この話には性描写が含まれるため、18歳未満の方や高校生の閲覧を固くお断り致します。

争奪イニシアチブ!

二日目・昼 ハイエナ獣人化しましたが発情期のせいでラギー先輩とセックスに明け暮れることになりました

 ちちち、と鳥の鳴き声で目が覚めた。動物言語学などというもののせいで動物の鳴き声を言語として知覚してしまった現在、私の睡眠を妨害することは容易い。内容は分からないけれど。
 いつか……いつか絶対もっと防音に力を入れてやるからな……!
 待っていろよと思いながら私はどうにかこうにかベッドから身体を起こした。
「……せ、ラギー、先輩?」
 辺りを見渡しても、もう彼の姿は無かった。それどころか、あんなに激しく乱れ……あ?!
 昨夜の自分の痴態を思い出して私はもう一度ベッドに転がった。掛け布団をかき寄せて顔を埋める。自分の口からは自然と、昨日散々言われた呼び方に言い直したものが転がり出てしまった。ぶんぶんとめちゃくちゃに尻尾が揺れてしまう。自分では止められないの、不便だ。
 昨日。ハイエナの獣人になって、股間に今までずっと無かったモノを確認して、慰謝料云々の段取りや先生からの診断諸々、最低限のやることをやった後直ぐにサバナクロー寮二年生のハイエナ獣人、ラギー・ブッチ先輩のところへ行った。
 同じハイエナの獣人になってしまったことだし、ふんだくった慰謝料を使って注意事項とか教えてもらいたい。いつもつるんでるマブダチと相棒にはそう言って。
 幸か不幸かグリムは私から変な匂いがするからと物理的に距離を置きたがったし、その日最後の授業だったのもあって自然と別れられたと思う。
 そんなの、ただの建前だった。本当はずっとラギー先輩のことが好きだったから、これを口実にもっと親しくなりたかった。
 多分あっちは私の事なんてなんとも思っていないだろう。私みたいな将来性のない、自分の足場さえ不安定で、毎日どうにかして確保するのに必死な草食動物、彼が好んで狙うはずがない。それでもよかった。
 この学校に迷い込む前。グリムにさえ出会う前。私は確かにどこかにいた。そして何かを不安に感じていて、自分がどこにいるか分からなくて、心細くて。そんな中、彼を見つけた。そして彼に手を引かれたのだ。導かれたような心地だった。
 でも多分、それは夢のようなものだったのだろう。この世界には魔法がある。あの瞬間だけ、私は既に学内をさまよっていた可能性だって無視できない。
 だから、知っているのは私だけだ。不思議な場所で彼が笑いながら「早く行きましょ」って、そう言って、私をどこかに案内してくれようとしたのを覚えている。
 そのときから、多分、ずっと。ラギー先輩は私の心の中で温かく息づいている。マジフト大会でいろいろあった時も最後には収まってほっとしたし、だからこそ彼が無事だったことが嬉しかった。一生懸命な人ではあるんだよなあと、自分の力で未来を勝ち取ろうと頑張っているところを知ってしまって。強かで、現実的で、金銭感覚とか、そういうのが結構近くて。小さいことが降り積もって、それが恋になるまでに時間は掛からなかった。
 不安定な身の上だ。だから恋人になりたいとか、そういうことは思わなかった。最初の頃はひたすらに巻き込まれていたけれど、だんだんと環境に慣れてきて、今できることをやって楽しめるなら楽しまなきゃだめだと思ってからは、割と頻繁にラギー先輩に会いに行っていた。お金や報酬を渡せば、彼は大抵のことはしてくれる。私の面倒だって見てくれると言われたときは結構真剣に考えたりもした。
 だからハイエナの獣人になったとき、私の判断は早かった。どうにかしてラギー先輩とどうにかなっておこうと。こんなハプニングでも無ければ無理だと。
 ハイエナの雌にはおちんちんがあるという知識は自分の世界のアニメから得たものだった。それ以上を調べようとしなかった私が悪い。少なくともこの学校ではそうだ。
 私はおちんちんがあるならラギー先輩とヤったりヤられたりができて一挙両得なのでは? と思った。人間のままでもお金を渡せばラギー先輩はきっと私を抱いてくれるだろう。でも、そもそもそんなお金を用意する事がまず現実的じゃない。だから降って湧いた不幸は金に換えて、さらに思い出に換えることにした。取り急ぎでもぎ取った五万マドルで交渉しようとした。
 実際、五万マドルは受け取ってもらえて、先輩は請け負ってくれた。
 結局、私のおちんちんはおちんちんじゃなくてクリチンポって言われたけど。一方的にただただ気持ちよくさせられて、激しくキスをされて、手マンされて、クリチンポしゃぶってもらって、尻尾の付け根が性感帯だって教えられて、それで、――セックス、して。
 何回したか覚えてない。というかお互い毎回一緒にイったわけじゃなかったし、取り敢えず用意したコンドームを何回も先輩が替えてたのは見ていた。今は使わなかった分も含めてどこかに消えている。先輩が片付けたというよりは、持って行かれたのだろう。何故かは分からないけど。
 ……にしても、ラギー先輩の身体、凄かった。獣人の感覚からすれば貧相なのかもしれないけど、私からすれば充分男性の身体つきで、しなやかそうなのに明らかに筋肉の凹凸があって、喉仏があって、手が大きくて、おちんちんが勃起してて、その下にたまたまがついてて、乗られただけで重たくて、動けない私のこと、心底楽しそうに見降ろしてた。その全てに、ゾクゾクして。犯して欲しくて、どうしようもなく身体が疼いて。私よりも今の私の身体に詳しい彼に、最後まで翻弄されっぱなしだった。
 昨日の気持ちの昂ぶりは何だったのかと思うほど、今は比較的落ち着いている。昨日の物理的な名残が一切無いからだろう。本当にラギー先輩がいたのかと思うほど、部屋には昨夜の出来事を思わせるようなものは一切無かった。
