この話には性描写が含まれるため、18歳未満の方や高校生の閲覧を固くお断り致します。

手折る花のかぐわしさは増し・晩

 今晩、いっとう大事な花を手折る。誰も見向きもしない路傍の草の一つである内にと、己の手で摘み取らんとした間際、初めてそれには蕾があることを知った。直後、硬く閉ざしていたはずの花弁を解いて咲き誇り、匂い立つような愛らしさを放ったそれは、艶やかに薫って。
 花など、ないような顔をしておきながら、己のためにその顔をのぞかせたのだというのなら――どうして伸ばした手を戻すことが出来ようか。
 あれは自分に向けて咲いたのだ。すぐさまこの手に取って、存分に愛でねばならぬだろう? 美しさに呆けていては、横から掠め取られてしまう。ただ突っ立って見ているだけなど、阿呆のすることだ。ましてや、元より目を付けていたのだ。最早己の物以外であるはずはない。
「……どうぞ」
 少女の声が響いた。
 特異な場所と化したカルデアにおいて、時間を示すものは時計位のものである。人間である職員らのために、夜は消灯され、静まり返ったカルデアの中でも、マスターたる彼女の部屋の周辺は特に静かだった。
 人にとって夜は寝る時間であるから、その配慮の結果だ。例外として唯一存在を放つ以蔵は、これから彼女の部屋に召される。彼女の部屋の中の明かりも既にない。それでもアサシン特有であろうか、多少色味が失せた程度で、以蔵の視界を遮るほどではなかった。
 恐らく少女もそれを承知しているのだろう。手動でおずおずと開いた扉から顔を覗かせる彼女の顔は、期待と恥じらいに満ちていた。
 ほんの少し前に彼女が色気を放ってからというもの、どうにも以蔵の鼻をくすぐり続けていけない。匂い立つそれの、なんと甘いことだろう。金木犀どころではない。この甘さは少女が元来持っているものなのだと分かると、喉が鳴る心地がした。
 静かに、身体を彼女の部屋に滑り込ませ、扉を閉める。今にも気を失いそうなほど緊張しているのが分かる様子の少女を見遣り、以蔵は口元を綻ばせた。勿論、その笑みが彼女には分からないことを承知の上で。
立香
 彼女を摘み取ろうとするまで決して呼ばなかった名を舌に乗せる。それは以蔵にとって大切な儀式だった。用があるのはマスターではない。彼女個人なのだと分からせるためにも。
 じっと動かない、否、この後どうすればいいのか皆目見当がつかない様子の少女は、自分の身を護るように胸元で手を組んでいた。祈りの姿に似たそれは、以蔵の逸る心を解すには十分な姿だった。
「ろくに見えんやろうき、運んじゃる」
「え、あ、きゃっ」
 指先でまろい頬に触れて、そのまま肩へ手を回す。もう片方は膝裏へ。横抱きにすると、少女は慌てたように以蔵の首へ腕を回した。
「お、重いからっ、あの、」
「こればあ普通じゃ普通。おまんくらいの背格好で軽かってみい、中になあんも詰まっちょらん異形ぜよ」
「……あ、うん……」
「? それに、この重いんがえいが。おまんの肉にわしの指が食い込むんが」
「……もううっ! 以蔵さんのえっち!」
「今から助平しゆう男と女が助平やないわけないろう。自分から部屋へ誘うといて、まさか添い寝でも頼むつもりやったがか?」
「うっ」
 まさかそんなはずはない。知りながら訊ねれば、少女は言葉に窮して押し黙った。
「わしが助平で困ることねえ……なんぞ、あったかえ?」
 以蔵は知っているのだ。彼女が自身にだけ見せた姿が何を意味しているのか。それどころか、彼女はもう白状している。以蔵が好きだということを。それが、大勢に向けるものとは一線を画する、唯一のものであることも。それが劣情を抱くのは兎も角、以蔵の劣情を許す類のものであることは以蔵にとって喜ばしいことだった。色恋沙汰にとんと縁はなかったものの、素直に彼女の艶やかさを愛でる心が自分にあったことも、だ。
 易々と少女をベッドの上に降ろし、寝間着姿を見下ろす。改めて見てみると、風呂場で事に及んだ際の金木犀の匂いは殆ど消えかかってはいるものの、しっとりとした空気を纏う姿は扇情的で、以蔵の情欲をそそった。
