この話には性描写が含まれるため、18歳未満の方や高校生の閲覧を固くお断り致します。
こころ召しませ・後
ギラギラと彼の瞳が私を威圧してくる。情熱的で、どこか高圧的のような気さえする。普段ははっきりと開いている眼が、近くなるごとに細められていく。「……目閉じんがか」
吐息と声が肌に響いた。瞬いて、彼の雰囲気に呑まれていたことを知る。
「え、あ」
はっとして私は慌てて以蔵さんの肩に手を当てて、押すように力を込めた。
「ま、まって」
「待たん」
「以蔵さんっ」
静かだった声に凄味が乗る。決して不機嫌なわけじゃない。ただ、……なんて言えばいいんだろう。さっきから以蔵さんの声が、顔が、身体が、匂いが。全部腰に響いて、甘い疼きをもたらしてくる。腰が砕けて、動けなくなる。
「おまんの言うこととやることは違うちょる。ここで待つがは作法に反するぜよ」
それは、力の入り切らない手のことだろうか。
「わしは待たんが、おまんも言いたいことがあるっちゅうなら言えばえい」
言って、以蔵さんは唇を重ねてきた。柔らかい感触のまま甘く吸い付かれて、もう寝転がっているのに力が抜けてベッドへ沈んでしまう。
とろけそうな感覚がそのまま表情に出たのか、以蔵さんはにんまりと笑った。
「ほに、可愛いにゃあ……おまんはまっこと、しょうえい女ぜよ」
どこかうわ言のような声色に、好きな人にそう言われて嬉しくて恥ずかしくて、私まで夢心地になってしまう。
「……私、自惚れてもいいの……?」
声に出した言葉は思ったよりもか細くて、でも、二人の間では十分な大きさだった。
「はっきり言わんと分からんがか?」
彼の親指が私の唇をなぞり、掌が頬を包む。金色の瞳は柔らかく細められる。どこまでも機嫌のよさそうなその色に思ったまま頷くと、以蔵さんはくつりと笑った。さっきからずっと、この調子だ。
「……覚えちょけよ、立香。こがな時は、余計な問答は無粋じゃ。けんど、おまんは特別やき」
仰向けになっている私の上に、以蔵さんがのしかかるように身体を重ねてくる。或る一点が妙に熱を持っているのに気付いて、それが彼の身体のどこなのか感じた瞬間、
「おまんがいっとう好きじゃ。……わしに抱かれとうせ」
低くて、熱っぽい声が耳に染み渡った。
くらくらして、返事が出来ない。どう言えばいいかもわからない。
「なんにも言わんでえいちや。言わんでもよう分かる……」
以蔵さんの手が私の身体を這う。乱れた姿のままの私は、良いように身体をまさぐられるがままで。
上手く力の入らない身体は、快感には素直に反応してしまう。以蔵さんに身体を暴かれたのは少しの間だというのに、彼は的確に私の気持ちいい場所と力加減を把握してしまったようだった。
じれったいほど柔らかな手つきで、太ももをくすぐる様に触られ、悶える。下から這い上がる様なそれは、足の付け根にまで達すると、期待に反してそれ以上奥へは進まずに、胸の方までやってきた。
両方の乳房を、両の手で掴まれ、痛く感じる手前程の力強さで揉みしだかれる。さっきまでと比べると、少し乱暴に感じるほど。でも、今まで全く感じなかった以蔵さんの吐息が荒いことに気づいてしまえば、それは私の心を盛り上げる要素にしか成り得なかった。
散々揉まれた後、片方は口で、片方は指先で乳首を虐められ、気持ちよさに息を詰める。――途中で終わってしまった私の最奥が、以蔵さんの熱を意識して切なく反応した。
収めたい。彼の芯を。私が一番欲しいと思っている場所で、彼を感じてみたい。