 と、思っていたけれど、そんなことは無かった。のろのろと身支度を始めて程なくして、私は膣から何かが出てくる感覚にぞくりとした。慌ててトイレへ駆け込み確認する。幸い下着が血で汚れているようなことは無かった。……ものの、その、昨日の行為の名残は私の中にまだあったのだ。流石にラギー先輩といえどもそこまでは片付けられなかったらしい。そりゃあそうだ。私だって片付けとは言え意識のない私の身体を好きなようにされるなんてぞっとしない。いや、例えばラギー先輩にえっちないたずらされるのはやぶさかではないけど。いやでもその気が無いときは普通に嫌だな。
 移っていく思考を引き戻し、便座に腰掛けながら、少し濡れてしまったパンツと、内股を伝う感覚に迷う。登校してしまえば違和感を覚えても直ぐにトイレへ駆け込むことは難しい。取り敢えずナプキンを取り出して様子を見て見ることにした。今日一日は取り敢えずそうして過ごせば大丈夫だろう。生理と違ってお腹や頭が痛かったり体調に悪いところがあるわけではないのだし。
「おーいグリム、起きて。朝だよ」
「ふにゃ……ふな……。……ぶなっ?! オマエ、昨日より臭いんだゾ!」
「えっ」
 グリムを起こして、朝ご飯。そう思っていたら、まさかの苦情がとんできた。この寮で過ごしやすい部屋は私とグリムの部屋と、談話室だけだ。だからグリムは今談話室で寝ている。昨日臭いと言われたから遠慮して扉を開けて部屋の中には入らなかったのに。
「なんでだろ……別にハイエナだからってワケじゃなさそうだしなあ」
「ラギーは普通なのになんでオマエはこんなに臭いんだ?」
「私に言われても。でも……そうだなあ、今日ジャックかラギー先輩に訊いてみようかな」
 私自身にグリムが嫌がる匂いが分からないのが致命的だ。多分獣人としての自分の匂いなのだろうけれど、グリム的には臭いらしい。匂いがある内は別々に登校するとまで言われて、私は一人身だしなみを整えて、忘れ物が無いかチェックすることになった。しょんぼりだ。
 ……あ。
 鞄の中と、辺りを何度か確認していると、勉強机の上に置いたままだったメモ帳に、見慣れぬ筆跡で文字が書かれていた。
『一晩のご利用ありがとうございましたッス。必要な片付けとかは全部やっときました。サービスの時間と内容に不満があれば、今日の放課後までなら応相談って事で』
 文章と共に、サインの代わりだろうか、垂れ目のハイエナの絵が描かれている。抜け目なく今日の日にちも。領収証みたいだった。本当に器用な人だと思うと同時に、五万マドルでここまでしてもらえるのか……と私は感動していた。
 アフターサービスなんて概念、あの人にあったのか。
 しかし、そこはラギー先輩だ。もしかしたら彼自身が『まだ報酬分働けてない』と感じているだけかもしれない。というか、多分そう。
 ここは素直にもう少し要求して、もう少しイイ思いをしても良いのでは? 私は少し迷って、必ず昼休みまでにはラギー先輩に声をかけることに決めて寮を出ることにした。


「監督生くん」
「あ、ラギー先輩」
 昼休み。私は食堂で軽食にどうにかありつくと、未だご機嫌斜めな相棒に嫌がられたのもあって、ラギー先輩を探すために校舎の中を一人彷徨っていた。……のを、当の本人から見つけて貰って引き留められた。
 朝から相棒に臭いと言われた上散々ごねられて教室の中でさえ距離を置かれてしまった私は、めちゃくちゃ凹んでいた。トラブルメーカーだし口の利き方はなってないけれど、無邪気で『子分』と言っては何かと私を気にかけてくれるグリムには心を助けられているからだ。
 その上、反応が悪いのはグリムだけでは無かった。獣人の生徒からの妙な視線にちくちくと刺されるのだ。今までもあったのかもしれないが、獣人化した影響なのか、匂いも音も、気配さえ妙に感じてしまう。
 獣人の生徒で比較的交流のあるジャックは授業が重ならなくて全然会わないし気軽に訊くことができず、私の気持ちは随分と疲れ切っていた。
 エースとデュース、そのほかハーツラビュル寮の面識ある先輩方からも匂いについてはよく分からないと言われたし、先生からも今回のことは事故からなるもので、原因について確かなことは言えないと言われてしまったばかりだった。オクタヴィネル? いや隙あらば契約取り付けられそうで怖くて選択肢すら無い。大体その前に先生に当たってダメだったし。
 まあ、グリムはなんだかんだ魔獣なので、獣人と一括りにするのも良くないかなって。だから、結局ハイエナの獣人としての大先輩でもあるラギー先輩を探すことにしたのだ。
「昨日はどーも。こんなとこに一人で、何してるんスか?」
「あ、先輩を探してました。その、昨日のことと、ちょっと気になることがありまして」
「へえ?」
「お時間いいですか?」
「んー。……そうだなあ。レオナさんに食いもん渡した後なら」
「それで大丈夫です」
 言うと、先輩はぴるぴると耳を動かした。腕に抱えている袋の中には沢山の食べ物が入っているのだろう。微かに匂いもする。自分の昼ご飯を済ませた後で良かった。今の私に食べ物の匂いはあまりにもかぐわしすぎる。
「じゃ、できるだけ早く済ましますんで……そうッスねえ。五分。……いや、もうちょっとかかるかな。『ここで』待ってて欲しいッス」
「え? あ、はい」
「ちゃんと戻ってきますから」
 それは別に疑ってない。けれど、ラギー先輩はそう言うと、あっという間に廊下の向こうへ走り去った。その間に、手持ちを確認しておくことにする。
 昨日の話が本当なら、ラギー先輩は千マドル払えばハイエナ獣人にまつわる情報を教えてくれるはずだ。今日の周囲の反応から、まず一番最初は匂いのことがいいだろう。今のところ後はそんなに困ってない。で、それとは別に昨日の夜のサービスの交渉。
 完璧では?
