NO YOU, NO LIFE.
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暴かれる夢を見る。組み敷かれ無理矢理……と言うとおぞましくも色っぽく思われるかもしれないが、要は殺される夢だ。何度も見ているのにいつも夢から覚めれば忘れてしまう。そして夢の中で思い出すのだ。ああ、またこの夢か、と。
何度も繰り返される死の夢。
自分を狙う敵意に刺され、痛みこそないが只々緊張から身体が強張り、身動き一つとれない。私は眼を閉じているのか、この夢の間はいつも暗闇しか見ることができない。……目を閉じているようなのに暗闇を見るとは、不思議な表現だが。
ぶつりと首に何かが擦れる感触があり、そこで私はどうしてだか「ああ、死んだのだ」と分かる。「無念だ」とも。そしてゆらゆら揺れて、決して気分の良くない思いをするのだ。
夢占いなどでは自分が死ぬ夢と言うのは決して悪い意味ではないそうだが、死んだ後のことまで夢に見ている場合はどうなのだろう。それも、毎回同じシーンばかり。
闇の中、人の声や、彼らが立てているのだろう音は聞こえてくるが、いまいち鮮明さに掛け、まるで水の中から聞いているようなほど言葉を拾うことは出来ない。大半は男と見て間違いないだろう声だが、自分が死ぬ直前は何やら声を張り上げており、死んだ後、暫く揺れながら複数の男の声……不明瞭だが、恐らく会話を挟んだ後に再びまた声を荒らげるのだ。
夢の中の私はそれらをただ聞いていることしかできない。首を……多分、切り落とされたのだろうが、それ以降心はじくじくと痛むようで、物悲しい気分になっている。死んだと理解した後にまだ思考できることも不思議ではあるが、まあどうせ夢の中の話だ。
耳さえきちんと働いていれば、それはそれはけたたましい雄叫びであっただろうというような男の声が途切れた後は、泣きたくなるほどに懐かしい温もりに包まれる。こちらも、何故そう思うのかは未だに分からない。けれどとても安心する温もりなのだ。例えば……誰かに優しく抱きしめられているような。思わず頬擦りをしてしまいそうなほどに心地よい温度。
それに包まれ、夢の中で夢心地になりながら、また揺れる。今度の揺れは穏やかで、まるで母親の腕に抱かれる赤ん坊のよう。そして揺れが収まったと思ったら、優しく頭を撫でられる感覚がやってくる。髪を梳くように指が頭皮に触れる感触がはっきり分かる。手の大きさは肉厚な成人の男では決してない。細いがそこそこに大きさを感じさせる。年頃の少年だろうと思うのは、ぽつりぽつりと響いてくる声が男のものだからだ。これもどうしてだか、手と声の主が同じであることを、夢の中の私は分かっている。
その声と手に安心して、私は眼を……既に何も見えてはいないのだが、強いて言うのならば心の目をそっと閉じるのだ。もう憂うことはなにもないのだと。やっと眠りに就けるのだと。
そして夢から覚める頃、私は夢の一切を忘れている。
夢見が悪いと思ったことはただの一度もなく、きっとそれは夢の最後に抱かれる、途方もなく穏やかなもののおかげなのだろう、と眠りから覚める直前に思うのだ。
2015.05.25 pixiv掲載