

「! ライトさん!」

 窓を開ける私に、彼がサムズアップで応える。それからそのまま手をくいくいと引っ張って、先導するように前に出た。
 いつもと違うシチュエーションにワクワクしてくる。
 全く知らない道だった。
 けれど、彼がカリュドーンの子から離れるはずもない。
 ブレイズウッドの中心からやや外れた場所で、彼が指示器を出してガードレールの端から横へ逸れる。その向こうにアイアンタスクの影が見えた。彼のバイクが停まり、私も倣って横につける。
 エンジンを切って運転席から降りた。

「お疲れさん」
「ライトさんも」

 周囲には誰もいない。灯りも落とされていて、もう皆寝てしまったみたいに静かだった。
 まだそんな遅い時間じゃないはずなのに。

「荷物は?」
「あ、後ろに積んでます」
「貸しな」

 申し出に甘えて、お泊まりグッズを渡す。貴重品の確認をして、彼の後を歩いた。
 郊外の家屋は街とは全く異なる。レンガ造り、倉庫、コンテナ、魔改造された車……どれも四角い。トタンの屋根や外壁はともすればスラム街めいてさえいる。
 ライトさんのねぐらも例に漏れずそうらしい。暗い中サングラスをしているのに、迷いもなく一つのコンテナへと近づいていく。

「ん」

 慣れた様子で鍵も開けて、私に顔を向け中に入るよう促してくる。

「お、おじゃまします……」

 なんだか彼の目が見れなくて、変な高揚感のまま足を踏み出した。
 こぢんまりとした室内は、本当に最低限のものしか置いてないという印象だった。スペースの殆どは大きなベッドに占領されている。
 採光のためのはめ殺しの窓は横に伸び、昼か夜か分かれば良い程度にしか外の様子は分からない。彼にはそれで充分なのだろう。
 室内の灯りはどこか薄暗い。サングラスを愛用している彼の目には合っているのか。
 煙草を吸ったところを見たことがないのに、ベッド横のサイドテーブルにはジッポーライターが置いてあるのが見えた。

 後ろでトサ、と鞄が置かれる音がして、意識が彼へと向かう。
 振り向こうとすると、ライトさんの腕の中に収まっていた。

「わっ、」

 いつの間にそうしたのか、ライダージャケットを脱いだ彼のシャツ越しに、熱くて硬い身体を頬に感じた。
 何度も彼の指が髪を梳く。ペットにするみたいに後頭部を撫でられ、くすぐったくて身をよじった。代わりに、私からも彼の腰に手を回す。
 つむじに感じる彼の唇。もっと腕に力を込めると、笑う彼の吐息が落ちてきた。

「そんなにくっついたらキスができん」

 大きな手が私の腕を撫で、優しく放すように促される。
 ゆっくり腕を緩めて顔を上げると、楽しげな顔が飛び込んできた。――私の反応を見ながら翻弄してくる、私のよく知るライトさんだ。
 柔らかく細められた眼差しを浴びて、ちょっと背伸びをして目を閉じる。息をのむような音がした後、望み通りのものが唇に触れた。

「……これじゃ、私がプレゼントをもらってるみたいですね」

 ちょっと恥ずかしくて、直ぐに上げた踵を下ろす。抱き枕にされて以来の彼の胸板は変わらず立派なもので、シャツ越しとはいえ目のやりどころに困ってしまった。
 と、大きなため息が響く。

「さっきから散々煽ってくれるじゃないか」
「え?」
「しかも自覚無しときたもんだ」

 ライトさんがサングラスを外し、ベッド脇のサイドテーブルに置く。

「腹は減ってるか?」
「ええ、まあ。多少は。でも……その、」
「そうだな。満腹でロマンスはできん」
「う」

 私に合わせてくれているのか、それともちょっとしたからかいか。両方かもしれない。言葉の意味するところは、少なくとも私たちの間では直球なものだった。
 ライトさんの言葉に詰まりつつも私が同意すると、むにむにと頬を揉み込まれる。

「シャワーなんぞ、……と言いたいところだが、あんたの嫌がることはしたくない。他にも、なにか気になることがあるなら遠慮なく言ってくれ。さっさと解消しておきたい」
「えと、仕事終わりなので色々と気になりますし、その、なんというか……きょ、今日はまだこういうことは特別な体験なので……ちゃんと準備がしたい、です」