 私が自画自賛していると、軽快な足音が微かに聞こえた。音が大きくなったと思ったら、視界の端で制服のブレザーが翻るのが見えた。
「え、ラギー先輩はやっ」
「シシシッ。レオナさんの今日の昼寝スポットが近くて助かったッス」
 少しだけ汗ばんでいるのが分かるのは、獣人化したからだろうか。昨日は浮かれていたからか、それともそれどころじゃなかったからか、こんな風には思わなかった。
 ……ラギー先輩の匂いがする。すごく。
 どきどきと心が逸(はや)り始めて、私はラギー先輩の喉元から視線を下げた。
「で、話ってのは?」
 ふ、と耳に息が掛かって、慌てて顔を上げる。別に吹きかけられたわけでもないのに敏感になっている気がした。
「あ、えっと、昨日おっしゃってた『聞きたい情報一つにつき千マドル』の話なんですが」
 言いながら千マドル紙幣を見せる。と、ラギー先輩は毎度あり、とそれを抜き取って懐へ納めた。それを見て、今日の獣人生徒の態度について、昨日からグリムの言う匂いが関連しているのでは無いかと思っていると自分の考えを述べた後、ハイエナの獣人、中でも女性には何か不快な匂いをまき散らす特性でもあるのか、と訊ねた。
「……ふーん? そっちにいくんスね。鈍いなあ」
「え?」
 獣人の耳でさえ聞こえにくい声だった。まるで口の中で発音しているような。
 聞き取れずに首をかしげると、ラギー先輩はなんでもないと言って違う言葉を寄越した。
「ところで、昨日のサービスについてなにかご意見とかはないんスか?」
「あ、その件もお話しできたらとは思ってます」
「成る程。ちなみにどういう感じで?」
「ええと……結構一方的だったので……もうちょっとなんかこう、私からも何かしたかったなって……」
「オレのケツまだ諦めてなかったんスか……しぶといッスね……」
 ラギー先輩の耳が伏せられ、苦い表情になる。それを見て、私は両手を振ってそのつもりが無いことを伝えた。いや、してもいいならしたい。そりゃあこんな機会なんてきっともうないだろうから。
 でも、私に技術がないことは昨日の夜なんとなく理解してしまった。私が気持ちよくてもラギー先輩が痛かったり不愉快だったりするのは本意じゃない。いやラギー先輩が自分でお尻を解して入れてくれるなら全然アリだけど。態度を見るにナシっぽいし。
「いえ、そうじゃなくて……うーん、どう言えば分かりやすいかな……」
 彼氏や彼女をレンタルするみたいな発想ってこの世界にはあるんだろうか。分からないけど、それが普通のような感覚で話をするとこれだから異世界人はみたいな目で見られそうだし、少なくとも私はラギー先輩以外にお金を払ってまでえっちしたいとか楽しい思いがしたいと思ったことはないからこの言い方はまずいだろう。
 と、なると……
「うーん……夢を見させて欲しい、といいますか……」
「夢?」
「はい。なんていうか……いや、セックスしたいって初っぱなに言っておきながらこれは話が違うって言われてもおかしくないですね。いえ、やっぱりいいです」
「……。聞いてみないことには分かんないッスよ。取り敢えず言っちゃえばいいじゃないッスか。昨日の時点でもう相当すごいこと言ったんだから」
 何言ってんだこいつ、みたいな目で見られて、私は縮こまるしか無かった。その通りだ。
「恋人ごっこ……が、一番近いかもしれないですね」
「へえ」
「もうちょっとこう……私からもキスさせて貰ったりとか、ラギー先輩の肌に触ってみたかったかなって」
「ああ……お互いが好き合ってる感じでってことッスね」
「……まあ、そうです。でも、最初の話と違いますから」
 ラギー先輩は何かを考える風に私を見下ろして、耳の角度を何度も動かした後、昨日私が先輩にそうしたように、廊下の壁に手をついて私を追い詰めた。
「……事の次第によっては、応じないこともないッスよ」
「えっ 本当ですか?!」
「まあ、昨日アンタが気を失ったのはオレのミスとも言えなくもないし」
 色よい返答に心を躍らせた瞬間、降ってきたのは昨晩、意識がもうろうとした辺りの記憶だった。
 嬉しそうに私を見下ろして笑うラギー先輩の顔と、楽しくて仕方なさそうな、それでいて情欲に塗れた声。
「う、あ、」
「あ、思い出したんスか? 監督生くんのえっち♡」
「ヴァ」
 昨日何度も耳元で、言葉で煽られたそのままの声色でラギー先輩がそう言うから、私は身体が熱くなるのを感じた。ぶわ、と制服の下で肌が粟立って、服と擦れて、なんだかもどかしい。というか、股間が熱い。その、肥大化したクリトリス、がある所為でどうにも股間が落ち着かなかったのが、更に異物感として下腹部に擦れる。
「……じゃあ、お話といきましょうか」
 ラギー先輩はそう言って、壁際に追い詰めたその手を私の肩に回すとどこかのドアを開けてそこへ身体を滑り込ませた。
「わ、わっ」
「誰かに聞かせる趣味はない、でしたっけ。ここなら大丈夫でしょ」
「え、ここ」
「トイレッスね。まあ多少は音響くけど、昼休みだしこの辺はレオナさんが昼寝スポットに選ぶくらいだからそこまで人通りもなくて結構穴場なんッス」
「はあ」
 トイレ――当然のように男子トイレだった――に引っ張り込まれ、適当な個室へ連れ込まれる。鍵をかければ、視覚的には誰からも見えなくなる。
 え? 穴場ってどういう穴場? どうしようもなくてオナニーする穴場? それとも男子同士でヤる穴場? はたまたケジメ案件の時の穴場? 全部か? 呪いの一つでも掛かってそう。
「アンタが知りたがってる匂い、何なのか知りたいんでしたよね」
「え、あ、はい」
「端的に言うとフェロモンッスね。発情期の」
「……はい?」
「これは動物の話ッスけど。ハイエナの雌の発情期は二週間ごと。大体一日から三日ほど続くんス。獣人の場合は種族と個人にもよるけどピルで調整するのが一般的で、場合によっては授業出られない代わりにレポート作成とかで出席数補ったりするらしいッスよ。雌の話は雄にはほぼ入ってこないんで、その間どうやって過ごすとかは全然知りませんけど」
「……つまり?」
「グリムくん、アンタの発情期の匂いがイヤなんでしょうね」
 そんなことある? 五日間だ。昨日ハイエナの獣人になってしまって、週明けには戻るというのに、そんなタイミングで発情期が来ることなんてある??? なっとるやろがいって誰か言って。いやもう私が言う。なっとるやろがい。
「で、報酬貰ったんで補足情報」
 ラギー先輩が楽しそうに笑う。
「――ハイエナの雄には発情期ってないんですけど……雌の発情期に合わせてそうなるんスよ」
 そこで、ぐい、と腰を引かれた。私とラギー先輩の股間が擦れる。ごり、と互いに硬くて熱いものが触れた。
「!」
「監督生くんが発情しちゃうと困るんですよねえ? こうなった責任、取ってくれます? っていうか、アンタそんなにオレのこと欲しいんスね。嬉しいなあ」
 本当にそう思っているか怪しいほどわざとらしい猫なで声だった。中指の先で、猫や犬の下顎を撫でるように、先輩の指が私の顎に触れる。愛玩動物にするには声と態度の圧が強くないですか。
「あ、あの、いえ、やぶさかではないんですけど、えっと」
「いいッスよね。……オレのちんぽがいいんですもんね?」
 ひえ。
 ひゅっと息を止めた。耳元でひっそりと昨日を思い出す言葉を囁かれて、急に先輩のおちんちんを意識してしまう。
 でも、ここで?