擦って欲しい……まだ見たこともない、彼自身の猛る切っ先で。
経験もないのに、いやらしいだろうか。それでも、わざとなのか、ぴちゃぴちゃと音を立てて乳首を舌で、指で嬲る以蔵さんの息遣いに、私も息を震わせた。
「どういて声抑えゆう……おまんの声聞きたいちや」
「ああっ、ん!」
ちゅう、と大きな音で吸い付かれて背中がしなる。以蔵さんの口がやっと胸から離れたけれど、両手は以前親指で乳首を捕らえ、まるで――まるで、ゲームのコントローラーのようにくりくりと弄り回してくる。
その刺激に腰を揺らしながら反応していると、首元に以蔵さんの顔が近づいた。
「やっん、ひゃっ」
鎖骨を舐められ、吸い付かれる。何度も、場所を変えて。首筋に以蔵さんの体温を感じて、ぞくぞくする感覚が止まらない。身を護る様に肩をすくめるけれど、それが以蔵さんにとって何の意味もないことは明白だった。
顔を背けても、背けた場所へ彼の頭が降りてくる。ちゅ、とリップノイズを立てながら、以蔵さんの唇の柔らかさを嫌でも感じる甘いキスが落とされる。
小さく身体をぴくんと震わせると、以蔵さんが私の耳へ舌を這わせた。
「ひぁんっ」
「ああ……そうじゃ……具合ようしちゃるき、えい子にしとうせ……」
言うや否や、耳の中へ舌が入り込んでくる。にち、とダイレクトに水音が響き、自分で押し出せない分、反射で息を吐き出していく。そうすることで、体内に入り込んだ快感をやり過ごすことができるとでもいうように。
実際にそんなことが出来るはずもなく、それでも必死に息を吐く。小さく息を吸って、吐いて。耳から、肌から、胸から。彼から与えられる刺激の一つ一つが身体に入り込んで、彼を求める身体の中心へ響きながら落ちていく。私の身体に当たっている彼の屹立が、ちりちりと欲求を煽って仕方がない。
溺れる、と思った。
弱弱しくも彼の腕に縋ると、以蔵さんは胸を弄るのを止めて、私の礼服を上下ともに剥ぎ取った。気づけば、彼の刀も、コートも、マフラーも消えている。
邪魔なのだろう。彼の手がブラに伸び、するりと持っていかれる寸前、腕を曲げて待ったをかける。……これを持っていかれてしまったら、私を隠すものが何もなくなってしまう。
どういうつもりなのかと私を見遣った彼に、胸の先がじんと痺れたような気がした。
「……私ばっかり……以蔵さんも、脱いでよ」
以蔵さんは装備品こそ消していたが、最低限着物はそのままだった。それでも、全裸になる私とでは雲泥の違いだ。
「おまんが脱がせとうせ」
「……力、上手く入んない」
「寝っ転がっちょるきじゃ」
以蔵さんに抱き起こされ、胡坐をかく彼の足の上に乗せられる。厳密には足の間を縫うように膝立ちになった。いとも簡単に扱われて、やり場のない手を彼の両肩に。彼の膝の上にいるせいで、彼を見下ろすことになる。こんな近くでこんな風に見つめ合うなんて、初めての事だ。
「ほれ、やってみい」
手を取られ、彼の袴紐へ導かれる。促されるままに紐を引っ張ると、彼の補助もあって、直ぐに解けた。
「こっちもじゃ」
解けた紐はそのままに、今度は彼が素早く着物の下の帯と、腰紐を解く。それから、私の両手を着物の襟もとへ。彼にそうされたようにそっと左右へ開くと、驚くほど鍛え上げられた肉体が露わになった。筋肉の凹凸が激しくて、私とはまるで違う。
男と女ということ以上に、逞しい身体とその熱量に呆けていると、以蔵さんの膝が揺れた。続きを促されている。
