この話には性描写が含まれるため、18歳未満の方の閲覧を固くお断り致します。

月と太陽なんかごめんだ。前

「本当に良いのか?」
「良いって言ってるじゃない。何よ今更」
「いやだってよ……お前、ずっとあのエルフのこと追いかけてたじゃねえか」
「……。ま、いいじゃない。別に。あんたとどうこうなるわけじゃないんだし」
「そりゃそうだけどよ……」
 煮え切らない男の言葉に、イオは目を伏せた。宿の一室、ベッドの上。半端にはだけた服を身体に引っかけて、まだ躊躇いが残る相手に息をつく。
「あんたは初物食いができる。私は処女を捨てられる。お互いwin-winだったわよね?」
「ああ」
「サキュ嬢的な活動ではないから金銭のやりとりはナシ。私は性病妊娠カットの媚薬服用。でもお互い完遂については保証しない。萎えたり無理そうだったら止める。この件をいたずらに口外しない。
 全部納得ずくよね?
 そして、私たちは30オーバーのおじさんとおばさんで、つまり、いい大人なわけ。……これ以上なにか躊躇うことあった?」
 しっかりとイオを押し倒しておきながら、手が止まっている男の目線は定まらない。だが、イオに詰められたことで諦めがついたのか、息をついた。
「分かったよ」
「あ、ていうかやっぱりもっと若くないと無理だったら今止めても良いわよ」
「いや。他の男に惚れてる女を合意で抱くこと自体はめちゃくちゃ興奮してる」
 全く碌でもない性的嗜好である。間男的ポテンシャルが高すぎやしないだろうか。イオは思った。
 これでいてこの男はそれ以外はまともな倫理観と常識があり、普通にイオを気遣っているというのがちぐはぐなのだった。
「けど、お前の場合ゼルがこえーんだよな……」
「はあ? 10年以上アタックしてなしのつぶてだったのよ? この後どんな顔して口出ししてくるっていうのよ。そんなことしてきたら私がぶっ飛ばすわ」
「できねえ癖にでっけえ口叩くじゃん」
 からかってくる男を睨み付ける。「目が潤んで全然怖くねえな」と更に追撃が来て、イオは唇を噛み締めた。それをペロリと舐められて、「噛むな噛むな」と男が宥めてくる。手慣れた様子に一抹の悔しさを覚えつつも、イオは言うとおりにして力を抜いた。

 イオが長らく片想いをしているゼルという男は、冒険者としてはかなり上澄みだ。エルフという長命種で、既に200歳を越えているということもそうだが、長命種にもかかわらず短命種並みの密度で日々を送る――主に性的な意味で――強い男である。
 10代の頃に依頼途中に負傷していたところを助けられ、依頼完遂を手伝ってもらってから、イオはずっとゼルを追いかけてきた。しばらくして恋心を告白して、やんわりと「もっと良い男がそのうち見つかるから」などと言う到底受け入れがたい断り文句を口にされて以降、怒鳴り込む勢いでゼルに「身体だけでも」「一回だけで良いから」と粘って、それでも断られ続けて今に至る。
 いつまでも人を子ども扱いして、そのくせ今もなお面倒見が良いなんて初恋泥棒が、今まで誰にも刺されてないのはおかしい。あの振る舞いを見る限り修羅場も経験してるはずだ。その上で今ピンピンしているということは、それだけゼルの立ち回りが上手いか、強いから傷つけられたことがないかのどちらかか、あるいは両方だ。

「ねえ、ホントにもうそういうのいいから……媚薬も効き始めてきたし、」
「うーん……。ん、じゃあ、やるか。落ち着かなかったら目閉じてて良いからな」
「うん……」
 一度時計に目を遣った男が、今度こそ頷く。イオは男の手が胸に置かれ、下着の上から探るように揉まれるのを見届けると、目を閉じた。
 男とは、20になる頃にその性的嗜好ゆえに目をつけられ接点を持ったのが始まりだ。そこからなんだかんだと続いて10年。飲み友達であり、腐れ縁である。