「こっ ここで、ですか」
「どっかに移動してもいいですけど、二人して股間おっ勃ててるところ見られても?」
「それは勘弁してください」
「でしょ。安心して、ゴム持ってるから」
 言って、ラギー先輩はポケットから小さくて薄い箱のようなものを取り出すと、その中からコンドームを取り出した。ピルケースならぬゴムケース……だと……ラギー先輩の感覚がまともなのかツイステッドワンダーランド全域でそういう感覚なのか分からない。何一つ分からないが、先輩はちゃんと避妊するしコンドームの管理態勢は万全を期しているということだけは分かった。
「あっ それ、昨日私が買ったやつでは?」
「ん。全部使い切れなかったし、使えるんで貰っときました」
「そんなアメニティみたいに……それに、サイズとかもバラバラだったのに」
「……オレ以外のちんぽをハメる予定でもあるんスか」
「ありません」
 ラギー先輩の声が低くなり、喉元から唸り声のようなものが出始める。やばい。何かをしくじったことは分かるけど具体的にどうしくじったかが分からない。私の発情期に当てられると言ってたけど、その所為だろうか。他の雄は絶対許さないマンになっている感じある。嬉しいような、でもそれって発情期につられてるだけだよね? というか。
「そういや、獣人の奴らに変な目で見られたとか言ってたっけ。アンタ、今朝シャワーとか浴びました?」
「そんな時間なかったですし、ラギー先輩が綺麗に片付けてくださったんで何もしてないですよ。……えっ、もしかして……発情期の匂いが?」
「っていうか、まあ、そっちが混じってたとしてもそこにオレの匂いがめ~っちゃ混じってたらまあそんな風に見られもするでしょうね」
「え?!」
「……ジャックくんとは今日は会ってないんスか?」
「今日は授業被らない日なんで……朝は勿論、昼もさっさと済ませたので」
「つくづく運がないッスね」
「ラギー先輩に見つけてもらえたんでそうでもないです」
 不憫そうな目を向けられたけれど、結果としてそう悪くはない。原因も一応納得はできる。
「でもグリムはラギー先輩の匂いがどうのとは言ってませんでしたけど……」
「グリムくんの感性はオレもよくわかんないッスけど。今更オレの匂いが突然ヤダって事は無いでしょ。獣人連中はまあ、アンタがハイエナの獣人なのはもう見て分かるし、オレの匂いの方で色々と察したんでしょうね」
「……マジですか」
「マジッスね」
「筒抜けなんですか」
「お察し案件ってやつッス」
「ええ……」
 私とラギー先輩がその、セックスしたってもうばれてる? そんなことある? っていうか発情期の匂いっていうけど私別に今の今まで特に「身体が疼くの……」みたいにはなってなかったですが??? グリムが反応するのが発情期の時の匂いなら今朝「もっと臭い」って言われたのなんなの? 残り香? 残り香なの??
「さて、考え中のとこ悪いんスけど。昼休みは限られてますからね。早く済ませましょ」
「えっ」
 先輩が自分のスラックスに通したベルトをカチャカチャ緩めながら、何でも無いことのように告げる。
「一発でも抜いとかないとお互いもうキツイでしょ。オレは一人でも抜けるし今日はアンタと授業(コマ)が被ってないから離れればどうにでもなりますけど、アンタはオレのちんぽ無しでも大丈夫なんスか? 午後イチの授業中、エロいことしか考えられなくてクリチンポ勃起させながら過ごします? 勃起はばれなくても、匂いはそうはいかないッスよねえ。授業中ずっと発情しながら獣人の奴らにはこの後オレに慰めて貰うんだろうなあとか噂されたい? もしかすると今なら簡単にヤれるかもって絡まれるかもッスねえ。そん時に相手が一人だけとは思わないことッスよ。入れ替わり立ち替わり、名前も知らないような奴らのちんぽでよがっちゃったりして」
 意地の悪い言葉だった。私が言葉で責められて喜ぶのは昨日みたいなのであって、不特定多数に弄ばれるのを悦ぶ奴だと思われるのは心外だ。
「せっ……ラギー先輩ならともかく、別に誰でもいいわけじゃないので……」
 昨日も口を滑らせた気がするけれど、本当に、ラギー先輩だから声をかけたのだ。まあ、こういうことを言われるのは先輩はそうは思っていないと言うことだろう。それでもいいと思ったし今も思ってるけど、かと言って実際に言葉にされると凹む。
「あらら。拗ねちゃった?」
 私の声色からか、それともハイエナの耳か、はたまた尻尾か。ラギー先輩は私の機嫌を取るように耳の付け根を毛繕いするように舐めた。
「ひぅっ」
「ヤる気なくなっちゃいました?」
 すりすりと、既に寛げられたスラックスの前から下着越しにラギー先輩のおちんちんがクリトリスに擦れる。昨日も散々見たけど、本当にこの光景はいけない。暴力的なまでに私の視覚に響く。
 ただでさえ耳元で好きな人の声が、私だけに向けられた色っぽい声がするのに。目の前のえっちな光景と、耳から入ってくる声だけで腰砕けになる自信しか無いのに、この人は。
 口答えの一つでもしてやろうと顔を上げる。その先に思いがけないものがあって、私は勢いを失った。
 先輩の意地悪な声に反して、垂れ下がった耳が見えた。
 ――これは。
 考えるよりも先に、ラギー先輩の方が私とセックスしたいんだと思った。殆ど直感だったけれど、多分間違ってないと思う。例えそれが私につられて持て余した性欲によるものだったとしても。
「……ラギー先輩のおちんちん貸してくれるなら、わ、私のおまんこ使ってもいいですよ」
 ばかー! そんな品のないお誘いがあるか!