しっかりと身体に巻かれているサラシを緩めて、褌は流石に分からなくて教えてもらうことにする。と、また両手を彼の腰の後ろへ引かれて、なんだか抱きつくような体制になった。胸が当たって、私の感触をどう思っているのだろうと意識がそれる。
「ここで捩じっちょるだけじゃき、簡単じゃろ。……これで、次からはさっさと脱がせてもらうきに」
楽しそうな声に以蔵さんへ意識が引き戻された。褌の後ろを捩じって捩じって……解けた後は、彼が寛げてしまった。
ぼろん、と目の前に飛び出てきた彼の屹立に、どんな顔をしていいかわからない。今、どんな顔なのか見当もつかない。
「こっ……こんなの、入んない……」
思わず第一印象を口にすると、以蔵さんはにんまりと唇を曲げた。
「いんや。入るぜよ」
「む、むりだよ」
「おまんが普段見ゆう張り型よりでかいだけじゃ」
とんでもないことを言われた気がするが、それに反応している場合ではない。
「折角じゃ、つまらん道具なんぞより、わしの方がえいようになるまでおまんの身体に教え込むっちゅうのも悪うないのう」
以蔵さんが自分のものを片手で軽く扱く。それを凝視していると、顔を下から覗きこまれて肩が跳ねた。内腿を擦られて、ぞくぞくと快感が背中を這いあがる。以蔵さんでしか感じられなくなるなんて、それはそれでなかなかロマンチックじゃないだろうか、なんて。
以蔵さんの身体の中でも一際浅黒い……赤黒い彼のペニスは、血管が浮き上がっていて、大きくて、先端は真上から見るとぷくっとして小さな桃のようで、その更に小さな穴から、透明の滴がとろとろと溢れ出ていた。……カリって、言われてる場所のくびれが、すごい。
目が離せないでいると、以蔵さんの顔がそれを遮るように視界へ入ってくる。その眼が弓のように細められているのに気付いてしまった。勿論、笑っているのだ。
「そがな物欲しそうに見られるちゅうのは、えいもんやにゃあ」
違う、なんて言えなかった。
腕に引っかかっているだけだったブラがゆっくりと外される。これで、私を覆うものは何一つない。唯一、以蔵さんの身体を除いては。
下から支えるように胸を揉まれ、胸元に吸い付かれる。なし崩し的に私は以蔵さんの膝の上のままだ。
てっきりまた寝かされると思っていたから、彼のすることをじっと見降ろす。不意に私の方へ投げられた目線にどきっとした。けれど、彼は何を言うでもなく、私の胸への愛撫を続ける。
ぷっくりと、まだ柔らかさを残す乳首を捕え、親指を人差し指で少し痛いくらいにこねまわされる。腰が揺れて以蔵さんの上に座り込みそうになると、彼の熱いペニスが足に当たってぬるりとした熱と、それが直ぐに空気に触れてひやりとする感覚に慌てて踏ん張る。
何度か繰り返していると、いい加減胸先の痺れにも似た感覚が強まってくる。触りすぎた時のそれと極めて近い……痛みの中に快感が混じり、日中でもむずむずとして気が散るタイプの。
「以蔵さん」
やんわりと彼の手に自分の手を添えると、じっと見つめられる。……さっきから、以蔵さんにはあんなことやそんなことまで筒抜けなことを思い出す。それはもしかして、私が以蔵さんの感情の機微を読み取れるようになってきたことと、同じことなのだろうか。そうだったら、嬉しい。
以蔵さんは舐めるように私の身体に目を落とし、胸から手を放して、私の腰に、太ももに、内腿に、暖かい掌を滑らせた。それから一度、こっちを見上げて、
「っ」
秘所へ通じるひだへ向けて、中指を僅かに埋め込んだ。
無理に奥まで押し込まれることはなく、まだ優しく指を曲げて、探る様に、私から溢れ出す愛液を絡めて、滑りを良くする様に。
「はぁ、ん……」
