No.16, No.15, No.14, No.13, No.12, No.11, No.10[7件]
NO YOU, NO LIFE.(2)
#とうらぶ #薬研藤四郎
2015年 05月20日 書きかけ
たたん、たたん、と静かに電車が揺れる。男の方に頭を預けて、薬研は静かに目を閉じていた。話をしてもいいのだが、こうも堂々と、かつ人目をはばからずに男に身体をあずけられる機会というのは、実はそう無い。例え薬研が少女だったとしても、恋人然とした振る舞いは歳の差的に考えて仲睦まじく見えるか怪しまれるか半々と言ったところだ。援助交際に並々ならぬ後悔を見せた男は、少しでも怪しく見られることを懸念している。実際のところ薬研は男であり、少々兄貴分にべったりな弟を演じて見せれば、同性愛に関して比較的許容されている現代であっても恋人として見られることは寧ろ難しい。
二人の出会いのきっかけとなった出来事のおかげで、小心者の男は余計に薬研の接近を拒む。人目のない男の住居内であっても、である。それが嫌悪などではなく、罪の意識か、はたまた薬研が彼の好みに合致しているからか、戸惑いに近い拒否であるから、薬研は落ち着いて男の許す距離を何度も計り直しているが、焦れることも少なくなかった。そんな二人――主に薬研にとって、交通機関での移動で男に寄りかかって目を閉じるのは、互いの相手に対する要求同士が上手く重なり合っている数少ない場面であった。
流石に指を絡めてはいないが、それでも密着を咎められることもなく受け入れられるのは嬉しい。電車などさして興味もなかった薬研だが、男と出会ってからはこのように寄り添える電車も、バスも、はぐれてはいけないからと手を繋ぐ言い訳になる人混みも、全てが好ましく思えているほどだ。それだけ男のガードが固いとも言えるが、刀剣男士たる薬研藤四郎のカムイを持った薬研にとっては、その恋路を支える人間はいても、邪魔をする人間というものは存在しない。少なくともシェルターの人間は全面的に認めてくれるだろう。
流石に男の幸せや人権を無視することは出来ないが、それは薬研が努力すればいいだけの話である。今のところ感触は悪くないし、出会った当初よりは随分と気安くもなっているのだ。家に上がり込み、猫のようにじゃれつきはしても、警戒されるような迫り方は控えている。男が薬研に触れることに物怖じしなくなり、よく笑う様になり、二人の関係は安定し始めていた。
「薬研くん、降りるよ」
「ん」
優しい手と声と共に瞼を持ち上げ、共に電車から駅のホームへ降り立つ。
男の住居から最も近い駅は、薬研が散々足を運んだ場所と大体同じくらいの賑わいだ。都心でもなく、かと言ってターミナルと駐車場しかないような田舎というわけでもない。
#とうらぶ #薬研藤四郎
2015年 05月20日 書きかけ
たたん、たたん、と静かに電車が揺れる。男の方に頭を預けて、薬研は静かに目を閉じていた。話をしてもいいのだが、こうも堂々と、かつ人目をはばからずに男に身体をあずけられる機会というのは、実はそう無い。例え薬研が少女だったとしても、恋人然とした振る舞いは歳の差的に考えて仲睦まじく見えるか怪しまれるか半々と言ったところだ。援助交際に並々ならぬ後悔を見せた男は、少しでも怪しく見られることを懸念している。実際のところ薬研は男であり、少々兄貴分にべったりな弟を演じて見せれば、同性愛に関して比較的許容されている現代であっても恋人として見られることは寧ろ難しい。
