FUCK YOU GOD!
巫山戯るな
02ND STAGE: Don't be silly.
大いなる恵みの 幸せな方
主は貴女と共に居られます
ヘブラスカとか言う人に会いに行くにあたって案内を受けながら、神田さんとコムイさんに連れられて【黒の教団】の中を歩いていた。
ちくちくと嫌でも分かってしまう視線が絡む。
この感覚は知っている。
振り切るように何事もないように装って口を開いた。
「鞄を持ってなかったか?」
尋ねると答えは神田さんを通して直ぐに帰ってきた。
「直ぐに君に返すよ」
「何か調べたりとかチェックとかは?」
「そんなのないなーい」
気楽な声は無防備……じゃないだろうな、多分。
「もしかして神田さんは私が英語を喋れるようになるまで側に付き添われる運命とか」
「んなわけあるかッ!」
止めろ寒気がする、と神田さんはすわった目で言う。
だろうな。
「……あとさっきから言おう言おうとは思ってたけどな、さん付け止めろ」
「え?なんで」
「キモい」
「……」
思わず閉口する。
「じゃぁユウで」
「……!」
髪を逆立てるようにこっちを見てきたユウににやりと勝ち誇ったように笑ってみせる。
「だって私英語ちょっと聞き取れるだけで喋れないし。ユウには世話かけるけど、嫌でも仲良くなろうぜ」
こいつの嫌そうな顔は面白い。最初は鬱陶しかったが、今思えばあからさますぎる敵意が心地良いくらいで逆に気兼ねしなくて楽だと思った。
そうだ、変に笑わなくても良いから楽だし気を置く必要もないだろう。
肩を組んでピースを作るとコムイさんが
「うんうん。仲が良いことは素晴らしいことだよ」
そう言ってユウが怒った。二人の会話は英語だし聞き取れないがコムイさんがからかったんだろう。
ユウは分かりやすくていい。
「ちなみにユウ何歳?年上だったらユウさんだな」
ぷ、と笑ってみせると、むっつり顔で18と返答が来る。
「……え!!まじかよ!」
「んだよ」
「私も18。いやあ奇遇だな、ユウ!」
ことさらに笑顔を作ってみせるとユウの顔が見る見るうちに険しくなっていく。
人怒らせるのはこれだから止められない。
「お前みたいなあんぽんたんと同い年……」
「これも神の思し召し、ってか」
冗談半分以上で言って肩を叩いた。
こう言う時にだけ神だの何だのと言葉が出てくる自分にも辟易しているその気持ちは奥に押し込めた。
結局ヘブラスカの診断ではイノセンスとのシンクロ率は70%だった。あるかどうかも分からないのにと言ったが、ヘブラスカにはイノセンスが分かるらしい。付け足すように言えばヘブラスカもエクソシストなのだそうだ。化け物のようだと思ったが、嫌な感じはしなかった。穏やかな声にまるで揺りかごに揺られて眠りを誘う微睡みのような感触だった。
イノセンスを宿している限り戦うのは宿命だと顔も見せない大元帥とか言うのに言われたがその言葉に対する反発心は余計に膨らんで誰がすすんで死にに逝くものかと心に決めた。
「じゃぁな」
「え?ユウ何処行くの」
「部屋に戻るんだよ。これ以上付き合ってられるか」
「つれねー」
「言ってろ馬鹿が。お前と違って次の任務があるんだっつの」
「へえ」
わざわざ死にに行くのか。
言おうとしてそれ以上言えなかった。巫山戯て言える言葉じゃないような気がした。
ユウと別れて、その部屋から直ぐのT字路に差し掛かる。そこで偶々人とぶつかった。……脇道沿いを歩くもんじゃない。
盛大に尻餅をついた上に勢い余って後頭部も軽く打つ。受け身を取れなかったのは不覚だった。
何とか体勢を整えて相手を視る。
「あー……ッと、大丈夫ですか?」
日本語丸出しで尋ねると、呻く声が聞こえた。歩いてたしそんなにダメージはないはずだ。盛大に尻餅でもついたか……後頭部でも打ったか?って、それは私だ。じんじんして痛い。
「いたたたた……すいません、まさか人が出てくるとは思って無くて……」
聞こえた声は酷く澄んでいて少年のそれだと伺えた。
見える髪は白髪で、しかし癖もなく収まるそれを純粋に綺麗だと思った。
「……アレ?えっと、初めまして、ですよね?僕、アレン・ウォーカーって言います。宜しく」
「あ、えと、ハイ、宜しく」