さっきまでそこを激しくかきまわされていたこともあって、彼の指がすぐにぬるりと蠢き、なんの抵抗もなく奥へ入ってくるのが分かる。指と肉が擦れて、気持ちよさしかない。
つぷ、と、彼の指が中へ入ってくる。腰を落としそうになるのを、すんでのところで耐えた。
「あ、あ、」
くちゅくちゅと水音が響きだすのに合わせて、彼の指の動きが大胆なものへと変わっていく。気持ちよくて、中で蠢くその感覚にしか意識が向かない。
膝立ちになっている所為なのか、はしたないほどに濡れそぼっていくのが分かってしまう。中からとめどなく溢れて、彼の手を濡らしていく。
「ぁ、あっ、あん、ん……っ、や、ん……」
びくびくと腰が揺れる。彼を欲しがるような動きを、そう、彼が欲しいんだと、身体の奥まった場所で私の身体が肯定する。
指が増え、二本になるともう駄目だった。
入口が広げられ、今までそこで拾っていた快感がもっと強くなる。他でもない彼の指でこうなのだから、彼自身が入ったらどうなってしまうのだろう。気持ちよすぎて、おかしくなってしまうかもしれない。……おかしくなってみたい。
されるがままに身悶えていると、遠慮がちに思う程ゆっくりと彼の指が出て行った。はやく、ほしい。かわりが、奥まで来てくれる、おっきいものが。
視線を降ろしたまま、意識が以蔵さんのものへ移る。彼は今私が濡らしてしまった手で、自身の昂ぶりを撫でていた。愛液を絡め、先走りを絡め、慣れたように扱う。はあ、と色気のあるため息をついて、彼は私の腰を抱くと、自分の方へ引き寄せながら、私の口めがけて噛みつくように口を開いた。
私の唇を覆う様に、彼のそれで塞がれる。何度かその調子で味わわれたために、あっという間に彼の唾液でべたべたになった唇を無意識で舐めていた。私のじゃない、違う味がする。
「……覚悟はできちゅうか」
熱に浮かされたような、どこかとろんとした――けれどぎらぎらした目で囁かれる。私が出来ることなんて、頷く以外になかった。
「して」
小さく言葉を紡ぐと、ぎゅっと抱きしめられた後、押し倒された。以蔵さんの首に手を回して、私も彼に縋りつく。足の間に以蔵さんの身体が入り込む。ベッドが軋んで、以蔵さんの熱い先端が、私の秘所にあたった。否、あてがわれた。
彼の乱れた吐息が震えているのを感じる。ペニスの先はとても敏感だと聞いたことがある。そこを使って、指の時と同じように私の蜜を掬いとり、馴染ませて、入り口を探し当てられた。彼の身体が私の足の間にあることで、否応なしに大きく足を開いている状態なのが恥ずかしい。その羞恥心さえ淫らな気持ちのスパイスのようになって、私の気持ちを高ぶらせる。
「っん、」
「……力みなや。息は止めんと……ゆっくり、吐きい……」
以蔵さんの声が震えている。何かを押し殺すような声に、否応なしに気遣いを感じた。
あてがわれた先端が、ゆっくりと、私の肉壁を押し広げる。私が飲み込むのを待って、じわじわと入ってくる。
「は、ぁ……っ、お、きい……っ」
指とは桁外れに大きなものの侵入に、普段は柔らかなそこが引き攣れるのを感じる。快感と痛みが半々で、痛いんだけど気持ちよくて、気持ちいいけど痛くて、少し怖い。ぎちぎちと、音が出そうなほどにいっぱいいっぱいになっているのが分かる。
以蔵さんが小さく喘いだ。それから、私の名前を呼んでくれる。
「えい子じゃ……もうちっくと辛抱しとうせ」
何度か以蔵さんの腰が揺れる。丸いけれど太い彼の先端が、私の膣に彼を覚え込ませるようにゆっくりと動く。徐々にぬるぬるとして摩擦が少なくなると、彼は腰を押し進めた。
