この話には性描写が含まれるため、18歳未満の方や高校生の閲覧を固くお断り致します。
こころ召しませ
意識を落としてしまった少女の腰を掴んだまま、部屋には岡田以蔵の荒い息だけが響いていた。サイドテーブルの電気スタンドが仄かに部屋を照らしているが、元々少女のためにとつけたもの。起きているのが彼一人である以上最早無用の長物となったそれが、彼女の色を浮き上がらせる。少女の意識を刈り取る様に吐精した彼は、ヒトのような疲労感に似た心地良い気怠さに身を委ねていた。
肌で、耳で、鼻で、口で、身体全てで、脳で、――心で。彼女を喰った。それも自分が望んで、そして彼女からも望まれた上で、だ。その感慨が彼を支配する。
しばしそれに耽った後、少女から萎えた己を引き抜き、大きく息をついた。以蔵は長らく感じていた自分の中にあるもやもやとしたものが『飢え』であると、漸く腑に落ちた。勿論、それが分かったのは不足が満たされた故であり、今まで不足していたということに満ちてから気づくという愚鈍さであったが、それが彼女によって齎されたものであるならば反発も抵抗もあるはずがない。
つい興が乗ってしまい、男を知らない少女の身体を貪ってしまったという自覚はある。だが、張り型などではなく、初めて本物の男に暴かれる蜜壺の口元を己の雁首で引っ掻き、自分の形を覚え込ませるように何度も繰り返し甚振った自分の行いにも必死で応えようとする少女が愛おしくて、怖かろうに、それでも自分に身を委ねるその信頼が、彼女の心が面映ゆくて。嬉しくて嬉しくて、分別を失ったように求め続けてしまった。結果、腕の中で快感に震え以蔵に縋る少女に己のあらゆる欲望をぶつけ、今こうしている。
珍しく以蔵の心は凪いでいた。およそ言葉に尽くしがたい、自分の身に燻っていたもの全てを吐精とともに彼女の中へ置いてきたようでさえある。
そう言う意味では決して綺麗ばかりではない己の心で彼女を汚してしまったような気がするのだが、事の最中も人斬りの腕の中に納まって、その身体が弛緩していたことを感じると、以蔵はただ募っていく暖かなものへ意識をずらしていく。
性の手ほどきの作法を飛び越えたのは、相手が想い人であることを考えれば男として行かずにはいられなかったので当然として、それにしても。
少女が彼を想っていたことを知ったのが、まさか彼女をつまみ食いした後とは。
アサシンの性質と、自身の彼女への警戒心から観察してきた経験があって尚、彼女の心がどこへ置かれていたのか分からなかったのだから、やはりこういう部分で自分は今一つ頭が回らないのだろうと彼は思う。自分の心と対話し、感情や心を制御するというのは不得手なところである。自分の心さえままならぬというのに、彼女の心に思いを馳せるには、以蔵は些か生前のヒトとしてのそのような部分を色濃く残していた。
それでも、こうして自分が彼女を想うことと、彼女から想われていることがとても得難いものであることは自明の理であった。
おもむろに彼女の隣へ身を横たえ、掛布団を被る。睡眠は不要だが、酒と同じように嗜好するものとして一時の微睡みを楽しむためだ。
無論襲撃に際し後れを取るつもりは毛頭ないのだが、少女が己の腕の中で目覚める姿を、彼女が一番に見るのが彼女に仕えるサーヴァントとしてではなく、彼女の好いた男としての自分であることに思いを馳せながら、以蔵は穏やかな吐息と共に瞼を降ろした。
2018/07/06 UP