 ラギー先輩の意地悪な言葉に突っかかっていこうとしたのがそもそもの間違いでは? と言われたらぐうの音も出ない。その通りだ。でもなんか悔しくて……だって、先輩だって私とシたいくせにって思ったのだ。
 はちゃめちゃに可愛くないおねだり……おねだり? いや、おねだりだ。おねだりだったにも関わらず、ラギー先輩はタダでさえ大きな目をもっと見開いて、それからにんまりと笑った。昨日の晩に見た、獰猛な肉食獣の笑い方だった。
「……えっちなおまんこ使ってください、の間違いじゃないんスか? オレのちんぽじゃないとイヤなんでしょ?」
 ぞくっとした。ドン引きされなくて良かったと思ってほっとした所為もあると思うけれど、ラギー先輩にこういう風に意地悪されるの、結構好きかもしれない。……私はMだった? いやそんな馬鹿な。でもなんか、すごく……もっと責められたい、と思ってしまう。他の人がどうとかじゃなくて、私と、ラギー先輩の間のことでなら。
「そもそも責任取るなら私じゃなくて、私を今の姿にした連中がすべきですよね? だから別に、私が発情期になったのだって元々は私のせいじゃないし、私がこのことでラギー先輩に負い目を感じる必要はないと思います」
 まあそれはそれとして押さえておかねばならないところは押さえねばならない。私が少し前の先輩の発言にそう言い返すと、ラギー先輩は私のスラックスの下にある尻尾の辺りを的確に愛撫しながらぷぷっと笑った。
「……じゃあ、お互いヤりたいからヤるってことッスか」
「……そうです!」
「まあ、オレを選んでくれたってことで光栄に思っときますよ。今はね」
 含みを持たせた言い方に疑問を持ったのと、ラギー先輩から優しくキスされたのは同時だった。
「んっ」
 唇同士が触れて、ちゅ、と軽い音を立てて吸い付かれる。柔らかくて、何度もそうされるだけで昨日散々先輩を受け入れた場所がとろとろになっていくような気がする。
 ぺろりと唇を舐められて、私は思わず口を開けた。そこをすかさずラギー先輩の舌が蹂躙する。私の引っ込んだ舌先を追いかけ、舐って、唾液ごと吸い上げる。かと思えばはむはむと唇で唇を挟んで、優しく何度も口づけてくる。唇の柔らかさが気持ちよくてうっとりしながら先輩の身体に自分の身体を擦り付けると、ぎゅっと引き寄せられて溜まらなく嬉しくなる。
「……アンタも触っていいんッスよ?」
「ふぇ」
「恋人ごっこ、でしたっけ。アフターサービスってことで」
 シシシ、と先輩が歯を見せて笑う。それからじっと私を見下ろして、えっちな雰囲気の所為だろうか、どこか熱持ったような表情で私の頬を撫でた。
「だから……今は他の男のこと考えちゃ駄目ッスよ。オレのことだけ考えてて」
「……昨日も今も、ラギー先輩のことしか考えてません」
 はあ? と怒りにも似た気持ちがこみ上げる。そんな、そんなサービスある? いやリップサービスが過ぎる。ラギー先輩こそもっと自分を大事にするべきでは?? っていうかシンプルにラギー先輩と好き合いたくなるが??? 私を惚れさせる天才なのでは?
 色んな文章が脳裏をよぎる。思わず真顔になった私をどう思ったのか、ラギー先輩はなんだか苦々しい感じの顔で息をついた。
「……オレとえっちなことするしか考えてないの間違いじゃねえの」
「あっ それすごい失礼ですよ。概ね正解ですけど」
「ほぼ正解なんじゃないッスか」
「正解なのと失礼なのは両立するので」
「するんだ」
 ほろりと、柔らかな日差しが零れるような笑みが私に落ちてくる。知ってる。こういうの、毒気を抜かれた顔って言うんだ。
「だって、」
 だからきっと、私も口が滑ったんだ。なんだか、ラギー先輩に隙を見せられたような気がしたから。
「ずっと前からラギー先輩のこと、気になってたから」
 嘘じゃない。というか本音をこんなところで漏らす奴があるか。あります。私です。馬鹿野郎。
 言った瞬間からやっちまった感はあったけれど、そこはナイトレイブンカレッジに馴染んできた私。きっとラギー先輩はこの束の間だけの戯言だと思ってくれるだろうと気を取り直した。偉いぞ私。ちゃんと言い訳を用意できるなんて流石だ。
「ふぅん。そりゃ奇遇ッスね。オレも前からアンタのこと狙ってたんで」
「へぁ?」
「アンタの口から聞けてラッキーッス」
 ?
 それは、……この、恋人ごっこの範疇を超える言い方なのでは? 嘘か本当かわかんないような紛らわしいやつはルールで禁止ッスよね? ん? じゃあ先にルール違反したの私か? 私だな??
 混乱する私をよそに、ラギー先輩はさっさと自分のおちんちんにコンドームをしっかり付けていた。抜かりがなさすぎるし信頼ができすぎる。
「役得、役得」
 ご機嫌なラギー先輩は、そのまま驚くべき手際の良さで私のスラックスまで寛げてきた。あっ?! 普段レオナ先輩のお世話してるから?! それにしても脱がすのが上手い。止める間もなかった。なんなら殆ど片手だった。
「シシシッ 今日もイイ感じに濡れ……ん?」
 スラックスに手を突っ込まれて、止めるどころか待っていた感覚に息を詰める。先輩の腕に縋るようにしながらナプキン越しに膣口を押されて腰が揺れた。
「……なにか付けてる?」
「昨日の名残の……濡れ方が、酷くて。ナプキン、あてて、ます」
 確認するように押されたり擦られたりして、その度に早く入れて欲しいと我慢できないほどの性衝動に見舞われる。
 だってナプキン越しって全然奥まで指の感触が感じなくて、あまりにも物足りないのだ。もっと……もっと、ぎゅって指で押して欲しいくらいなのに。
「あー……まあ、確かにあんな下着びしょびしょだったら制服までそうなりますもんね……」
「失禁みたいに思われるのも嫌だし……獣人には、意味なかったみたいですけど」
「そうッスね。まあでも無いよりはあった方が少しでも外には漏れにくいんで、判断としちゃ合ってたと思いますよ」
「今まさにそのナプキンも意味なくなりそうですが」
「……替えは?」
「替えのつもりでは無いですけど、いつ必要になっても良いように基本的に常に持ってます」
「でかした」
「今あからさまに「じゃあ思い切りやってもいいよね」みたいな声出しましたよね?」
「やだなあ、今更。ヤりたいからヤるんでしょ?」
「そうですけどお……!」
 ラギー先輩のせいでナプキンを浪費するんだったら先輩から現物で補填をお願いしたいけれど男子校でナプキンが堂々と売られているはずも無く、サムさんの店でこっそり仕入れて貰っているので言いにくい。ナプキンの分だけでもイイ思いをしなくては……!