 もしこういうことが日常になったなら、そのままでベッドへとなだれ込むのもいいのだろうけれど。
 初めてだし、プレゼント、だし。
 なし崩し的にするには、まだ心の準備ができていなかった。
 きっと彼もそれには気づいているのだろう。シャワールームはあっちだと指を差すと、私の背をぽんと叩いて送り出してくれた。

「……あんたは俺に『待て』をさせるのが上手いな」
「もう、ライトさんてば」
「本当さ」

 軽口のようなやりとりに、ちょっとだけ緊張が抜ける。鞄からお泊まりグッズのうちお風呂に必要なものと、着替えを詰め込んだパックを取り出すと、案内通りのスペースに向かった。
 脱衣所と呼ぶにも小さな洗面スペース。
 ここで普段彼が支度をしているのかと思うとしげしげと眺めてしまいそうになる。
 それ以上に思考が飛んでしまって、また緊張がぶり返さないようにと服を脱ぐ。あとはいつものお風呂のルーティンだ。ムダ毛の処理とかスキンケアとか、この日のためにできることは大体した。歯医者さんで口内もチェック済み。お気に入りの石鹸とシャンプー、コンディショナーで納得いくまで身を清めた後は、バスタオルでしっかりと水気を拭いた。
 タオルドライの後は、普段ナイトブラにするところを、新しく買った上下セットの下着に。それとおそろいのデザインのキャミソール。日中に身につけるような奴じゃなくて、その、ら、ランジェリーとしてのキャミソールだ。流石に恥ずかしくてキャミソールだけ着るようなことはできなかったけれど、それでもライトさんを驚かせるには充分だったらしい。
 荷物をまとめて、ライトさんが用意してくれたらしいスリッパで移動すると、私と入れ違いにシャワーを済ませるべく立ち上がった彼の動きが不自然に止まった。

「……この手のもんにゃ明るくないが、初めて良さって奴が分かった」

 サングラスを外しているせいで、ダイレクトに視線を感じる。舐めるようなあからさまな視線に、普段の彼はどれほど注意深く振舞っていたのだろうと感心してしまった。

「じゃ、次は俺の番だな」

 そう囁いて、さっきまでのぎこちなさが嘘のように、するりとシャワールームへと入っていくのを見送る。
 彼が服を脱ぐ音を意識しないようにするため、私はベッドに腰掛けてドライヤーで髪を乾かすことにした。使い慣れた、持参したドライヤーをコンセントにつなぐ。
 普段ここで寝起きをしているからか、どこからともなく匂いが漂ってくる。家の匂いか、はたまた彼の匂いなのか。普段は外で会うことばかりだから、急に彼のプライベートな場所にいるのだと自覚が湧いてくる。
 そわそわして、ある程度髪を乾かせたら、ベッドに横になってみた。
 枕に頭を乗せると、なんとも言えない彼の香りに身体が甘く疼く。
 ケアもそうだけれど、身体の方も、ちょっとは整えてきたつもりだ。彼に少しでも満たされて欲しくて、手間取らせたくなくて……。

(あっ そうだ! ろ、ローション! スキンも!)

 はっとした。ある程度自分で使ったローションと、自分の身体を調整するのに使ったスキンを部屋に忘れてきたことに気づく。
 咄嗟に上半身を起こしたけれど、今更何ができるわけでもない。
 流石にここまできて中止や延期は絶対にナシだ。
 けれど、エチケットとして、マナーとしてないのも問題だ。
 私が自分をプレゼントすると啖呵を切ったのに。

(……あれ?)

 動揺から所在なく視線を彷徨わせて考えていると、ふとサイドテーブルの異変に気づいた。
 確か、家に入ってきたときはジッポーライターが置いてあったはずだ。今はそれがなくなって、代わりにドレッシング容器みたいなボトルと、チョコレートの菓子箱っぽい……

(! こ、これ、これって)

 パッケージに目をこらすと、まさしく私が部屋に置き去りにしてきた品物たちだった。同じ会社の、別商品。
 どちらも未開封らしく、まだ透明のビニールでラッピングされたまま。箱の方にはちょっとキラキラしたシールでLの文字が――

 ガチャ

「!」

 ドアの開閉音が聞こえて、一際大きく心臓が跳ねた。
 無理矢理サイドテーブルから目を離し、ぎこちない動作で掛け布団をしっかりと被る。
 もう少し、もう少し待って。まだシャワールームのドアが開いただけ。こっち来るまでにはまだ猶予があるよね?
 バクバクと早鐘を打つ心臓を宥める。
 けれど、ライトさんは歩きながらタオルドライする派なのか、容赦ない足音が響いた。

