夜は更け、朝は白みつ

 その日は別に、何かを示し合わせたわけではなかった。
 万葉が「久しぶりに宿を取るのはどうだろうか」と嬉しい提案をしてくれた。いつも野宿というわけではないものの、それが望舒旅館だったこともあって、私はゆっくり身体を休めることができると喜んだ。
「すまぬ。お主の身体を休ませるのは一晩待ってはくれぬか」
「え?」
 万葉の謝罪に違和感があったのに、私は暢気に『久しぶりにお酒を飲みながら月見でもして、朝まで過ごすのかな?』なんて思っていた。万葉自身はお酒を飲まなくても、他のお客さん達と賑やかな場を共にすることは好きみたいだったから。
 彼はちゃんと『私の身体を』と、言ってくれたのに。
 万葉が一部屋、それもツインではなくダブルベッドの部屋を押さえた事に気づいたのは、チェックインをして荷物を部屋に置きに行ってから。けれど私はこの後に及んでも「一緒の部屋で寝泊まりなんてドキドキするな~」なんて思っていた。
 美味しいご飯を食べて、温かいお湯で身体を清めて、宿の寝間着でベッドへ腰掛ける。
 同じように万葉がベッドへ近づいて、私の身体を優しく横たえて。
 そこで初めて、万葉がどういうつもりで宿を取ったのかに思い至ったのだった。
「え、と……か、万葉」

 すり、と万葉の鼻先が私のそれと擦れる。唇が触れそうで、まだ遠い。それでもびくっとして口を閉じてしまう。
 見上げる万葉の眼差しは、怖くはないけれど、どこかゆらりとけぶっていた。
「すまぬが、堪え性のない拙者に付き合ってはくれぬか」
 吐息は熱く、私の肌を舐める。どこか湿度を感じるのは、お互い、まだ髪や肌が濡れているからだろうか。
「お主に無体は強いたくない……難しいならば、今しばらく外で熱を冷やしてくる故、」
 おでこ同士が当たって、まるで風にさえも聞かれたくないと、内緒話でもするかのような囁き。
 察しが悪い私もだけど、万葉も容易く引き下がりすぎる、と最近私は考えている。
 彼の寝間着を掴んで、自分から唇を重ねて万葉の言葉を封じた。
 それで私の気持ちを伝えるには充分だった。
 万葉の目がどこか鋭さを帯びる。私の寝間着の紐を解くその手に、迷いはなかった。