 と、すっかり感化された私は、先輩の手が下腹からするりと下着の中へ潜り込んで行くのを、シャツをたくし上げながら感じていた。
「ひっ♡」
 ぬる、と、私の股座に先輩の中指が沈む。思っていたよりもずっと大きな先輩の手は暖かくて、前から抱きしめられているせいで、先輩の匂いにくらくらする。服って、こんなに匂いがつくものだったのか。
「ベッタベタじゃないッスか。期待した? それとも触ったから?」
 くちゅくちゅと音が響く。膣口の中には入ってこないのに、先輩の指は中指をメインに私のひだを擦って、愛液を絡めて、まるでお伺いでも立てるかのように私の身体を焦らす。
「どっちも……です……っ♡ あ、もうだめ」
 さりげなく腰に回された手はちゃっかりと私の制服の中に潜り込んで、尻尾の付け根を揉んでいる。ただでさえ昼休み、人気のないトイレの個室で制服の中に手を入れられているという倒錯的な状況なのに、私の身体は理性を踏みつけラギー先輩を欲していた。
 もどかしくて自分でスラックスを下ろす。下着をずらせば、べたべたのナプキンが見えた。個室の中が私のえっちな匂いで満たされるんじゃないかと思う程、むわ、と湿気と熱が立ちこめる。
「昨日の今日で随分大胆になったッスねえ」
「っふ……♡ ラギー先輩の、おかげ、です♡ だから……早く、ご褒美ください♡♡」
 先輩の制服から顔を出しているおちんちんを撫でると、先輩の耳がぴくりと動いた。
「ラギー先輩のおちんちんで、私のおまんこ、イイコ♡ イイコ♡ って……してください……♡♡」
 いつまでも入り口ばかり触られていると、おかしくなりそうだった。尻尾だって、付け根だけじゃなくてそのものも毛に逆らうようにして触られたりして、予想できない感覚にさっきから腰がかくかく揺れる。
 入れて欲しくて、もうそのことしか考えられない。ラギー先輩のおちんちん、おっきくて、美味しそうで、口でしてみたいけど経験も技術もない上、急所を任せてくれるほどの関係でも無いからきっとそれは無理だろう。
 だから早く奥まで来て、奥の気持ちいいところを先輩のおちんちんで擦って、突いて、昨日みたいにゴム越しに中でイって欲しい。
「ったく、どこでそんな台詞覚えてくるんスか……っ」
 先輩のおちんちんをなでなでしていると、突然ぎゅっとされた後、唇に吸い付かれた。同時に、先輩のおちんちんが内股を擦る。入れてくれるのかと足を開こうとした矢先、くるりと向きを変えられた。個室のドアに向かって身体を押しつけられて、後ろから先輩のおちんちんが私の足の間へ入ってくる。
「足閉じて」
 首筋に先輩の息が掛かる。襟足には唇と歯の感覚があって、私は肌が粟立った。尻尾を付け根から先端に向けてつつ、と撫でられて、これ以上無いまでにゾクゾクする。
 言われたとおりにすると、濡れた股座に先輩のおちんちんが擦りつけられた。何度か角度を探るように後ろから腰を押しつけられ、その度におちんちんの先が膣口やクリトリスを擦って腰が揺れてしまう。
「あのっ♡ らぎー、せんぱ」
「んっ……やっぱ立ったままだとキツいか」
「え、なに……んっ♡」
 素股というヤツでは? と思い至る頃、先輩が私の腰を両手で押さえて、少し便座側へ移動する。上半身が前屈みみたいになって、お尻を突き出すような格好だ。
「そうそう、そのまま……♡」
「あんっ♡」
 自分の格好がえっちだと思うと同時に、先輩が私の股座を使っておちんちんを扱き始める。どうして入れてくれないのか、と思うけれど、先輩が腰を揺らしながら尻尾とクリトリスを同時に触り始めて、文句は喘ぎ声に変わった。
「んっ♡ やっ♡ らぎー、せんぱいっ♡ なかっ♡♡ なかに♡ 入れて♡♡」
「分かってますって……♡ アンタのえっちな汁でちんぽ濡らしとかないと、痛いの嫌でしょ?」
「んんっ……♡♡」
 ぬる、と先輩のおちんちんが膣口にあたる。どうにか足は閉じていたけれど、膝が震えて、ラギー先輩のおちんちんが早く欲しくて、どうにか入らないかと腰が、お尻が動いてしまう。その動きと先輩の手つきが重なって、尻尾もクリトリスも気持ちいい。
 だらしなく開いた口からよだれが出そうになる。それを啜ろうとしたタイミングで、先輩のおちんちんの先が私の膣口を広げた。
「慣らしてもないのにびしょびしょのトロトロ……ほら、ご褒美ッス♡」
「――♡♡あ、はあっ♡♡」
 唾液を嚥下するよりも先に、自分の膣の快感に震えて背中がしなる。ひとつ堪えきれなかったよだれが床へ落ちた。
「ん、んく♡ っあ♡ おく♡♡ 昨日とちがう♡」
「後ろからッスからね♡ どっちが好き?」
 そんなの直ぐに答えられない。気持ちよさで言えばこっちかもしれないけど、ラギー先輩が私で興奮してくれてるのが見られないから、視覚的な興奮度合いで言えば圧倒的に対面の方がいい。
「オレのちんぽだったらどっちも好き? やらしー♡」
 背をしならせて頭が近づいたからだろうか、ラギー先輩が私の耳の背に唇をくっつけて、声を潜める。聞いた後にペロリと舌先でグルーミングのように舐められたかと思ったら、ちゅ、と吸い付かれた。
「くぅ……ん♡」
 先輩の声も漏れなく好きなやつにそんなことをして、どうなるか分かってるんだろうか。――気持ちよくて、心も身体もメロメロになるに決まってる。
「シシシッ♡ またきゅってなったッスよ……♡ 尻尾もぴんって立てちゃって……毛先、ぷるぷる震えてる。オレのちんぽ、だぁい好きなんスね♡」
「んぅ♡」
 耳に先輩の唇が触れている。頭を動かすと離れてしまうのが惜しくて、私は口を動かすしかなかった。
「すき♡ ラギー先輩のおちんちん♡♡ きもちい……♡」
 体勢にもよるんだろうけれど、立ちバックってこんなにも『服従』感があるものなんだろうか。私は姿勢を保つので、ドアに手を突くだけでいっぱいいっぱいだ。一方ラギー先輩は私のお尻をなでたり、尻尾とクリトリスを好きなように触ってやりたい放題。昨日もそうだったけれど、それ以上に後ろからされるのって征服されている感じが凄い。でも、それが嫌じゃない。
