FUCK YOU GOD!

何も知らない癖に
06TH STAGE: You know nothing about me.

主はあなたと共に居られます

聖マリア

「今晩は」
「……!」

 目が覚めてまずノックの音がして、寝癖も何も直さずにドアを開けた。
 そこに立っていたのは他でもない少年で。
「何か用?」
 日本語で尋ねた。
 少年は笑う。

あの絵、完成したら下さいませんか?

「……は?」
「昨日描いていた絵、完成したら僕に下さい」
 笑顔は絶やさないまま、少年はそう言う。無言のままドアを閉めようとしたら彼の足が邪魔をする。

 こいつ……

「下さい」
 笑顔の癖に不貞不貞しい。
 でも、その不貞不貞しさが心地良いと感じたのは嘘ではなかった。
 イイコチャンよりも遥かに楽。
「イイ性格してんね、ミスターウォーカー」
 言ったって通じなくても思わず笑った。
 犬みたいに尻尾振って寄ってくる癖に、実は腹に一物抱えてる一癖ある奴だったなんてサ。
 いーじゃん、そのギャップ。
「オーケィ、あんなクソみたいな絵で良かったらあげるよ」
「本当ですか!?」
 言えば輝く笑顔が矢張り犬の様だ。
「マジマジ。……ただしッ!」
「!?」
 少年の鼻先に指を突き付けて声を張り上げる。
「これはトップシークレット。誰にも言うな。良いね?」
 念を押す様に声を低くしてそう言うと、少年には何とか通じた様だ。一つ頷きが返ってくる。
 ならよし、と私はドアを今度こそ閉めようとした。
 が、少年の足はいつまで経ってもそこから退かない。
 訝って少年を見ると、少年はまた笑う。

僕の用件はこれだけじゃないんですよね

 笑顔が嘘くさいと思ったのは気のせいじゃない。気のせいだと思いたいけど。
ここでは何ですし、食堂で何か食べながら話でもしましょう。今丁度夕食の時間ですし
 矢張り笑顔でそう言ってくるこの少年は優雅にこっちに向かって手など差し伸べ。
 私は矢張りその手を払いのけてけれど
「……このままの格好で?」
 その代わりとでも言うかの様に呟きは彼に払いのけられた。





「……用って何」
 二人分合わせて六人掛けのテーブルを占領するほどの料理に埋もれながら尋ねる。ジェリーの料理はとても美味しい。
 美味しいが、夕食時のピークで賑わう食堂で私が目をつけられないわけがなかった。しかも超寝起きで顔とかまじで死んでる。
 この取り合わせで目立たない方がおかしい。
えっふぉえふへー、ふほひほへはいははふんへふへほ」
「口の中に詰め込みながら喋るな、汚いな」
 緑茶を渡しながら顔をしかめると、アレンはそれを受け取って口の中のモノを流し込んだ。どうやら私が思う以上にアレンはイイコチャンではないようだ。
えっとですね、絵のことの他にも鞠夜にもう一つお願いがあって。それと、僕のことはアレンて呼んで下さい」
「……。アレンてスペルどう書くんだ?」
「ハイ?」
「テルミーユアネームズスペリング」
「?えっと……a・l・l・e・n……です」
「ふうん」
 それで行くと……
「アルだな」
「?」
「ミスターウォーカーのニックネーム。アル。今回からそう呼ぶ」
 指差してそう言うと、アレンは目を何度か瞬かせて、それから急にその頬に赤みが差していくのを私は見た。
「ニックネーム、ですか……?」
「ウン。お気に召さなかったかな」
「……有り難う、御座います……」
 幾分か熱に浮かされた恋する乙女の様にアレンの顔はうっとりとしていた。
 正直なところ彼の中で何があったかは知らないが、ニックネームはこちらでは普通じゃなかったのだろうか。
「で、アル」
「ハイ」
「ホワッツザマター?」
 用件を聞く。アレンは再び料理を詰め込む作業を止めて緑茶で口の中のモノを胃に流し込む。
 ……もっとゆっくり食べりゃぁいいものを、本当に汚い食べ方するなあ。
んぐぐ……ええとですね確か鞠夜は僕のししょ……じゃなかった、クロス元帥によるとエクソシストだと判断されてここへ来たんですよね?」
「……」
 思わず、箸が止まった。
だからといってどうと言うことはないんですけど……。コムイさんに聞いたらいろいろ教えてくれました。英語が余り喋れないのは辛いかも知れませんけど、僕、暫く暇なんで……もし良かったらこれからもお話し出来たらいいなと思って。リナリーも話したがってましたし」
「……リナリー……」
 目が覚めた時一番に見た女のことか。
詰まるところ、もっと僕達と話、しませんか?談話室になら沢山人が居るし……ほら、早く仲良くなれるかと」
「断る!」
 アレンの言葉を遮って声を上げた。
 気遣いだろう。でもそれが一番嫌だった。
 気なんて置くな。その裏にある気持ちを無意識的に探ってしまう。
 親切に言葉掛けをすることで自分の株を上げたいのか?
 意識しないそれが私が絵を描く様にアレンにとって自然な行いでも私は探らずには居られない。
 お前の本音は何処にある。
 何も知らない癖にどうしてそこまで突っ込んでくる?