 私の船酔いが続くせいで、船の上では一切甘い空気にはならない。野宿をしている時も同じく。精々できてもキスや抱擁までで、それ以上のことはお互いに匂わせることもなかった。――私が気づいてないだけかもしれないけれど、私にも分かるように万葉が振舞うことは今まで一度もなかった。
 きっと万葉のことだから、野ざらしで私の身体を組み敷くのは、と耐えていたに違いない。『堪え性がない』だなんて、控えめを通り越して嘘つきだ。
「っん、……」
 そりゃあ、暢気に「ゆっくり眠れる」だなんて無神経な言葉を口にしてしまった私にも非がある。少なくとも親公認で、私たち自身も一緒になることに疑いがない関係になったのに、色気がなさ過ぎたのは反省すべき点だ。万葉の側にいられるのが嬉しくて、未だに幼い頃の感覚を引きずってしまっている。
 触れるだけの、けれどいつもよりもずっと長い口づけ。璃月式の甚平みたいな寝間着を、万葉の手が少しずつ脱がしていく。私の肌を撫でながら、まるで冷えないようにと何度も撫でさすって。
「万葉、」
「……ん? やはり性急すぎたか?」
 万葉は洞察力もあるし、空気だって読めるのに、私のことに関してはちょっとだけそれが鈍くなる気がする。
 それが彼なりの『恋心』というものなら、もっと感じたいと思うことも嘘ではないけれど。
「ううん。止めないで。
 ごめんね、その、私、今回は察しが悪いにも程があったって言うか……万葉の気持ちに気づけてなくて」
「……いや、拙者もあまり率直に過ぎる言い方もどうかと考えていたのだ。もし本当にが休みたいようであれば、お主のしたいように過ごすのも決して吝かではなかったのだが……その、拙者が思うより心に積もったものが多かったようだ」
 少しはにかみながらそう応えてくれる万葉に、嬉しさが胸を温める。
「あの、……その、初めてだから、よく分からなくて……変なことしたり、言ったりしたらごめんね。できればでいいから教えて欲しいな」
「……んんっ」
 こほん、と万葉が咳払いをする。……こういう時、万葉は何かを取り繕おうとしている。気がする。
「拙者も、お主が初めてでござるよ」
「え、でも……」
「お主は毎回それどころではないのだろうが、船旅では……男衆が集まると自然、そういう話を耳にする、こともある」
 歯切れの悪い万葉の言葉に、疑問が次々と湧いてくる。
「……万葉もその輪の中に入るの?」
「拙者は専ら先達の賑わいを眺める程度でござるよ。お主が乗ってからは、側を離れることもないであろう?」
 一つ一つ丁寧に答えてくれる万葉に頷く。
 そっか、そうなんだ。
「こほん。……ただの耳年増というものだ。ゆえに……拙者こそ、何か無作法があればすぐに教えて欲しい」
「う、うん」
 言う割りに、万葉の手はあまり迷いがないように見えた。
 私の肌を撫でる手は優しくて、まるで宥められているように感じる。顔を見られるのが恥ずかしくて、彼の肩口に頭をくっつけた。
 ふ、と万葉が笑った気配がする。
 けれどそれ以上何を言うでもなく、彼の指は私の胸を優しく押さえて、少し彷徨った後、まろい頂きを捉えた。
「ん、……あっ」
 汗も汚れも流し終わった肌は妙にすべすべとして、万葉の指はまるで滑るように動き回る。ぷっくりと主張を始めた頂きを、見えてもいないはずなのに的確に刺激してくる。
 自分しか触れたことのない場所に万葉を招いている。それは酷く高揚する感覚だった。
「ん、んっ」
 細心の注意を払っているのだろう、万葉が探り探り、けれど確かに私を愛撫して、私の官能をざわつかせる。
 清廉な水の中に手を入れ、かき混ぜるように。あるいは瑞々しい果実にかぶりつき、果汁を啜るように。
「かずは、わたし、邪魔?」
 息を潜めてまで集中しているような気配を感じて、耐えかねて声を上げてしまう。色気のないことは言いたくないのに、どうすればいいか分からない。
 私の弱音に、万葉が手を止めて、ぷっと吹き出した。
「お主に手を出している最中だというのに、お主が邪魔なはずはない」
 そう言われるとその通りなのだけど、そういうことが言いたいのじゃなくて。
 万葉は私が何かを言い返す前に、言葉を続けた。
「そうさな……拙者を感じていてくれればよい。拙者の息も、声も、目線も、お主のものだ。この手がもたらす感触も……拙者が、欲に負けている様ごと、じっと感じ入ってはくれぬか」
 ふと万葉の息の温度が上がった気がして、胸が跳ねた。
 ちゃんと感じている。けれど、赤い瞳から逃げてしまったのは事実で、私は頭を離した。
「力を抜いて、拙者に委ねてくれるか?」
「……うん……」
 恥ずかしいけれど、嫌なわけじゃない。
 言い訳のように万葉の目を見てそう言うと、どうしてか嬉しそうな顔で口づけられた。