二人の出会いのきっかけとなった出来事のおかげで、小心者の男は余計に薬研の接近を拒む。人目のない男の住居内であっても、である。それが嫌悪などではなく、罪の意識か、はたまた薬研が彼の好みに合致しているからか、戸惑いに近い拒否であるから、薬研は落ち着いて男の許す距離を何度も計り直しているが、焦れることも少なくなかった。そんな二人――主に薬研にとって、交通機関での移動で男に寄りかかって目を閉じるのは、互いの相手に対する要求同士が上手く重なり合っている数少ない場面であった。
流石に指を絡めてはいないが、それでも密着を咎められることもなく受け入れられるのは嬉しい。電車などさして興味もなかった薬研だが、男と出会ってからはこのように寄り添える電車も、バスも、はぐれてはいけないからと手を繋ぐ言い訳になる人混みも、全てが好ましく思えているほどだ。それだけ男のガードが固いとも言えるが、刀剣男士たる薬研藤四郎のカムイを持った薬研にとっては、その恋路を支える人間はいても、邪魔をする人間というものは存在しない。少なくともシェルターの人間は全面的に認めてくれるだろう。
流石に男の幸せや人権を無視することは出来ないが、それは薬研が努力すればいいだけの話である。今のところ感触は悪くないし、出会った当初よりは随分と気安くもなっているのだ。家に上がり込み、猫のようにじゃれつきはしても、警戒されるような迫り方は控えている。男が薬研に触れることに物怖じしなくなり、よく笑う様になり、二人の関係は安定し始めていた。
「薬研くん、降りるよ」
「ん」
優しい手と声と共に瞼を持ち上げ、共に電車から駅のホームへ降り立つ。
男の住居から最も近い駅は、薬研が散々足を運んだ場所と大体同じくらいの賑わいだ。都心でもなく、かと言ってターミナルと駐車場しかないような田舎というわけでもない。
#ポックル #HxH
書きかけです。
2019/6/2
彼の指と私の頬が擦れて、さり、と小さく音を立てた。ざらついているわけでは決してないけれど、乾いていて肉厚で、太い彼の指の温もりを産毛の先で感じる。その指の向こう、拗ねたようにも見える顔で照れる彼を見た。
「……なんだよ?」
「ううん」
ぶっきらぼうな声と言葉とは裏腹に、私に触れる指先は優しい。そして注意深く私を見て、なにやら推し量ろうとする眼差しに酷く満たされる。空の器に水が注がれるような充足感。この時、この瞬間、彼は私の事でいっぱいになっているのだと思うと、気分が高揚する。これでまた頑張れる。
「明日はどうする?」
「そうだな……」
指先が、まるで動物にするみたいに私の頬を滑り、髪を梳く。それが妙に色っぽくて、誘われているようにさえ感じた。
「……おい、急に変な顔するな」
「なに、変な顔って」
指が離れていく。伝わったのか。問うと、彼は耳を真っ赤にして目を泳がせた。<!–続かなかった–>
2019/6/21
蓑虫みたいに布団に包まって寝る彼は貴重だ。そもそも私よりも先に起きてないというのが既にレアなのだけど、それでも昨晩機嫌よく酒をかっ喰らってベロベロになったせいか、午前10時を回っても起きてこない彼を起こすことになった。蓑虫の彼は手強い。それを、最初は優しく声をかけて、布団をぽんぽんと叩き、揺さぶり、そして時間をかけて最終的に力付くで引っぺがす。
「う……」
低く掠れた呻き声とともに、ぼさぼさの髪の毛とシーツの皺の跡を頬にこさえた彼が薄目でこちらを見た。物凄い顔。
「おはよ」
「……う……はよ……なんじ……」
「もう直ぐ11時」
目をしぱしぱさせて、どうにかこうにか起きようと試みる彼は、言葉にならない呻き声を伸ばして、ベッドの上で動物よろしく伸びを一つ。
「起きた?」
今朝売店で買ったペットボトル。まだ冷たいその底で額を小突くと、うにゃうにゃと返事があった。何言ったんだか。
書きかけです。
2019/6/2
彼の指と私の頬が擦れて、さり、と小さく音を立てた。ざらついているわけでは決してないけれど、乾いていて肉厚で、太い彼の指の温もりを産毛の先で感じる。その指の向こう、拗ねたようにも見える顔で照れる彼を見た。