 発情期でハイになっているからなのか、恋心ゆえなのかは分からない。でも、今はとにかく、本当にとにかくセックスがしたくてしたくてたまらなかった。いや、してるんだけど。
 不意に先輩の手が私の腰に回って、優しく後ろから抱きしめられる。背中に頬ずりされて、柔らかな先輩の毛が当たった。その中でも凄くまろやかな感触がするのは先輩の耳だろうか。
「んっ……♡ じゃあ、こうやって優しくトントンしましょうね……♡」
 ぴったりとくっついたまま、先輩の腰が一定のペースで動く。中で激しく擦れることはないけれど、クリトリスを弄られながら奥を突かれると、足裏がじんじんして冷えたような感覚になる。立っていられないような、逆に力が入るような。
 結果膝をガクガクさせながら先輩にされるがままになるのだ。
「あっ♡ いい♡♡ きもちいいの♡」
「はあっ♡ キツ……♡ わかる? アンタのおまんこ、オレのちんぽに吸い付いて全然抜けねえの。ほら……♡」
 荒い息づかいの中、ラギー先輩が身体をずらす。腰をしっかりと抱き留められて、ゆっくりと引き抜かれているのか、先輩の言うように私が放さないのかは分からない。けれど、その感覚はいやらしくて気持ちよくて、私の背中を快感が駆け上がった。
「ふああっ……♡」
「っは……入れるときはマジではやいし……昨日まで処女なんて信じらんね……」
 再び奥まで先輩のおちんちんがやってくる。気持ちよくなりたくてお尻を先輩に擦り付けるように動かすと、先輩の口からポロリと本音のような言葉が漏れた。冗談かもしれない。どっちにしろ、先輩のおちんちんは硬いままで、萎えたわけじゃないらしい。
「いや、ですか……?♡ んっ♡ えっちなこと好きで、処女なのにラギー先輩のおちんちんで、っ♡ 中イキしちゃうようなやらしい子、きらい?」
「だったらこんなことしてないでしょ。変なこと考えてないで、ほら、オレのことだけ考えてって言ったじゃないッスか。駄目ッスよ♡ お仕置きかなあ?」
 ぐりぐり、と腰を押しつけられて、奥の良いところに当たる。そうされるともう、イきたい気持ちが強くなって、それ一色に塗りつぶされそうだ。
「ひゃんっ♡」
「オレのちんぽじゃなきゃイけない身体にしてもいい? って、昨日オレが聞いたの忘れちゃった? オレのちんぽでたくさんイっていいんスよ♡」
「くぅんっ♡♡♡ あ♡ だめっ♡♡♡ イっちゃ、んっ♡♡♡♡♡」
 腰にしがみつかれて、そのまま奥を狙うように先輩の腰が円を描くように動いて、何度もおちんちんが奥を突く。私はその快感だけを追いかけて、他の何もかもを放棄して先輩に支えられながらイった。
 内股に、漏らしたように愛液が――いや、昨日言われた潮吹き、だろうか――伝っていく。カラカラと音がしたかと思うと、トイレットペーパーで内股を拭われた。
「潮吹き、ホント上手ッスね」
「す、すきでしてるわけじゃない……っです……♡」
 お世話をしているようでいて、間違いなく愛撫の一環だ。先輩は私の内股を拭くと、そのままトイレットペーパーを便器に放り投げた。
「ふうん? ……オレがイくまでもうちょっと付き合ってくださいね♡ 奥なら何回でもイっちゃえますし大丈夫ッスよね?」
「まっ、もう少し時間を、っ、はああんっ♡♡♡♡」
「無理無理。もう時間も無いし……あ、またいっぱいおしっこでても良いようにトイレットペーパー多めに取っときますから♡」
 言って、派手な音を立ててからからとペーパーホルダーの頭が跳ねる音がする。無造作に捕まれたその紙の塊を両手に握らされて、私は『時間が無い』発言で昼休みだと言うことを思い出した。まだ午後の授業がある。制服が汚れるのはまずい。
「たっ♡ 立てないっ♡♡ あんっ♡ らぎーせんぱいっ♡ ちゃんとたてないからっ♡♡♡♡」
「ちゃんと支えてますって♡ だからしっかり紙押さえとかないと、次の授業出られなくなっちゃうッスよ♡」
 ラギー先輩の両手が私の肩を掴む。そうされると、驚くほど深く、奥までおちんちんが入ってきた。
「だめっ♡♡ それはだめ♡ 今日体育ないからっ♡ 運動着、ないっ♡ からあ♡♡♡」
「じゃあおしっこ出るところ、ちゃんと押さえてなきゃ♡」
「きゃんっ♡ せんぱいっ♡ らぎーせんぱいっ♡ あっ♡ ゆさゆさしちゃだめ♡♡♡ また♡ イっちゃう♡♡♡ お潮吹いちゃう♡♡♡♡」
「♡♡っぐ、ぅ♡ んっ♡ すげ……っはあ、っ腰、とまんね……♡♡ すぐイきそ……っ♡♡」
「やんん♡♡♡♡ 激しいっ♡♡ あっあっ♡♡♡ やだ♡ おく♡♡ きもちいいのとまんないっ♡♡♡♡♡」
 両手でどうにかトイレットペーパーを持っていたのが、徐々に愛液でぬるぬるとし始めて、気づけば自分でクリトリスに手が伸びていた。ラギー先輩のストロークが激しくなり、それでも確かに先輩の手でしっかりと支えられながらもう一度快感の頂上が近づくのを感じる。
「せんぱいっ♡ らぎーしぇんぱい♡♡♡ またイくっ♡♡ イっちゃうっ♡♡♡」
「オレ、も……もう、っ♡」
「あっ♡ ん、んん――♡♡っ♡♡♡♡♡♡♡」
 一際強く奥を突かれて、先輩の動きが止まる。私も同時に膝から力が抜けて、手に持ったトイレットペーパーがあっという間にびしゃびしゃになるのを感じた。
「……っ♡」
 一瞬でたっぷりを水気を含んで脆くなった手の中の紙を、どうにか制服を避けて床に落とす。空いた手でドアを突っぱねて姿勢を保つ。それが精一杯だった。
「はあっ……♡ らぎーせん、ぱい……♡」
 私の中に入れたままのラギー先輩のおちんちんの脈動を感じる。時折どくん、と大きくなるのは、射精しているということだろう。
 しばらく私の荒い息だけが響いていた。まるで息を止めたかのように静かなラギー先輩は、私がどうにか自分の足で立てそうだと思い始めた頃に大きなため息をついた。
「はあ……っくそ、」
「ラギー先輩?」
「なんスか。今抜きますからじっとしてて」
「あ、はい……んっ♡」
 私の肩を持っていた手が離れて、今度は腰を捕まれる。ぬるりと、先輩のおちんちんが私の良いところを擦りながら出て行って……うん?