 ……身体を繋げるのに、こんなに時間をかけるだなんて知らなかった。
 私が一人で万葉を思う時はもっと短くて、家族に悟られないように布団の中で胸と下生えの奥にある小さな芽を指先でくすぐるものだった。ぴくぴくと小さく跳ねる身体を強張らせて強い快感に震えれば、あとはそのまま眠りに誘われる。声も出ないし、息も……流石に寝ているときほど規則正しくはないけれど、荒らげるほどではなかった。
 なのに、今、万葉に触れられる度に胸が切なく疼く。
 肌に触れるかどうかという愛撫は焦れったいのに、ふとした拍子に敏感な場所を強く押さえられて、甘くて強い快感がやってきて、思わず甲高い声が出てしまう。
 自分でも見たことのない場所のために足を開かされて、羞恥で余計に感覚が鋭敏になっていた。ただでさえ恥ずかしいのに、万葉がそこに顔を近づけて舐めようとするものだから、思わず太ももで彼の顔を挟んでしまった。
「かっ、万葉っ、なにして、」
、これはお主の身体に余計な負担をかけぬために必要なことなのだ」
 万葉の真剣な顔に、でも、と喉元まで出かかった言葉を飲み込む。
 ここで渋れば、万葉は「今日は止めようか」と引いてしまうかも知れない。……折角彼から誘ってくれたのに、それは嫌だ。自分で改めて誘う方法も分からないし、次にこんな空気になるのはいつなのかなんてもっと分からない。
 私は、恐る恐る太ももを開くしかなかった。
「んっ、あ、はぁ、だめ、万葉ぁ……っ、ぬるぬる、してっ、やぁ……っ、音、たてちゃ、っ」
 ちゅぷちゅぷ、ぬちゅ、と粘性のある音がとんでもない場所で響いてくる。万葉の体温、息遣い、舌の動きが分かる。
 ゆっくりと柔らかな割れ目を舐め上げられたかと思うと、彼の舌先がゆっくりと上下に割れ目に沿って谷間を移動して、気持ちいい芽を弾くようにちろちろと舐る。
「ひゃぅう、っん」
 割れ目深くに舌を差し込まれて、中に入ってくる予感に息を詰めると、すぐに彼の鼻先が芽を掠めて、知った快感に彼の舌をきゅっと締め付けてしまう。
 恥ずかしい。
 こんなに恥ずかしくて時間がかかるなら、ある程度自分で準備しておいた方がいいんじゃないだろうか。
 女の身体は時間がかかるのよ、といつだったか母に言われたのを思い出す。
 それにしたっていつまでも舐められて、終わりのない快感に震えてばかりじゃ先に進んでいるのかも分からない。
 自分でやるときならばとっくに終わっている行為に、私は音を上げた。
「ね、万葉……まだ、なの?」
 そう言うと、万葉はようやく私の股の間から顔を離した。つつ、と彼の舌先に唾液のようなものが糸を引いて、見てはいけないものを見たような気持ちになる。
「そう言ってくれるな。拙者にはこの時間も大切なのでござるよ」
「でも……私、まだ万葉になにもしてないのに」
からしてもらうのは、もう少し慣れてからの方がよいだろうな。……それまで、拙者にとくと味わわれてくれ」
 不思議な言い方だった。
 でも、そういう万葉の顔が柔らかくて、蕩けるような眼差しに不安もなく頷いた。私は、まだ何もしなくて良いらしい。
 万葉が自分の指を舐める。それを、今まで散々彼の舌で弄られた場所にあてがわれた。
「最初は指でも辛いことがあると聞く。くれぐれも無理をして痛みを我慢しないように」
「うん……っ」
 つぷ、と万葉の指先が私の中に埋まる。知らない感覚だった。
 爪ほどの長さしか入ってないだろうに、押し広げるように動かされて、よく分からない緊張が走る。
「痛むか?」
「ううん……いたくない、けど……」
「先ほどのように、気持ち良くもない、か?」
 聞かれて、口にするのは憚られて頷きを返す。と、万葉は空いていたもう片方の指を同じように唾液で濡らすと、私の小さな芽をくりくりと弄り始めた。
「んやんっ」
 甘えた声に、口元を手で覆う。万葉がちらとこちらを見たけれど、胸の時と同じように集中しているのか、何かを言われることはなかった。
 代わりに、芽を弄る指先が容赦ない。
「あ、だめ、そん、っ」
 強い快感が何度も走って、言葉が詰まる。中に埋めた指先が蠢いて、徐々に奥へ奥へと入ってくる。
「あっ」
 中を注意深く探る指先は、一点を掠めた瞬間に漏らした私の声によって心を決めたようだった。芽に与えられる快感が、中を伝っているみたいだった。
「ここか」
「やっ、万葉、それだめ、っ、だめだったら、ぁんっ、あ、あっあっ、やだぁっ、変っ、身体の中、変なのっ」
 懇願しても万葉の手は止まらなかった。まるで声を我慢するのを咎めるようなその手つきに、私は逃げるように腰を動かす。
 なのに、万葉の手は私を追いかけてくる。
「あっ、あ、や、だめ、へん、へんだからぁっ」
「……、不安なら拙者の名を呼ぶと良い。大丈夫、何も変ではござらんよ」
 優しい万葉の言葉も、不安にも似た快感の前には殆ど意味がなかった。
「あ、やぁっ、万葉、かずはっ、」
、大丈夫だ、そのまま……拙者の手で良くなってくれ」
「かず……、――!!!」
 びくん! と腰が跳ねるように飛び上がった。万葉の指を奥まで入れられて、最後まで快感が掠めた場所をぐいぐいと押されて、芽だけで気持ち良くなる感覚とは全く別の……身体の中でねっとりとした水飴が入った風船が割れたような、そんな快感だった。
「上手く果てたな、
「……はてる?」
 息を荒らげながら振ってきた万葉の言葉に反応する。彼は頷いて、こう言い添えた。
「これからは先ほどの感覚がしたら、イく、と拙者に教えてくれればよい」
「イく……」
 初めての感覚を言い表す言葉は、既にあるらしい。私が頷くと、万葉は抜かずに私の中に入れたままの指をもう一度動かした。
「やっ、ん……も、いいんじゃ、」
 万葉の唇が私のそれに重なる。言葉を封じられて、返事の代わりに増えた指に、私は万葉に縋り付いた。――一体、あとどれほど時間をかけるのだろう。
 そんな疑問は、万葉に甘く吸い付かれて消えていった。


