この話には性描写が含まれるため、18歳未満の方や高校生の閲覧を固くお断り致します。
恋心恋錦
番外・口淫
自分の体温で暖まったふかふかの布団というものは何とも心地のよいものだ。ゆっくりと湯船に浸かるのと甲乙つけがたいほど至高の時間である。日干しした香りと、他でもない自分の匂いに包まれ、何とも安心できる。そこに想い人の香りがあれば――幸福感に満ちたまま、まどろみ、夢と現の境を揺蕩う様にして眠りを愛おしんでしまっても、無理はない。と、思うのは審神者の都合である。
「大将、そろそろ起きろよ」
優しく近侍に揺り起こされ、審神者は間延びした声で返事をした。まるで楽園のような時間と空間から覚醒するのは億劫ではあるが、他でもない心奪われた存在に呼び起されるのであればそれも悪くはない。
伸びをして、欠伸の混じった深呼吸を一つ。普段よりも僅かに高い「ふっ」という笑い声が聞こえて目を開けると、すっかり身形の整った、審神者の最愛が笑みを浮かべていた。
きらきらと彼の紫の目が光る。それが審神者への好意に満ちた時に現れる一つのサインであることに気づいたのはつい最近のことだ。言葉もなく「好き」を告げられ、審神者の心はきゅっと縮こまった後膨れ、暖かな温度を四肢へ送り出す。
季節柄少し暑さを感じ、審神者は薬研の言葉に従いゆっくりと身体を起こした。恋しい人から朝の一杯を渡され、喉の渇きを癒す。体温よりも少し高い熱が口内に満ち、喉元を通り胃へと落ちていく。――そこで、違和感に気づいたのは良かったのか、悪かったのか。
「……大将?」
審神者の顔色の変化に気づかない薬研ではない。その感知能力の高さに救われたことは数知れず、しかし今ばかりは気づかないでいて欲しかったと思うのは身勝手だろうか。審神者は白湯の入っていた湯呑をそっと引き抜かれるままに見送り、身体を強張らせ、曖昧に笑った。
「なんでもないよ」
「……本当か?」
「信用ないなあ」
「大将はたまに嘘つきだからな」
その言い方は酷い。そう抗議すると、薬研は薄く笑みを浮かべて白湯を乗せたお盆を遠ざけた。そして、
「確かめねえとな?」
「あ!」
まさに「あ」と言う間にまだ下肢に被さっていた掛布団を剥ぎ取られ、審神者は反射的に膝を揃え、胸元へ僅かに引き寄せていた。
「ほら、大将」
薄笑いを浮かべながら、薬研は審神者へ迫る。やけに凄みのあるその表情と迷いのない動作に既に全て知られていると分かったのは、薬研の手が審神者の股座へ入り込んでからのことだった。
「あっ……ん、やぁ……っ」
肌触りの良さを気に入っていた下着とパジャマの上から、薄手の黒の手袋をした薬研の細い手が審神者の股間を揉む。既に自身よりも遥かにその場所の扱いに長ける薬研の手つきに、審神者は成す術もなく快感に身を捩った。
「ここまで硬くしといて『何でもない』はないだろ?」
「はぁんっ」
同じ男と言う性を持つ者同士、どの程度が引き返せる限界なのかはよくよく知っている。審神者からしてみれば人の身体を得てまだ数年ほども経たない薬研が下半身の事情にここまで精通しているのはどこか悔しいものもあるのだが、全てを委ねられる安心感がそれを柔らかく包み、消していく。寝起きということと、相手が薬研であること、既に戻れない程成長した陰部が、快楽に流されることへの抵抗を限りなく薄めていた。
されるがままにパジャマと下着を脱がされ、優しく膝を割り開かれると、ぴんと立ち上がったものが二人の目に飛び込んでくる。薬研と近しい関係になるまで然程相手にして来なかったためか、全体的に淡い色合いの陰茎。先端部の亀頭は鮮やかなピンク色で、既に日が昇った今、どこからともなく差し込んでくる陽の光によってはっきりと目視することができた。審神者の正面へ位置をずらした薬研の顔を見ることが出来ず、審神者はただ見られているということを強く意識する。見惚れるほど美しい紫があられもない姿を映しているのだと思うと、背徳感と羞恥で奇妙な興奮が沸き上がった。足を閉じることも叶わず、かと言ってこうまでされては自分で触れるわけにもいかず、目を伏せて薬研を待つ。
薬研が審神者の腰を掴み、動いたのは審神者が焦れるよりももっと早かった。審神者の思考が働くより先に、薬研は勃ち上がった審神者の陰茎を咥え込んでいた。
「んっ……ぁ……、っ、あ?! やあっ、だめ……っ!」
審神者が薬研が口で奉仕していることに気づいたのは、既に彼が陰茎を唾液で濡らした後だった。薬研のさほど大きくはない口が、審神者の膨らんだものを目いっぱいほうばっている。いつも清廉さを感じる涼しげな造形とは対照に位置する己の欲望が彼の中で重なっている。傍からは見えないが、既に薬研はいきり立つ審神者の欲望を口内で舐めくすぐり、鈴口を舌で突いているのだ。
目を開けて飛び込んできた画のあまりの衝撃に思わず止めさせようと右手を伸ばしたが、薬研はその手を左手で優しく取ると、そのまま指同士を絡ませ、軽く握り込んだ。そうして一旦口を離して右手を陰茎に添え、裏筋に唇を添えながら不敵な笑みを浮かべ。
「これも近侍の役得……ってな。いいから、俺に任せな」
審神者と大して変わらぬ姿だが、たっぷりと年長者の余裕を含んだその顔に審神者の心は抵抗する力を奪われた。汚い場所を咥えさせているということの罪悪感と、無防備な局部の直ぐそこに薬研の顔があることに羞恥心はなくならないのだが、経験上彼に任せておけば安心であるという揺るぎない信頼が審神者の中の理性と言う常識を飛び越えていく。