「ぁ、……っう……」
酷い圧迫感に彼の動きが止まる。はくはくと、言われたように息を吐こうとするけれど、どうしても詰まってしまう。
「っ、あぁ……立香」
私を抱きしめてくれていた手が、頭を撫でてくれる。彼はぺろりと逆の手の親指を舐めると、クリトリスへ押し付けた。
「ああ!」
彼の先端を僅かに受け入れたまま、身体の奥がきゅんと締まる様に疼く。ひっひっ、と引き攣る呼吸を整えるかのように、以蔵さんの唇が私のそれへ重なる。必至にキスに応えようとするものの、クリトリスと膣から迸るような快感に腰が溶けそうだ。
「はぁん……っ」
圧迫感は変わらないけれど、それ以上に、もう少し奥に来てくれれば、私のイイところに彼の先端が擦れる。
「以蔵さん……っ、ぁ、ん」
彼の首に絡めていた腕を解いて、彼の太ももへ伸ばす。
止めないで。もっと奥へ来て。
口にする代わりにそう気持ちを込めて、自分の方へ引き寄せるように撫でた。ひくん、と膣が動いてしまう。見上げた彼の顔は笑みも消えて険しいものだったけれど、普段よりも血色の良い頬が、押し殺し切れていない荒い息が、そして、ごくりと動いた彼の喉仏全てが、私の想像を遥かに超えて色気というものを放っていた。
彼の両手が、私の腰を掴む。
「――……っ! ああ!」
彼がおもむろに動かした腰の一揺れだけで、一番大きなところが入り切った。勢いのままぬるりと温かいものが奥まで入って来て、私のイイ所を擦っていく。
「痛いかえ?」
「ん、だいじょ、ぶ」
お互いの息が混ざり合う。
「ぜんぶはいった……?」
「あともうちっくとじゃな」
「うそ」
もう彼でいっぱいになっている気がするのに。
「おまんを良くするんに、こがな長さじゃ足りんちや」
苦笑めいた笑みがこぼれる。もう一突きとばかりに腰を揺らされ、けれど十分な水気を含んだ私の膣は、最初を思うとあっけないほど簡単に彼を飲み込むのが分かった。奥まで突かれて、彼を最も求めていた場所が悦びに弾けるような快感を生み出す。
「あああっ」
「くっ……そがな風に締めな……、我慢が利かん」
「そ、な……こと、言われて、も、っ」
熱を持った場所同士が重なって、暖かい。力強くつかまれた腰が、彼の力加減でどうにでもなってしまう予感を伝えてくる。少しの間じっとしていたけれど、私の呼吸が落ち着こうかという頃、腰を固定されたままベッドのスプリングを利用して揺さぶられ、私は一気に引きずり出された快感に翻弄された。
「ひああんっ!」
そのまま、最初は浅く、徐々に深いストロークへ変わる。彼の腰へ手を回す余裕はなくなって、背中へと手をずらす。以蔵さんのペニスが容赦なく私の肉壁と擦れて、痺れにも似た気持ちよさに震えた。スピードはゆっくりなのに、突かれる度にお腹の中まで感覚が迫って、苦しい。ずるりと抜けていく感覚の後、ぷちゅ、と小さな水音と共に彼のカリが外へ出て、また入ってくる。
さっきまで無理だと思っていた大きさのものが今まさに私を暴いているのだと思うと、強い痛みが無いことの方が信じられなかった。
「はあっ……ぐ、っぁ、……っ! あ、あっ」
以蔵さんからもたらされる快感に声を上げながら身悶えていると、腰を持っていた手が、今度は私の脇の下を通って、肩を掴んだ。キスの後、ピストン自体は小さいけれど、私の気持ちいい場所だけを擦るようなそれへ変わる。同時に下腹部が密着して、クリトリスにまで振動が響いて――だから、
「ひあっあっ、やあっ、それっ、あっ、やっ、んああっ」