 ――特に、目が、良い。
 普段よりも潤んだ目が、暗闇の所為だろう。以蔵を見上げるも、目線が合うことはない。それでも以蔵の顔を探し、見つめようとする気概。恥じらいを見せるものの、決して逃げ出さない姿が何よりも以蔵の芯を温める。
「い、いじわるだ」
「なんのことか分からんのう。わしがまっこと意地くそ悪いんじゃったら、おまんをとうに食うちょったぜよ」
「ううっ」
 彼女の願いを聞き入れる度量があることを示せば、その手の経験が皆無と思しき少女は丸め込まれるしかない。
 これは存外、悪いことをしている気になるものだ。以蔵は心中苦笑が漏れたが、そもそも以蔵に善良たらんとする心積もりは毛頭ないので、彼女にそれを零すことはこの先もないだろう。すまんのう、と心の中でだけ謝るのは、自分の遣り方を曲げるつもりがないからだった。
「ほれ、立香。……そろそろ、観念しとうせ」
 意識して優し気な声色で促すと、少女は視線を忙しなく動かした後、そっと下向きに落ち着かせると、
「……はい」
 こくんと一つ、頷いた。

 緊張のあまり先延ばしにしようとする少女を追い詰めた以蔵は、自身の装備を消して身軽になると、彼女の寝間着に手を掛けた。前をボタンで留める、現代の日本人としては一般的なパジャマスタイルであるそれは、肌触りが良い。くわえて、普段武装している彼女を知っているからだろうが、殊更に無防備に感じてしまう。
「……ん、」
 更には、その下から現れた下着は、造詣のない以蔵でさえ目を瞠るものだった。思わず、サイドテーブルの電気スタンドに手が伸びる程度には。
「あっ」
 頼りなく声を上げた少女が以蔵の視界の中で色づく。彼女がパジャマの下に纏っている下着は、機能性を追求したそれではなく、男の眼を楽しませる目的で誂えたものに違いなかった。
 何故彼女がそれを身に着けているのか、など、この期に及んで言及するつもりはない。ただ、それに至った彼女の心の動きを辿りたいと思った。
「あの、はずかしい、から」
「わしを思うて着飾りゆうがじゃろ。見んでどうするちや」
 ぴしゃりと言えば、はう、などと奇妙な鳴き声で沈黙する。その吐息がか細く震えていることも知っていたが、か弱いその振る舞いは以蔵の雄を刺激するだけだった。
「下はどうなっちょる」
「あ、」
 面妖な構造を持たない寝間着は、然程気にせずに取り払うことができた。下にぐいと降ろすだけで、恥じらったために身を捩った少女の足からするりと抜ける。
 かくして、露わになった少女の姿は、まるで初夜に臨む新婦のようだった。――と、言うとさも見たことがあるかのようだが、実のところ以蔵にはよく分からない所の話である。ただ、少女が白い上下の下着の上に、同じく白色の、薄く透けるキャミソールと呼ばれるものを纏っているのが、どこか白無垢を思わせたのだ。
 伸びやかな彼女の四肢は何処へ目を遣っても瑞々しい。幾度となく超えてきた死線と、戦いの痕が窺えることなど些事でしかない。
 以蔵の眼前に身を横たえているのは、ただ、己を思い身を焦がすいじらしい一人の女だった。
「……こじゃんと可愛いがらんと、罰の一つでも当たりそうやにゃあ」
 上質の布地は絹だろうか。上品で滑らかな光沢も、今は妖艶に映って仕方がない。どこで調達したのかなどもどうでもよかった。彼女が以蔵のためにそうしているという事実だけで、以蔵の心は踊る。
 心を傾けられることの喜びを、これでもかと教え込んだのは少女の方なのだ。今更、それを欲しがるなというのは土台無理な話である。それどころかもっとくれてやろうと言うのだから、貪りつくし、全てを腹に納めねば男が廃る。
 身の置き場に困っている様子の少女に触れる。まずは丁寧に髪を掃い、その額に唇を寄せた。右の眉毛の上、こめかみ、目尻、瞼、目頭のくぼみ、鼻先、左へ移って、目頭へ。左のこめかみにちゅ、と口づけた後は、両頬に。それから、唇の端。
「んぅ」
 耐えかねて喉から声を出す少女に、優しく、優しく唇を重ね合わせる。
