Umlaut
特別夜: ED後の断片 ~ theires journey ~
ゆらめく火を見ていると、徐々に眠たくなってくる。
微かな虫の声を聴きながら、野営にと決めた岩の影で身を寄せる。焚火とは別に虫よけの香の煙を燻らせながら、食後の一杯に舌鼓を打つ。
闘戯都市を目指して二人旅を初めて、暫く。意外と……というと怒られてしまうだろうけれど、リューグは比較的穏やかで、私を良く気遣ってくれる。そう言えば昔はロッカよりもリューグの方がよく面倒をみてくれたっけ、と感慨に耽っていると、当の本人に見つかってしまった。
「なんだよ?」
「なにも?」
ふふ、と零れた笑みに、リューグは肩をすくめる。寝る前の水分補給を兼ねた一杯だけれど、中身はお湯だ。コーヒーを持つような余裕はなく、それでも、こうして気兼ねなくゆっくりと過ごせる時間がとても贅沢で、好きだ。無論野盗に備えての警戒は怠っていないけれど、過酷な一年を過ごした後となっては、十分に穏やかな日々を過ごしていると思う。
旅についてくる気はないか、と誘われた時は驚いたけれど、案外、私ってこういう風に過ごすこともできるのだと新たに発見できたのは大きな収穫だった。――ただ、きっとそう思えるのは、それが出来るのは、隣にリューグが居てくれるからだとも感じる。
居場所になりたいと、そう言ってくれたことを思い出して、私はくふくふと笑いを漏らした。
「……」
物言いたげな目線が、どこか咎めるように鋭くなる。
「ごめんって」
「謝るってことは、さぞかし愉快な事なんだろうな?」
溜息と共に吐きだされた声は、やっぱり随分と柔らかく感じる。……ううん。リューグはもうずっと、前から優しかった。暗い気持ちに引きずり込まれて、抜け出せなくなりそうだった時、掬い上げてくれた言葉とその気持ちを、ずっと覚えていたい。それがあればきっと、この先も生きていけると思えるほど暖かなもの。
「嬉しくて、つい」
「なんのことだよ」
「分からない?」
怪訝そうな顔をしっかりと見て、今にも「はあ?」と言い出しそうな顔に、笑みを深めて突きつける。
あなたが、私に立ち上がる力をくれたこと。
「……はあ、ったく。にやけてねえで、それ飲んだらさっさと寝ろよ」
「はあい」
ぶっきらぼうにリューグが寄越した革のマントに包まりながら、そっとその顔を盗み見る。少し赤いように見えるのは、きっと焚火に照らされているからというだけではないはずだ。
マグの中身を飲み干して、片づける。岩の影に隠れるようにして彼の側で身を丸めて、目を閉じる。
「おやすみ」
「……おやすみ」
明日もまた、目覚めたいと思う日が来る。それを教えてくれた声が身体に染み込んでいくのを感じながら、私が帰る場所は世界のどこに居たって、この人の所なのだと、ほっと息をついた。
2019/05/04 : 執筆 2020/06/21 : UP
「旅」【第三回夢カプワンドロ企画】 #夢カプ版ワンドロ にて