 自分磨きを続けて、それでもゼルに相手にされないイオを見かねてか、30歳を越えてからは子どもが欲しいのかどうかをちゃんと考えた方が良いと諭された。まともである。言われたイオもその通りだと思って、一旦ゼルへ会いに行くのをやめたのだ。子どもについて、なにもぴんときていないままではもう会えないな、とも思っている。
 その中で処女を捨ててみたらと持ちかけられて、自分の処女にそこまで価値を見出せなかったイオが、自分なりに考えて今日ここに至っている。
 人生って、本当に何があるか分からない。
 目を閉じ、男の手を感じながらイオはしみじみと心中で独りごちた。
 男の手がブラを外し、ずらす。ぷるん、とプリンのように乳房が出てきて、ふっくらと柔らかな乳首も露わになった。
「ん……っ」
 いつかゼルに抱かれることを夢見て感度を上げてきた成果を他の男に披露している。イオには不思議な感覚だった。流石に理性的に事を進めるのは億劫で媚薬を飲んだりもしたが、かと言って痛覚を遮断するわけではない。
 好きでもないけれど、ある種信頼の置ける男に今から処女を渡す。
 サキュ嬢と何が違うのだろう、と思いつつも、頭の片隅ではそんな考えはプロである所のサキュ嬢に失礼だとも思う。
 性風俗店に通うばかりか、いつからかレビューを執筆・編集・発行して収益まで得始めたエルフの男のレビューを読みながら管を巻き、涙を流したこともあるのを知っているのはごく一部だ。ゼルが好きだということを隠してはいないが、彼を思いながら身体を慰めたり、泣いたりしていることはイオにとっては秘めるに値する。重い女だ、面倒くさい女だと本人だけでなく周囲に思われることも本意ではない。それで茶化されることがあるだろうことも煩わしい。
 だからこれでいいのだ。
 何も変わらなかったとしても、処女でなくなればイオの気がいくらか軽くなる。長い間ゼルに心を寄せて、このままではだめだと一番感じているのはイオ自身だった。

 しつこいほど念入りに愛撫され、前戯も本番も後戯まで終えて、イオはしっかりと処女を失った。血が出ることもなく、なんなら中出しを求めて男の腰を足で固定したくらいだ。
 男には「年季の入った処女もいたもんだ」と笑われたが、からかいの色はなく、寧ろ労るような軽口で、気分は悪くなかった。
 お互いに身綺麗にして、男を部屋から見送る。と、宿の一階。賑わう酒場の一角から真っ直ぐにイオを睨み付けている緑の目と目が合った。
「げ」
 やば、とこぼし、咄嗟に部屋の内側へ戻る。内鍵をかけてベッドに突っ伏した。
「……ていうか、なんで睨まれたわけ? 意味分かんないんだけど」
「ほお、心当たりしかねえくせに、『意味分かんない』ィ?」
「えっ、あれ?」
 聞き間違えるはずもない。長年焦がれた声が部屋の内側から聞こえて、イオは勢いよく身体をひねり、足を振った勢いで上半身を起こした。
 そこにはイオの部屋の鍵を持ったゼルが、目を眇めて立っていた。
「あっ、なんで鍵、」
「そりゃああいつからバトンを渡されたからな」
 あいつ。あいつとは。今し方肌を重ねていた男以外にいるはずがない。
「最近見なくなって、良い男でも見つけていちゃいちゃしてんのかと思ったら単に処女を捨てるだけだって?」
「なんで知っ……あいつ、まさか」
「ご丁寧に、全部教えてくれやがりましたよ。部屋の鍵は開けとくんで乱入したけりゃいつでもどうぞ、ってな」
「……」
 みだりに口外するなって約束だっただろ……! とイオは胸中で叫ぶが、男に届くはずもない。
 行為の前に時計を気にしていたのは、ゼルの乱入を想定していたからかと今更気づくが、後の祭りだ。
「生憎、途中で参加する趣味はないんでな。様子だけ見とくかと思ったら、世話好きな奴から聞いたぜ。媚薬まで用意したって? 今だってほっぺた赤くして、とろんとした顔で無防備に出てきやがって。あいつはそんなに良かったかよ」
 ゼルの言葉を聞きながら、イオは混乱の最中でも引っかかりを覚えた。
 どうして長年袖にし続けた男が、まるで浮気でも問い詰めるかのように怒っているのだろうか。
「ゼルにどうこう言われる筋合いなくない?」