 口付けと言うには然程色気のない、掌を合わせるような仕草にはなったが、何度か繰り返してその柔らかさを味わっていくと、その都度息を止める彼女が健気に思えた。だからといって中断はせずに、寧ろ徐々に緩く吸い付き、己の唇で彼女の唇の上と下とをそれぞれに揉みしだいて、しまいには舌で閉ざされたそこを割り開いてゆく。
「ふ、……は、ん」
 流石に口内まで押し入るのは、ともすれば嫌悪感を催す可能性もあるために控えて、唇の愛撫までに留め置く。ちゅ、ちゅ、と徐々に音を出して吸い付いて、少女の声から甘さを引き出す。彼女の漏らすそれが嬌声と呼べるようになるまで、以蔵は辛抱強く繰り返した。
「ん、きもち、いい……」
 とろん、と、眦を下げて少女が呟く。その手は以蔵の両肩にそっと、添えるように置かれていた。突っぱねているように見えなくもないが、彼女の手は以蔵の着物を軽く掴むように丸まっていて、どちらかと言えば引き寄せる力が籠っている。
 そんなささやかなことに胸が温まる自分を否定することは、少女も拒絶することになる。以蔵は受け入れるしかない。けれど、それに苦痛は伴わなかった。
 ただ甘く痛むものが胸の鼓動に重なる。下腹部が重く、熱く、疼く。
 下着の上から少女の胸を軽く揉む。その大きさ故か、下着そのものはしっかりと彼女の胸を支えているようで、やはり直接触れる感触とは異なる。それでも、黙って以蔵の手を受け入れる彼女の表情は恥じらいに満ちていて、それが蕩けて、以蔵に縋るようになる様を早く見たいと身体の熱が暴れ出す。
 ふ、と一度その熱を吐きだすようにして息を外へ押しやれば、少女も応えるように静かに吐息を漏らした。
 男慣れしていないいとけなさに、己の中の獣の手綱を握り直す。
「のう立香、これの脱がし方やけんど、わしに教えとうせ」
「え……」
「見たことないき、加減も分からん」
 静かな部屋の中に響くのは、まるで秘密を囁き合うような二人の声だけだ。それが、以蔵の心を酷く満足させる。そのものすばり秘め事である上、組み敷いた少女の色気は失せることが無い。
 己のために着飾った女を脱がしたいと思う気持ちは勿論あるが、見慣れぬ下着で手間取ってこの空気が霧散することの方が今は惜しい。特に他意はなかったが、今の自分は彼女の言うところの人の悪い笑みでも浮かべているのだろうかとふと思い至り、以蔵は目を細めた。
 それでもいい。目の前の女は、そんな男を好きだと言うのだから。
 以蔵の視線から逃げるように目を伏せながらも、少女は背中に手を回して、まず胸を彩るそれを外した。キャミソールも脱いでもらい、ヘッドボードへ引っ掛けておく。着たまま彼女を己の手で染め上げたいのは山々だが、彼女の隅々まで触れるのには邪魔であることもまた事実。
「し、したも?」
「そっちはわしが貰おうかの」
 上半身を覆っていたものは全てなくなった。仰向けに寝てもさほど横へ流れて行かない彼女の胸の頂は、まだ青い果実のようで、以蔵の手には硬く感じられる。それでも、一度この手で味わった彼女の身体の弾力と官能は、そう簡単に忘れられるものではなかった。
 彼女の秘所を覆う白い下着に指を掛け、掌を滑りこませて下へ降ろす。軽く腰を浮かせるも、彼女はまるで下生えを隠すかのように太ももをすり合わせた。
 手入れのされていない下生えは、今まで少女のその性が求められず、そして彼女も間違っても求められぬよう意識して追いやった結果だろう。それが今や以蔵の眼前に晒され、羞恥という形で溢れ出していることに、悦を感じる。風呂場ではそれどころではなかったようだが、落ち着いて、以蔵を招き入れるに至った今となって、手入れについて思う余裕がでたのだろう。以蔵を男として見、しかも、彼女が女として求められていることを自覚し、以蔵が興醒めしないかと意識しているからこその恥じらいに違いないからだ。それが、以蔵の自尊心を満たしていく。
 両足はしっかりと閉じられてはいるものの、茂みに指を入れ、毛が生える方向に従って恥丘を撫でれば、さり、と小さな音を立てた。恥丘を指先で揉んで、その中に隠れている小さな快感の芽を意識して刺激する。