膣がじんわりと暖かくなって、足先が冷えるような感覚が来る。絶頂の予感に足がわななく。私と彼の肌がぴたぴたと音を立てている。縋りつくように必至に彼にしがみつく。その力も、あまりの気持ちよさに抜けていってしまう。肘上をベッドへ任せ、肘下だけで彼の二の腕に触れる。
「いや、じゃあ、ないろう?」
目の前で囁かれて、下腹部の奥がきゅっとなる。
「あんっ、あ、私ばっかり……っ、以蔵さん、も、あ、気持ちよくなって、よ……っ」
以蔵さんの動きで揺られながらどうにか言葉を放つ。顔が近い。気恥ずかしくて目を開けていられない。
「はっ……まっこと、おまんは、っ」
「ああんっ!」
掠れた声が、時折上擦る。彼も私のように気持ちよくなってくれているのかと思うと、ぐずぐずに溶けている中から溢れる暖かいものが広がっていくのを感じる。胸が甘く締め付けられて、切なくて、
「あ、いぞうさ、あっあ、ん、すきっ」
気付けば、気持ちが先に溢れていた。
「すき、すきっ、あ、んん、いぞ、さ、すきぃ、」
「……っ!! く、そ、ひこいちや……っ」
「ひあ! あっあ! ああっ!」
打ち付ける力が強くなる。殺し切れなかった嬌声が彼の喉元から小さく漏れるのが聞こえる。
「立香……っ、立香、立香っ」
泣きそうに上擦っていく声に引っ張られる。溜まりに溜まった快感が溢れる瞬間を追いかけて、もうそれしか感じられない。
「あ、あっ、くるっ、い、ちゃ、イっちゃ、う……!」
せり上がってくる予感に自分の声が高くなっていく。抱きとめてくれている彼の腕の熱さを感じながら、私は抗うことも、逃げることもなくその時を迎えた。
「あああああっ」
大きく身体が跳ねるのを止められない。腰が揺れ、足がわなないて、それでもびくともしない彼の身体は動きを止めてくれない。
「やああっ、イってる、もうイってるからあっ」
上手く回らない舌で懸命に伝えても、以蔵さんは容赦なく私を責めたててくる。放してくれるどころか、より一層抱き込まれて。
蕩けちゃう。また、イっちゃう。
余韻に浸る間もなく再びやってきた快感の波にさらわれると同時、深いストロークを一つして、以蔵さんが私の最奥で漸く動きを止めた。
中で不規則に彼のペニスが跳ねる。跳ねる瞬間少し大きくなって、その感覚に敏感な身体は貪欲に快感を拾い上げる。こんな、激しい絶頂は初めてだった。
子どもが出来ることはないと知っていても、中へ出されているという事実と、彼の腰が、それをもっと奥へ流し込みたいとでもいうかのように揺らめくから。興奮が引いていかない。
息を整えるのには、結構な時間を要したと思う。
「ああ……すまんちや、立香」
私を抱いたまま、低く、吐息交じりの声が耳をくすぐった。どういうことか分からないでいると、以蔵さんの下半身に力がこもる。
「?! きゃっ、あ」
深く繋がったまま抱き起こされ、繋がっている場所からは刺激が重く響いて以蔵さんに寄りかかる。
「な、なに」
「なんちゃあない。……このまま抜いたら痛いきに。わしが大人しゅうなるまで、おまんにゃあ不便をかけるぜよ」
どういうことなの。
問いかけようとした言葉は、抱っこされた状態で優しく揺すられて霧散した。
「あっん、」
「おまんを傷つけとうない。勘弁しとうせ」
以蔵さんの上半身が離れて、ベッドすれすれで止まる。快楽に浸った身体も思考も、甘い疲れで鈍っていた。
彼の手が、また、腰を掴んでくる。両手でしっかりと支えられ、
「――ああんっ!」