「……」

 それが、止まる。
 視界の範囲外からの人の視線なんて感じることがなかったけれど、流石に今日ばかりはライトさんがこちらを見ていることくらい分かった。
 さっきよりは落ち着いた鼓動に、ゆっくりと息をする。
 大丈夫。嫌なはずない。
 ライトさんが用意したものを見せてくれて、安心したくらいだ。
 でも恥ずかしい。だって、たった今ライトさんの身体の、リアルな想像をしてしまった。

「……怖じ気づいたかと思ったが、そうでもないようだな」

 ぺろりと布団をめくられて、お風呂上がりの彼と対面する。
 ベッドに横になっている私と、ベッドに腰掛けて私に覆い被さろうとしているライトさん。
 彼の肌に走る傷跡より、ビックリするほど鍛えられた身体の方ばかり意識がいく。熱い身体が石鹸の香りを纏って、湿り気を帯びた空気に緊張とは違うドキドキが強くなる。
 彼の引き締まった腰や、パンパンの太ももまで見えてしまって、咄嗟に視線がサイドテーブルへと逃げてしまった。

「あの、これ」
「ああ。流石にそっちにばかり準備させたんじゃ、カッコがつかん」

 そんなことは、と言いかけるも、ライトさんがそうしたいと思ってしてくれたのだから、喜ぶべきだろうか。
 そんな私の逡巡を他所に、彼の手がそろそろと私の太ももを這う。

「それに……男のブツの用意なんざ、初めての相手に任せるようなもんじゃない。だろ?」

 足からお尻にかけての丸みに沿って、熱い手がゆっくりと旋回するように行き来する。キャミソールの裾から彼の指が潜り込み、下着のラインをなぞった。

「知ってたか? サイズの規格ってのは会社ごとに違っててな。同じサイズでも自分に合う商品ってのがある。あんたの下着と一緒さ。ちゃんと身体に合うものを選べば、満足度も高い」

 大きくて太いけれど、すらりとした指先が、明確な意図を持って下着の際を進んでいく。

「……なんてな。結局あんたの前じゃお行儀良く見せたいっていう、ただの見栄だ」

 熱い吐息が首筋に掛かる。鎖骨に舌が這い、その熱さと、濡れた部分が空気に触れて冷える感覚が妙に鋭く感じた。

「あの、正直に言うと……私も準備は、したんですけど。その、練習してたらそのまま家に忘れてきてしまって……」
「……練習?」

 ぴた、と手が止まった。それだけじゃない。ライトさんの動き自体が。
 一方私は彼の顔は見たいけれど、その向こうに感じる熱い下腹部まで見てしまいそうで、視線が絶え間なくふらふらと彷徨った。
 なんだか、責められているような気がする。

「だ、だって。痛いのはいやだけど、ライトさんには良くなって欲しいから」

 言い訳のような言葉が零れてしまう。ああ、こんな『あなたのために』みたいな恩着せがましい言い方。そういうつもりじゃなかったのに。
 彼の反応がないのが怖くて、逸らしていた目線を彼へと戻す。と、なんとも言えない表情の中、その瞳は僅かに震えていた。……ライトさんが視線を彷徨わせるときは、そう多くない。例えば、照れているときとか……。なにか、言葉を探しているときとか。

「ライト、さん?」
「……はあ。あんたが何を言っても俺は煽られる運命らしい」
「え?」
「俺より先にあんたの中に入ったなんて、モノ相手でも妬けちまうな」

 何を入れたんだ、と囁かれて、言うつもりじゃなかったもののせいで墓穴が深くなったことを知る。

「えと、それは、」
「勿論、あんたの身体をよくするためのものなんだろ? 負けられないな」

 言うや否や、ライトさんの足が私の足の間に差し込まれた。片足なのに、太い。ふと視線がそちらへ向いてしまい、お風呂上がりの――下着さえ着けていない彼のものが見えた。
 そう、見えてしまった。
 明らかに大きいシルエットが。

「っ! う、ライトさ」
「悪いが、もう『待て』はきかん」
「そ、そうじゃなくっ! あの! お、おっきくないですか?! そんなおっきいの、入んなんぅ」

 どれだけ慣らせば入るというのか。今日、間に合うのか。
 ぐるぐると疑問が駆け巡る私の口を塞いだのは、ライトさんの唇だった。
 さっきまでキスと言えば優しく触れて、甘く吸い付くようだったのに。強めに吸われて、彼の舌が容赦なく唇を割って入って、歯列をなぞる。
 ぬるぬるとした熱い感触に、咄嗟に彼の胸に手を置いて力を込めるけれど、びくともしなかった。一旦止まってと言いたいのが伝わっているはずなのに、頑として譲らない彼に戸惑う。