「……なんだよ?」
「ううん」
ぶっきらぼうな声と言葉とは裏腹に、私に触れる指先は優しい。そして注意深く私を見て、なにやら推し量ろうとする眼差しに酷く満たされる。空の器に水が注がれるような充足感。この時、この瞬間、彼は私の事でいっぱいになっているのだと思うと、気分が高揚する。これでまた頑張れる。
「明日はどうする?」
「そうだな……」
指先が、まるで動物にするみたいに私の頬を滑り、髪を梳く。それが妙に色っぽくて、誘われているようにさえ感じた。
「……おい、急に変な顔するな」
「なに、変な顔って」
指が離れていく。伝わったのか。問うと、彼は耳を真っ赤にして目を泳がせた。<!–続かなかった–>
2019/6/21
蓑虫みたいに布団に包まって寝る彼は貴重だ。そもそも私よりも先に起きてないというのが既にレアなのだけど、それでも昨晩機嫌よく酒をかっ喰らってベロベロになったせいか、午前10時を回っても起きてこない彼を起こすことになった。蓑虫の彼は手強い。それを、最初は優しく声をかけて、布団をぽんぽんと叩き、揺さぶり、そして時間をかけて最終的に力付くで引っぺがす。
「う……」
低く掠れた呻き声とともに、ぼさぼさの髪の毛とシーツの皺の跡を頬にこさえた彼が薄目でこちらを見た。物凄い顔。
「おはよ」
「……う……はよ……なんじ……」
「もう直ぐ11時」
目をしぱしぱさせて、どうにかこうにか起きようと試みる彼は、言葉にならない呻き声を伸ばして、ベッドの上で動物よろしく伸びを一つ。
「起きた?」
今朝売店で買ったペットボトル。まだ冷たいその底で額を小突くと、うにゃうにゃと返事があった。何言ったんだか。
返信:輪投げの達人さま
2021/10/03にいただいていたのに返信遅くなってしまい申し訳ありません! メッセージありがとうございます。
>>ラギーくん本再版の件
ずっと気になってたので輪投げさん大丈夫だったかしら……と予備を置いてたんですが思い切って再版してよかったです!(ガッツポーズ)
輪投げさまの命を救ったことにより私の徳が積まれたのでwin-winですねっ(?)
本は無事お手元に届きましたでしょうか……? 不備などあればお気軽にご連絡くださいませ。
>>体調について
フィジカル的にもメンタル的にも落ち込んでしまいましたが今は日本の社会制度のお陰で無事療養に専念できているので、落ち込みすぎないように日々を過ごしております。ご心配とお気遣い、本当にありがとうございます!
どうか輪投げさまの心身も健やかでありますように……。
ラギ監話を物凄い短期間で書いたからなのか未だに余韻を味わっているような節もありますが、一次創作しつつ次の原稿を書きつつ、どれも少しずつですが行っております。更新にムラがあるというレベルではないですが、ゆっくり続けていければと……! コメントありがとうございました~!畳む
2021/10/03にいただいていたのに返信遅くなってしまい申し訳ありません! メッセージありがとうございます。
>>ラギーくん本再版の件
ずっと気になってたので輪投げさん大丈夫だったかしら……と予備を置いてたんですが思い切って再版してよかったです!(ガッツポーズ)
輪投げさまの命を救ったことにより私の徳が積まれたのでwin-winですねっ(?)
本は無事お手元に届きましたでしょうか……? 不備などあればお気軽にご連絡くださいませ。
>>体調について
フィジカル的にもメンタル的にも落ち込んでしまいましたが今は日本の社会制度のお陰で無事療養に専念できているので、落ち込みすぎないように日々を過ごしております。ご心配とお気遣い、本当にありがとうございます!
