FUCK YOU GOD!
お前のことが知りたい
08TH STAGE: I wanna hear your words more.
あなたは
祝せられています
「やあ、鞠夜君。僕の所へ来たと言うことは」
「イノセンスについて教えて下さい」
通訳として引っ張り出されたユウがそれを伝えた。
アレンとは食堂で別れようともしたが何故かついてくると言い張って聞かず。
結局ユウとの折り合いが悪いのか二人は始終睨み合っていたけど。
コムイさんはにこりと笑って、書類が積み上げられていたソファを指差して座って、と私達に促した。どう座れと。
コムイさんは笑顔で切り出した。
「いやぁ実は試す様な言い方をして悪かったね、と先に謝らなくちゃいけないね。君のイノセンスは実は、クロス元帥からの報告書によればオートマティックな能力らしくてね。君が使う、使わないの意志にかかわらず発動するんだ」
切り出された言葉に私は思わず首を傾げた。
「どういう意味です?」
「君はクロス元帥に発見された直後AKUMAの弾丸に身体中を貫かれて居るんだよ」
「!」
ユウとアレンの顔が強張った。勿論ユウには通訳を頼んでいるから私も一歩遅れて目を丸くする。では、何故私は今此処に居る。
「ヘブ君が言った言葉は実は本当に的を射ている。AKUMAの攻撃の無力化。これが君に宿るイノセンスの力だ。このことから神の加護によって守られているってイメージから転じて、神に愛されたアヴェ・マリアと言ったんだろうね」
「はあ……」
「で、だ。君の力は厳密に言うとAKUMAの攻撃の無力化じゃなくて、AKUMAの弾丸や攻撃に込められたウイルスの無力化で、しかもAKUMAから受けた傷の治癒を行うものなんだ。この辺はどちらかと言えばイエズス・キリストかもね」
「!」
治癒。
「それは、他人にも使えるんですか」
「ん?それは君もこうして動いてくれると決まったしこれからの調査次第かな。でもシンクロ率を高めれば或いは……って、アレン君さっきまでしてた絆創膏とかガーゼとか左腕は?」
「あ、鞠夜に治して貰いました。それで僕もついてきたんですけど」
「……ホント?」
ユウの通訳でどうしても会話が一歩遅れてしまうが、私は頷きを返す。
何故、と問われて私は言葉に詰まった。
まさか意図するところが違うとは言え曲がりなりにもアレンの側にいたいからと本人の目の前で言うのは嫌だ。
「ふーむ、どんな心境の変化だったのかな……?しかも対象がアレン君、ねえ」
「言っておきますがミスターコムイが考えている様な心境ではないです」
「ちぇ」
なんだその態度は。
「じゃぁそろそろ……リナリー!居るかい?」
コムイさんは急に声を上げた。リナリー、と聞こえたのは……?
「兄さん、呼んだ?」
ひょこりと顔を出したのはずっと前に見たきりの顔だった。
「あ、久しぶりね鞠夜ちゃん。具合はどうかしら?大分痩せた?」
綺麗な笑顔をたたえながら握手をされて、私は矢張りアレンの時の様に呆気にとられた。
「ほらほらリナリー、お話しするのはもう少し後でも充分じゃないのかな?」
「あ、そうね。つい……鞠夜ちゃんは女の子だし」
「じゃぁアレを持ってきて」
「はい」
コムイさんとリナリーという女は少しの会話の後離れる。
何だろう。あ、団服のことについてか?
