心恋相語れり
その後
私が大倶利伽羅のアプローチに応えたのは、さて、いつ頃だっただろうか。その頃には太鼓鐘貞宗が本丸にすっかり馴染んでいたように思う。主に日中は今まで通りだし、本丸内外の仕事も代わりはない。ただ、恋人として扱われるのはオフの時で、それはつまり、例えば近侍でさえしないような同じ部屋に布団を並べて寝るだとか、あまつさえ同じ布団の中で寝るだとかいうことを本丸の誰もが反対しないということで。
ボディタッチこそ激しくないものの、「いやいや、大倶利伽羅はそういうことしないでしょう?」みたいなことのオンパレードを食らって、私のキャパは常にいっぱいいっぱいだった。仕事しているときの方がまだスムーズにやりとりできる分、楽でさえある。
「ちょ、ちょっと大倶利伽羅っ」
「いいと言われるまで手を出す気はないさ」
今日も今日とて布団の中で遠慮なく身体を密着させながら、大倶利伽羅はそうのたまった。冷えた足を温めてやりたいと思うけれど、異性として許した相手に、こんな状況で安易にそうするのはまだ、はばかられた。
そんなこと言って良いって言うまでなにかされそうだ。
代わりにそう告げると、大倶利伽羅は珍しく口元に笑みを浮かべて、
「あんたを引きずり落とすのも悪くない。……悪くないが……」
――自分の足で立とうとするあんたが、俺だけに身を委ねてくるのがいいんだろう。
「 」
耳から吹き込まれた言葉に、腰に甘く痛むような感覚が刺さった。
「な、なん、」
力が入らない。足が絡まり、互いの素足が触れあう。
「だから、あんたの好きにしろ。俺はいつでも構わない」
至近距離で、大倶利伽羅がはっきりと笑った。
「無論、あんたがそうされたいと言うなら、溶けるまでじっくり仕込んで聞かせて貰うがな」
熱の籠もった声に、いっそ気を失ってしまいたかった。
「お、てやわらかに」
「さあな。……あんた次第だ」
「ひぇ」
完全に私の反応を面白がっている大倶利伽羅を恨めしく思いつつ、いつかやった会話をなぞる。刀剣男士の身体がこんなにも温かいなんて思わなかった。たとえどれほど恥ずかしくて物慣れなくとも、心地よい温度と信頼に、眠気はすぐにやってくる。
前髪が分けられたかと思うと柔らかな物が額に触れた。じわりと広がる苦しいような、切ないような感情を、なんと呼べば良いのだろう。 おやすみと、言った声はきちんと出ていただろうか。ただ返事のような彼の低い声が眠りとともに耳元で溶けた。
2020.02.15 pixiv同時掲載