泡沫

あとがき

※以下夢小説『泡沫』のネタばれを含みます。

はじめに

 まず一番初めに書いておきたいことは、「このあとがきというものはあくまで私の頭にあった設定であるとか、私なりのこの『泡沫』という作品に対する解釈であって、読んで下さった方々一人一人の解釈を否定するものではない」ということです。
 皆さんなりの解釈があっていいことはまず間違いないですし、それでも私は書き手として、一テイルズファンとして、この作品にこめた思いがあって、それをこの場を借りて書いておきたいだけなのです。
 それを踏まえたうえで読んでくださる方は、どうぞ!

作品内容の変遷

 この『泡沫』は大体今から五年ほど前、「エミリオ救済夢」として始めたものでした。正直なところ安直な気持ちで始めた為に、彼との絡みはやや強引でした。彼はすぐに主人公へと引かれるよう描写していきましたが、三年ほど前にデータが全て吹っ飛ぶという事態に見舞われてしまい、書き直すにあたって幾分かの軌道修正を行っています。長くこの作品を読んで下さっている方はその違いにお気づきかもしれませんね。
 まあなんていうかこの作品の書き出し部分は五年前のものとほぼ変わってないので自分でも誤字脱字修正のために読み返すのが非常に恥ずかしくてつらいです。
 勿論自分で書いていく傍ら、他のサイト様に展示されている作品を読むことで私なりに考えが変わることも多々あり、その都度この作品は設定が変わってきました。今思えば『これぞ行き当たりばったり!』という感じですが、一番大きかったのは『ToD2』の発売です。この作品があったために、『泡沫』は「エミリオ(身体)救済夢」から脱却いたしました。
 完結しました現「泡沫」の、以前との大幅な変更点といたしましては、
 *エミリオを生かすという意味での救済夢ではない
 *明確に主人公とエミリオが結ばれるシーンがない
 *二人のキスシーンがない
 *アルフレッドとヴィルヘルムというオリジナルキャラクターと絡む
 *二章に入ってからのスタート地点と時間が違う
 *主人公がナナリーと出会うときの10年後の世界にいかない
 *死んでから復活までの描写が加えられている
 *「平行世界」としてのトリップ夢ではなくなった
 と言った所でしょうか。まあ書き直してからのものを読んで下さっている方の反応は様々かと思います。

物語の設定

 安易な気持ちで始めたこの連載、はじめは『現代社会に住む日本人の女の子がテイルズの世界へとトリップしてきた』設定でした。故に髪の色や目の色は黒と設定し、また顕著な『キャラクター性』というものが薄い(と私は感じています)です。身長も大まかにエミリオと同じ位とし、体系や顔つきの具体的な描写といいますか、形容はあまりしていません。……たぶん(笑)
 そしてやはり安直にも『原作沿いといったらやっぱりスタートはゲーム本編と同じくらい!』という理由から、物語はスタンがウッドロウに拾われるときよりも数週間から数ヶ月ほど、時間軸を早めています。記憶喪失という設定は、先を知っていれば主人公はエミリオを助けるだろうという理由からでした。物語序盤から感じている主人公の暗雲のような気持ちは、『エミリオの死』という出来事を指しています。
 また主人公は『デスティニー世界に存在する人々の気持ちは具現化し神を創造する』ことからその力の余波、あるいは彗星衝突のエネルギーによって飛ばされたという設定にしています。主人公は彗星と惑星との衝突が観測され、回避できないという結論に至る以前の人間です。環境的には現代とさほど変わらないため、このような形として変化しました。また、安易にトリップといってもこの話はギャグではありませんし、あまりハチャメチャな設定にしたくなくなってきたというのもありまして、『他の惑星(地球)からのトリップ』という形を何とかして避けたかったのが現状です。
 主人公の桁違いの戦闘能力に関しては、本来人間の持つ動物的な一面を、ウッドロウとの鍛錬によって戦闘向けに軌道修正したものと考えていただければよいです。普段から意識という支配下に置かれる身体が、彼女にとっての『日常』という概念から外れることで自然とそうなったわけです。(彼女は戦闘とは無縁の生活をしていたわけですから)勿論筋力などのことは、なにせファンダリアですし、酸素が薄い中で鍛錬を行っていたので自然鍛えられていたことと思います。と、言いつつ、本当のところは彼女を生かそうとする彼女の意思がそうさせたのですが(作中では『声』として登場する彼女です。神が具現化する世界によって彼女の意思はおぼろげながら独立したものとして動いていました)。
 また逐一ゲーム中のキャラクターの台詞や、その台詞から推測される歴史背景などは私の解釈に誤りがあると思います。そのため作中の台詞には公式設定との矛盾点が見つかってくることもあると思いますがご了承くださいませ。(言うのが遅い、かな?)