「ん、んっ、ふぁ……はぁ、っ」

 口で、鼻で。なんとか息を繋ぎながら、されるがままになる。ならざるを得ない。
 そのうちに彼の勢いは穏やかになって、唇を擦り合わせて、ちゅ、ちゅ、と甘やかすようなものへと変わった。その頃にはキス以外のことは考えられなくなっていて、気づけば彼の太ももを両足で挟み込んで、身体をくねらせていた。
 キスだけなのに、彼と触れているところがじんじんと痺れている。熱く疼く下腹部に意識を奪われていると、彼の唇が離れた。

「……あんたの杞憂は一つ一つ丁寧に取っ払ってやるつもりだったが……方針を変える。
 全部ぶっ飛ばすことにしよう。何も考えられんくらいにな」

 低く掠れた声。見たことがない位の強い視線。
 身体を押さえつけられているわけではないのに、ベッドに縫い付けられたみたいに指を動かすことさえできなくなる。
 声も出せない私にもう一度彼の唇が吸い付いて、リップ音が響く。
 熱い手がキャミソールの中に潜り込んで、下からたくし上げられる。ブラのアンダーをなぞったかと思えば、後ろにまわった手が難なくホックを外して、呆気なく胸を包んでいた一張羅がキャミソールごと引き抜かれた。
 仰向けになるとぺちゃんこになる乳房にも構わず、ライトさんの手が横から寄せて、止める間もなくぷくっと実った乳首を捉える。

「んっ♡」

 鼻に掛かった自分の声があまりにも甘えたようなものになって、恥じらいに身をよじる。そうしても、彼の太ももにじゃれつくような仕草にしかならない。
 丸太なんか目じゃない。彼の身体は鋼鉄でできてるかのように硬くて、びくともしなかった。
 そんな人が優しく私に触れ、敏感な場所を的確に責めてくる。
 これが愛情じゃないなんて、そんなことあるはずない。

「早速か。ったく、何を考えてる?」

 どんな顔をしていたのか、やや睨めつけるような胡乱な顔で、不機嫌にも聞こえる声で、彼が聞いてくる。
 だから、素直に応えた。

「ライトさんの愛情、を、感じてます」

 欲望を交わし合う最中だというのに、おかしいだろうか。けれど、しみじみと感じてしまって、だめだった。えへへ、なんて笑ってしまう始末で。

「……まあいい。そのままこっちでも感じてくれ」
「あっ」

 彼の親指が乳首にすりすりと擦れて、その度に快感が腰へと抜けていく。

「ん、ぁ、あっ♡」

 強いような、弱いような。緩急のついた指先に翻弄される。
 知らず身体をずりあげて、彼から逃げるような姿勢になった。それを許す人ではない。
 もう片方の乳首に吸い付かれて、彼の口の中で甚振られる。

「あぁんっ♡ ぁ、あっ♡♡ だ、め……っ♡♡♡ んぅ♡ はぁ、ん♡ ライト、さ、ぁ♡ きもち、い、から……っ♡♡ あ、くりくり、しちゃ♡ だめ、だめ、ぇ♡♡♡」

 知らなかった。自分でするときと違って、一旦止めて欲しいのに全然止まってくれない。当たり前のことにビックリして、けれどあまりの気持ちよさに喘ぎ声ばかり出してしまう。
 しきりに彼の太ももを両足で挟んで、淫らな場所を擦り付けるような動きをしてしまう。下着越しなのに、腰をもじもじと動かすだけでちょっと気持ちいい。
 自分の思い通りに動くはずもない彼の手が、舌が、ちりちりと乳首を苛む。時折胸全体を揉まれるけれど、肌を滑るような手つきで、乱暴さとはほど遠い。
 なのに、ライトさんの力強さを感じて、大げさなくらい反応してしまう。
 ぴくん、ぴくんと腰が跳ね、背がしなる。
 焦れったいほどしつこく胸ばかり触れられて、身をよじっても解放されることがない。快感は確実に募っていき、私は我慢できなくなって、彼の太ももに自分の秘部を擦り付けた。もじもじと両足を動かすのではなく、彼を誘うような淫らな動きで。
 軽く膝を立てたから、片足に彼の熱い芯がふれる。