「さっきまで俺が下でどれだけ野次飛ばされてたか知ってるか?」
「知るわけないでしょ……」
 一体どういう状況なのか。
 イオの頭が整理されるまで、ゼルが待つことはなかった。
 後ろ手に内鍵を落として施錠すると、サードテーブルに鍵を放り投げ、イオの肩を押してベッドへと押し倒す。自らも膝を乗り上げてイオの腰を跨ぐと、じっと彼女を見下ろした。
 滅多にないゼルの真剣な目に、イオの胸が跳ねる。条件反射のように熱くなる頬を隠す術はなかった。
「な、なに」
「媚薬、まだ残ってんぞ」
「え? そんなはず、っ」
 ゼルの手がイオの頬にのび、指先が彼女の頬の熱を吸い取るように滑る。顎を通り、首筋を辿ったところでゾワゾワと肌の表面から快感が湧き、イオは戦慄した。
「うそっ、なんで」
「デミア製の媚薬使ったろ。ありゃ質も良いし副作用もないのが売りなんだが、効果時間が長いんだよ。最低でも六時間は持つ」
「ろっ……」
 咄嗟に時計を見遣る。媚薬を飲んだのは男と共に夕飯を食べた後のことで、確か七時を回っていた。今は十時前。ゼルの言葉が本当ならば、最低効果時間であってもまだ数時間も効果が残っていることになる。
 媚薬を用意したのはイオ自身だが、そもそも媚薬を使うという選択肢を用意したのは件の男の方だった。どんなものを用意したのかも伝えている。ということは、だ。
「……! じゃ、じゃあバトンを渡されたっていうのは……!!」
「精液を飲むか中に出されたままならある程度中和できるっつーか、効果が切れるのが早い。が、まだってことは分かるよな?
 ……さて、じゃあこれからちょっとばかしお説教だ」
「ゼル!」
「嫌も駄目も聞かねーからな。ほっといて辛いのはお前なんだから」
 困惑するイオにゼルが唇を押しつける。
「……でもまあ、ホントにイヤなら力尽くで嫌がってくれ」
 及び腰の言葉に反し、既に熱くなった股間を押しつけながら囁くゼルに、イオの腰は容易く抜けた。
 初めて聞く好きな男の夜の声だ。今まで何度も想像したどの声よりもイオの耳に迫る。
 唇には、まだひりひりとキスの感触が残っている。忘れたくないと舌でなぞると、ゼルが双眸を眇めた。
「ったく、分かってやってんなら相当タチが悪ィ……」
「? な、なにが?」
「そうだよな、分かってねえよな」
「んっ」
 耳元で聞こえるゼルの声に、イオは思わず身をよじった。腰の奥に響く。先ほどまでとは比べものにならないほど性感を煽られていた。
「あっ……ぜ、る……っ」
イオ……」
「ぁあっ、あ、んっ」
 耳から注がれる色っぽい声に、イオの身体がびくびくと跳ねる。ゼルの手はイオの身体をまさぐり、服の裾から直接肌を撫でた。難なく下着を緩め、胸の突起を優しく押し込む。
「あっ……!」
 イオはゼルの二の腕を掴んだ。中身ではなく、服だけをきゅっと握りこむ。快感に耐えるため腋を締め、縮めていた手が届くのがそこだった。
 抵抗らしい抵抗もせず、快感を享受する彼女にゼルはどんどんと服を寛げ、あるいは脱がしていく。はだけた胸もそのままに、一度行為を終えて穿き直したズボンが、淫らな手つきに翻弄されている間にするりと足から抜けていく。
 腰を浮かせ、拒絶どころか協力してくるイオを見て、ゼルも様子を見るのを止めた。
 ショーツ越しにイオの秘所を探り、湿った感触を確かめる。
「野郎ので濡れてんのか分かりゃしねえな……」
「ちゃ、ちゃんと拭いたわ」
「なら、確かめてやる」
 言って、ショーツをずらして指を差し込んだ。
「ああんっ」
「はっ……ぐっちょぐちょ。やらしーな」
 難なくゼルの指を飲み込む媚肉はあっという間に彼の指をしゃぶり、何とも知れないもので濡らしていく。よく解れていることを確認して一旦指を引き抜けば、愛液が糸を引いてねっとりと絡みついていた。
 ゼルは躊躇いもなくそれを口元に近づけ、イオに見せつけるようにたっぷりと舐め取ると、羞恥に目を見開くイオの唇へ押しつけた。
「んぅ……!」