規定キャラとの関係

 エミリオ。彼とは一目見て惹かれるわけですが、はじめは無意識下で高まった主人公の緊張を、彼女自身は恋なのだと錯覚するところから始まります。エミリオも黒い瞳に黒い髪からマリアンを連想します。あるいはルーティでもいい。エミリオはその立場から多くの女性と話すこともあったと思います。彼の容姿も相まって、彼はきっと様々な目で見られてきたと思います。そこから、純粋に人間を見る、という行為をはさんで、エミリオには主人公を見てもらいました。
 主人公は一章の時点で恋とは呼べないような依存、もしくは『恋に恋する』状態のどつぼにはまります。まあ設定上彼女は16歳ですし。一方エミリオはというと、彼は彼で主人公の強さに嫉妬します。力があればマリアンを巻き込むこともなく守り通せるのに、と。彼女の強さが羨ましくて仕方ない。そして主人公の中に現状を打破できる力を求めます。彼女ならば今のこの状態を解放してくれるのではないか、と。それは一章終盤のエミリオ自身による告白によって初めて伝えられますが、彼自身はそれに気づけませんでした。飽くまでそれは一人の少年として何かに頼りたい気持ちで、エミリオはそういった気持ちに馴染みがなく、全てを自分の心の奥底に押し込める力をつけてしまっていたからです。
 主人公はデスティニーのシナリオをゲームの一端として知っている所為か、やたらにエミリオにかまいます。エミリオにとって、彼女はスタンやルーティとも違う人間でした。お人よしでは決してないけれど、媚びない何かを持っている。それは彼女の死に際にも言えることでした。しかし主人公の中にも『嫉妬』といった感情による闇の部分があったことは言うまでもなく、その意味で彼女とスタンは対照的な存在としてエミリオの中に位置づけました。スタンはエミリオと同じ性ですし、体格も育った環境も、性格だって違う。それでも、だからこそ、エミリオはスタンにも自身の環境を開放できる何かを求めていたといえます。(すでにゲームでそれは表現されていたのではないかと感じたため、作中でその描写はありません。)
 あからさまに彼に歩み寄ったのは主人公のほうだったので、それによってエミリオは自身の視野を少なからず広げることになりました。これは私が望んでいたことです。あの『例のシーン』で迷いがなかっただなんてそんなの悲しすぎる。迷わせない環境が悲しかったからです。
 ただ、スタン達との旅で、エミリオはきっと変わっていったと思うんです。その辺の描写が甘いというかすっぽ抜けてしまっていて、主人公との関わり合いばかり描いてきているので、その辺の書き込みの甘さは今後に活かしていくつもりです。