 息を詰めながらも少女の腰が艶めかしく動くのを見とめて、以蔵は口元に笑みを浮かべた。早くこの奥の秘境を掘り起こしたい。ぐちゃぐちゃに掻き乱し、翻弄して、喰らいついて、味わって、溢れるほど注ぎたい。
 身体は正直だった。痛いほど張りつめた場所が以蔵を急かしてくる。それに従えば快楽が得られることは知っているが、それは以蔵一人の話であって、今乗るわけにはいかなかった。男を知らぬ少女の身体に、次を求めさせるように仕込み始めた意味がなくなってしまう。
 蹂躙するのは得意だ。だが、以蔵の得意とするところは彼女に直接仕掛けるには不適切に余りある。より多くの我慢が強いられるのは織り込み済みだ。
 早く終われと、彼女が行為をやり過ごそうとするような反応は絶対に目にしたくない。次が失われるばかりか、彼女の心も失ってしまうかもしれない。どれだけ浅ましく卑しい下心からであろうとも、彼女にとって己の一挙手一投足が優しく映りさえすればよかった。
「……以蔵さんも、脱いで……私ばっかり、恥ずかしい……」
 ――けれど、舌なめずりの一つくらいは、許してもらおうか。


 丁寧に、丁寧に花を摘み取る。見て、触れて、聞いて、感じて。愛でて、蕩けた心が目から溶け出してしまいそうだと思う程に、今、己は締まりのない顔をしているだろう。
 しかしそれも致し方ないことだった。頭の先から四肢のつま先まで、全てに口づけて、舐めて、髪の毛の一房にまで指を這わせて、その度に怯えたように身を竦めていた少女が、徐々に官能に解され、しっとりとした甘い声と共に身体を捩り、悶えてゆく様を五感の全てで感じているのだ。以蔵の心に去来する、むず痒くも熱い、温泉が噴き出すような心地も相俟って、目尻が下がり、知らず口元が緩んでいる自覚はあるが、表情を取り繕うような余裕は既になかった。
 男で唯一、以蔵を許した彼女の茂みの奥。指の先から、淫靡な水音が耳を侵す。彼女に聞こえるようにわざと音を立てているとは言っても、その音は以蔵の雄を刺激する諸刃の剣でもあった。
「も、やだあ……ゃく、は、やくぅ……」
「まだじゃ。えい子やき、もうちっくと待ちい」
 少女の腫れた小さな豆を柔らかな舌先で撫でる。彼女の中を指でじっくりと探りながら、時折そうやって敏感な場所に手を加えてやれば、彼女は固く目を閉じたまま足を戦慄かせた。
「やあっ、ん……! も、やら、それえ……っ、あ、あああっ、やっやあっ! らめ、んやああ……!」
 彼女の中の、腹側、ざらついた場所を指で押し上げ、早くそこで快感を拾えるよう教えこむ。彼女が達しそうになると舌を離し、じっくりと指の動きを感じ取れるように、煽るような言葉で促す。以蔵はその繰り返しを飽きることなく続けていた。
 長い間彼女の中に埋めた指は恐らくふやけているだろう。だが、その柔らかさ、温かさに、より一層執着はしても、指を抜こうという気にはならなかった。勿論、以蔵の剛直を受け入れるには、そうしなければならなかったのもあるが。
「いじわるっ……やあっ……」
「ばぶれなや、おまんを虐めとうてしゆうわけやないぜよ」
「うそ……いぞ、さんっ……わるい、おおかみみたいなかお、してる……っ」
 呂律の怪しい彼女の言葉に、以蔵は喉元で笑った。顔はだらしなくへらへらとしているような気がするが、どうやら彼女にはそうは見えていないらしい。それどころか、悪い狼、とは。
「はっ、言い得て妙じゃのォ」
 褌の中、否、褌は既に先走りでしとどに濡れ、あられもない状態だ。何故ここまで耐え忍んでいるのかさえ最早おぼろげで、何がそうさせるのかなど、以蔵にさえ考える余裕はなかった。それを、彼女が分かっているとも思えない。
 黙って褌を外し、己の物に塗れた陰茎は、彼女の中を思うとそれだけで吐精してしまいそうなほどに限界だった。
「おまんを喰いとうて喰いとうて……歯ァ食いしばりゆう男の顔は、そがな風に見えるがか」
 彼女の答えは聞かなかった。