「あの、ラギー先輩」
「なに」
「……おっきいままですね?」
「そーッスね。まあ、出すもん出したし頭の方はそこそこ冷えてるんで、少し経てば大丈夫ッス」
 昨日と違って――いや、授業があるし当然だけど――ラギー先輩は少し不機嫌そうな顔でゴムを外して口をくくって、トイレットペーパーでそうっとおちんちんを綺麗にし始めた。私も慌てて自分の股間周りを拭いてナプキンを替える。男子校の男子トイレには三角コーナーが無いからどこかに捨てないといけない。取り敢えず普段の生理の時みたいに専用の袋に入れて口を縛っておこう。
 制服を整えて、床に落としたトイレットペーパーもどうにか便器へ放り込み、個室のドアを開ける。手を洗って、ようやくひと心地ついた。
「……あの、ラギー先輩」
 多分。多分でしか無いけど、先輩のちょっと納得いってなさそうな顔は射精した後にあるという賢者タイムだからってわけじゃないだろう。理由は私と同じ、な、気がする。そうであって欲しい。
「アフターサービス、これだけなんて逆に欲求不満なのですが」
「でしょうね……恋人っぽくってリクエストにはあんま応えられなかったし」
 いや、そうじゃない。そっちじゃない。もっとラギー先輩とえっちがしたいっていうシンプルな言葉だったはずなんですが。
 言いかけて、自分に待ったをかける。……いや、そうかも? キスなら昨日の方がしてたし?
「オンボロ寮的にはしばらくグリムとは別室だろうので、取り敢えず今晩仕切り直しはいかがですか」
「絶対この程度じゃ終わらないの分かって言ってます?」
 先輩の目がじっとりと私を捉える。
「週末の、特に土日は時給上がるところが多くて稼ぎ時なんスよね。今日も部活がない分アズールくんのところでシフトだし。そんな貴重な週末と今までよっぽどのことでも無い限りシフト皆勤賞のオレの実績をアンタの発情期ですっぽかして潰すんですから、その辺分かって言ってるんスよねえ?」
 要は、昨日の話から絶対に逸脱する事になるから追加料金を払えと言うことか。しかし経済的な事情の話になるのであれば、私も妥協はできない。
「さっきも言いましたけど好きでこうなったわけじゃ無いんで、迷惑料ならやらかした人にどうぞ。……無理にとは言いません。私だって特にやらかしたわけでも無く普通に出た課題しなくちゃダメですし、座学でさえまだまだいっぱいいっぱいで、自主勉強しなくちゃヤバいんです」
 流れるようにつらつらと言葉が出てくる。そして睨み合った私たちは、いや、私は、少し迷った後、素直に白状することにした。
「……さっきはアフターサービスに不満って言いましたけど、これ以上は別料金、しかもバイトのお給料を補えるような価値のあるものって言うなら、私にはもう出せるものがないです。交渉のしようがありません。それに……性欲発散するだけなら別にラギー先輩に来て貰わなくても……」
「は?」
 一人でどうにかできるんじゃないかと思う。仮にどうにもならなかったとしてももうラギー先輩に何も支払えない以上、付き合わせることはできない。
 そう言う前に、当のラギー先輩の口から、滅多に聞けないような地を這うほど低い声が発せられた。
 ゾワ、と鳥肌が立った。威圧感のある声だ。自然と尻尾の毛が逆立ったのを感じた。なんだ。私は今、なにをやらかしたんだ。
 自然と外れていた目線を戻そうとした瞬間、顎を捕まれた。
「成る程。確かにアンタは誰でもいいわけじゃないって言ってましたけど、オレじゃないと駄目とは言いませんでしたもんね。……やっぱ選んでオレに声かけたってだけで満足なんて有り得ねえよなあ」
「へ、っ……え?」
「いーえ。なんでも」
 またしても言葉の最中に急に小声で何事か独りごちる先輩の言葉を拾い損ねる。この距離で聞き逃すなんて私の聴覚大丈夫か? 獣人化しても性能悪くて辛い。
 勿論、聞き返しても言い直してはもらえなかった。私に向けた言葉じゃなかったのか。ラギー先輩なら、聞かせたいのなら声を潜めていても聞こえるように言うはずだ。そして聞かれたくないのなら黙っている。
「アンタは週明けには元に戻る。……それまでに、『夢を見させて欲しい』でしたっけ? やってやろうじゃないッスか」
「あの、ラギー先輩、それじゃバイトが」
「獣人が『発情期が』って言って休めば、大体はそもそも出勤できたところで使い物にならないことは察しますよ。休むこと自体は難しくないッス」
「マジですかよ獣人……」
「驚くか引くかどっちかにしてもらっていい?」
 思わず言葉が乱れたのをラギー先輩が拾ってくれる。そうやって細かいところ茶化してくれるのすき。
 いや、そうじゃない。それどころじゃない。つまり話の流れ的には、ラギー先輩はヤる気満々ってこと? 合ってる?
「まあ、今日のシフトはモストロ・ラウンジなんで、アズールくん達に事情が筒抜けになるのは痛いッスけど。アンタから請け負った話は、オレだけができることッスから」
 そう言ったラギー先輩の目はぎらぎらとしていた。表情の所為だろうか、怒っているような気さえする。敏腕アルバイターとしてのプライドを刺激してしまったんだろうか。いや、そうじゃない気がする。
「動物のハイエナだったら、明日はどうかわかんないッスけど、日曜日には発情期が収まってる可能性が高いッス。そうなったら課題だのなんだのはそん時片付けるしかないッスね」
「え? もしや今晩夜通しでリベンジを?」
「オレはアンタの依頼を完遂するため。……アンタにはオレのちんこおっ勃たせた責任を取って貰わなくちゃいけないッスからね」
「それって私の発情期が終わるまでってことですか?!」
「お、話が早くて助かるッス」
「私は別に助かりませんが?! っていうかラギー先輩は私から離れてればなんとかなるんじゃ……」
「依頼完遂してもアンタのせいでちんこが収まらなくなるんだからそりゃあ当然でしょ」
「ええ……?」
 果たして本当にそうだろうか? そもそも私のせいじゃないって言ってるのに。
 私がちゃんと頭で考えて返事をする前に、ラギー先輩は私の顎を掴んでいた手を緩めて、今度は指先で優しく顎のラインをなぞった。また、猫や犬の下顎を撫でるみたいに。それから私の耳をはむっと唇で挟んで食べるような仕草をしたかと思えば、付け根にキスをして。今度はにっこりと――まるで私のことが本当に好きみたいな、木漏れ日みたいなあったかい表情で――笑った。
「たっぷり可愛がってあげますから……お行儀良くして、イイ子でオレのこと待ってるんスよ」
「ひゃい」
 卑怯だ。知ってた。

2020/11/19 pixiv掲載 2020/11/23 UP

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