 二章に入って二人の関係はやや変化します。ある程度時間の経過は『魂』の時に体感している設定なので、肉体的には16歳ですが、精神年齢的にはもう30超えてます。まあでも肉体がない限りそういう認識はできないので、肉体が蘇った時多少の誤差が出ています。それがジューダスとの意識の差によって現れているわけですね。ジューダスはリオンをまるで別の人間を見るように分析し、そして如何にリオンが恵まれていたか、そしてそんな周りを見なかったかに気づきます。それは彼を大きく成長させました。勿論主人公に対しての意識も、『本来ならば生かしてやるべきだった』と思います。死ぬ間際、側にいて手を繋いだことは彼にとって嬉しかったことに違いはないのですが、再び肉体を得、思考することを始めてしまった彼は主人公が掛けた言葉の真意に戸惑います。物事を理屈や道理で考えてしまうところのある彼は、自分の行いが本当にあれで良かったのかと悩み、そしてカイル達と遭遇します。
 一方主人公はエミリオへの思いが強かった所為か、その名残を引きずっている部分が多くありました。良い意味でも悪い意味でも、決めたら一貫性のあるエミリオとは異なり、迷いながらずるずると未練たらしく引きずるのが主人公です。ただ、一章よりも周りの環境に眼を向ける描写を多くすることで時間が彼女にもたらした成長を描きました。またエミリオに対しても、彼との意識の差が開いていることに気付いて若干依存性というか、『恋に恋する』ドツボにはまった状態から抜け出します。それ故に始終エミリオと共にいるというわけではなくなりました。
 エミリオ的にはそれは少し寂しかったりもするのですが、彼にはシャルティエが居たので、シャルティエが神の眼の破壊に加わり、姿を消すことでエミリオに変化をもたらしたいと思いました。その結果が作中、歴史の修正の手が入る時の、最後の彼の言葉です。
 マリアンへの思いは、淡い女性というものへの恋心と、本来ならば無償で与えられるはずの愛情を与える母親的存在をイメージしました。マリアンはエミリオにとってとても大切な人で、絶対に守り抜きたい人なんです。でも、主人公はそう言った存在ではなくて、どちらかと言えば同じ時を歩み、共に生きていきたいという存在にしました。どちらかと言えば、友情、親愛に近いものがあると言えます。けれどエミリオは主人公の幸せを、他のスタン達のそれと同様に願っていました。なので、最後の彼の言葉は恋愛のみの意味合いとは大きく異なっています。これには私の『愛』というものに対する観念的なものがふんだんに盛り込まれているのでアレなんですが、簡潔に言うと、エミリオのあの言葉は言うなれば他のスタンやルーティ達へも贈られる言葉のような感じです。勿論、ある意味ではカイルにも。

 そう言った意味で、そしてとてもエミリオはそんなコトしないだろうという意味でキスシーンはなかったことになりました。
 「仲間」「恋人」「友人」と言った枠組みに、わざわざ当てはめなくても良いと思ったのです。なのでこの二人の関係は私自身上手く言い表すことが出来ません。

終わり方

 ラストの『彼』は皆さんお好きなように想像して下さって構いません。勿論エミリオでも構いませんし、久しぶりにあった主人公の血縁者、或いは幼馴染み等々、「早々都合のいい話無いに決まってる!」て方は後者だと思って頂いても結構です。
 他のキャラクターに関してはゲーム本編と同じ展開だと思って頂いて結構です。リアラが出した『幸福論』は若干ゲームのそれとは異なりますが……。

さいごに

 この五年のうちにいただいてきた数々のコメントや拍手はかけがえのない、私の『書く力』の糧となりました。この場を借りて深くお礼申し上げます。読み返してはとても満たされた気持ちになれて、泣いてしまうこともありました。なんというか、これほど多くの応援メッセージをいただいていたんだな、と。私は今までこんなにたくさんの人に応援して頂いてたんだな、と思うと、それに気付けなかった自分が不甲斐なくなりました。本当に、本当に感謝しています!
 この作品が少しでも、何か心に残ってくれたらいいなと切に思います。いうまでもなく、描写の甘さや欠点など、反面教師的要素としても。勿論カタルシス的要素として『癒し』になることができれば、これ以上の歓びはないです。
 口うるさく私の考えを述べましたが、長くこの作品とお付き合いしてきて下さった皆様方、完結したから読みに来て下さった方々、どんな経緯でも、この作品に目を通して頂いて私は嬉しいです!

 最終話である60話を書き終えてから一ヶ月以上経ってしまいました。
 後日談などは終わり方があんななので書くつもりはありませんが、リクエスト頂ければ書いてみるのも悪くないかも知れません。ともあれ、これにてToD+2沿い連載夢『泡沫』を完結させて頂きます。

 もう、本当に、有り難う御座いました!

2007/02/09 amor fati管理人:宇野

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