手を出され反射的に握ってしまう。だが手の感触が気持ち悪くて直ぐに振り切るように解いた。
「お名前聞いても良いですか?」
「鞠夜。阿部鞠夜」
言うと少年は目を丸くして数度瞬きをした。
「聞かない発音ですね……。あ!日本とかかな」
「ああ、そうそう。日本人。アイアムジャパニーズ」
適当に英語を並べて、空いている手で自分を指差す。
そこで彼は尻餅着いて座っていたままの私を起こそうと思ったのか、左手を。
彼の左手は私の何処も掴むことなく目の前で止まったが、それをほぼ反射的に払いのけた。
「いい。一人で立てるから」
一人で立ち上がる。
行き場のない手が空をかいていた。
一瞬、空気がぎこちなく淀んだのは気のせいじゃない。
よく見ると彼の手は真っ赤に染まっていて、形状も普通の人のそれとは言い難い。何かの病気だろうか?いやでもさっきの説明でイノセンスには寄生型があるって言ってたっけ。珍しいって聞いたけど、彼がその寄生型なんだろうか。
証拠のように左の手の甲に光る十字架を見て、赤い手と相まってまるでそれは血みどろの歴史の贖罪のためイエズス・キリストが十字架に欠けられたその話を思い起こさせるには充分だった。
イエズス・キリストか。
「……一つ補足しておけば、ミスターウォーカーの手が気持ち悪いとかそう言う理由で払ったんじゃないからな!!そこだけは間違ってくれるなよ」
日本語でも兎に角そう言い足して私はその場を去った。
後で難癖つけられたらたまったもんじゃない。弁明は取り敢えずしておくに限る。
もし仮にこれを彼が拒絶と取ったとしても構わなかった。
所詮上辺だけの付き合いなんだから変に愛想を振りまくよりもはなっから印象最悪にして誰とも付き合わない方が楽で良い。
ユウの場合であっても本気で嫌われてても問題ない。
嫌われている方が寧ろ好都合だ。誰も私との接触を好まないと言うことはつまり、一人で居られる。
それよりも、ヘブラスカの【予言】なるものを思いだしてまた気分が沈む。
イエズス・キリストなんて連想した所為だ。
【キミは……神に最も愛されている】
ふざけんなと思った。
神に愛されたって嬉しくも何ともない。
虚像に愛されて嬉しいと思う輩が何処にいる。
神など幻に過ぎない。
……言うとだからだとヘブラスカは言った。
【神を憎んでさえ……神を冒涜してさえ……イノセンスと適合出来たと言うことは……やはりキミへの加護は……他のエクソシストよりも……強力で……輝かしいものだ……】
ヘブラスカの言葉の一つ一つが苦かった。
【例えるなら……アヴェ・マリア】
違う。
聖女になりたいわけじゃない。
聖女みたいに清くもない。
美しくもなければ輝かしい者でもない。
慈愛よりも自愛。
愚かで傲慢で汚くて卑怯で最低な
そんな自分の何処が最も神に愛されると言うんだ。
違う、論点がずれた。
虚像に最も愛されているなど吐き気がする。
周りからの言葉の一つ一つが酷く捻れて歪んでいる。脳が侵されていく心地。
知っている。知っている。
軽い言葉の一つ一つを見下して嘲笑しながらその実そんなくだらない言葉に惑わされているこれは愚かな自分の心だ。
イエズスもこんな気持ちで磔にされたのか?
人間全ての罪を背負って、背負わされてけれど彼は神の子であったから
まるで神の愛そのものをもってして人を愛した。
何時になればこの罪の輪廻から解放される。
何故私はよりによって人間なのだろう。
年を重ねて汚くなっていく私もきっといつか嫌悪した大人達のように汚らしい世界で生きていく。
簡単に手放せるはずの命。それでも死を選べないのはその先には何もないことを理解しているからだ。
退屈な凡人で終わるつもりはなかった。
けれど望んだのはイノセンスではない。
あの世界の中で自分の力でのし上がるつもりだった。
これはその罰だとでも言うか?
望んでイノセンスを手にしたわけでもなくまたその力を見たこともないのに。
幾らイノセンスの適合者がエクソシストでAKUAを破壊出来るとしたとしてそれは私の力ではなく飽くまでイノセンスの力だ。
そして人が望むのは私ではなくイノセンスとエクソシストだ。
ここも違う。
私が私になれる場所は、何処だ。
あなたの体内の子どもである
イエズスも
祝せられています
2006/09/12 : UP