夢綴り
amor fati

ネタ帳と返信。乱文は仕様。ネタバレ全開。

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No.15

NO YOU, NO LIFE.(2)
#とうらぶ #薬研藤四郎
2015年 05月20日 書きかけ

 たたん、たたん、と静かに電車が揺れる。男の方に頭を預けて、薬研は静かに目を閉じていた。話をしてもいいのだが、こうも堂々と、かつ人目をはばからずに男に身体をあずけられる機会というのは、実はそう無い。例え薬研が少女だったとしても、恋人然とした振る舞いは歳の差的に考えて仲睦まじく見えるか怪しまれるか半々と言ったところだ。援助交際に並々ならぬ後悔を見せた男は、少しでも怪しく見られることを懸念している。実際のところ薬研は男であり、少々兄貴分にべったりな弟を演じて見せれば、同性愛に関して比較的許容されている現代であっても恋人として見られることは寧ろ難しい。
 二人の出会いのきっかけとなった出来事のおかげで、小心者の男は余計に薬研の接近を拒む。人目のない男の住居内であっても、である。それが嫌悪などではなく、罪の意識か、はたまた薬研が彼の好みに合致しているからか、戸惑いに近い拒否であるから、薬研は落ち着いて男の許す距離を何度も計り直しているが、焦れることも少なくなかった。そんな二人――主に薬研にとって、交通機関での移動で男に寄りかかって目を閉じるのは、互いの相手に対する要求同士が上手く重なり合っている数少ない場面であった。
 流石に指を絡めてはいないが、それでも密着を咎められることもなく受け入れられるのは嬉しい。電車などさして興味もなかった薬研だが、男と出会ってからはこのように寄り添える電車も、バスも、はぐれてはいけないからと手を繋ぐ言い訳になる人混みも、全てが好ましく思えているほどだ。それだけ男のガードが固いとも言えるが、刀剣男士たる薬研藤四郎のカムイを持った薬研にとっては、その恋路を支える人間はいても、邪魔をする人間というものは存在しない。少なくともシェルターの人間は全面的に認めてくれるだろう。
 流石に男の幸せや人権を無視することは出来ないが、それは薬研が努力すればいいだけの話である。今のところ感触は悪くないし、出会った当初よりは随分と気安くもなっているのだ。家に上がり込み、猫のようにじゃれつきはしても、警戒されるような迫り方は控えている。男が薬研に触れることに物怖じしなくなり、よく笑う様になり、二人の関係は安定し始めていた。
「薬研くん、降りるよ」
「ん」
 優しい手と声と共に瞼を持ち上げ、共に電車から駅のホームへ降り立つ。
 男の住居から最も近い駅は、薬研が散々足を運んだ場所と大体同じくらいの賑わいだ。都心でもなく、かと言ってターミナルと駐車場しかないような田舎というわけでもない。

メモ