不思議に思っていると彼女は直ぐに帰ってきた。
「はい!アレを入れたら良かったのよね?」
「うん。有り難う」
「さ、どうぞ」
彼女にそう言って渡されたのはティーカップ。香る匂いはアップルティーのそれだ。
「それ、飲んでくれるかな?」
敢えて促され、変な予感がした。
躊躇しているとユウが飲めとガン見してくる。仕方ないので少し息を吹きかけて冷ましてから一口啜った。
「猫舌かよ」
「五月蝿い。いいだろ猫舌で悪いか」
「誰も悪いとは言ってねーだろ」
「いや、その言いぐさは猫舌を馬鹿にしている。全地球上に存在する猫舌に土下座して詫びろ」
「いいからさっさと飲めっつってんだろがこのウスノロ」
「ユウが絡むのが悪い」
「俺の所為かよ」
「他に誰がいる」
「はいはーい、二人の世界で悪いんだけど早く飲んでくれないかなー」
「ざっけんな!誰がッ」
「やーい怒られてやんの」
「違ェ!」
今にも胸ぐらを掴みかかりそうな勢いでガン見しあいながらデコをくっつけているとコムイさんから制止がかかりユウが声を荒げたのでからかう。
その間に一気にアップルティーを流し込んだ。
「で、何飲ませたんだよ?」
「ん?ちょっと脳細胞を刺激する薬を入れたアップルティーをね」
「!大丈夫なんですか!?」
「失礼だなあ、大丈夫だよ」
「?」
アレンが狼狽しているのを見て私は首を傾げる。
「ほらほら、アレン君が急に取り乱すから鞠夜君は脅えているよ?」
「そんな事言ったって脳細胞を刺激する薬とか言われたら普通驚きますよ!」
「今度の薬は大丈夫らしいわよ?何でも科学班の何人か実験台になったらしいけど……」
「リナリー……鞠夜は分かったけど科学班の人大丈夫だったんですか……?」
「んー……」
「そこは直ぐに肯定するべきなんじゃ!?」
「はいはい、その辺でストップね。……どうかな鞠夜君。僕達の言っていること分かる?」
「はい」
唖然とするしかなかった。
確かにこの世界は錬金術が生きていて科学にはまだ劣るもののゴーレムやその他対AKUMAへの装備の類はファンタジーとしか言いようがない。
でも、だからといって言葉まで分かる様になる薬が存在するか?
「今回鞠夜君が英語話せないって聞いてから直ぐに試みたんだけど、上手く行ったね」
コムイさんが笑う。私も曖昧に笑って
「……コムイ」
「ん?」
「……この薬、何時完成した」
「……。……。……。……。……昨日ってことで」
「何だその言いぐさ!本当はもっと前に完成してたんじゃなかったのか!!しかもこれを先に飲ませりゃ俺が通訳する必要なかったじゃねぇかよ!」
「うっわ、ユウそんな細かいこといちいち気にしてたら早死にするぞ。短気は損気って言うし」
「テメェは黙ってろ!」
「つれねー」
喋ろうと意図したことが英語ですらすらと出てくる。聞き取るのも考えるよりも先に言葉を理解出来る。まるで英語が母国語みたいに。
「ミスターコムイ、有り難う」
「いえいえ、どういたしまして。団服は用意するからちょっと待ってね。女物だしみんな気合い入っててねー。しかも鞠夜君こっち来てから大分体重減ってるからサイズやり直したりとか」
「……へ?」
「あれ、気づいてない?」
言われ、私は自分の身体を見る。
「いや、減ったは減っただろうけど。見せる趣味とか無いし」
「ええー?残念だなあ、みんな悲しむよ?折角女の子なのに。くびれとか」
「女だから男の見せ物にならなくちゃいけない言われはないです。つーかライン出る服なんですか?願い下げですけど」
「折角のお手製なのに……」
「……お手製、なんですか?」
コムイさんの口から出た言葉に詰まる。……お手製と言うことはわざわざ私のために作ってくれていると言うことだ。
それは少々断りづらい。
「そう。お・て・せ・い」
「……」
区切る様に言っているのはわざとだ。絶対にわざとだ。
この罪悪感は嘘だ。
と言うか誰か嘘だと言ってくれ。
「団服は言ってもコートだし、ほら、別に女の子はスカート履かなきゃいけないって決まりはないんだよ?」
「……。ああ、ですよね。じゃあ有り難く頂戴します」
「うん。それじゃぁ完璧に正式にエクソシストになって貰えたことだし、これから生活サイクルは昼に戻す様にね、あと服のこととか何かあったらリナリーに……て、鞠夜君、もう一ヶ月以上経ってるけど大丈夫なの?」
「ハイ?」
急にこそこそとコムイさんに耳打ちされ、私は何のことだろうかと首を傾げた。
「言いにくいんだけど……ねえ?月に一回お客さんが来るじゃない?」
「ああ……その事ですか。今回は適当にトイレットペーパーで代用したんで大丈夫でした」
「そう」
安堵した様なコムイさんは本当に気遣ってくれている様で、私が過ごしやすい様にという大人の配慮があった。でも普通これは彼女とかに口にさせるべきでは。