 以蔵はようやっと指を引き抜いて、代わりに、ぬらぬらと光る赤黒い亀頭を彼女の蜜壺へあてがった。それだけで、一気に貫きたい衝動が陰茎の先から頭へと以蔵の中を突き抜ける。やり過ごすのは容易ではなかったが、亀頭で彼女の愛液を馴染ませて僅かに沈みこませると、思っていたよりもずっと甘やかな声が少女の喉元から小さく漏れた。
 それは初めこそ吐息であったものの、以蔵が小さく腰を揺らして亀頭を彼女に馴染ませるごとに、はっきりと嬌声として鼓膜を震わせ始めた。
 浅いどころか、まだ、入れたとも言えぬほどの接触。にも拘わらず、亀頭で感じる彼女の温もりと柔らかさに、以蔵はなにかに身体を乗っ取られるのではないかと思う程、頭の中を揺さぶられたような気がした。
 女とまぐわうことは初めてではない。けれど、筆おろしの子どもかと思う程鮮明に焼き付く光景と感覚に、知らず身体を震わせる。
「以蔵、さん」
 奥歯を噛み締めて口で獣のように息をしていた以蔵に、少女の声が割り込んだ。
「……私が痛がっても、やめないで」
 睦言というにはあまりにも拙いその言葉は、以蔵を縛っていたタガをいとも容易く外せるほどの力を持っていた。
 少女の腰を掴み、恐らく受け入れるのに最も痛みのあるであろう雁首までを、一思いに彼女の中へ押しこむ。以蔵にとっても敏感な場所は、彼女の柔らかな内壁をこじ開けることで、酷く強い快感をもたらした。
「いっ……ああ!」
 圧迫感にだろうか、苦し気な息遣いの後、彼女は確かに快感を拾ったようだった。浅い息をどうにかしてやりたくて、以蔵は彼女に口づけた。犬のような息遣いを整えるべく、唇を重ね、舌を差し込み、息をする間を意図的に操作して彼女の呼吸を管理する。
「んっ、……ふ……」
「……どうじゃ、ちったあ落ち着いたが?」
「ん……」
 以蔵が、亀頭を彼女の中に埋めて分かったことは、本当に、童貞の子どものように、彼女の中で果てそうな射精感が迫っていることだった。勿論、そんなことを彼女に伝える必要はない。
「……いい、よ。ぎゅって……して……まだ、遠い」
 以蔵の状態を知ってか知らずか、彼女がねだる。その願いは、以蔵の願いでもあった。否やなどあるはずもない。
「――っ!」
 どちらのものともつかぬ情欲の涎で酷い有様であったのは幸いだった。痛むような摩擦はなく、寧ろ心配になる程にあっさりと、以蔵の陰茎は彼女の中に納まった。その一突きだけで、あられもない声をあげたくなるほどの気持ちよさに前後不覚になりかける。目に力を込めて見下ろした彼女ははくはくと口を開けて、息を上手くできないようであった。
 以蔵にしてやれることは少ない。だから、彼女の望むとおり、ゆっくりと彼女の上に覆いかぶさり、己よりも小さな身体を抱き込んだ。
 少女の手が、以蔵の身体に回される。それどころか、頬を摺り寄せられ、引き寄せるように腕に力を込められた。
 いかんちや、と心の中で待ったをかける。彼女に届かないことは承知していたが、声を出せば快楽に屈しそうだった。正直なところ、以蔵の我慢は限界をとうに過ぎている。最早早々に彼女へ精を注ぎ込み、完全に彼女を摘み取ってしまうことしか考えられない。
「……大丈夫か?」
 思考などできぬ中、紡いだのは陳腐な言葉だ。しかし、気の利いた言葉を思いつく余白など、頭の中のどこを探してももうなかった。彼女の持つ甘い匂いと、まろい肌と、以蔵を包む暖かさに、今こうしている間にもどんどん思考を奪われる。
「……痛い、けど……それだけじゃ、ないよ」
「気持ちえいが?」
「……うん」
 恥ずかしさからか、ぎゅ、と以蔵に抱き着く力が強くなる。たまらず少し腰を揺らすと、その力は緩まって、以蔵にぶら下がるようなそれに変わった。
「今、おまんの中に入っちょる」
「ん……」
「……よう覚えとうせ」
 ゆっくり、律動を始める。ピストンは恐らく痛みが勝るだろうと、彼女の中に納まって、そのさらに奥を突くようにして腰を揺らし、彼女の柔らかな肉が太ももに重なる感触を味わう。
「あ、あっ……あ、あ、」