「は……ぁ、どうだ? 自分のか、あいつのか……分かるか?」
「そ、そんなの分かんないわよ……!」
 真っ赤になって目を逸らすイオを窘めるかのように、ゼルは彼女をベッドの真ん中へ移動させる。同時にさっとショーツを脱がせ、足を開かせた。
「やっ」
「や、じゃねーの。ほら、入れるぞ」
「んっ、ああっ」
 自分のズボンを寛げ、ゼルは張り詰めた芯をイオの潤んだ肉に擦り付ける。赤く腫れた肉芽を虐めつつ、たっぷりと彼女の愛液で自分の欲望を濡らすと、先ほどまで誰も知らなかった場所へと突き立てた。
「あぁああっ」
 イオの背がしなり、甲高く甘い声が上がる。
 柔らかく指を包んだ場所が容赦なくゼルの芯を締め上げた。
「ふ……っ、はぁ、キツ」
 房事には慣れているが、素人を、それも大事にしてきた人間の女を抱く経験はない。サキュ嬢ならまだしも、十代の少女だった頃を知っているような相手など。
「あんっ、あ、ゼルの、きもち、いいっ……あ、奥っ、奥、もっと突いて、んっ、ずぼずぼ、してぇ……っ」
「ん、っもう蕩けてんのか……っ? あいつにもそうやって、ねだったとか、っはぁ、言わねーよな、っ?」
「そんな、わけっ」
「はっ……だよな、よかった」
「っ、ぁあんっ」
 イオの両足を抱え、不覚を狙って腰を押しつける。面白いように跳ねる身体を見下ろし、ゼルは一回一回、まるで幼子のお尻を叩く折檻かのようにイオの奥を責め立てた。
「あいつで中イキしたか?」
「んっ、あ、なんで、そんなことっ、ゼルに、言わなきゃ、っん!」
「言えよ。さっきまで処女だったってのに、俺のちんこで、っこんなに、よがってんだ……っ。さぞかし、可愛がられたんだ、ろっ?」
「んっ、わかんな、いっ」
「中でたっぷり出されて、っ気持ち良かったか?」
 滲み出るゼルの怒気に、イオは快感にもみくちゃにされながら頭を横に振った。
 いい大人だというのに、やっぱりゼルの中ではまだ幼い少女でしかないのだと突きつけられているようで、胸が苦しくなる。にもかかわらず、熱く猛った杭をこれでもかと打ち付けられて、イオの心は千々に乱れ、張り裂けそうだった。
「やだ、ゼル……っ、そういうの、いや……っ」
 大人が子どもにしないような行為をしているのに、大人が子どもにするような怒り方は嫌だ。
 イオの声が快楽ではなく涙に濡れる。と、ゼルはそこでようやく力強いストロークを緩めた。
「……悪ィ」
 ぼそりと謝罪を口にし、慰めるようにイオの瞼にキスが落ちる。それがどんな気持ちで行われているのか、彼女には分からなかった。
「かわいいよ。綺麗だし。もっと声、聞きたい。聞かせてくれ」
 熱のこもったゼルの声に、イオの身体は心を置き去りに、応えるように疼く。きゅっとゼルの熱を締め付けてくる感覚に、彼もまた身体に灯る火を煽られた。
「んっあ、あっ、はぁ、ん、っ」
「胸ももっと可愛がってやろうな」
「ああっ……!」
 中を突かれながら甘く乳首に吸い付かれて、イオの背がしなる。悲鳴にも似た声だったが、腰はゼルを求めるように蠱惑的に揺れた。
 色好い反応にゼルは彼女の官能をもっと引き出してやろうと、彼女の肌のあちこちを探った。胸は勿論、舌先で鎖骨と首筋を辿り、耳を舐める。手は下へ回り、豊かで張りのある尻たぶを揉みしだいたかと思えば、いやらしく太ももを撫で回した。イオの足が逃げ惑うように動くと、ならばと陰核を上から押さえる。反応を探るようにぐりぐりと優しく責められて、イオの声は一際高くなった。
「それ、やっ、あ――……!」
 がくがくと彼女の膝が揺れる。連動するようにゼルを包む媚肉が奥へ引き込むようにゼルの熱を扱き上げ、ゼルは歯を食いしばった。すんでの所でなんとか吐精を免れる。
 彼女の肉豆を責め立てる手を緩め、余韻に震える身体を優しく愛撫する。敏感なところを避けてもイオの身体は快感を拾ってしまい、淫らな声が喉から零れていく。