「っ、く」

 小さな呻き声と共に、彼の腰が浮いた。漸く胸が解放される。その代わりとばかりに、彼は私の足をぐいと広げた。サイドテーブルに置いた箱のラッピングを雑に破って、中のものを取り出す。連なったうちの一つをちぎると、手慣れた様子でそれをつけていく。
 その、彼の膨らんだものが見えて、さっきよりも大きい気がして、こくりと喉を鳴らしてしまった。
 私の視線を受けてか、ライトさんが口角を上げて悪戯っぽく笑う。

「いきなり押し入るような真似をするとでも?」
「そ、その心配ではないんですけど……あんっ」
「そうか?」

 すり、とショーツ越しに割れ目をなぞられて、布越しに伝わる振動に思ったよりも大きな嬌声が漏れた。気を良くしたのか、そのまま彼は一番敏感な芽が包まれた小さな谷に指を軽く埋めて、すりすりと前後に揺らし始める。

「はぁっ、ん♡ ライト、さ……っ♡♡」

 人差し指が優しく何度も行き来する。かと思えば、爪でショーツをカリカリと引っかかれて、私はまた身悶えた。

「敏感だな」
「っん、そこ、だめぇ……っ♡」
「そんな声で言われても、さっきからねだられてるようにしか聞こえないな」
「あぁっ……!」

 少し強めにそこを押されて、腰が大きく揺れる。その勢いに乗るように、ライトさんが私のショーツをお尻側からさっとずり降ろした。
 それだけじゃない。そのまま、私の身体を折り曲げるみたいに太ももの後ろを上から片手で押さえきって、露わになった秘部に顔を埋めたのだ。

「らっ! だ、だめ……っ、あ、あっ♡ うそ、やぁんっ♡♡♡」

 肉襞が彼の舌で割り開かれていくのを感じる。かと思えば、そのままつつつ、と移動して、隠れた肉豆を舐め上げられた。
 ぬるりとして、熱くて、初めての感触と刺激にシーツを掴む。
 動けない。
 声での抵抗しかできないのに、それさえも快楽で塗りつぶされていく。

「あっあっ♡ やっ♡ あ、だめ♡♡ そこ、ぉっ♡」

 柔らかな肉に隠れた陰核を優しく舌先でくすぐられ、甘く吸われ、熟れていく肉のぬかるみをもう片方の手がかき混ぜる。
 浅く差し込まれてはちゅぷちゅぷと蜜を垂らしていく肉壷が、彼の指を放したくないと何度も締め付けては潤んでいくのが分かる。

「あ♡ イく♡♡ イくの、っ♡ イっちゃ、~~っ♡♡♡♡♡」

 身体が強張って、ぶるりと快感が迸る。
 中が、勝手にひくひくと快感に震えている。陰核と同時に触れられているせいで相互に影響するのか、快感が混ざり合ってすぐに達してしまった。それでも彼の指使いは控えめに始まって、どんどんと溢れていく蜜の量に伴い、徐々に大胆なものへと変わっていく。
 イったばかりなのに、優しい愛撫にきゅんきゅんと甘い疼きが止めどなく湧いてくる。ひくん、と蜜壺が収縮する度、軽い絶頂みたいな感覚に呂律が怪しくなっていく。

「りゃいとしゃ♡ あっ♡♡ らめ♡ んくっ♡♡♡ も、らめぇ……っ♡」

 ちょっとした入ってこなかった指先が、ゆっくりと様子を見ながら奥まで差し込まれる。くちくちと音を立てて広げられ、指の数が増えていく。

「ん♡ んっ♡♡ ふぅ、ふぅ、ん~~っ♡♡♡」

 彼の指は二本でも太くて、奥まで入ったと思ったら内側から陰核に響くようにとんとんと押されて、外側からも彼の舌が小さいストロークで芯を嬲ってくるせいで、それでまた彼の指を締め付けながらイってしまう。
 身体の奥から、温かい波みたいなものが溢れる感覚だった。
 収縮して、達して、弛緩して。何度か繰り返して、やっと彼の手が緩まる。ゆっくりと指が引き抜かれた後は、彼の片手で難なく押さえ込まれていた足も開放された。