 今まで筋肉痛や捻挫や打撲の炎症に苛まれたことは数あれど、快感に身体を苛まれるようなことは経験がなかった。
 それを味わって思う。
 こんなの、我慢出来る方がおかしい。
「やだぁ……かずは……っ、も、いいでしょ……?」
 ぐちぐちとはしたないほどの音を立てているのは、万葉の指に開かれている最中の、私の秘部だった。
 しつこいほど芽を弄られて、もう触れられていないのにじんじんと痺れるように疼いて、振動を感じるだけで触られているみたいに快感が生まれてくる。
 そこがそんな風だから、中の方もまるで快感の風船をくすぐってるような気持ちいい感覚があって、何度イったかもう覚えてない。
 小さいのも大きいのも繰り返して、なのに快感も、万葉を受け入れるための愛液も溢れて止まらない。イくたびに足をぴんと伸ばして力を込めるものだから、足がつりかけた。
 万葉が触れる私の身体の奥にもう一つ心臓ができたみたいだった。
 快感が甘く響く度、切なくなる。
「かずはぁ……っまた、イっ、くぅ、っ」
 びくびく! と身体を震わせて、快感の山をやり過ごす。
 今や乱れきった万葉の寝間着にも何も感じなくなっていた。はだけて、白い肌が見えている。普段露出の少ない彼がその肌の大半を晒してるのに、ドキドキしないなんて。
「上手くイけてえらいな、
「ん……」
「イく、と言えたのも上手であった」
 甘やかな万葉の声に、瞼を閉じてしまいそうになる。
 と、ようやく万葉に動きがあった。
 散々私の秘所を弄っていたのを止めたのだ。
「そろそろか……」
 もう寝間着の上は殆ど意味がなかった。サイズ感がゆったりとしているせいで、万葉の上半身に頼りなく布が引っかかってるだけのような有り様で、下もいつの間にか脱ぎ捨てられている。
 よく知った手が女にないものを扱いているのを見て、私は身体が一層熱くなるのを感じた。
 家族に二人も男がいるのだから、全く見たことがないなんて言わない。
 でも、父は勿論兄も上手くやっていたのか、その、硬く兆したものを見るのは初めてだった。
? ……怖くなったか?」
 気遣わしげな万葉の声にも、視線がそこから離せない。
 かろうじて首を横に振る。
「ここまで来て、やっぱり止めようなんて言わないで……」
「む……」
「謝るのもナシだよ。……ちゃんと、痛かったりしたら我慢しないから、しよう?」
 万葉の眉尻が下がる。
にはかなわんな」
 いつものような柔らかい言葉で降参の言葉を口にしながら、万葉の下腹部が私の開いた足の間に重なる。
 ぬち、と熱源が割れ目を擦る。その太さに息をのんだものの、やっぱり止めて欲しいとは思わなかった。
 何度か熱いものがそこを擦って、潤んだ秘所に沈み始める。
「……っ」
「はぁ……っ、ふう、……息を、吐いて……力を、抜けるか?」
「ん、……やってみる、ね……」
 ゆっくりと口から息を少しずつ吐いていく。万葉がそれにあわせて、腰をゆっくりと押しつけてくる。
 じわじわとめり込んでいく万葉のそれを感じながら、同時に、ちりちりと摩擦のような快感が熱と共に迸る。
 どうしても万葉と強く擦れている場所がひくついて、制御できない。勝手に彼のものに絡みつくみたいに動いて、その度に万葉の息が乱れる。
「ご、めん、身体が、かって、に」
「ん、よい、……お主が、痛くなければ」
 じわじわと入ってくる感覚に痛みはない。散々指で広げられた場所はそれでも受け入れるのに容易くは行かなかったけれど、どちらかというと、覚えさせられた『いい場所』まで、早く来て欲しいとさえ思っている。
「くっ、、まて」
「ん、や……ぁっ」
 もどかしくて腰を揺らす。と、今までのじれったさが嘘のようにぐっと一気に中へ入ってくる感覚に、背がしなった。
「あぁっ……」
「うぁっ、ふ、っく……~~っ」
 万葉の喉から、聞いたことのないような引き絞った声が漏れてくる。
「あ、ごめ、急にしたら、万葉も、痛い、よね」
 ひ、ひ、と息が乱れる。気持ち良くて、じんじんして、中が疼いている。指で教え込まれたせいで、動きがないと焦れてくる。
 それでも万葉が硬く目を閉じて何かをこらえている様子で、昔よりもずっと逞しくなった肩を擦った。
「……、……」
 はくはくと、万葉の唇が動く。けれど、そこから声は出てこない。
「万葉……だいじょう、ぁっ、あっ」
 反応の薄さにもう一度声をかけると、万葉が耐えかねたように荒い息を零しながら、腰を動かした。一度引いて、今度は深く、私たちの凹凸がぴったりと重なるように奥まで腰を押しつけてくる。
「ああぁっ……!」
「く、ぅ……ダメだ、もう……っ」
 一度ではなかった。何度も、奥を目指すかのように打ち付けられる腰に、揺さぶられるまま声が漏れていく。
 上擦った万葉の声は聞いたこともないほど余裕がなくて、高く裏返ったかと思うと、ぜえぜえと低く唸るような音が喉から漏れる。
「まったく……っ、お主を大切に、優しく事を、すすめたかったが……っ、はぁ、もう、いよいよ限界で、ござる……っ!」
「万葉、かず、はぁ……んっ、あ、あんっ」
「許せ……!」
 万葉が覆い被さり、一際強く繋がった場所が擦れる。そのまま私の膝を抱えるように腕を通したかと思うと、私の手を握りこんだ。体重を乗せて押しつぶすように上から腰を押しつけられて、何度も教えられた場所で快感が爆ぜる。何度も水風船が割れて、弾けて、悲鳴のような声が万葉の唇で塞がれて、飲み込まれて、それで、
「あ、らめ、イくっ、イっちゃうっ、かず、はぁっ、イっ、~~っ!」
「ん、はぁっ、はぁ、あ、っく、っ」
「かずは、ぁ、イって、るっ、わたし、イって、あ、また、」
 何度もすり合わせるように重なる唇の中で、互いの声なき声がぶつかって、消えた。