微かに頷き、力を抜いて布団へ身体を横たえた審神者に、薬研は笑みを深くした。
「いい子だ」
絡まった手の親指が審神者の指を撫でる。枕に頭を預けた審神者は、薬研が見せつけるように再び陰茎を含むのを見つめた。
最も敏感で弱い場所を委ねている。それは心を預けているという何よりの証のようにも思えて、審神者はどうしても嫌がることが出来なかった。そもそもが嫌ではない、ということが最大の原因ではあるが。
「んっ、んん……っ……ぁ、あっ、……ふぁ、ああんっ」
薬研が丁寧に裏筋を舌でなぞり、括れを唇で挟み、亀頭を舐め回しながら強弱をつけて吸い上げる。ただでさえ口に含まれることが初めてだというのに弱い所ばかりを的確に刺激され、審神者は感じるまま声を上げた。これまでにも散々薬研に触れられた場所だが、手とは全く異なる感触に翻弄される。暖かく包まれ、舌が滑り、薬研の湿った吐息がかかる。細い指先で袋を優しく弄ばれ、根本付近の裏筋を親指で押し擦られ苛められる。薬研の息遣いと、それだけでは納まらなかったのか、時折漏れる短い声。水音、そしてリップノイズ。全ては性器へ与えられているにもかかわらず、二人以外に何の気配もない部屋の中ではまるでキスをされているようにも感じられ、審神者は無意識に己の唇へ左手を添えた。
「ああっ、は、あっ、ん、んっ、も、だめっ」
緩く、激しく。惜しみなく注がれる快感に腰が揺れ、堪えることもしない嬌声が上がる。限界を覚え、上り詰めていく感覚に寄り添うように甘く、高くなっていく声。下腹部に装填されていく快感は解放を求めて、今にも弾けそうだった。
「やげん、っあ、も、はなして、はなしてっ」
微かに残る理性で喘ぎ訴える審神者がその目を潤ませていることを確認した薬研は、審神者の弱い場所を激しく舌で責め立てた。
「やあああんっ、だめ、だめだってば! あっやっ、でちゃう、あ、はぁあっ、でちゃうっ!」
焦りながら快感に泣き濡れた声で抗議するも、審神者には薬研を押しのける力も余裕も、もう残ってはいなかった。ただ薬研の思うままに乱れ、溜め込んだ熱を放つことしか許されぬよう残りの道を全て塞がれ、どんなに制止しようにも抗えない場所まで来てしまっていた。
「あ、でる、でちゃ、あ、あ、あ!」
目を瞑り、快感を追いかけることに意識が占められる。決定的な地点を踏み越える瞬間、薬研が繋がった手を握り直した感覚が愛撫となり身体を走り抜け、審神者のあらゆる思考を奪い去った。
「ん、っあ――!」
息を整え、審神者が余韻から帰るころには、全てが終わっていた。満足そうに己の唇を舐める薬研と、繋がったままの手。意識は失っていないため、薬研が射精の瞬間も口を離さなかったこと、その後も丁寧に審神者の陰茎をしゃぶり、手頃な布で拭き取る必要もないほど綺麗に後始末されたこと、全て覚えている。ただ、薬研に何かを言う余裕も余力もなかっただけで。
下肢を投げ出し、たっぷりと薬研に可愛がられた審神者の陰茎は、今は既に力尽きて白い下腹部でくったりと寝そべっている。
「どうだ? よかったか?」
聞くまでもないことを敢えて聞いてくる薬研に審神者が何とも言えない気持ちのまま頷けば、彼は嬉しそうにはにかんだ。その微笑みでまあいいかと流してしまうのは惚れた欲目以外の何物でもあるまい。
「近侍だからって……こんなことまでしなくても」
口淫を言いたいのではなく朝の始末の話なのだが、そんな細かなところを指定するのは憚られて言葉を濁すと、薬研は真顔で首を傾げた。
「俺が近侍だからだぜ? 他の奴らを近侍にしたって構わないが、俺以外にこんなことまでさせるなよ?」
当り前だろう、と告げられ、審神者は胸の辺りがむず痒くなった。
そうだ、当然そうだ。そもそも今まで長い間近侍を務めた薬研であっても、このような関係になるまでは指一本触れられたことなどなかったのだから当然だ。だからと言って、当然のことを言い聞かせるように言われて、悔しさを感じないわけではない。特別な関係だからこそであることをこうもはっきりと言われて、簡単に嬉しさを感じている自分が一番悔しいのではあるが。
「分かってるよ……もう、着替えるから一旦部屋から出てって」
「俺のことなら気にすんな」
「薬研だから恥ずかしいんだってばっ」
夜であればそのまま眠りに落ちることで時間を置き、平静を取り戻せただろうが、今は朝の目覚めの直ぐ後だ。頭と身体は落ち着いたが、気持ちはふわふわとしてどこか据わりが悪い。再び上半身を起こし、薬研の目から先ほどまで散々見られた場所を足を折って隠した。
「はは、大将は何時まで経っても初心いな」
悪びれもせずに薬研が笑う。からかいを多分に含んだ声色に審神者は彼を睨めつけるも、
「ん? 怒ったか?」
「……怒ってないよ」
その瞳がきらきらと輝いて審神者を捉えているのを認めると、心の奥の深い場所で彼の好意を感じ取ってしまう。そうなれば審神者の敗北だ。恥ずかしさも反発心も遠い彼方へ去ってしまい、目に込めた力も失せていく。どこからともなく身体がじんと疼き、ずるいなあとその胸に頭を預けた。
2015.04.14 pixiv掲載