「はっ、はっ、……っん♡ はぁ♡」

 圧迫されて少し苦しかったのもあって息を整えていると、いつの間にかショーツが足から抜き取られていて、一糸まとわぬ姿になっている事に気づく。当然、彼も既にそう。

「わ、わたしばっかり」
「そりゃそうだ。あんたは今日食われる側で、俺は食う側だからな」

 しれっと言ってのける彼に、二の句が続かない。快感がまだ身体に満ちていて、理性だってこれが終わりじゃないことを理解している。
 だって、さっきから彼が熱く張り詰めたものを突きつけている。今からが本番だと。
 彼の熱芯が私の蜜を拾い、広げていく。それでもその大きなものに充分な量はなくて、彼の手が今度はボトルに伸びた。
 ぺりっと景気のいい音と共に、親指の力だけでキャップが回る。開くや否やキャップを弾き飛ばして、ライトさんはそれをひっくり返した。
 彼の上半身が影になってよく見えないけれど、もう片方の手が局部で大胆に動く。私のものよりも遥かに粘度を帯びた水音とともに、その先端が柔らかな肉に押し当てられた。

「んんっ……♡」

 凶悪なほどの太いものが膣口を掠めて、陰核を擦り上げる。ぬるぬるとしたローションが冷たかったのはほんの僅かな間で、すぐに熱さがやってきた。
 ぬち、にち、と何度も擦られ、その度に彼の太い先端が少しずつ私の中を拓いていく。ちりちりとした痛みにも似た快感に、脳の神経が焼けてるような気がする。
 火花のように迸る刺激。否応なく意識が集中する。

「はっ……もっと、力抜け」
「はっ、んっ♡ あっ♡ やぁんっ♡♡」

 知らず力がこもっていた私に、ライトさんがローションまみれの手で乳首を引っ張った。ぬるぬるの指先で摩擦の刺激が甘くなって、秘部に集中していた意識が逸れる。そのままかりかりと引っかかれて、びくびくと腰が痙攣してしまう。
 そのせいで、ライトさんを受け入れる場所が弛緩と収縮を繰り返しながら、彼を飲み込むのが分かった。自分から腰を動かして、物欲しそうにしてるみたいに。

「はぁっ♡ ん、ナカ♡ 入って、♡♡」

 信じられない太さのものを少しずつ飲み込んでいく。じりじりと奥を擦られる快感が増して……

「っ、あ、はぁん……っ♡♡♡ はい、っ……♡」

 ごり、と一際強い摩擦に喉が震えた。彼の肉棒が、そのままぬちぬちと入ってくる。両足をひとまとめにされ、彼の肩に担ぐように固定される。

「あっ♡」

 その姿勢のまま、彼が腰を揺らした。
 それだけで、信じられないほど快感があふれ出す。

「あぁっ♡♡ ライトさ、んっ♡ あっ、あんっ♡♡♡」

 激しく打ち付けられているわけじゃないのに、大きいせいで容赦なく肉壁が擦られる。擦られると気持ちよくて、滑りが良すぎてぬるぬると抜き差しされて、その度に声が漏れた。

 足先をピンと伸ばして、彼を締め付ける。
 もう意図がどうとかじゃない。その方が気持ちいいから。
 私からできることもない。彼にされるがまま、声を出す以外には。

「あっ♡ また♡♡ イっちゃうっ♡♡♡ イくっ♡ イ、――~~っ♡♡♡」
「っ、く……!」

 指と舌で一度達していたせいで身体は敏感だった。一定のストロークにあっという間に中イキする。彼の肉棒に吸い付いて快感に噎ぶ中。シーツを握って、快感のまま身体にぎゅっと力を入れて。何度も、何度も、きゅんきゅんして、止まらない。
 深いところまで潜った彼の先端が、こちゅこちゅと小さく最奥を突いて、それがまた抗いがたい大きな快楽を連れてくる。