 どこを見ているか判然としないイオの目を見つめながら、ゼルは乱れる息を殺した。彼女が絶頂の余韻の中、ぴくぴくと震えながら快感に浸る様子を見下ろす。知らず上がる口角もそのままに。
「イったな」
「……いわない、で」
「なんでだよ。大事だろ」
「……知らない」
「じゃあ覚えとけ、な」
 イオの頭を撫でる。自分の手を素直に受け入れるイオの姿はやはりゼルには幼く映ったが、彼女の身体がちゃんと成熟していることももう十分理解していた。ここ数年、固く閉じた蕾が綻ぶかのように匂い立つマナを感じていたが、今日は特にそれが顕著だった。
「ゼルばっかり、ずるい」
「はっ。待ってるだけじゃ一生お前のターンは来ねえぞ」
 自分を見上げてくる潤んだ目を柔らかく見下ろし、しょうがねえな、と続ける。
「舌出しな。好きにしていい」
「ん」
 素直に舌先を覗かせたイオに、ゼルもまた自分の舌を差しだし、絡ませる。優しくちろちろと拙くまとわりついてくるイオの舌を啜る。
「んーっ、ぁ」
 抗議のように下の口で芯を締め付けられ、ゼルは咄嗟に腰を止めて彼女の胸に手を添えた。乳房をそっと支えるように横から手のひらで包みながら、親指と人差し指で乳首を扱く。
「んぁ、あっ、やらぁっ、んちゅ、んむ、ぅ、はぁ、ん、んっ、ぁ、――っ!」
 ゼルから与えられる快感にイオの舌先が疎かになる。ゼルはイオの舌を追いかけつつも、何度か甘く唇に吸い付いた。それが気に入ったのだと言わんばかりに、彼女の蜜壺は何度も緊張と弛緩を繰り返し、ゼルの芯をきゅうきゅうとしゃぶりながらその淫らに咲いた身体を高みへと登らせた。
 びくびくと全身を跳ねさせる彼女に、そろそろか、とゼルはイオが余韻から戻るのを待たず、律動を再開する。その腕に、イオの手が添えられた。
「あっ、ん、まっ……て、ねえっ、ゼル」
「あ?」
 甘えたように名前を呼ばれ、ゼルはどうにか背徳感以外の理性を引っ張り出した。しかし、次の彼女の言葉に絶句する。
「あの……んっ、種付けプレス? っていうの、して」
「ぶっ」
 ああこれ、無知シチュに近いんだ。ゼルがそう理解するのに時間はかからなかった。一体どこの野郎に何を吹き込まれたんだと、じりじりと肌を焼かれるような感覚になり、一瞬律動が疎かになる。
「はあっ? ……っ、おまえ、そういうのが、すきなのかよ……っ」
 だが、ふつふつと湧いてくる感情に急き立てられるように、イオに腰を打ち付けた。酷い女だと詰るように、眉間に皺が寄る。
「んっ、あ、だって、ゼルに孕ませてやるって、奥まで突かれ、て……っ、いっぱい、中出し、されたい」
「――~~っ! お、まえっ」
「んぁあっ……!!」
 知ってるじゃねーか!
 言葉を飲み込んで、望み通り彼女の下半身を持ち上げ、ぐいと丸めるように上半身側へと持っていく。体重をかけて上からのし掛かると、再び嬌声がイオの喉元から飛び出した。
「これでっ、満足、かよっ」
 どちゅ、どちゅ、と上から容赦なく腰を振り下ろし、何度もイオの淫らな身体を押しつぶす。ベッドが大きく軋み、反動も利用して力強いストロークを繰り返した。
 ゼルは元来パワータイプではない。力任せのプレイにも興味はないが、幸か不幸か、人間の女一人を満足させる程度の力も体力もあった。
「あ、すご、いぃっ おく、きもち、いいの……っ! あ、あっ、またイっちゃう、中イキしちゃうっ」
「はっ、ん、っ、いいぜ、イケよ、っ」
「ん、んっ、あ、ゼルので、っイく、い、――~~っ!!!」
 引き攣れるような声と共に、イオの身体が強張る。彼女が息を止め、その中で激しい絶頂に媚肉が歓喜に震え、ゼルを道連れにしようと収縮と弛緩を繰り返す。今度はそれに抗わず、ゼルはピストンを早めた。
 自分の快感を追いかける男の動きに、イオの身体はいっそうゼルを貪るように彼を締め付ける。
 呼吸を再開した彼女の声は甘く濡れていた。
「あぁんっ、イってるっ、気持ちいいの、とまんない、っ」
「はっ、はぁっ、イオ、中、出すぞ……!」
「あんっあっ、来てっ、ゼルの精子、いっぱい中にだして……っ!」