「ああっと、まともな紹介が遅れたね。改めて……リナリー・リーだよ」
「正式に、初めまして、鞠夜ちゃん」
「初めまして、ミスリー。私のことは鞠夜でいい」
「そう?私もリナリーで良いわよ」
「分かった」
「これから宜しく」
「うん」
綺麗な笑顔はよくよく見ると凄く可愛い。ソツのない顔を羨ましくも思ったが、どうせ私は彼女にはなれないし仮になったとしても愛想の無さで台無しにしてしまうであろうから割り切った。
アレンに向き直る。
「アル、御免」
「へっ!?」
私に感謝ばかりするアレンは正直もう隠せないほど可愛さが滲み出ていた。つまり、情が移った。
今まで言葉が通じない所為ですれ違ってもいいかと思ったが、今ではそれは許されない。言語による障害が無くなった今は、嫌でも『会話』を、しなくてはいけない。
「えと、あの、鞠夜?」
「なにかあったのかい?」
興味津々で尋ねてくるコムイさんに、私は少し、と告げる。
「いや、アルの気遣いが正直な話ウザかったんですけど、なんつーかアルに感謝されてばっかだし今更ながらに罪悪感がひしひしと」
「……感謝?アレン君、鞠夜に何かされたの?」
少し場面が違えば問題発言なリナリーの言葉にアレンは頷いた。
「ええと……改めて言葉にするのは少し照れるんですけど……僕の左手のフォローと……あと、道に迷った時談話室まで連れて行って貰っちゃったりとか……それに、ニックネームなんて初めてで……」
照れて居るのが分かるくらいはにかんで、アレンは言う。
……初めてだったのか、ニックネーム。
「いやあの場面でアルを放置するとか有り得ないから。まあ放置しておく人間が居たらそれはそれで見てみたいけど。それに左手は単なる弁明」
「それでも、嬉しかったんですよ」
満面の笑みで言われ、私は言葉をつぐんだ。
「やれやれ、鞠夜君もカンダ君に似て素直じゃないなあ、そこが可愛いけどね」
「……は?」
コムイさんの落とした爆弾発言に一瞬どうそらしたものかと思考を巡らせ、結果
「ああ、ユウが可愛いって事ですね」
言ってのけると
「ざけんな」
後頭部をグーパンで突かれた。
「何女性に手を挙げて居るんですかカンダみっともない」
「ああ?もやしはすっこんでろ」
「アレンです」
笑顔のままのアレンの台詞はどこか物々しい雰囲気を携え、私は落ち着けと一言。
「……あるじゃん、あだ名。もやし」
「違いますッ!止めて下さいよ鞠夜まで……!」
からかうと急に犬の様に必死な顔で泣きついてくる姿が愛らしくて思わず笑ってしまう。
「もやしって呼ぼうかな」
「鞠夜ーッ!」
いよいよ叫びに似た声を上げ始めたアレンにたまらず【とても良い笑顔】をしてしまった。
「よしよし、悪かったって」
「鞠夜……」
ほ、と安心した顔が本当に可愛くて
「だから泣くな、もやし」
つい、苛めてしまう。可愛いものほど苛めたくなるだろうそそられるのは庇護欲もあるがそれ以上に加虐心だ。
「……!!!鞠夜ッ……」
ショックに打ちひしがれたアレンを笑っていると、その顔が急にこちらを見て笑った。
「……良いんですか……そんな事言って」
「へ?」
不穏な空気に笑顔が凍る。
「僕だって考えがあります。言いますよ、【アノコト】」
耳打ちされて、普段よりも低いそれに若干腰を砕かれそうになりながら、私は距離を取ろうとゆっくり離れる。
「言われるの嫌がってましたよね?良いんですか?言いますよ?」
それを追いかける様にアレンも一緒に動いて耳元で、低い声で……まるで鬼畜だ。
「……分かった。分かったから取り敢えず離れろ」
「えー?何々?いつの間に二人はそんなに親睦を深めあったの?【アノコト】?」
「コムイさんはその口塞いでて下さい」
興味津々!とばかりに寄ってくるコムイさんにガン飛ばしつつ、私はそろそろと離れる。
マズイ。非常にマズイ。
今は特にユウが居る。
しかも女のリナリーなら喋る確率が一段と高くなる。
「じゃぁ、止めて下さい」
「分かった」
「……本当ですか?」
「私が悪かったです二度と言いませんからアルこそ言うなよ!」
「ええ。分かって下されば良いんです」
とんだ計り間違いだ。
こいつはイイコチャンどころか腹黒だ!!
いや、イイコチャンだからこその腹黒かも知れない。質が悪い。
「気になるなー」
「……アル」
「言いませんてば」
せがんでくるコムイさんにアレンを見る。
「僕の部屋に入って、アレを誰が描いたのか尋ねられない限り言いませんって」
「ぎゃー!!!!!!!!!」
今まで見た中で最も綺麗な、つまり嘘くさい笑顔でアレンが告げた。
あの時道に迷ったと言うのは嘘かも知れない。
本気でそう思った。
祈って下さい
アーメン
2006/09/14 : UP