「らいとしゃ、ぁ♡ あ♡♡ しょれ、りゃめ♡ ひぅ、っ♡♡」
「んっ、イイ、だろ?」

 れろ、と彼が私の足を舐める。吐息と舌の湿度を帯びた熱さに、彼の先端があるとおぼしき奥の方で甘い快感の身が弾けた。

「はぅん……っ♡」

 身体の奥では力が抜けていくような感覚があるのに、彼を受け入れている場所だけひくひくと肉が蠢いて、貪欲に快感を貪ろうとしている。

「イって、る、のにぃっ……♡ はぁ♡ んっ♡♡ や♡ イくの、とまん、にゃい……からぁ♡」
「っ、おいおい、こっから、だぞ?」
「んぁあっ♡♡♡」

 足が開く。彼が開かせたのだと気づいたときには、彼の上半身は私に覆い被さっていて。深く腰を押しつけられるのと共に、ちゅ、とキスが。

「んんん……っ!」
「はぁ……、っキツ、いな……っ、ん」
「んちゅ、ふぁっ♡ あっ♡ あん♡♡ ん、んぅ♡」

 ゆっくり、彼が腰を引いては突き入れる。
 熱く擦れる結合部はもうすっかり濡れて、私が強い快楽に耐えながら必死に酸素を求めて喘ぐのなんて構うものかとばかりに、彼の律動を喜んでいるみたいだった。
 お腹の奥をずんずんと疲れて、鈍く重い衝撃に息が上がる。ぼうっとするのは酸素が足りてないからかと思ったものの、それ以上の快感と、彼のキスで頭の中が蕩けていく。

「あ♡ またイっちゃ、ふぅ……んっ♡ ちゅ、む、ぁ♡」
「いいぞ、いくらでも……何回でも良くなってくれ」
「あ、はぁ、んっ♡♡♡ んちゅ、ふぁ♡ ぁ♡ んむ、ん♡♡」

 じゅわ、じゅわ、と身体の奥が溶けて、甘い官能が溢れ出す。私の反応を見ながら彼が器用に腰使いを変えて、優しく私の良いところに彼のものを押しつける。そうすると、突かれたときと腰を引かれて中を引っかかれる時の二回、快感が身体から染み出して、わなわなと絶頂に足が震えた。

「ふにゃ……あぅ……♡♡ きもち、いい、っ、んぅうう……っあ♡♡♡ はぁ、はぁ……♡ りゃいと、しゃ……♡ ゆっくり、らめ♡♡ またい、イっ、く、ぅ♡♡♡♡♡」

 既に怪しかった呂律がいよいよだめになる。
 キスされながらゆっくりとんとんされると、ライトさんの重たい体に押しつぶされそうなのに、それが凄く良くて、快感を強く感じてしまう。
 彼のストロークが変わったのは、何度目になるか分からない蕩けるような絶頂の後だった。私の様子を窺うような腰遣いが力強いものになり、ぱちゅぱちゅと肌がぶつかり合う。

「はぁっ……アカリ、っん」
「んぅっ、ぷは、はぁっ♡ ライトさ、んんっ♡♡」

 切羽詰まった声で名前を呼ばれ、きゅうと身体が反応する。溶けていた身体に力が戻る。キスの合間に注がれる眼差しは真剣そのもので、押し殺したような息遣いは明らかに余裕がない。
 彼が気持ちよくなってる。
 それが嬉しくて、シーツから手を放して彼に縋り付いた。

「あ♡ っライトさん、すき、すきっ……♡ 気持ち良くなって♡♡♡ いっぱい、して……っ♡」
「うっ、く、……っはぁ、アカリっ」
「ライトさ、ぁんっ♡♡ すきっ♡ イってっ♡♡ いっしょ、に……っぁ、イく♡♡ あぁ――っ♡♡♡」

 私の腕に応えるかのようにぎゅうと強く抱き込まれ、中が彼のものでいっぱいになる。私の身体はそれに歓喜して、彼をきゅうきゅうと締め付けていた。彼の熱が、絞り上げるような収縮も構わず脈打っているのが分かる。力強く、断続的に。
 圧迫が凄くて息が深くできない。浅く早く息を繰り返していると、ふっとライトさんが笑う気配がした。
 どうしたんだろう、と思う間もなく、急に抱擁がとけて、キスの雨が降る。息はしやすくなったけれど、じゃれつくようなそれにさえ快感を拾ってしまって、ぴくぴくと未だ繋がる場所が疼いた。

「ど、したの、」

 キスの合間にどうにか言葉をつなぐと、束の間、ライトさんの猛攻が止まる。それから、私を見下ろす優しげな目元が見えた。

「あんたに好きだって言われてイくなんて、我ながら単純で笑っちまった」

 彼の手と私の手が重なり、指が絡まる。と、ローションでべたついたのが気になったのか、直ぐにライトさんが使っていたタオルで拭って、次に私の手を取って拭き始めた。
 その手つきが自分の時とは違って、とても丁寧で。

「ふふ」
「うん?」
「私も。ライトさんの声、凄く色っぽくてドキドキしました」
「……」

 切なげで、切羽詰まっていて、そんな声で名前を呼ばれて求められて。頭の中の理性が幸福に震える感覚。
 彼も同じ気持ちだといいな、と思っていると、妙に口元がむすっとしている彼の顔が見えた。