どうか輪投げさまの心身も健やかでありますように……。
ラギ監話を物凄い短期間で書いたからなのか未だに余韻を味わっているような節もありますが、一次創作しつつ次の原稿を書きつつ、どれも少しずつですが行っております。更新にムラがあるというレベルではないですが、ゆっくり続けていければと……! コメントありがとうございました~!畳む
返信:ひとこと
2021/05/22にコイブミ(ひとことメールフォーム)よりいただいたコメントへの返信です
>>二人ともお幸せに!とってもキュンキュンしました!(色事は銘々稼ぎ)
コメントありがとうございます! キュンキュンしていただけてとても嬉しいです……。いい大人が初々しく両片思いしている話が元々好きなんですが、ウツシ教官の温かくて優しくて誠実で素敵な人なんだよ!! というのが伝われば幸いです。一応続きも考えてはいるんですが、シナリオが終わってからまとめたいと思います。
まだまだ最初の百竜夜行を越えたところなのでキャラ解釈的に不安はありますが、教官にはいつまでも明るく元気でいて欲しいなと願ってやみません……。
ありがとうございました!畳む
2021/05/22にコイブミ(ひとことメールフォーム)よりいただいたコメントへの返信です
>>二人ともお幸せに!とってもキュンキュンしました!(色事は銘々稼ぎ)
コメントありがとうございます! キュンキュンしていただけてとても嬉しいです……。いい大人が初々しく両片思いしている話が元々好きなんですが、ウツシ教官の温かくて優しくて誠実で素敵な人なんだよ!! というのが伝われば幸いです。一応続きも考えてはいるんですが、シナリオが終わってからまとめたいと思います。
まだまだ最初の百竜夜行を越えたところなのでキャラ解釈的に不安はありますが、教官にはいつまでも明るく元気でいて欲しいなと願ってやみません……。
ありがとうございました!畳む
返信:ひとこと
2021/01/13にコイブミ(ひとことメールフォーム)よりいただいたコメントへの返信です
2020/12/26にメルフォから返信不要でコメントくださった某さまもありがとうございます……! 原稿の進捗ダメです!(悲鳴)でも本は出します!
>>ブログに書かれていたレオリオのネタ
Twitterで書き散らかしたネタをこっちにまとめたので乱文ですが読んで頂き誠にありがとうございます!
>>レオリオは親しい間からの人と気軽にすけべなことをしなさそうだというところに、ものすごく共感しました。
共感して……頂けましたか……!(無上の喜び)
レオリオは彼の人間性とか色々と考えていくと性交渉できる関係ってなかなか難しいんじゃないかなって思います。誰かを大切に思うことができるから、不特定多数にモテたいとか、えっちな事がしたいとは思っても実際に誰か一人と深い関係になる事に対しては凄く真剣で真摯に考えてくれそうですよね。
>>レオリオに限らず宇野さんのキャラ考察や語り、大好きです。
おわーっ 嬉しいお言葉ありがとうございます! 特定のキャラに思いを馳せるとどうしてもその辺り考え込んでしまうんですが、凄く楽しいのでそう言って頂けると本当に良かったなと思えますし糧になります。
キャラ語りがそのまま作品へ繋がるわけではないんですが、キャラへの解釈を深めていくと自分の中でそのキャラの動かし方みたいなものへの解像度が上がるので、これからももりもりしていきたいと思います。
コメントありがとうございました!畳む
2021/01/13にコイブミ(ひとことメールフォーム)よりいただいたコメントへの返信です
2020/12/26にメルフォから返信不要でコメントくださった某さまもありがとうございます……! 原稿の進捗ダメです!(悲鳴)でも本は出します!
>>ブログに書かれていたレオリオのネタ
Twitterで書き散らかしたネタをこっちにまとめたので乱文ですが読んで頂き誠にありがとうございます!