 私の縄張りに土足で踏み込むな。

強制じゃないですけど……
「アルが私をどうしたいのかは知らない。けど、そう言う世話は要らない」
 不機嫌になった私を察したのか、アレンは言葉をつぐんだ。
「うるせェ」
「いて」
 後ろから頭を小突かれて、そこで初めて私の後ろに座っていたのがユウだと気づく。
「なんだ、ユウも居たのか」
「悪ぃかよ」
「いや?任務ってもう無いのか?」
「探索部隊如何による」
「ふーん……なぁ、お前さ、私のことで何か知ってるか」
「あ?」
「私のイノセンスのことについて何か知ってるか、って聞いたんだよ」
「コムイの野郎に聞けよ」
「つれねー」
「フン」
 ユウは鼻を鳴らすと直ぐに席を立った。私もつられる様にして席を立つ。
「アル、もう一度言うけどさぁ、小さな親切大きなお世話って言うんだよ。だから私のことで口出してくるの止めてくれ。そんなに親しくもないだろ」
 平らげた皿をまとめて持ち上げる。ユウについてトレーを返却して食堂を出た。
「で、ユウまだ話は終わってないんだが」
「俺の中では終わった」
「はいはい取り敢えずこっち向け」
 さっさと歩いていって仕舞いそうなユウを引き留め、無理矢理コムイさんの居るだろう所まで連れて行った。

 何も知らないのはアレンじゃない。
 多分私のほうだ。
 私にアレンを責める資格はない。
 胸が変に痛いのは気のせいだ。
 私は自分の意志ではないとはいえイノセンスのことも知らない。アレンに何か言うのはその後でいい。
 少なくともアレンはエクソシストとして既に活動している様だしその点に於いて私は彼を責める立場にはない。
 全て把握してから
 絡み付いてくる鎖の全てからも逃げてやる。

「ミスターコムイ!」
 勢い、科学班の所へやってきた。コムイさんはそこにいて、私とユウとの取り合わせを見て少しばかり目を見開いた。
久しぶりだね、鞠夜君。今日はどんな用件かな?
「私のイノセンスについて教えてくれ」
 言うと、ユウは矢張り不機嫌な様子で英語に訳してくれた。
 コムイさんはふむ、と私を見てから。
イノセンスの力は強大で普通なら人間に扱えるものじゃない。だから、【気持ち】が足りない今の鞠夜君に教えることは出来ないよ
「……」
イノセンスの使用方法は限られている。破れば鞠夜君の命が消える。もしも鞠夜君がイノセンスを使おうと思えばそれに準じていなければならない
 ユウを見た。ユウはコムイさんの言葉を訳してくれた。
ヘブ君も言っていたけれど、もしかすると神に最も愛されているという君には自由がある。イノセンスを使うか、使わないか
「……」
 イノセンスを使うか、使わないか?
 使い方も知らないのにどうしろと言うんだ。
 私の表情をどう取ったのか、コムイさんは一つ笑みを零して私の肩を叩く。気持ち悪い感触に反射で振り払った。
……また、君がイノセンスを欲した時、ここに来るといい。僕は無理にとは言わないから
 穏やかな声に心臓が熱くなった。
 ユウがコムイさんの言葉を日本語で言う。
 もどかしかった。
 どんな力なんだ?
 その力によっては今すぐ欲する場合もあるだろ。
 何故今すぐに教えてくれない。
 教えるだけでいいんだ。
 その後自分で決めるから。

 なのに、何故。

「……分かった。悪いなユウ付き合わせて」
 言うだけ言って私は部屋へ戻った。駄目だ、心臓が持たない。
 あの空気を吸わなければ。
 凍てつく様な澄んだ空気。
 中から溢れるヘドロが身体を空気を侵していく。
 吐き出さなければ。





 無我夢中で、私は部屋に戻ってi-podを取りだした。





 五月蝿く感じるまでに音量を上げて音楽を流す。
 雑音など消えてしまえ。
 心臓の震えよ止まれ。
 歌詞に耳を傾けろ。
 音に身をゆだね精神を切り離せ。

 汚く染まる私を誰か、叱ってくれ。
 蔑め。
 罵倒しろ。
 裁け。
 呪え。

 誰からの愛も要らない。
 そんな不安定なものは要らない。
 愛を切り捨てる私を非道と非難しろ。
 優しさの欠片も無い私を鬼畜だと叫べ。


 この世界は綺麗なのに、どうして私はこんなに汚く染まっていくのだろう。

神の母

あなたの体内の子どもであるイエズスも

2006/09/13 : UP

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