 揺さぶられ、声を上げる彼女の中は蕩けていて、かと思えば不意に以蔵の陰茎に絡みつき、締めあげる。その場所を覚えて、擦り付けるように腰を押し付けると、男を初めて受け入れたとは思えぬほど甘美な声が響いた。
「ん、ああっ」
(――咲きゆう)
 以蔵の手の中で、今まで見つめてきた中で最も美しくこちらに向かって咲き乱れる姿に、喉が鳴った。
「綺麗じゃ、立香
「あっ、う」
 狂おしさに胸が疼く。少女が見せる女の姿。その全てが、以蔵に迫って、息を忘れそうになる。
「げにまっこと……可愛いぜよ」
 視線で相手を舐めることが出来るのであれば、今の以蔵がまさにそうしていただろう。彼女も以蔵の視線に込められたものを正確に読み取っているのか、顔をこれ以上ないまでに赤らめて、以蔵の陰茎をきゅ、と締め付ける。
「っく、いかんちや……そりゃあ悪手じゃ」
「ん、んっ、?」
「もう、辛抱できん……許しとうせ」
 彼女がどういうつもりであれ、ひとかけら程に残っていた最後の鎖を砕いた以上、以蔵は最早己でも分かりやすいほどに堪えるのを止めた。
「こじゃんと啼きや」
「ひ、ああ――っ!!」
 ぐじゅ、ぐぽ、と淫らな音を立て、律動を始める。腰を引けば彼女の内壁は以蔵の陰茎に縋るようにまとわりつき、深く押し進めれば、小さな粒を潰すような感覚とともに柔らかな肉の圧が以蔵の射精を誘う。
「は、あ、っ」
 ぶるりと腰から這い上がる情動を、吐精ではなく吐息で発散する。まだ三擦りもしていない内に気を遣るなど男の沽券にかかわる。などと言っていられないほど、以蔵の心は歓喜に震えた。組み敷いた少女は目に見えて快感に喉を引きつらせている。
 勝った、と思った。己の、ともすれば彼女の心を失いそうなまでの自分本位な感情を、隠せているかはともかく、彼女にぶつけて傷つけることはなかった。
 ようやっと高揚で胸が弾む。ねじ込むように腰を動かすと、一際甘く蕩けた声が上がった。
「あ、いぞう、っさ、ん、あ、」
「なんじゃ……っ、」
「いまっ、あ、いまだけで、いいから……っ、あ、ああっ、すきって、わたしのっ、こと、すきっていって、」
 目を合わせるほどの余裕もない少女が、以蔵に言葉を紡ぐことを妨害されながらも途切れ途切れに意思を伝えてくる。
 ――あまりにも。
 あまりにも、それが以蔵の胸を揺さぶった。敢えてはっきりと舌にのせなかった言葉たちが脳裏をよぎる。そのどれもが上手く以蔵の気持ちを包むことができなかったから、のらりくらりと避けていたというのに、この少女は。
「えいよ、立香
「あんっ……! ん、あ、」
立香……愛しちゅう」
「!」
 瞬間、彼女が以蔵の陰茎を強く締め付けた。
「は……こがなことでよかったがか……」
 愛おしいと。この気持ちをそう、称していいのかどうか、ずっと迷っていた。彼女を慈しみ、尊ぶだけではない。快感に浸して蕩かせて、彼女をこの腕の中に納めて、暴力的なまでの感情でいきり立つ怒張を突き立てて、たおやかな様を蹂躙したい。泣かせて、よがらせて、何度も以蔵の名を呼ばせて、縋りつかせたい。その執着を、愛おしいなどという小奇麗な言葉で包んでしまってもいいのか、以蔵には分からなかった。
 それでも、彼女が望むなら。言葉と共に、示してやろう。この心にどれほど強い想いが籠っているのかを。
「にゃあ、愛しちゅうちや……っ、立香、覚悟せいよ……」
「あ、あっ? なに、なん……!」
「折角黙っちょったに……おまんにねだられたら、っ、白状せんわけにゃあいかん……」
「あ、あっ、まっ、待っ」
「すまんのう、わしは言葉を繰るより、身体使う方が得意じゃき……」
 ふつふつと湧きあがるのは、己の中の獣の衝動だ。鎖で繋いでいたのを、外したのは彼女である。だから――悪いのは、彼女の方だ。そして、
「好きじゃ。おまんを好いちゅう……こじゃんと愛しちゃるき、おまんも精根果てるまで応えとうせ」
 勝ったのだから、褒美はたんまり貰わねば。

2018/10/02 UP

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