>>レオリオは親しい間からの人と気軽にすけべなことをしなさそうだというところに、ものすごく共感しました。
共感して……頂けましたか……!(無上の喜び)
レオリオは彼の人間性とか色々と考えていくと性交渉できる関係ってなかなか難しいんじゃないかなって思います。誰かを大切に思うことができるから、不特定多数にモテたいとか、えっちな事がしたいとは思っても実際に誰か一人と深い関係になる事に対しては凄く真剣で真摯に考えてくれそうですよね。
>>レオリオに限らず宇野さんのキャラ考察や語り、大好きです。
おわーっ 嬉しいお言葉ありがとうございます! 特定のキャラに思いを馳せるとどうしてもその辺り考え込んでしまうんですが、凄く楽しいのでそう言って頂けると本当に良かったなと思えますし糧になります。
キャラ語りがそのまま作品へ繋がるわけではないんですが、キャラへの解釈を深めていくと自分の中でそのキャラの動かし方みたいなものへの解像度が上がるので、これからももりもりしていきたいと思います。
コメントありがとうございました!畳む
返信:マスカルポーネ仮面さま
2020/10/24にいただいたコメントの返信です
こんにちは、はじめまして。宇野と申します。
>>pixivで薬研くんと少年審神者のお話が~…
pixivのとうらぶ作品読んでいただいていたとのことで……! ありがとうございます。燭さにまで?! 今思うともうちょっとお話練れたのでは……? という気持ちもありますが、当時も一生懸命書いたものですのでそう言っていただけるととても嬉しいです。
>>ポケモンのMVでまさかのサブウェイマスター新規絵…
素敵なMVでしたよね! 何度も見返してしまいました。懐かしいような、さみしいような、切ないような気持ちになったので本当にクリエイターって凄い。
サブマスの新規絵、グッズ展開など動きもありましたね! 震えました。お金を搾り取られる……。
サブマスのお話も随分前になってしまったんですね……ついこの間のことのような気がしてますが月日が経つのがあまりにも早すぎて世界の速度に置いて行かれてます……。今だったらサイトには置かないだろうなって言う短い話もありますが、わずかな間でも楽しんでいただけたようで……光栄です……! 特殊性癖ネタまで……!!
温かいお言葉の数々まことにありがとうございます。書くジャンルは頻繁に変わりますが、これからも楽しく執筆活動いたします。またジャンルが合致した際にはお楽しみいただければ幸いです。
コメントありがとうございました~!畳む
2020/10/24にいただいたコメントの返信です
こんにちは、はじめまして。宇野と申します。
>>pixivで薬研くんと少年審神者のお話が~…
pixivのとうらぶ作品読んでいただいていたとのことで……! ありがとうございます。燭さにまで?! 今思うともうちょっとお話練れたのでは……? という気持ちもありますが、当時も一生懸命書いたものですのでそう言っていただけるととても嬉しいです。
>>ポケモンのMVでまさかのサブウェイマスター新規絵…
素敵なMVでしたよね! 何度も見返してしまいました。懐かしいような、さみしいような、切ないような気持ちになったので本当にクリエイターって凄い。
サブマスの新規絵、グッズ展開など動きもありましたね! 震えました。お金を搾り取られる……。
サブマスのお話も随分前になってしまったんですね……ついこの間のことのような気がしてますが月日が経つのがあまりにも早すぎて世界の速度に置いて行かれてます……。今だったらサイトには置かないだろうなって言う短い話もありますが、わずかな間でも楽しんでいただけたようで……光栄です……! 特殊性癖ネタまで……!!
温かいお言葉の数々まことにありがとうございます。書くジャンルは頻繁に変わりますが、これからも楽しく執筆活動いたします。またジャンルが合致した際にはお楽しみいただければ幸いです。
コメントありがとうございました~!畳む
#とうらぶ
2015年 07月20日 書きかけのまま放置されていた断片。
今日も本丸から覗く景色は長閑なものである。鳥や虫のさえずり、どこまでも遠くへ伸びる山々。雲の動く様などは眺めていればいつの間にやら日が暮れているほど。刻々と、しかし亀の歩みよりも遥かに悠然として、穏やかだ。
いつの世も空は静かなものである。しかし、折角人の身を得たのであるから、人の声の伸びやかであることは決して疎ましいものではないことを、三日月宗近は良く心得ていた。