下から突き上げられ、彼のペニスが全く萎えていないことを知る。普段の姿を知っているわけではないけれど、勃起した状態よりはサイズは小さくなるはずだろうことは分かる。そうでなくても柔らかくなるのだから、今こうしてぴんぴんしているだなんて、信じられない。
だってさっき、以蔵さんは私の中で、その、……いっぱい、出してたはずなのに。
「やあんっ、なんで、」
「どういてもこういても、理由なんぞ、おまんじゃきに決まっちょる。……ほに、えい眺めやにゃあ」
彼の視線がどこへ向かっているのかを追いかけ、自分がM字開脚よろしく彼の上に居ることを思い出す。
慌ててどうにか膝立ちするように姿勢を変えたが、彼のペニスが気持ちいい所に当たって、嬌声が漏れた。瞬間、とんとんと突かれて、背を丸める。
「ひゃんっ、あっ、さっきより、っ、深いっ」
彼の硬いお腹に手をついて、されるがまま感じてしまう。身体は自然と自分も気持ちよくなれるよう姿勢を変えて、気づけば、先に彼から出されたものも手伝ってか、卑猥な水音が激しくなっていた。突き上げられるたびに肌が当たって、ぱちゅんぱちゅんとはっきりと聞こえてくる。
「は、あっ、あぅ、んっ」
むずむずとしたものが下腹部に集まってくる。今まで自分ではしたこともないくらい続けざまに甚振られて、夢中になってしまう。
「あっ、いいよぉ、いぞ、さ……きもち、い、の……っ」
「はっ……ようよう素直になったか」
「はぁあああんっ」
がくがくと腰が前後に揺れてしまう。それも以蔵さんの手で押さえられていて、自分ではどうにもならない。
彼の胸の上に力なく身体を倒すと、私の下で小さく喘ぐ声が聞こえた。背中を擦られて、悩ましげな息づかいが腰に響く。
「……たまらんちや」
「ん、あ」
うっとりとした声に嬉しくなっていると、お尻を鷲掴みにされた。直ぐに下から激しく突き上げられる。お腹の中をぐちゃぐちゃにされるような衝撃に、快感を拾うことに慣れた身体はそれでもまた絶頂の波を引き寄せ始めた。
「あっあっあっ、あん、あっ、いいっ、いいよぉ……っ、すき、すきっ……!」
以蔵さんの胸板に上半身を委ねて、彼の無精髭交じりの顎に唇を寄せる。と、彼が姿勢を変え、挿入の角度が変わって、唇同士が重なった。右手で後頭部を掴まれ、左手は腰へ回っていて、上も下も貪られる。
「んんっ、んっ、ぅ、はっ、あ、あんっ、いっちゃう、いっちゃ、」
「はっ……よう締まる……! わしも、そろそろ……っ」
「んぅ、ん、んっ、あ、はぁんっ、ぁああっ!」
激しくいい場所ばかりを攻め立てられ、何度も下腹部が切なくなる。腰を浮かそうとすると、逃げるなとばかりに腕に引き寄せられて、多分、私の方が先にイッてしまったと思う。
最早繋がった場所は溶けてしまっているんじゃないかと思う程ぐずぐずとした感覚しかなくて、大きな波をかぶった後は、穏やかにイキ続けているような気がした。
「はあっ……立香、もうちっくとじゃき……」
耳に残っているのは以蔵さんのそんな声。繋がったまま横にころんと転がって以蔵さんに見降ろされたあと、私は更にわけの分からない快楽へ引きずり込まれた。
******
「……」
ぱち、と瞼を開けると、薄暗い室内だった。開くのは素直に開いたものの、瞼は酷く重く感じられ、少し腫れているかもしれないなと考えを巡らせる。
じくじくと下腹部が……というか、膣が痛む。ひりひりするような気もするし、お腹の中を散々荒らされて、お腹にも違和感がある。足の付け根も。
身体の軋みを感じながら寝返りを打つと、果たして、以蔵さんは私の隣で身を横たえていた。その目は伏せられていて、寝息のような穏やかな呼吸を見ることが出来る。