「くっ、う……イオ……っ、イオっ!」
「あ、ぁああ……!!!」
 一際強くイオの中に自分の熱を押し込み、身体を固定する。驚くほど強く抱きしめられて、イオはその熱さにまた官能が極まった。自分の中でゼルが射精していると頭で考えるだけで、頭まで愛撫されているような感覚になり、目眩を覚えた。
「どーだよ、これで……満足、か?」
「……うれし……しあわせ」
 疲労の色が滲むゼルの言葉に、感情のまま答える。未だ力強く脈打つゼルの芯に、イオは喜びに顔を綻ばせた。花開くような柔らかな笑みに、ゼルの目が見開かれる。
「っ、」
「ゼル、ありがと」
 ちょっと疲れたから、ごめん、寝る。
 そう言って、イオはゼルの顔を見ることなく瞼を閉じた。
 彼女が疲労に任せて意識を落としたのを見て、ゼルはそれ以上何かをする理由を失う。卓越した技術があっても、疲労する相手が寝てしまえば意味はなかった。
 ただ、『精液が溢れると媚薬の効果が』と言い訳のように彼女の中に自分を収めたまま、イオの身体を抱きかかえるようにして目を閉じた。



 目覚めた後、イオは自分の中の火照りが収まっているのを確認して身体を清めた。ゼルに抱えられていたものの、抜け出すのは可能だった。想像よりもずっと重いゼルの腕にいつまでも抱かれていたかったのは山々だったが、ゼルが起きて何を言うのかと想像を巡らせると、とても良い気分にはなれない。この後に及んで子ども扱いされたら流石に今までで一番傷つきそうだった。
 早朝の寒さは、良くも悪くもイオの頭を冷やすのを手伝ってくれた。
 少し遅れてゼルも起き出し、既に服を着ていたイオと目が合った。
「……はよ」
「おはよう……」
 仮にも肌を重ねた翌朝の挨拶にしては甘さのない、気まずい声がポトリと落ちる。どちらともなく妙な距離感を持っての支度になった。
 イオが取った宿部屋のため、準備ができたからと言って先に出て鍵をかけるわけにも行かず、ゼルを待ちながら鍵を手の中で弄ぶ。見つけやすいようにとつけられたクリスタルのキーホルダーが手の中でかちゃかちゃと音を立てた。
 今までならイオの方から話を振っていただろうが、今は流石にそんな気分にはなれなかった。
「……あのさ、イオ、」
 支度が終わり、部屋を出る。施錠するイオの横で、ゼルはどうにか言葉をひねり出した。
 既に部屋からは出てしまった。彼女を引き留める理由は昨晩の行為しかない。一階の酒場には既に人影がちらほらと見えたが、待っていても増えるばかりである以上、タイミングは今しかないように思えた。
「いや、その、……なんつーか」
「……ああ」
 視線も合わず、歯切れの悪いゼルの様子にイオは心得ているとばかりに頷いた。
「別に、たった一回、それも媚薬発散のために寝たからって恋人面とかしないから。安心して」
 平坦な声に、ゼルはイオから外していた視線を彼女へ戻した。
 そこに今まで熱のこもった視線でゼルを見つめてきた女はいなかった。酷くあっさりとした態度で言い放つイオに、ゼルは開けた口から何の言葉も出せない。
 ぽかんとしている間にイオは一階に降りていく。ゼルは下からいくつかの視線を感じながらも彼女の背から目をそらせなかった。
 諦めきった顔だった。寝落ちる前に見せたような満たされた顔を思い出し、ゼルは耳まで赤くなった。
 彼にとっては幼児のように思っていた子が、徐々に発育の良い少女になり、いよいよ女性として彼の前に現れるようになった矢先の出来事なのだ。
 瑞々しい弾力の身体と、艶めかしい懇願の声は未だゼルの中に残っている。今まで見たことのなかった、幸せそうな顔もだ。
「は……あんな顔しといてマジかよ……」
 くしゃりと自分の髪を掴んで、独りごちる。
 今になって諦められるわけねーだろ、という呟きが彼女に届くことはなかった。

2025/12/02 UP

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