******


 やけに温かくて、たまらなく気持ちよくて。ただでさえ心地よい微睡みから覚醒してしまったのは、優しく耳をくすぐる、恋しい人の声によるものだった。
。健やかな寝顔はいつまでも見ていたいが……そろそろ起きねば、朝餉を食いっぱぐれてしまうやも知れぬ。お主は朝餉も楽しみにしていたであろう?」
「んぅ……あさごはん?」
「ふふ。おはよう」
 ぱちぱちと瞬きを繰り返し、視界に入ってくるのが結った髪を解いた万葉と、その胸板だった。朝日で部屋の中が柔らかく照らされて、その肌の白さを際立たせている。
「……お、はよう」
 昨日の自分の痴態と、昨日とは違う色っぽい姿に、身体を縮こめたい気持ちが湧く。
 勿論そんなことはできなくて、私は大人しく彼の腕の中で目を覚ました。
 上から腰を抱かれて、擦られている。
「身体は大事ないか? 昨日は最後まで気遣ってやれず、すまぬことをした」
「ん、多分大丈夫……。それに、ずっと気にしてくれてたじゃない。痛くなかったし、私こそ……その、ちょっとはしたなかったかも。だからそんなこと言わないで」
 万葉のこんな姿を見るのは初めてで、目のやり場に困る。けれど、万葉は全然動揺していないようだった。
「私、変じゃなかった?」
「なにも。愛らしくさえずって、何度も拙者の名を呼びながら乱れる様はむぐ」
「いっ、言わなくて良いから!」
「むぐぐ」
 咄嗟に彼の口元を手で覆うと、手のひらから万葉の言葉が響いてくる。
「そうは言うが、今この時もお主の柔い肌を見ていると、悪い気が騒ぐというもの」
「!」
 私たちの間には布一枚なく、私が万葉の胸板を見て、感じると言うことは、万葉も私の胸の丸みを見て、その肌で感じているということで。
「おっと、……朝から熱烈でござるな」
 明るい部屋で胸をじっと見つめられるよりはと万葉に抱きつくと、甘い囁きが耳に落とされた。
 もう。どうしてそんなに落ち着いてるの。
 ちゅ、と控えめな唇が肩に落ち、そのまま私の肌を辿る。その仕草と、やわやわと這う万葉の指先が昨夜を思わせて、私は身じろぎした。
「万葉、さっき朝ご飯……って」
「うむ。しかし、なかなかどうして、手が離れぬ」
 熱い息に、もしかしてこれはもう一度なのだろうかと迷う。

 駄目押しに名前を呼ばれて、腰が抜けたみたいに一気に力が抜けてしまう。あらぬところが昨夜の快感を思って熱を持ち、朝食を楽しみにする気持ちを置いていく。
「……ちょ、ちょっとだけ、なら」
 私の返事に万葉はまん丸に目を見開いて、「あいわかった」と笑った。

2026/01/02 UP

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