お互いに一糸まとわぬ姿のままだけれど、恥ずかしさは昨晩ほど強くない。それよりも――抜かずの三発。
そんな単語が過ぎったけれど、それ以上じゃないだろうか。ただでさえ体力のあるヒトだったろうに、サーヴァントとなればそりゃあ、体力は人間を優に超えてるだろう。
始まりは兎も角、何度も切なげに名前を呼ばれて、同じ数だけ以蔵さんを呼んだことを思い出す。朦朧とする中、甘い刺激に訳が分からなくなりながら、二、三回は悲鳴を上げて達したような記憶がある。
……最後の方、以蔵さんはちょっと意地悪だった。ぐっちゃぐちゃの下の口を、彼の膨らんだカリのところで虐めてきたのだ。彼が満足するような恥ずかしい言葉でねだるまで、終わってくれなかった。
――あれ? でもそう言えば……
「……おはようさん、今日もよろしゅうにゃあ」
思考をぶつ切りにするかのように声を掛けられ、私は意識を彼へと向けた。暖かい身体はそのままに、太い腕が私の腰の下を通り、お尻を揉む。えっちな触り方というよりは柔らかいものの感触を確かめるような動きだったから、私は流される様に朝の挨拶を返して、今し方考えていた事についてはっとし、彼を見上げて抗議した。
「以蔵さん、嘘ついたでしょ。今抜いたら痛いからって言ってたのに、その前も、後も、おっきいまま私の――……い、入り口のところ、で、引っ掻いて遊んでた」
行為の所為ですっかり喉をやられてしまったかすれた声で何を言おうとしているのか気づいて、勢いが削がれる。
「可愛いのう。一人で昨日の晩の事思い出しよったがか」
「そういう言い方しないでっ」
「どういてや。わしはそがな風に事細こぉ覚えちょってもろうて嬉しいぜよ」
けだるげな様子もなく、上機嫌の彼には、もう何を言っても上手くやりこめられてしまいそうだ。気持ちで既に参っている自覚がある。一人よりも二人の方がいいだろうと言った彼の声を思い出す。別に彼以外じゃこんな風にはなっていなかっただろうけど、現実は彼だったわけで、だからこうなっているわけで……認めないわけには、いかなかった。
彼がおもむろに私ごと、寝返りのように身体をこちらへと転がしてくる。体重を掛けられているわけではないことは分かるけれど、それでも結構重たい。私の身体の限界を見極めたうえで気遣ってくれているのだろう。触れてくる手は穏やかそのもので、そう言った気分を想起させる手つきとは程遠かった。勿論、戦う時の圧倒的な力でもない。
「それに……あのまま抜いたところで、わしの気が萎えるわけでもないろう。それとも、おまんが手ずから世話してくれたがか?」
ああ、ほら。やっぱり上手く返せない。そんなこと、技術もないのにできるわけがない。
悔しいくらいに私の心を見透かす目の前の男の人は、私の手を取って指を絡め取ると、妖しく笑う。
「えい、えい。おまんが床上手じゃと面白うないきに。……そがな事はわしが教えちゃる。全部じゃ。誰ぞに教わるちゅうのだけは止めとうせ」
そうして唇の感触を楽しむようなキスをされてしまえば、私が言い返せることなんて、ほとんど残っていなかった。
「……以蔵さんの、ばか」
「ああ? 手管よりも先におまんのその減らず口から直し」
「すき」
「……ほうかえ」
悔しいけれど、率直な言葉に呆れるような素振りをしながらちょっと照れたようなその顔をもって、溜飲を下げることにしよう。
結局、彼の事が好きでしかたがないんだから。
2018/07/06 UP