「ライトさん?」
「今のはあんたが悪い」
「え? んっ♡ ぁ♡」

 おもむろに彼の腰が引かれて、ぬるりと彼のものが抜けていく。最後まで容赦なく中を擦られて……出っ張った先端の雁首が私の入り口を引っ掻くのをじっくりと味わわされて、たまらず甘い声がまろびでた。
 まるで物足りないって言ってしまったみたいで、ちょっと恥ずかしい。……と思っていると、ライトさんは私の足の間に挟まったまま、膝立ちでスキンを外した。
 手慣れた様子できゅっと口元を結んで、ローションまみれのタオルの上に無造作に投げる。その手が迷うことなく箱の中に伸ばされたのを見て、間の抜けた声が出た。

「へ?」

 私に応えることなく、ライトさんが次のスキンをつけ始める。つまりそれは、彼が萎えてないと言うことで。

「男を煽るとどうなるか、身を以て知ってもらおうか」
「えっ、ちょ、」
「……すまん。今は余裕がない。明日はできる限り世話を請け負うから許してくれ」

 全く悪いと思ってない顔でそう言われて、またローションが減る。
 ――そして、あの手この手で宥めすかされ、また愛撫され、たっぷりと愛を囁かれて――……ロマンスと言うには淫らにあまりある、けれど甘い夜は更けていったのだった。


******


 郊外の飲み水は大半がミネラルウォーターのようにボトルに入っている。
 500mlのペットボトルから少しずつ喉を潤しながら、私は彼のベッドの上で身体を休めていた。彼もまた、ベッドの中でゆっくりしている。一眠りした後で外はすっかり明るくなっていた。
 朝、起きてから彼が私の身体を散々撫で回すものだから、いつまでも甘い痺れから逃げられない。流石に私の身体を慮って控えてくれたけれど、ライトさんはペッティングだけでも充分満たされるらしい。ずっと機嫌が良くて、ぽろぽろと甘い言葉が零れてくる。

「とびきりのプレゼントだったな。美味かった」
「……その、これきりのつもりじゃないですからね?」
「ああ」

 ライトさんは私の前ではうっすらと口元に笑みが乗っていることが多い。今もそう。
 目元も柔らかくて、そうすると凄く甘い顔になって……彼こそ、私にとってプレゼントなんじゃないかって思う。こんな人、知り合えただけでも凄いのに。
 じわじわと幸福の実感が追いついて、彼の胸に顔をすり寄せる。何を言わなくても彼が身体を抱き寄せてくれて、暖かい。
 彼の手に導かれて顔を上げると、自然と唇が近づいた。
 触れるだけ、軽く吸い付くだけのキスを繰り返していると、どちらともなく身体が火照ってくるというもので。
 私はライトさんの硬い身体を、きっと彼は私の柔らかな感触を。
 お互いの身体に欲情し始め、口数が減る。視線が絡まり、どちらともなく手が相手の身体を這い回って――

 ぐぅ。

 そして、突如鳴り響いたお腹の音が空気を壊した。……そういえば、結局昨日は夕飯を食べてない。
 え?! そういえば定時で上がったのに?!
 空気を壊してしまったことへの申し訳なさと、でもやっぱりお腹が空いたので何か食べたいという気持ちがマーブル模様のように複雑に入り交じる。
 と、ライトさんがくつくつと笑った。嫌味のない、楽しげな笑顔だった。

「メシにするか。何が食べたい?」
「……選べるの?」
「朝からチートピアを食う想定はしてないが、ある程度はな」

 お腹が空いているのを思い出した途端、自分でも呆れるほど淫靡な気持ちが引いて行くのが分かってしまった。申し訳なさを感じつつも、彼が合わせてくれたのが嬉しくて頬が緩む。

「あんたの言う通り、明日も明後日もし放題だ。なにも急ぐことはない」
「え」

 ライトさんが冗談なのか本気なのか分からないことを言いながら、長い足で勢いをつけてベッドから抜け出す。その背中を目で追いかけた。
 下着一枚で小さな冷蔵庫を開け、私のために中に入っているものを列挙していく彼に応えるべく、息を吸い込む。

 外からラジオの音が聞こえてくる。若いアイドルグループが、無邪気に恋人をモーニングコーヒーに誘っていた。

2025/12/27 UP

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